[スポンサーリンク]

K

カイザーテスト Kaiser Test

[スポンサーリンク]

概要

ペプチド固相合成における縮合反応が完全に進行しないと、最終物として様々な鎖長のペプチドが混合物として得られてくるため、精製が極めて困難となる。

ほぼ100%の収率で進行させることを目的に、固相上の縮合反応を簡便にモニターできる分析法の一つがカイザーテスト(Kaiser Test)である。固相合成におけるTLCのような位置づけであるため、各工程で丁寧にやっておくと高収率・高純度でペプチドを得やすくなる(冒頭画像はこちらから引用)。

原理

固相上でニンヒドリン反応を行い、N末端アミノ基の残存を検出するという分析法に相当する。ニンヒドリンはアミノ基と反応してルーエマン紫という色素を精製する。フェノールはpH調製のため、KCNは中間体の空気酸化を防ぐ還元剤として加えられている[3]

実験手順[1]

レシピ

試薬セットは市販品を購入可能であるが、必要に応じて安価な試薬から自作可能である。下記を混合して個別に調製する。

試験液1

・ニンヒドリン:500 mg
・エタノール:10 mL

試験液2

・フェノール:80 g

・エタノール:20 mL

試験液3

・1mM KCN水溶液:2 mL

・ピリジン:100 mL

プロトコル
  1. マイクロチューブに固相合成レジンを少量すくい取って入れ、MeOHで3回洗浄する(DMFなどを除く)。
  2. 試験液1~3を1滴ずつくわえ、100℃で1分加熱する。
  3. 濃青色~紫色になれば未反応のN末端が存在することを示す。無色~黄色のばあいは、縮合反応が完結していることを示す。

(画像はこちらの動画より引用)

 

未反応のN末端が存在している場合は、同じ縮合条件を繰り返す、縮合条件を変更する、アセチルキャップを行うなどの対処をする。

クロラニルテスト[4]

KaiserテストはN末端が2級アミンである場合(プロリンやN-メチルアミノ酸など)には原理上、適用出来ない。クロラニルテストを用いることでこれが検出可能となる。

レシピ

試験液1

・アセトアルデヒド:1 mL
・DMF:49 mL

試験液2

・クロラニル:1 g

・DMF:49 mL

プロトコル
  1. マイクロチューブに固相合成レジンを少量すくい取って入れ、MeOHで3回洗浄する(DMFなどを除く)。
  2. 試験液1・2を1滴ずつくわえ、室温で5分放置する。
  3. 濃青色~緑色になれば未反応のN末端が存在することを示す。無色~黄色の場合は、縮合反応が完結していることを示す。

NHPIテスト[5]

可逆的にレジンを染められる、新しい検出プロトコルである。N末端の級数やアミノ酸種を問わない、Kaiserテストに含まれる毒性試薬(KCN)の懸念がない、検出に使ったレジンを廃棄しなくて良いの総収率への影響が少ないなど、いくつかの点で改善されている。

レシピ

試験液

・N-ヒドロキシフタルイミド(NHPI)の飽和DMF溶液(~2.7M)

※色の変化が少ない場合はN,N’-ジヒドロキシピロメリチミド(NDHPI)をNHPIの代わりに使うと改善される。

プロトコル
  1. マイクロチューブに固相合成レジンを少量すくい取って入れ、MeOHで3回洗浄する(塩基を除く)。
  2. 試験液をレジンと混合して洗浄、を3回繰り返す。
  3. 赤色~赤茶色になれば未反応のN末端が存在することを示す。無色~黄色のばあいは、縮合反応が完結していることを示す。

(論文[5]SIより引用)

関連動画

 

参考文献

  1. ”Color Test for Detection of Free Terminal Amino Groups in the Solid-Phase Synthesis of Peptides” Kaiser,E. T.; Colescott, R. L.; Bossinger, C. D.; Cook, P. I. Anal. Biochem. 1970, 34, 595. doi:10.1016/0003-2697(70)90146-6
  2. ”Quantitative monitoring of solid-phase peptide synthesis by the ninhydrin reaction” Sarin, V. K.; Kent, S. B. h.; Tam, J. P.; Merrifield, R. B. Anal. Biochem. 1981, 117, 147. doi:10.1016/0003-2697(81)90704-1
  3. “A modified photometric ninhydrin method for the analysis of amino and imino acids.” Troll, W.; Cannan. R. K. J. Biol. Chem. 1953, 200, 803-811.
  4. (a) “A Qualitative Test for Monitoring Coupling Completeness in Solid Phase Ppetide Synthesis Using Chloranil” Christensen, T. Acta Chem. Scand. B 1979, 33, 763.  [PDF] (b) “Detection of secondary amines on solid phase” Vojkovsky, T. Pept. Res. 1995, 8, 236.
  5. “Stain Protocol for the Detection of N-Terminal Amino Groups during Solid-Phase Peptide Synthesis” Suzuki, R.; Konno, H. Org. Lett. 2020, 22, 3309. doi:10.1021/acs.orglett.0c00445

関連書籍

ケムステ関連記事

外部リンク

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. アルキンジッパー反応 Alkyne Zipper Reacito…
  2. ハートウィグ・宮浦C-Hホウ素化反応 Hartwig-Miyau…
  3. ホフマン・レフラー・フレイターク反応 Hofmann-Loffl…
  4. 正宗・バーグマン反応 Masamune-Bergman Reac…
  5. ピロティ・ロビンソン ピロール合成 Piloty-Robinso…
  6. 硫黄-フッ素交換反応 Sulfur(VI)-Fluoride E…
  7. コーリー・バクシ・柴田還元 Corey-Bakshi-Shiba…
  8. 水素化ホウ素ナトリウム Sodium Borohydride

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 最近の金事情
  2. カルタミン
  3. 第40回「分子設計で実現する次世代バイオイメージング」山東信介教授
  4. 橘 熊野 Yuya Tachibana
  5. 辻 二郎 Jiro Tsuji
  6. R・スモーリー氏死去 米国のノーベル賞化学者
  7. 化学系ブログのインパクトファクター
  8. 秋田の女子高生が「ヒル避け」特許を取得
  9. ERATO 野崎 樹脂分解触媒:特任研究員募集のお知らせ
  10. 新しい選択的ヨウ素化試薬

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2022年3月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

【十全化学】新卒採用情報

当社は行動指針の一つとして、「会社と仕事を通じて自己成長を遂げ、仕事を愉しもう!…

【十全化学】核酸医薬のGMP製造への挑戦

「核酸医薬」と聞いて、真っ先に思い起こすのは、COVID-19に対するmRNAワ…

十全化学株式会社ってどんな会社?

私たち十全化学は、医薬品の有効成分である原薬及び重要中間体の製造受託を担っている…

化学者と不妊治療

これは理系の夫視点で書いた、私たち夫婦の不妊治療の体験談です。ケムステ読者で不妊に悩まれている方の参…

リボフラビンを活用した光触媒製品の開発

ビタミン系光触媒ジェンタミン®は、リボフラビン(ビタミンB2)を活用した光触媒で…

紅麹を含むサプリメントで重篤な健康被害、原因物質の特定急ぐ

健康食品 (機能性表示食品) に関する重大ニュースが報じられました。血中コレステ…

ユシロ化学工業ってどんな会社?

1944年の創業から培った技術力と信頼で、こっそりセカイを変える化学屋さん。ユシロ化学の事業内容…

日本薬学会第144年会付設展示会ケムステキャンペーン

日本化学会の年会も終わりましたね。付設展示会キャンペーンもケムステイブニングミキ…

ペプチドのN末端でのピンポイント二重修飾反応を開発!

第 605回のスポットライトリサーチは、中央大学大学院 理工学研究科 応用化学専…

材料・製品開発組織における科学的考察の風土のつくりかた ー マテリアルズ・インフォマティクスを活用し最大限の成果を得るための筋の良いテーマとは ー

開催日:2024/03/27 申込みはこちら■開催概要材料開発を取り巻く競争や環境が激し…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP