[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

力を加えると変色するプラスチック

[スポンサーリンク]

mechanochrom_1.jpg(画像:下記論文より)

Force-induced activation of covalent bonds in mechanoresponsive polymeric materials Davis, D. A.; Hamilton, A.; Yang, J.; Cremar, L. D.;Gough, D. L.; Potisek, S. L.; Ong, M. T.; Braun, P. V.; Martinez, T. J.; White, S. R.; Moore, J. S.; Sottos, N. R. Nature 2009, 459, 68. doi:10.1038/nature07970

今回は、イリノイ大学・Nancy SottosおよびJeffrey Mooreらのグループによって開発された、「力を加えることで変色するプラスチック」を紹介します。   これも百聞は一見にしかず。上図のような感じで、引っ張るとそこだけ赤く変色します。NatureのSupplementary Informationのサイト、もしくはMooreグループのサイトに行けば、動画でも見る事が出来ます。   つまり、力がかかって壊れやすくなってる箇所だけを、一目で分かるようにできる、というアイデアを提唱している研究なのです。 果たしてこの材料の中身は、どのようになっているのでしょうか? 実は、やってること自体は、それほど難しくありません。 以下のようにデザインされたクロミック分子(彼らはmechanophoreと呼んでいます)を共重合させて、ポリマーをつくっているだけです。力を加えるとアミナール結合が切れて開環し、共鳴構造・吸収波長が変化し、色が変わると言うわけです。

mechanochrom_2.gif

・・・とまあ文章と図でかくといかにもシンプルなのですが、おそらく思い付いて実現させてしまうのは、それほど簡単な話ではないように思います。   そもそも化学的・熱的エネルギーを用いず、力学エネルギー(mechanical force)で分子共有結合を(選択的に)切断すること自体、実は簡単ではありません。マクロスコピックなエネルギーである物理力を、あまりにサイズスケールの違う「分子」にうまく伝達させる手法自体が、そもそも現代に至るまでほとんど確立されて無いのです。筆者の知る限りでは、最近Mooreらが自ら報告した研究例[1]ぐらいしか、目立ったものはないように思えます。意外に思えますが、新味なアプローチといえます。   このコンセプトの秀逸さは、原理の単純さ故にあらゆるポリマーに簡便に応用可能という点にあるのだと思えます。重合の際に、機能に影響しない程度のクロミズム分子を少量混ぜるだけで良い、ということですから。おそらくこの汎用性・実用性ゆえに、応用範囲は無数に考えられると思われます。   材料化学の分野は面白いですね。実用に近い領域なのでイメージしやすく分かりやすい、というのも一つですが、何よりビジュアル的にインパクトがあるものも多くて、見ているだけでも楽しいものです。

  • 関連論文
[1] (a) Moore, J. S. et al. Macromolecules 2005, 38, 8975. DOI: 10.1021/ma051394n (b) Moore, J. S. et al. Nature 2007, 446, 423. doi:10.1038/nature05681 (c) Moore, J. S. et al. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 13808. DOI: 10.1021/ja076189x

  • 関連書籍
  • 関連リンク

壊れるにつれて色が変わるプラスチック (slashdot.jp) 色の変わる分子~クロミック分子~ (有機って面白いよね!!) Sottos Research? Group The Moore Research Group Mechanochemistry – Moore Group Mechanochemistry – Wikipedia

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. マテリアルズ・インフォマティクスのためのデータサイエンティスト入…
  2. (+)-マンザミンAの全合成
  3. 光照射によって結晶と液体を行き来する蓄熱分子
  4. 核酸医薬の物語2「アンチセンス核酸とRNA干渉薬」
  5. 【悲報】HGS 分子構造模型 入手不能に
  6. NPG asia materialsが10周年:ハイライト研究収…
  7. 超原子結晶!TCNE!インターカレーション!!!
  8. 有機分子触媒ーChemical Times特集より

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 花王、ワキガ臭の発生メカニズムを解明など研究成果を発表
  2. 化学系学生のための就活2019
  3. ゴールドエクスペリエンスが最長のラダーフェニレンを産み出す
  4. ベンジルオキシカルボニル保護基 Cbz(Z) Protecting Group
  5. セブンシスターズについて① ~世を統べる資源会社~
  6. 世界医薬大手の05年売上高、欧州勢伸び米苦戦・武田14位
  7. 高分子マテリアルズ・インフォマティクスのための分子動力学計算自動化ライブラリ「RadonPy」の概要と使い方
  8. 複雑な生化学反応の条件検討に最適! マイクロ流体技術を使った新手法
  9. リーベスカインド・スローグル クロスカップリング Liebeskind-Srogl Cross Coupling
  10. Dead Endを回避せよ!「全合成・極限からの一手」①(解答編)

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年6月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

第8回 学生のためのセミナー(企業の若手研究者との交流会)

有機合成化学協会が学生会員の皆さんに贈る,交流の場有機化学を武器に活躍する,本当の若手研究者を知ろう…

UBEの新TVCM『ストーリーを変える、ケミストリー』篇、放映開始

UBE株式会社は、2023年9月1日より、新TVCM『ストーリーを変える、ケミストリー』篇を関東エリ…

有機合成化学協会誌2023年9月号:大村天然物・ストロファステロール・免疫調節性分子・ニッケル触媒・カチオン性芳香族化合物

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2023年9月号がオンライン公開されています。…

ペプチドの精密な「立体ジッパー」構造の人工合成に成功

第563回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院 工学系研究科応用化学専攻 藤田研究室の恒川 英…

SNS予想で盛り上がれ!2023年ノーベル化学賞は誰の手に?

さてことしもいよいよ、ノーベル賞シーズンが到来します!化学賞は日本時間 10月4日(水) 18時45…

ケムステ版・ノーベル化学賞候補者リスト【2023年版】

各媒体からかき集めた情報を元に、「未来にノーベル化学賞の受賞確率がある、存命化学者」をリストアップし…

DMFを選択的に検出するセンサー:アミド分子と二次元半導体の特異な相互作用による検出原理を発見

第562回のスポットライトリサーチは、大阪府立大学(現:大阪公立大学)大学院 工学研究科 電子・数物…

イグノーベル賞2023が発表:祝化学賞復活&日本人受賞

今年もノーベル賞とイグノーベル賞の季節がやってきました。今年もケムステではどちらについても全速力で記…

ポンコツ博士の海外奮闘録XXII ~博士,海外学会を視察する~

ポンコツシリーズ国内編:1話・2話・3話国内外伝:1話・2話・留学TiPs海外編:1話・…

マテリアルズ・インフォマティクスの導入・活用・推進におけるよくある失敗とその対策とは?

開催日:2023/09/20 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP