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脂質ナノ粒子によるDDS【Merck/Avanti Polar Lipids】

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mRNAワクチンなどの核酸医薬品は、生体内における安定性が低く、細胞内移行性も悪い。このため、核酸医薬品はナノ粒子などに包含して目的の細胞内に送達される。COVID-19のmRNAワクチンでは脂質ナノ粒子(Lipid Nano Particle: LNP)という粒子がDDSに使用されている。本記事では、脂質ナノ粒子の構造的な特徴や化学的性質について解説する。

脂質とは?

ここで言う“脂質”とは、極性基(親水性)と非極性基(疎水性)をあわせ持つ分子(両親媒性分子)を指す。高校化学で習うせっけんもこのような両親媒性の仲間である。せっけん(高級脂肪酸塩1, 図1)は“ミセル”と呼ばれる集合体を形成し、脂を取り込み、水中に浮かせることで油汚れが落ちる仕組みである。

また、細胞膜を構成する主成分であるリン脂質2は、アミノ基(アンモニウム塩)+リン酸+脂肪鎖が連結した構造をしており、1との大きな違いは極性基が双性イオン型になる点である。リン脂質から成る脂質二重膜構造はリポソームと呼ばれ、医薬品のドラッグデリバリーシステム(DDS)などに利用されている。このような二重膜構造により膜内外が分離している構造をベシクル(vesicle = 小胞)と呼ぶ。他にも、脂質は様々な形で集合体を形成し、液-液相分離を起こす(図2, BioRender.comにて作成)。

 

脂質ナノ粒子(Lipid Nano Particle: LNP)

今回の本題である脂質ナノ粒子(LNP)は、リポソーム同様、リン脂質を主成分とするベシクルであり、他にコレステロール、pH応答性脂質(ionizable lipid)、PEG脂質が混合されている[1][2]1,2。ここでのリン脂質は、ベシクル構造を形成するための“ヘルパー脂質”とも呼ばれる。コレステロールは、脂質膜のアルキル鎖の間に入り込むことで、“二重膜の物理的な安定性を向上”している。PEG脂質は、粒子の形成を補助する“界面活性剤”の役割と、粒子が免疫系に異物として認識され排除されてしまう機構を逃れる“ステルス性”に寄与している。pH応答性脂質は、一般的に多くのものは3級アミンを有しており、pHが低い時はカチオン性に、pHが高い時は中性となる。アンモニウム塩が“アニオン性である核酸医薬品(リン酸イオンに由来)をイオン性の相互作用により安定化”している。いずれもLNPにとって無くてはならない重要な機能を持っており、このような多様な脂質の組み合わせによりCOVID-19のmRNAワクチンも実用化されている(図はref 2より引用)。

  

PEG脂質とアナフィラキシーショック

mRNAワクチンを注射すると発熱やアナフィラキシーショックを起こす事例が報告された。カチオン性の粒子はPEGで修飾されているとはいえ、免疫系からの攻撃を受けて、炎症を起こすことが良く知られているため、これが発熱や筋肉の痛みの原因であると考えられている。アナフィラキシーショックはこれとは全く異なる現象であり、薬物の投与直後に観察されるアレルギー症状のことであり、蕁麻疹などの皮膚症状、腹痛や嘔吐などの消化器症状、息苦しさなどの呼吸器症状が起きます。これはワクチンに限った話ではなく、他の医薬品でも起きることがあります。コロナワクチンのアナフィラキシーショックはPEG脂質によるものであると考えられていますが、その発生率は10~20万件の摂取につき1件程度と言われている。過去にもPEGが原因と見られるアナフィラキシーショックは極稀に報告されていたが、世界中でワクチン接種が行われたため、発症例も増加し、注目された。

市販の脂質と基礎研究

コロナワクチンにより注目を集め、脂質ナノ粒子の基礎・応用研究がさらに加速されている。特に、カチオン性脂質は構造により物性が大きく変化し、副作用やmRNAのトランスフェクション*効率にも大きく影響する。このため、pH応答性脂質の開発研究が盛んに行われている。COVID-19ワクチンにおいては、Pfizer/BioNTech社ワクチンではALC-0315 (3), モデルナ社ワクチンではSM-102 (4)というionizable lipidが採用されているが、多数の脂質のスクリーニング結果であることは言うまでもない。スクリーニングには、脂質を専門的に取り扱っている試薬会社のライブラリーが大きな貢献を果たす。

アミノ基部位には2級アミン、3級アミン、4級アンモニウム塩などが広く検討されているが、もともとはリン酸のアニオンと強く相互作用することが期待される4級アンモニウム塩(カチオン性脂質)が盛んに研究された。しかし、強いカチオン性はもともと生体内に存在しない種類の化合物であり、毒性の原因になることが示唆されたため、近年ではLNPの分野ではあまり用いられない。エンドソーム内でmRNAを放出するためにはpH低下に伴いLNPが速やかに分解する必要があり、共役酸のpKaが5~7程度の3級アミン類が適しているとされている。

LNP調整に用いるマイクロ流路のスケール、圧力などでも粒子径が変化するため、LNPの質の指標として、平均粒子径とゼータ電位を測定する。
mRNA送達に使用されているLNPの粒径は約100~200 nm程度である。
ゼータ電位はLNP-核酸比によって大きく変化するため、製剤の品質管理のために重要なデータである。
また、脂質の組成比によっても物性が大きく異る。特に、モデルナLNPの脂質組成比はSM-102 (50%), GM-020 (PEG-lipid: 1.5%), Cholesterol (38.5%), DSPC (10%)の比で混合されている。

 

Avanti Polar Lipids

MerckはAvanti Polar Lipids社と協定を結び、同社が取り扱っている各種脂質類を日本国内で販売している。

同社から購入可能な脂質は2000種類以上におよび、高い品質(純度99%以上)およびリポソーム作成のためのハンドリング容易なエクストルーダーやナノ粒子作成キットNanoFabTxも用意されている。カタログに掲載されていないサイズに関してはバルク対応可能。(関連するMerck/Avanti Polar Lipidsの製品情報については、末尾の関連リンクをご参照ください。)
LNP用の脂質に限らず、ビオチン化された脂質や蛍光団を導入した脂質など多数の機能性脂質もライブラリーに含まれています。

LNP以外のナノ粒子によるDDS

第22回Vシンポ「次世代DDSナノキャリア」では独自の脂質を研究されている秋田 英万先生の研究がLNPに最も関連の深い研究でした。一方、宮田 完二郎先生はポリマーからなるナノ粒子によるDDS、秋吉 一成先生には糖鎖ポリマーを基盤としたナノゲル粒子や細胞外小胞(エクソソーム)によるDDSの可能性についてご講演いただきました。LNP以外にも様々なナノ粒子が注目されており[3]、“熱い”分野であることは間違いありません。アーカイブも公開されていますので、ぜひご覧ください。

 

参考文献

[1] 智士内田. 「不」に応える:mRNAワクチン/医薬のデリバリー. Drug Delivery Syst. 2022, 37 (1), 25–34. https://doi.org/10.2745/dds.37.25.

[2] Buschmann, M. D.; Carrasco, M. J.; Alishetty, S.; Paige, M.; Alameh, M. G.; Weissman, D. Nanomaterial Delivery Systems for MRNA Vaccines. Vaccines (Basel) 2021, 9 (1). https://doi.org/10.3390/vaccines9010065.

[3] 寛菊池. 企業的観点から見たDDS技術の将来展望. Drug Delivery Syst. 2014, 29 (1), 51–63. https://doi.org/10.2745/dds.29.51.

 

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有機合成を専門とする教員。将来取り組む研究分野を探し求める「なんでも屋」。若いうちに色々なケミストリーに触れようと邁進中。

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