[スポンサーリンク]

元素

ケイ素 Silicon 電子機器発達の立役者。半導体や光ファイバーに利用

[スポンサーリンク]

 地殻で酸素についで多いケイ素。身近なところでも、ガラスや半導体など、多くのケイ素化合物製品が使われています。ケイ素がなかったら、今日の電子機器の発達はなかったかもしれません。

 

ケイ素の基本物性データ

分類 半金属・半導体
原子番号・原子量 14 (28.0855)
電子配置 3s23p2
密度 2330kg/m3
融点 1410℃
沸点 2355℃
硬度 6.5
色・形状 暗灰色
存在度 地球26万7700ppm、宇宙 1.00 x 106
クラーク数  25.8%(2位)
発見者 イェンス・ヤコブ・ベルセリウス(1823年)
主な同位体 28Si (92.223%), 29Si(4.685%)、30Si(3.087%)
用途例 ガラス、ゼオライト、研磨剤(炭化ケイ素)、アスベスト、シリコーン、半導体、セメント、太陽電池、ワックス、ソフトコンタクトレンズ
前後の元素 アルミニウムーケイ素ーリン

酸素の次に多く存在する元素

ケイ素は地殻中に非常に多く存在する元素ですが、その多くは石英や水晶、雲母などに二酸化ケイ素(SiO2)や珪酸塩として存在しています。

珪酸塩鉱物(橄欖石・輝石・角閃石・雲母・長石・石英など)

珪酸塩鉱物(橄欖石・輝石・角閃石・雲母・長石・石英など)

1823年にスウェーデンの化学者であるベルセリウスが、珪酸塩のひとつであるフッ化ケイ素(SiF4)を金属カリウムで還元することによって単体のケイ素を単離しました。

 

イェンス・ヤコブ・ベルセリウス(Jöns Jacob Berzelius)

2016-07-16_11-41-25

1779-1848年。スウェーデンの化学者。アルファベットを使った新しい元素記号の表記法を提案し、ケイ素、セレン、トリウム、セリウムを発見した。近代化学の父といわれる。弟子には現代有機化学の祖であるフリードリヒ・ヴェーラーなどがいる。

 

シリコンとシリコーン

ケイ素の英語名はsiliconであり、シリコンとカタカナ表記します。シリコーンといわれるものもありますが、これは言い方の違いでなく、シリコンsiliconとは別の物質であり、英語名もsiliconeです。語尾にeがついているだけですが、その意味は異なります。

シリコンが元素や半導体(高純度のケイ素の結晶)を表すのに対し、シリコーンはケイ素に炭素鎖と酸素が結合したものをいいます。シリコーンオイルやシリコーンゴムなどの素材に利用されています。

2016-07-22_23-00-49

シリコンとシリコーン

 

ガラスや珪藻土の主成分である二酸化ケイ素

ケイ素の酸化物である二酸化ケイ素は、地殻を構成する主成分で、非常に多く含まれています。乾燥剤として使われるシリカゲルも二酸化ケイ素です。二酸化ケイ素を水酸化ナトリウムで熱するとケイ酸ナトリウムとなり(Na2SiO3)、さらに水を加えて熱すると水ガラスになります。水ガラスは接着剤の原料や耐火塗料として使われています。

炭酸ナトリウムや炭酸カリウムを加えて熱し、冷やすとガラスになります。水晶なども、二酸化ケイ素がある圧力下で結晶となったものです。

2016-07-22_23-18-28

二酸化ケイ素からの化学反応

 

また、太古の昔からある珪藻と呼ばれる藻類の化石からできた岩や土のことを珪藻土といいますが、これも二酸化ケイ素が主成分です。七輪の素材や、最近では耐火性や断熱性を高めるため住宅の壁に使われています。最も有名なものは、ダイナマイトでしょう。ノーベルはニトログリセリンの爆発性を抑えるため、珪藻土にそれを吸収させ安定性を高めました。さらに、発がん性があると話題になった石綿(アスベスト)も二酸化ケイ素が主成分です。

といっても二酸化ケイ素自体に害があるわけでなく、その形状が細かい繊維状であるため、肺に突き刺さって肺がんや中皮腫をもたらすと言われています。

 

コンピューターや太陽電池などの半導体材料

ケイ素は代表的な半導体材料です。半導体とは、電気を通す導体や通さない絶縁体に対して、それらの中間的な性質を示す物質のことで、その性質を利用してコンピュータ、トランジスタ、半導体レーザーといった電子素子に多く使われています。ちなみに俗にいう「シリコンバレー」とは、サンフランシスコのベイエリアに位置している半導体やハイテク企業が密集する地帯のことをいい、ここで多くの半導体に関する研究が行われています。

シリコンバレー

シリコンバレー

 

炭化ケイ素ー新型新幹線にも活躍

炭化ケイ素(Silicon carbide, SiC)は、炭素(C)とケイ素(Si)が1対1で結合した共有結合性の化合物。硬度が高く(ダイアモンド、炭化ホウ素に続く)、耐久性に優れており、研磨剤や耐火材などに用いられています。半導体としても注目されており、ケイ素の限界を超えるパワーデバイス材料として期待されています。今後の利用で特に注目されているのは新型新幹線「N700S」(2020年頃登場)の駆動システム。SiC素子をもちいることで、現状の約20%の軽量化、小型化も可能となるといわれています。

 

2016-07-25_12-52-53

 

多重結合を持つケイ素

炭素とケイ素は周期律表で同じ第14族に属しているため、性質が似ているようにも思えますが、実はかなり異なります。構造的に最も異なる点は、安定な多重結合体*が存在しないということです。炭素は炭素同士で二重結合、三重結合をつくります。それに対して、ケイ素ーケイ素二重結合は天然には存在しません。

しかし、1981年アメリカのウェスト(Robert West)らによってケイ素の二重結合化合物であるジシレンが初めて人工的に作られました。普通は安定に存在しないジシレンを、二重結合の周りを立体的に嵩高くすることによってこの結合を保護し、合成したのです。

さらに、2004年、筑波大の関口章教授らが、ケイ素の三重結合化合物であるジシリンの合成に成功しました。炭素ー炭素三重結合は直線形であるのに対して、ケイ素ーケイ素三重結合は傾いているのも特徴です。これらは製品として実用化することは難しいですが、はじめてケイ素の多重結合をつくり性質を調べたとして教科書に必ず掲載される優れた基礎研究です。

 

2016-07-22_23-56-20

ケイ素に関連するケムステ記事

関連書籍

[amazonjs asin=”4759814124″ locale=”JP” title=”現代ケイ素化学: 体系的な基礎概念と応用に向けて (DOJIN ACADEMIC SERIES)”][amazonjs asin=”4526075019″ locale=”JP” title=”シリコーン大全 (技術大全シリーズ)”]
Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 周期表の形はこれでいいのか? –その 2: s ブロックの位置 …
  2. 「世界最小の元素周期表」が登場!?
  3. 114番元素と116番元素の名称が間もなく決定!
  4. 一家に1枚周期表を 理科離れ防止狙い文科省
  5. アルミニウム Aluminium 最も多い金属元素であり、一円玉…
  6. 硫黄 Sulfurーニンニク、タマネギから加硫剤まで
  7. ランタノイド Lanthanoid
  8. 塩素 Chlorine 漂白・殺菌剤や塩ビの成分

注目情報

ピックアップ記事

  1. 風力で作る燃料電池
  2. ポンコツ博士の海外奮闘録⑬ ~博士,コロナにかかる~
  3. 【9月開催】 【第二期 マツモトファインケミカル技術セミナー開催】有機金属化合物 オルガチックスを用いたゾルゲル法とプロセス制御ノウハウ①
  4. つり革に つかまりアセる ワキ汗の夏
  5. シャープレス・香月不斉エポキシ化反応 Sharpless-Katsuki Asymmetric Epoxidation (Sharpless AE)
  6. Happy Friday?
  7. 第43回ケムステVシンポ「光化学最前線2024」を開催します!
  8. 実験ノートを復刻し公開へ 高峰譲吉らのアドレナリン
  9. 映画007シリーズで登場する毒たち
  10. ナイトレン

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年7月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

山口 潤一郎 Junichiro Yamaguchi

山口潤一郎(やまぐちじゅんいちろう、1979年1月4日–)は日本の有機化学者である。早稲田大学教授 …

ナノグラフェンの高速水素化に成功!メカノケミカル法を用いた芳香環の水素化

第660回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院理学研究科(有機化学研究室)博士後期課程3年の…

第32回光学活性化合物シンポジウム

第32回光学活性化合物シンポジウムのご案内光学活性化合物の合成および機能創出に関する研究で顕著な…

位置・立体選択的に糖を重水素化するフロー合成法を確立 ― Ru/C触媒カートリッジで150時間以上の連続運転を実証 ―

第 659回のスポットライトリサーチは、岐阜薬科大学大学院 アドバンストケミストリー…

【JAICI Science Dictionary Pro (JSD Pro)】CAS SciFinder®と一緒に活用したいサイエンス辞書サービス

ケムステ読者の皆様には、CAS が提供する科学情報検索ツール CAS SciFind…

有機合成化学協会誌2025年5月号:特集号 有機合成化学の力量を活かした構造有機化学のフロンティア

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年5月号がオンラインで公開されています!…

ジョセップ・コルネラ Josep Cornella

ジョセップ・コルネラ(Josep Cornella、1985年2月2日–)はスペイン出身の有機・無機…

電気化学と数理モデルを活用して、複雑な酵素反応の解析に成功

第658回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 農学研究科(生体機能化学研究室)修士2年の市川…

ティム ニューハウス Timothy R. Newhouse

ティモシー・ニューハウス(Timothy R. Newhouse、19xx年xx月x日–)はアメリカ…

熊谷 直哉 Naoya Kumagai

熊谷 直哉 (くまがいなおや、1978年1月11日–)は日本の有機化学者である。慶應義塾大学教授…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP