[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

シクロペンタジエニル錯体の合成に一筋の光か?

β-炭素脱離を用いるシクロペンタジエニル(Cp)錯体の新たな調製法が報告された。本法により反応系中で錯形成を行うことができ、Cp配位子と金属のスクリーニングが容易になると期待される。

 β–炭素脱離反応を用いる錯形成?

シクロペンタジエニル(Cp)配位子は金属の立体・電子的特性を多様に変化させることができるため、様々な遷移金属触媒反応に用いられている。

しかしCp配位子前駆体の不安定さから、錯体を合成する際に金属と配位子を前もって錯形成させる必要がある。したがって、Cp配位子のライブラリ構築が困難である。また、錯形成後は得られた錯体ごとに分離・精製操作を行い反応に用いる必要があるため、配位子–金属の迅速なスクリーニングも難しい。これらの障壁は、Cp配位子を用いた反応開発の足かせとなっている。

一方で、遷移金属触媒がもたらすC–C結合切断反応の1つにβ–炭素脱離反応がある(図1A)。

この反応は、弱い金属(M)–ヘテロ原子結合が強いM–炭素(C)結合へと組み換わる反応である。現在まで、t-プロパルギルアルコール(1)・t-ベンジルアルコール(2)、環歪みの大きいt-シクロブタノール(3)、π–アリル錯体が形成可能なt-ホモアリルアルコール(4)を基質としたβ–炭素脱離反応が報告されている(1)(図1B)。

今回、スイス連邦工科大学ローザンヌ校のCramer教授らはβ–炭素脱離反応における、C(sp3)への結合形成の駆動力としてシクロペンタジエニルアニオンと金属の強固な結合形成に注目し(図1C)、これを用いることでシクロペンタジエニル–金属錯体の新たな合成アプローチを確立した(図1D)。

Cp配位子前駆体と遷移金属を反応系中に加えるだけで錯形成が可能となるため、迅速なスクリーニングも可能になることが期待される。

図1. (A) β-炭素脱離反応 (B) 既知のβ–炭素脱離反応 (C) 今回の反応 (D) Cp–金属錯体のβ–炭素脱離による合成法

 

“A β-Carbon elimination strategy for convenient in situ access to cyclopentadienyl metal complexes”
Smits, G.; Audic, B.; Wodrich, M. D.; Corminboeuf, C.; Cramer, N. Chem. Sci. 2017, 8, 7174.
DOI: 10.1039/c7sc02986a

論文著者の紹介

研究者:Nicolai Cramer
研究者の経歴:
1998-2003 B.S. Diploma, University of Stuttgart, Germany
2003-2005 Ph.D., University of Stuttgart (Prof. Sabine Laschat)
2006-2007 Posdoc, Stanford University, USA (Prof. Barry M. Trost)
2010-2013 Assistant Professor, EPF Lausanne, Switzerland
2013-2015 Associate Professor, EPF Lausanne
2015- Full Professor, EPF Lausanne

研究内容:遷移金属触媒による不活性結合活性化および生理活性物質合成への応用

論文の概要

シクロペンタジエン10は配位子前駆体として有用であり、Diels–Alder反応により二量化を起こさず、また、金属がないと反応しない。

10はCp部位の置換基(R)やカルビノールの置換基(R1, R2)によらず、Rh錯体を作用させるとβ–炭素脱離反応が進行し、Cp錯体11を与えた(図2A)。置換基によっては塩基を用いず錯形成を行うことができ(本文参照)、複雑なキラル配位子10dにも本法は適用可能である。金属錯体はRhだけでなくIrやCoを用いることができ、金属の配位子は(cod)やOHでなくても錯形成が起こる (本文Table 3)。

また、反応系内で生成する水が反応を阻害する場合があり、モレキュラーシーブを添加することで収率が向上する。

さらに、DFT計算による反応解析はβ–炭素脱離における活性化障壁の低さを示し、本反応機構を支持している。

最後に、本法の特徴である系中での錯形成を用いて既存の触媒反応(2)を行い、良好な位置選択性・収率で生成物を得られることを実証した(図2B)。

以上、β–炭素脱離反応を用いた新たなシクロペンタジエニル–金属錯体の合成法が開発された。今後、この方法を用いて新反応が開発されることを期待したい。

図2. (A) 配位子前駆体10の基質適用範囲 (B)系中での錯形成の実例

 

参考文献

  1. (a) Murakami, M.; Matsuda, T. Commun. 2011, 47, 1100. DOI: 10.1039/c0cc02566f (b) Ruhland, K. Eur. J. Org. Chem. 2012, 2683. DOI: 10.1002/ejoc.201101616
  2. (a) Hyster, T. K.; Dalton, D. M.; Rovis, T. Sci. 2015, 6, 254. DOI: 10.1039/c4sc02590c (b) Wodrich, M. D.; Ye, B.; Gonthier, J. F.; Corminboeuf. C.; Cramer, N. Chem. Eur. J. 2014, 20, 15409. DOI: 10.1002/chem.201404515 (c) DeBoef, B; Pastine, S. J.; Sames, D. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 6556. DOI: 10.1021/ja049111e
The following two tabs change content below.
山口 研究室
早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。
山口 研究室

最新記事 by 山口 研究室 (全て見る)

関連記事

  1. セブンシスターズについて② ~世を統べる資源会社~
  2. 乾燥剤の脱水能は?
  3. Reaxys体験レポート反応検索編
  4. 触媒でヒドロチオ化反応の位置選択性を制御する
  5. 若手研究者に朗報!? Reaxys Prizeに応募しよう
  6. 合成化学発・企業とアカデミアの新たな共同研究モデル
  7. 未来のノーベル化学賞候補者
  8. Anti-Markovnikov Hydration~一級アルコ…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 受賞者は1000人以上!”21世紀のノーベル賞”
  2. 第14回「らせん」分子の建築家ー八島栄次教授
  3. 化学大手4社は増収 4-6月期連結決算
  4. 名古屋メダル―受賞者一覧
  5. 味の素、アミノ酸の最大工場がブラジルに完成
  6. カリカリベーコンはどうして美味しいにおいなの?
  7. TosMIC
  8. ウォルフ・キシュナー還元 Wolff-Kishner Reduction
  9. アルデヒドを分液操作で取り除く!
  10. イチゴ生育に燃料電池

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

持続可能性社会を拓くバイオミメティクス

内容生物に学ぶ考え方は,ナイロンに見られるように古くからあった.近年,ナノテクノロジーの飛躍…

鉄カルベン活性種を用いるsp3 C-Hアルキル化

2017年、イリノイ大学 M. Christina Whiteらは鉄フタロシアニン触媒から生成するメ…

「生合成に基づいた網羅的な天然物全合成」—カリフォルニア大学バークレー校・Sarpong研より

「ケムステ海外研究記」の第19回目は、向井健さんにお願いしました。向井さんはカリフォルニア大…

研究者向けプロフィールサービス徹底比較!

研究者にとって、業績を適切に管理しアピールすることは重要です。以前にも少し触れましたが、科研費の審査…

天然有機化合物の全合成:独創的なものづくりの反応と戦略

概要生物活性天然有機化合物(天然物)は生命の40億年にわたる進化によって選択された高機能分子…

細菌を取り巻く生体ポリマーの意外な化学修飾

地球上に最もたくさんある有機化合物は何でしょう?それは、野菜や果物、紙、Tシャツ、木材、etc…身の…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP