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化学書籍レビュー

構造生物学

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内容

構造生物学の現状、すなわち「タンパク質などの立体構造からその生物学的機能を明らかにする研究がどこまで進んだか」をまとめた教科書が待望されていた。しかしながらそれは、おそらくはあまりにも速い発展のために、10年以上かなえられない状況にあった。そこに登場したのが本書である。本書は、そのような期待にしっかりと応えるもので、生物学のそれぞれの領域におけるごく最近までの研究成果が、豊富な図と共に紹介されている。(本書「訳者序」より引用)

対象

構造生物学を学ぶ大学生以上

解説

構造生物学は、「生命現象を理解するためには見る必要がある」という古典的考え方に立脚した研究領域である。特に巨大生体分子とその複合体の単結晶X線構造解析から重要度の高い生命機能を解釈した偉業には、ノーベル化学賞が与えられるケースも増えている(2006, 2009, 2012など)。生物学と名のつく学問領域ではあるが、扱う対象はまさに分子構造であり、その本質は「化学の言語」で語られるべき分野だとも言える。

本書は2009年刊行の「Textbook of Structural Biology」の邦訳版である。

そのシンプルなタイトルが示すとおり、「学部生と大学院生のための、構造生物学の標準教科書」を目指して編集されている。筆者の知る限り、日本語で読める良質な構造生物学の教科書は数少ないが、本書はその代表例として挙げて良いものだろう。
内容は、構造化学の観点で議論が出来る程度に良く研究された分野に絞って記されている。主には生命機能の主役となるタンパク質を取りあげているが、核酸・脂質・膜の構造についても頁を割いている。一方で炭水化物については割愛されている。

とりわけタンパク質に関しては最も良く研究されているため、充実した記述がある。最初に基礎知識としてのアミノ酸・ペプチドから始まり、一次構造から高次構造の話、構造理解の基礎となるラマチャンドランプロットなど、およそ教科書レベルの基本事項が一通り網羅される。その後は、各タンパククラス(酵素、膜タンパク・受容体、輸送タンパク、抗体)に関する各論的記述と、フォールディング・分解についてそれぞれ章が割かれている。

分野の本質が「生命の見える化」である以上、図解に心を砕かないわけにはいかない。標準ソフトウェア(MolscriptとPyMOL)で作られた図がカラー刷りの誌面を彩り、理解を大いに助けてくれる。

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筆者は門外漢ながら最近ペプチド・タンパク質を扱う機会がある身だが、基礎的知識の欠如を日々実感することも少なくない。まずは本書のような体系だった書物を一通り攫うことから始めるのがよいと感じた。

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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