[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

カチオン性三核Pd触媒でC–I結合選択的にカップリングする

[スポンサーリンク]

ヨウ化アリールの選択的クロスカップリングが報告された。新規カチオン性三核パラジウム触媒を用いることでC–Br及びC–Cl結合存在下、C–I結合のみを選択的にカップリングできる。

C–I結合の選択的カップリング

ヨウ素や臭素、塩素部位などの選択的カップリングが可能となれば、高度に官能基化された化合物の迅速合成が可能となる。代表的な例として、FuらはPdに用いる触媒を変更することでC–ClとC–OTf選択的カップリング反応を実現した[1](図1A)。一方で、C–IとC–Brの選択的なカップリングは未だ挑戦的な課題である。Knochelらは電子不足ホスフィンを用いた根岸カップリングにおいてC–Br存在下C–I選択的にカップリングが進行することを報告しているが、パラブロモベンゼンを用いた二例しかなく一般的な手法とは言い難い[2a](図1B)。このようにPd(0)触媒によるC–I選択的カップリングは基質に制限があり、一般的な手法はない。これに対し、Ni/Photoredox触媒によるC–Br存在下でのC–I選択的なアルキルカップリングがMolanderらによって報告されたがsp2求核剤は適用できない[2b](図1B)。

 一方、本論文の著者であるSchoenebeck らは今までにPd(I)二量体1を開発し、これを用いることでC–Cl, C–Br及びC–OTf結合に対する選択的なカップリングを達成してきた[3](図1C)。今回彼女らは新たにカチオン性三核Pd触媒存在下、広範なGrignard 試薬を用いることで、C–I結合のみを高収率・高選択的にカップリングする手法を開発したので紹介する(図1D)。

図1. (A), (B), (C) 従来のポリハロゲン化アレーン類の位置選択的カップリング (D) 今回の反応

“C–I Selective Cross-Coupling Enabled by a Cationic Pd Trimer”

Diehl, C. J.; Scattolin, T.; Englert, U.; Schoenebeck, F. Angew. Chem., Int. Ed.2018, Accepted Article

DOI: 10.1002/anie.201811380

論文著者の紹介

研究者:Franziska Schoenebeck

研究者の経歴:
2001–2004 BSc, Technical University Berlin, Germany and University of Strathclyde, Glasgow, UK
2004–2008 Ph.D, WestCHEM Research School, Glasgow, UK (Prof. John A. Murphy)
2008–2010 Posdoc, University of California, Los Angeles, USA (Prof.K. N. Houk)
2010–2013 Assistant Professor, ETH Zürich, Switzerland
2013– Professor (W2), RWTH Aachen University, Germany

研究内容:計算化学及び計算化学を用いた触媒設計

論文の概要

本反応で用いられる三核Pd触媒2は、Pd(I)二量体1に4当量のジフェニルホスフィンを加えることで収率良く得られる(図2A)。得られた2は空気、水に対して安定である。次に、1-ブロモ4-ヨードベンゼン(3a)とPhMgCl(4a)のカップリング反応を用いて合成した2と他の一般的なPd触媒との触媒活性を調べた(図2B)。その結果、Pd(0)触媒及びPd(I)二量体触媒1ではヨウ素及び臭素との両方のカップリング反応が進行してしまい、ターフェニル6が副生してしまうことが分かった。

一方で、三核Pd触媒2では、6の形成を全く伴わずにC–I選択的にカップリングした4-ブロモビフェニル(5a)が収率88%で生成した。さらにこの触媒は系中で発生させた場合も同様の反応性を示す。基質適用範囲は広く、オルト二置換化合物(5e)でさえも高収率で反応が進行する(図2C)。また、アルキルGrignard反応剤(5g, 5h)を用いても問題なく進行する。この反応におけるEPR解析を行ったところEPRサイレントであり、この反応に長寿命なラジカル種が関与していないことが本文中で示唆されている。また、DFT計算により、三核錯体2が直接酸化的付加に関与していることが支持されている。

図2. (A) 三核Pd触媒2の合成 (B) Pd種の反応性 (C) 基質適用範囲

以上、三核Pd触媒を用いたC–I選択的カップリングが開発された。触媒の高い安定性も相まって、今後ハロゲン選択的なカップリングを実現する触媒として汎用されていくことが期待できる。

参考文献

  1. Littke, A. F.; Dai, C.; Fu, G. C. J. Am. Chem. Soc.2000, 122, 4020 DOI: 10.1021/ja0002058
  2. (a) Betzemeier, B.; Knochel, P. Angew. Chem., Int. Ed. Engl. 1997, 36, 2623 DOI: 10.1002/anie.199726231(b) Lin, K.; Wiles, R. J.; Kelly, C. B.; Davies, G. H. M.; Molander, G. A. ACS Catal. 2017, 7, 5129. DOI: 10.1021/acscatal.7b01773
  3. Keaveney, S. T.; Kundu, G.; Schoenebeck, F. Angew. Chem., Int. Ed. 2018, 57, 12573. DOI: 10.1002/anie.201808386
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 化学者のためのエレクトロニクス入門① ~電子回路の歴史編~
  2. オートファジーの化学的誘起で有害物質除去を行う新戦略「AUTAC…
  3. Dead Endを回避せよ!「全合成・極限からの一手」⑨
  4. 小さなケイ素酸化物を得る方法
  5. 構造式を美しく書くために【準備編】
  6. Dead Endを回避せよ!「全合成・極限からの一手」③
  7. 糖鎖合成化学は芸術か?
  8. 光でゆがむ分子 ― アルミニウム錯体の対称性の破れをコヒーレント…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 局所的な“粘度”をプローブする羽ばたくFLAP蛍光分子
  2. 第48回「分子の光応答に基づく新現象・新機能の創出」森本 正和 教授
  3. 治療薬誕生なるか?ジカウイルスのアロステリック阻害剤開発
  4. がん治療用の放射性物質、国内で10年ぶり製造へ…輸入頼みから脱却
  5. イタリアに医薬品販売会社を設立 エーザイ
  6. 核のごみを貴金属に 現代の錬金術、実験へ
  7. クラーク・スティル W. Clark Still
  8. 日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part2
  9. 国際化学オリンピック、日本の高校生4名「銀」獲得
  10. 有機合成で発生する熱量はどのくらい?EasyMax HFCal

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年12月
月 火 水 木 金 土 日
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

最新記事

光前駆体法の活用によって、ヘプタセンで初の一重項分裂を観測!

第725回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 理学研究科化学専攻 有機元素化学研究室(山田研…

【スタッフ・寄稿募集】Chem-Stationで、化学を「伝える側」になりませんか?

Chem-Station(ケムステ)は2000年に開設された国内最大の化学ポータルサイトです。大学・…

第17回大津会議―とある参加者の記録―

2026年9月28日~29日に開催された第17回大津会議についての、とある参加者の記録です。この記事…

第17回大津会議 -Otsu Conference- 2026 開催報告 ~新体制で紡ぐ「有機合成の夢」~

第17回大津会議が2026年9月28日(月)〜9月29日(火)びわ湖大津プリンスホテルにて開催されま…

有機合成化学協会誌2026年10月号:医薬品プロセス開発・σ芳香族性・含窒素複素環・メロテルペノイド二量体・高歪み化合物

有機合成化学協会が発行する「有機合成化学協会誌」2026年10月号がオンラインで公開されています。…

時代は水だ! セメントのように水と混ぜるだけで成形・硬化できる「水硬性」高分子

第724回のスポットライトリサーチは、東京科学大学物質理工学院(大塚研究室)博士前期課程2年の徳満玲…

複雑さを設計して、結晶の動きをプログラムする

第723回のスポットライトリサーチは、高知工科大学大学院工学研究科(林研究室) 博士後期課程3年の樋…

ハロゲンの力で強力な結合を切断!天然物クマリンから医薬品・機能性材料原料のクマラノン類へ

第 722 回のスポットライトリサーチは、立命館大学大学院薬学研究科薬学専攻 精密合…

観察を写真で残す!カメラ内蔵リアクタ EasyMax 102i を使ってみた

反応の温度も、攪拌(かくはん)も、滴下も、サンプリングもいまや自動で記録される時代になりました。とこ…

ケムステ人気新着記事 トップ 5【2026年9月版】

2026年9月にケムステでは21本の新しい記事を公開しました。この記事では、その新着記事の中から、ペ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP