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スポットライトリサーチ

柔軟な小さな分子から巨大環状錯体を組み上げる ~人工タンパク質への第一歩~

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第205回のスポットライトリサーチは、お茶の水女子大学 基幹研究院自然科学系・三宅 亮介 先生 にお願いしました。

三宅先生は2010年より独立した研究室を主宰されており、とりわけ金属錯体を用いる巨大構造体およびそれが織りなす空間の創製と機能開拓に注力されています。今回の成果は、元来柔軟なペプチド鎖を金属配位結合で組み上げることで、巨大なドーナツのような錯体を合成したというものです。ごく簡単な成分からこのような錯体が作れるという事実のインパクトは抜群です。J. Am. Chem. Soc.誌上掲載およびプレスリリースとして公開されています。

“Formation of Giant and Small Cyclic Complexes from a Flexible Tripeptide Ligand Controlled by Metal Coordination and Hydrogen Bonds”
Miyake, R.*: Ando, A.; Ueno, M.; Muraoka, T. J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 8675-8679. doi:10.1021/jacs.9b01541 (アイキャッチ画像は論文より引用)

それでは、三宅先生自らの想いが溢れるインタビューをご覧ください!

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

柔軟な骨格を持つトリペプチド分子(1)14個を、金属配位結合を介して集めることで、タンパク質に匹敵するサイズ(直径:約2 nm)の空間を持つ環状錯体の構築に成功しました(図1,2)。
柔軟な骨格が形成する空間は、生体高分子において、タンパク質のリフォールディングや機能連動など、その複合機能において非常に重要な役割を果たしています。一方で、人工的に同様の構造を創出しようとする場合、エントロピー的に不利なため、柔軟な骨格では大きなサイズの空間を作り出すことは非常に困難でした。そこで、柔軟な骨格から巨大構造を形成する新しいアプローチの創出に挑みました。
今回、トリペプチド配位子に3つの異なる金属配位部を設計し、網目構造を形成しやすくすることに加え、金属配位結合と水素結合により構造を安定化することで、柔軟な骨格から巨大構造を形成する新しいアプローチの創出に成功しました(図1)。この環状錯体は、柔軟なトリペプチドを用いたことで、錯体の形成条件により、わずかにサイズの異なる環状錯体から、空間サイズが10倍以上異なる環状錯体まで、形成することができました(図2)。さらに、結晶パッキング構造に目を移すと56個ものユニットが集まった巨大カテナン構造も形成していました(図3)。以上のように、独自のトリペプチド分子により、柔軟な骨格から様々な巨大空間・構造の形成を達成しました。

図1:柔軟な小分子から巨大環状構造を形成する本研究の概念図

 

図2:本研究で形成に成功した様々なサイズのトリペプチド環状錯体。3箇所の金属配位部位をそれぞれ、緑、赤、青で示した。

 

図3:ペプチド巨大環状錯体が形成するカテナン構造

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

生体に匹敵する機能材料へ展開したいという思いから、柔軟な骨格からなる環状錯体を用いて、連動可能な複合システムの創出に取り組んできました。これまでに、主鎖骨格にメチレン基を導入して柔軟性を高めたペプチド配位子を用いて、結晶中での構造連動を実現してきました。複数のユニットが連動する複雑系では、そもそも一般的なデザイン指針というものがなく、そのことが学問の発展を妨げていると感じています。この課題を打ち破るには、まず、柔軟な骨格から様々な構造体を作り分けられるようになる必要があります。これまで大きなサイズの構造体のデザイン指針については全く得られていなかったので、今回、基礎デザインを獲得できたことをとても嬉しく思っています。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

柔軟な骨格で巨大空間を形成するデザインを見つけ出す部分です。一般に多様な構造が取れる柔軟な骨格で大きな構造体を形成することは容易ではありません。様々なペプチドを導入するなど色々と試したのですが、どれもうまくいきませんでした。最終的に、すでに合成法を確立していた小さな結晶ナノ空間について、官能基の導入に立ち返り設計を見直していく中で、偶然、今回の巨大環状錯体に出会いました。見つけた錯体がどうしてこんなに大きな構造を形成可能だったのかを調べていくと、どうも金属配位結合と水素結合で柔軟な骨格の配座を規定している可能性が見えてきました。生体高分子は、柔軟な骨格で大きな構造体を安定化する上で、高次構造の形成を利用していますが、本研究では、これを金属配位結合に置き換えたことが良かったようです。その高いデザイン性を見るにつけ、生体がなぜ、ペプチドを選んだのかが少しわかったような気がして興奮したのを覚えています。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

生体高分子における機能デザインの本質を明らかにし、これをもとに人工的な物質のデザインへと展開したいと思っています。このような基礎研究を通じて、生体に匹敵する複合機能材料の発展に寄与したいです。また、大学におりますので、化学者の卵の教育という点からも微力ながら貢献できれば、、と考えています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

自分の行っている研究は、デザイン指針や方法論としての側面が強いため、今回得た巨大環状錯体独自の新しい機能の創出・展開には、合成化学者をはじめ、様々な研究者の方との有機的な結合が重要だと考えています。ご興味を持っていただけた方は、ぜひご一報ください。

研究者の略歴

三宅亮介

お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系・講師(理学部化学科)

研究テーマ:ペプチド金属錯体結晶による精密な複合機能システムの創出

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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