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化学者のつぶやき

BulkyなNHCでNovelなButadiyne (BNNB) アナログの反応

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2つのBN三重結合が共役した、ブタジインBNNBアナログが初めて単離された。ブタジインBNNBアナログは、還元によりアンモニウム塩を生じ、ニトリルとの反応でボリレン等価体として働くなど、特異な反応性を有することが明らかとなった。

BNアナログの反応性

ホウ素窒素(BN)多重結合は、対応する炭素炭素(CC)多重結合と等電子構造であるにも関わらず、より高い反応性をもつ(図1A)[1]。これは、BN多重結合のうち1つの結合が、窒素からホウ素への非共有電子対の供与で形成されており、電荷の偏りをもつ結合であることに起因する。そのため、CC多重結合をBN多重結合に置き換えた分子(BNアナログ)の特異な反応性が調査されてきた。

一方、BN多重結合同士が共役したBNアナログは、他のBNアナログではみられない反応性を示す。例えば、Powerらは2つのBN二重結合が共役したブタジエンBNアナログのリチウムによる還元で、BB二重結合の形成に初めて成功した(図1B上)[2]。またBraunschweigらの構築したBNNB結合は還元により、BN結合の開裂を伴いながらアンモニウム塩を生じる(図1B中)[3]。2つのBN三重結合が共役したブタジインBNアナログは、容易に環化してシクロオリゴマー化するため、合成例は非常に少ない[4]。2つのBN三重結合を確認した唯一の例として、Wang、Riedelらはボリレンによって窒素ガスを捕捉し、マトリックス中ではあるがブタジインBNNBアナログを合成した(図1B下)[5]。しかし、単離は達成されておらず、その反応性は検証されていない。

著者らは以前、嵩高い置換基をもつボリル化ヒドラジン誘導体に嵩高いNHC(IiPrMe)を作用させ、新奇BNNB骨格の構築を試みた。その結果、BNNB骨格の構築には成功したものの、ホウ素上にIiPrMeが配位したBNN-1,3-双極子が合成された(図1C)[6]。今回著者らは、より嵩高いNHC(ItBu)を用いたところ、NHCの配位が抑制され、単離可能なブタジインBNNBアナログの合成に成功した。

図1. (A) CC多重結合とBNアナログ (B) 2つのBN多重結合が共役した分子の反応性 (C) ブタジインBNNBアナログの合成

 “BN Analogue of Butadiyne: A Platform for Dinitrogen Release and Reduction”
Guo, R.; Hu, C.; Li, Q.; Liu, L. L.; Tung, C.-H.; Kong, L. J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 18767–18772.
DOI: 10.1021/jacs.3c07469

論文著者の紹介

研究者:Liu Leo Liu (刘 柳) (研究室HP)

研究者の経歴:

–2011 B.Sc., Xiamen University, China (Prof. Yufen Zhao)
2011–2013 Ph.D. study, Xiamen University, China (Prof. Yufen Zhao)
2013–2015 Joint Ph.D. study, University of California, San Diego, USA (Prof. Guy Bertrand)
2015–2016 Ph.D., Xiamen University, China (Prof. Yufen Zhao)
2016–2019 Postdoc, University of Toronto, Canada (Prof. Douglas W. Stephan)
2019–2020 Postdoc, Lawrence Berkeley National Laboratory and University of California, Berkeley, USA
(Profs. F. Dean Toste, Kenneth N. Raymond and Robert G. Bergman)
2020–2022 Assistant professor, Southern University of Science and Technology, China
2022–                             Associate professor, Southern University of Science and Technology, China

研究内容:典型元素を用いた新規化学構造の構築、計算化学

研究者:Lingbing Kong (孔 令兵)

研究者の経歴:

–2007 B.Sc., Liaocheng University, China
2007–2012 Ph.D., Nankai University, China (Prof. Chunming Cui)
2012–2016 Postdoc, Nanyang Technological University, Singapore (Prof. Rei Kinjo)
2017–                             Professor, Shandong University, China

研究内容:有機ホウ素試薬の開発と合成

論文の概要

著者らの先行研究と同様に、トルエン中、ボリル化ヒドラジン1に対し2当量のItBuを作用させ、ジイミノボラン2を収率40%で得た[7]2のX線構造解析から、C1–B1–N1、B1–N1–N1Aの結合角はそれぞれ178.1°と178.8°であり、B–N間でのsp混成軌道の形成が示唆された(図2B左)。また、B1–N1、N1–N1Aの結合長がそれぞれ1.228 Å、1.301 Åであり、N–N結合長は、典型的な単結合(1.42 Å)と二重結合(1.24 Å)の間であった。ここで、2がブタジイン構造とクムレン構造のどちらであるか判別するため、Mes*基をメチル基に変えたモデルのNRT(natural resonance theory)解析をした(図2B右)。その結果、2つのBN三重結合が共役した構造が主要な構造だと判明し、2がクムレンではなくブタジインのBNアナログであることが確かめられた。

ブタジインBNアナログを初めて安定に単離できたため、その反応性を調査した(図2C)。2をリチウムで還元したのち塩酸を加えると、アンモニウム塩とボロン酸3が生成した。また、2にベンゾニトリルを作用させたところ、脱窒素を伴い環化体4が生じた。一方で、トリメチルアセトニトリルを作用させると、縮環化合物5が得られた。さらに、15N化ニトリルを用いた実験によって、45中の窒素原子はニトリル由来だとわかった。この特異な反応性を考察するために、4が生成する反応経路をDFT計算で解析した。まず2とニトリルの付加体IN1が生じ、B–C結合が形成されて環化体IN2となる。窒素が脱離したのちに、同様に別のニトリルとの付加体形成、続く環化により4を与える(詳細は論文参照)。ホウ素がニトリルの求核部位と求電子部位の双方で結合を形成したことから、2がボリレン等価体であると示された。

図2. (A) ジイミノボラン2の合成 (B) ジイミノボラン2の分子構造 (C) ジイミノボラン2の反応性

以上、安定なブタジインBNNBアナログが初めて単離され、ボリレン等価体として働くことが示された。今後、ボリレンとしての反応性を利用した、有機合成や材料化学への応用が期待される。

参考文献

  1. Brunecker, C.; Arrowsmith, M.; Fantuzzi, F.; Braunschweig, H. Platinum‐Templated Coupling of B=N Units: Synthesis of BNBN Analogues of 1,3‐Dienes and a Butatriene. Angew. Chem., Int. Ed. 2021, 60, 16864–16868. DOI: 10.1002/anie.202106161
  2. Moezzi, A.; Bartlett, R. A.; Power, P. P. Reduction of a Boron-Nitrogen 1,3-Butadiene Analogue: Evidence for a Strong B–B p-Bond. Angew. Chem., Int. Ed. Engl. 1992, 31, 1082–1083. DOI: 10.1002/anie.199210821
  3. (a) Légaré, M.-A.; Bélanger-Chabot, G.; Dewhurst, R. D.; Welz, E.; Krummenacher, I.; Engels, B.; Braunschweig, H. Nitrogen Fixation and Reduction at Boron. Science 2018, 359, 896–900. DOI: 1126/science.aaq1684 (b) Légaré, M.-A.; Bélanger-Chabot, G.; Rang, M.; Dewhurst, R. D.; Krummenacher, I.; Bertermann, R.; Braunschweig, H. One-Pot, Room-Temperature Conversion of Dinitrogen to Ammonium Chloride at a Main-Group Element. Nat. Chem.2020, 12, 1076–1080. DOI: 10.1038/s41557-020-0520-6
  4. Fan, Y.; Cui, J.; Kong, L. Recent Advances in the Chemistry of Iminoborane Derivatives. J. Org. Chem. 2022, 2022, e202201086. DOI: 10.1002/ejoc.202201086
  5. Xu, B.; Beckers, H.; Ye, H.; Lu, Y.; Cheng, J.; Wang, X.; Riedel, S. Cleavage of the N≡N Triple Bond and Unpredicted Formation of the Cyclic 1,3‐Diaza‐2,4‐diborete (FB)2N2 from N2 and Fluoroborylene BF. Angew. Chem., Int. Ed. 2021, 60, 17205–17210. DOI: 10.1002/anie.202106984
  6. Guo, R.; Jiang, J.; Hu, C.; Liu, L. L.; Cui, P.; Zhao, M.; Ke, Z.; Tung, C.-H.; Kong, L. BNN-1,3-Dipoles: Isolation and Intramolecular Cycloaddition with Unactivated Arenes. Chem. Sci. 2020, 11, 7053–7059. DOI: 10.1039/D0SC02162H
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