[スポンサーリンク]

一般的な話題

日常臨床検査で測定する 血清酵素の欠損症ーChemical Times 特集より

[スポンサーリンク]

関東化学が発行する化学情報誌「ケミカルタイムズ」。年4回発行のこの無料雑誌の紹介をしています。

少し紹介が遅れましたが、今年のNo.3は血清酵素の欠損症について。血液検査の結果として2・3文字の略号で測定結果がでるあいつですね。

これが化学なのかは疑問ですが、毎回読んでいるので読んでみました。今回は記事が5つ紹介されています(記事はそれぞれのタイトルをクリックしていただければ全文無料で閲覧可能です。PDFファイル)。

LD(乳酸デヒドロゲナーゼ)欠損症

浜松医科大学医学部の前川 真人教授による寄稿。LDとその欠損症について述べています。LD(乳酸デヒドロゲナーゼ)はH(B)とM(A)の2種のサブユニット蛋白からなる4量体で、 5種のアイソザイムを形成します。

LD:乳酸デヒドロゲナーゼ(出典:PDB)

 

LDはピルビン酸をNADHにより還元して、乳酸に変換する酵素。すべての細胞に存在するらしいです。つまり大多数の細胞障害があると血清LD活性が上昇するため、感度の良い体内での異常発信シグナルとなり、初診時のスクリーニング検査において重要な役割を示すとのこと。

前半はLDの説明と検査の意義、後半は遺伝性変異によるLD欠損症患者について述べています。

LDアイソザイムの構成(出典:ケミカルタイムズ)

 

ALT異常低値の意義と解析方法について

九州大学病院の酒本美由紀主任臨床検査技師による寄稿。ALTとはアラニンアミノトランスフェラーゼという酵素の略で、生体内でアラニン-α-ケトグルタル酸とグルタミン酸・ピルビン酸との相互のアミノ基転位を触媒します。LDと同様にALTも細胞質に局在しており、生体内ほとんどすべての臓器細胞に存在、問題があるとその値がかなりかわってきます。特に肝臓に多く含まれ、肝臓が傷害されると血中へ逸脱するため、肝障害の仕様として用いられているそうです。

ALT:アラニンアミノトランスフェラーゼ(出典: PDB)

記事ではALT異常低値となる原因とその解析方法について、過去に健闘した事例を含めて紹介しています。

基本的にはALT異常低値となる原因として、アミノ基を運ぶ補酵素であるピリドキサールリン酸(PALP)の不足・欠乏が間接的にか関わるようです。珍しく構造式が書いてあって個人的には読みやすい内容でした。

ALTの酵素反応(出典:ケミカルタイムズ)

 

クレアチンキナーゼ欠損症

兵庫医科大学の小柴賢洋教授らによる寄稿。クレアチンキナーゼ(CK)はリン酸基転移反応を触媒する酵素で、筋肉や心臓、能などの組織に含まれます。筋肉などのエネルギー消費の大きい組織において、CKは重要な役割を有しているそうです。

CK:クレアチンキナーゼ(出典:PDB)

結晶構造は筋肉に含まれるもので、みてのとおりサブユニットの2量体で、この組み合わせによって、CK-MM, CKMB, CK-BBという3種類のアイソザイムが存在します。この血中における比率を測定することによって、疾患の存在部位を推定することが可能となるそうです。なるほどー。

CKアイソザイムの臨床的意義(出典:ケミカルタイムズ)

低ALP血症 vs 低ホスファターゼ症

金沢大学附属病院の渡邉淳特任教授による寄稿。ALPはアルカリホスファターゼで、糖タンパク。血清ALP中にはさまざまなアイソザイムが存在するそうです。

ALP:アルカリホスファターゼ(出典:PDB)

そのアイソザイムの量を確認することによって疾病との確認ができるそうですね。

血清ALPタンパク質を構成する遺伝子群(出典:ケミカルタイムズ)

血清コリンエステラーゼ欠損症

最後は1つめと同じく浜松医科大学前川真人教授らによる寄稿。コリネステラーぜ(ChE)はコリンエステルをコリンと有機酸に加水分解する酵素。大別するとアセチルコリンエステラーゼ(ACE)とブチリルコリンエステラーゼ(BChE)があります。

記事では主に、BChEの活性が上昇・低下した場合の関連する疾病とその測定法について述べています。

血清BChE活性の上昇・低下の原因(出典:ケミカルタイムズ)

というわけで、はじめは全然化学じゃないなと思いましたが、とってもしっかり化学でした。欠損症を測定する酵素もその役割も構造も知らなかったのでとても良い勉強になりました。ぜひ読んでみてください。

 

過去のケミカルタイムズ解説記事

外部リンク

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 有機フォトレドックス触媒による酸化還元電位を巧みに制御した[2+…
  2. MEDCHEM NEWS 31-2号「2020年度医薬化学部会賞…
  3. 研究室の安全性は生産性と相反しない
  4. C–NおよびC–O求電子剤間の還元的クロスカップリング
  5. 抗体を液滴に濃縮し細胞内へ高速輸送:液-液相分離を活用した抗体の…
  6. 【Q&Aシリーズ❷ 技術者・事業担当者向け】 マイクロ…
  7. Carl Boschの人生 その7
  8. 金属イオン認識と配位子交換の順序を切替えるホスト分子

注目情報

ピックアップ記事

  1. 未来社会創造事業
  2. リン Phosphorusー体の中の重要分子DNAの構成成分。肥料にも多用される
  3. 洗浄ブラシを30種類試してみた
  4. 硫黄の化学状態を高分解能で捉える計測技術を確立-リチウム硫黄電池の反応・劣化メカニズムの解明に期待-
  5. A-ファクター A-factor
  6. 有機合成化学協会誌2018年10月号:生物発光・メタル化アミノ酸・メカノフルオロクロミズム・ジベンゾバレレン・シクロファン・クロミック分子・高複屈折性液晶・有機トランジスタ
  7. ホウ素から糖に手渡される宅配便
  8. 量子コンピューターによるヒュッケル分子軌道計算
  9. フッ素ドープ酸化スズ (FTO)
  10. イミデートラジカルを経由するアルコールのβ位選択的C-Hアミノ化反応

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年8月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

先端の質量分析:GC-MSおよびLC-MSデータ処理における機械学習の応用

キャラクタライゼーションの機械学習応用は、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)およびラボオートメ…

原子半径・電気陰性度・中間体の安定性に起因する課題を打破〜担持Niナノ粒子触媒の協奏的触媒作用〜

第648回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科(山口研究室)博士課程後期2年の松山…

リビングラジカル重合ガイドブック -材料設計のための反応制御-

概要高機能高分子材料の合成法として必須となったリビングラジカル重合を、ラジカル重合の基礎から、各…

高硬度なのに高速に生分解する超分子バイオプラスチックのはなし

Tshozoです。これまでプラスチックの選別の話やマイクロプラスチックの話、およびナノプラスチッ…

新発想の分子モーター ―分子機械の新たなパラダイム―

第646回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機反応論研究室 助教の …

大人気の超純水製造装置を組み立ててみた

化学・生物系の研究室に欠かせない超純水装置。その中でも最も知名度が高いのは、やはりメルクの Mill…

Carl Boschの人生 その11

Tshozoです。間が空きましたが前回の続きです。時系列が前後しますが窒素固定の開発を始めたころ、B…

PythonとChatGPTを活用するスペクトル解析実践ガイド

概要ケモメトリクスと機械学習によるスペクトル解析を、Pythonの使い方と数学の基礎から実践…

一塩基違いの DNA の迅速な単離: 対照実験がどのように Nature への出版につながったか

第645回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科相田研究室の龚浩 (Gong Hao…

アキラル色素分子にキラル光学特性を付与するミセルを開発

第644回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 総合研究院 応用化学系 化学生命科学研究所 吉沢…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP