[スポンサーリンク]

医薬品

みんなおなじみ DMSO が医薬品として承認!

[スポンサーリンク]

 

2021年1月22日、間質性膀胱炎治療薬ジメチルスルホキシド (商品名ジムソ膀胱内注入液50%)の製造販売が承認された。適応は「間質性膀胱炎 (ハンナ型) の諸症状 (膀胱に関連する慢性の骨盤部の疼痛、圧迫感および不快感、尿意亢進または頻尿などの下部尿路症状) の改善」、用法用量は「通常、1 回 1 バイアル 50 mL、2 週間間隔で 6 回膀胱内に注入する。なお、膀胱内注入後、可能な限り 15 分間以上膀胱内に保持してから排出させる」となっている。

日経DI・最新DIピックアップ2021/2/19より引用

ジメチルスルホキシド (DMSO)、ケミストもバイオロジストもとってもよくお世話になる溶媒の一つですね。その溶解性の高さといったら低コストな汎用溶媒ではピカイチのレベルです。そんなおなじみの DMSO が 2021年、本邦で医療用医薬品として承認されました

適応である間質性膀胱炎 (ハンナ型) は指定難病の一つであり、膀胱に原因不明の炎症が生じて頻尿や疼痛などの不快な症状を繰り返します。細菌性の膀胱炎であれば抗菌剤の内服で簡単に治りますが、間質性膀胱炎 (ハンナ型) は命に関わることはないものの根治は難しいとされています。

この DMSO、米国では 1978 年に商品名 Rimso-50® として承認・販売され、今でも使用されています。一方日本では、間質性膀胱炎 (ハンナ型) に有効な薬は一つも承認されていませんでした。そこで、2012 年の第 11 回医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議において、DMSO は医療上の必要性が高いと判断され、2017 年に間質性膀胱炎を適応としてオーファンドラッグに指定されました。その後Phase III 臨床試験を経て有効性・安全性が認められ[1]、2020 年に承認申請、2021 年 1 月に日本で発売となりました。

作用機序は?

気になる作用機序ですが、「明日の新薬」には『dimethyl sulfoxideは、炎症抑制、筋弛緩、鎮痛、コラーゲン分解作用があるとされ、間質性膀胱炎治療薬として50%水溶液を膀胱内に注入して用いる』とあります。ケムステ読者の皆さんは、さらにその先のメカニズムを知りたい思うのではないでしょうか。実はその先のメカニズムについてはいまだによく分かっていないのですが、一説には活性酸素種 (ROS) であるヒドロキシルラジカル (•OH) を消去することで炎症などを抑えていると言われています[2]

ヒドロキシルラジカル (•OH) は ROS の中でも最も強力な反応性を有する分子で、生成した瞬間に周囲の分子と 109 (!) オーダーの速度定数で反応します。炎症部位では NADPHオキシダーゼなどによりスーパーオキシド (O2) が産生され、それがスーパーオキシドジスムターゼ (SOD) によって不均化、Fenton 反応を経て•OH が生じます。これにより生体膜やDNAなどの損傷が起こり、炎症が増悪します。

DMSO は•OH と拡散律速で反応し、メタンスルフィン酸メチルラジカルを生じます (図1 式1)。メチルラジカルも反応性が高く、酸素分子と即座に反応してメチルペルオキシラジカルになります (図1 式2)。最後に 2 分子のメチルペルオキシラジカルが不均化を起こし、ホルムアルデヒドメタノール及び酸素分子となります。ちなみにこのDMSOから生じるホルムアルデヒドを定量することで間接的に•OH の生成を半定量できます。

図1 ヒドロキシルラジカル (•OH) と DMSO の反応

医薬品としての DMSO は50%水溶液をそのまま患部に注入するため、かなりの高濃度ですが、•OH と生体分子よりも優先的に反応しなければならないためそのように用いられているのでしょう。In vitro での•OH 消去剤としては、各種抗酸化物質の他、エタノールやマンニトールなどがありますが、高濃度投与による毒性や浸透圧などの関係から DMSO のように用いることはできないと考えられます。ホルムアルデヒドやメタノールも毒性が高い物質ではありますが、•OH と DMSO の反応で生じるそれらの分子の傷害性よりも、•OH が直接生体分子と反応してしまうことの方が生体にとっては不都合となります。加えて、患部が膀胱であるため、水溶性のホルムアルデヒドやメタノールは全身循環に回ることなく排泄されると考えられます。有益性を考慮すれば非常に理にかなった濃度と投与方法だと言えるでしょう。

副作用

臨床試験の結果なので副作用ではなく有害事象という言い方になりますが、その発現割合は DMSO 群 59.2%、プラセボ群 27.7%と DMSO 群で高く、大半は膀胱内投与による膀胱痛などの投与時反応とされています (明日の新薬より)。また、DMSO 群の 3/49 例において臭いに関する有害事象がみられたとのことです。これは化学者の皆さんなら何となく想像がつくと思いますが、DMSO が還元されて生成するジメチルスルフィドによるものだと考えられます (DMSO そのものは無臭です)。そう、Swern 酸化でも問題になるアレですね。ただ少量であれば磯の香りがするくらいで済むと思うので、そんなに気にする有害事象ではないかもしれません。

DMSO は何て読む?

最後に雑感です。DMSO、皆さんは普段どんな風に読んでいますか? 筆者は医薬品の商品名と同じ「ジムソ」(アクセントなし) ですが、「ムソ」と前にアクセントを置いたり、「ディムソ」「ディムソー」など発音が違ったり、「ディーエムエスオー」とアルファベット読みする方もいらっしゃいますね。ちなみに筆者の元ボスは「デムソ」と言っていましたが、これはかなり変わっているほうだと思われます (デーブイデー的な?)
こういうことを言い始めると、ジクロロメタンの呼び方アンケートなぞ取りたくなってしまいますね。筆者はメチクロ派です。雑感終わり。

参考文献

[1] Yoshimura, N. et al., “Efficacy and safety of intravesical instillation of KRP-116D (50% dimethyl sulfoxide solution) for interstitial cystitis/bladder pain syndrome in Japanese patients: A multicenter, randomized, double-blind, placebo-controlled, clinical study”, Int. J. Urol, 2021, 28, 545–553, DOI: 10.1111/iju.14505.

[2] Manjunath, P.;  Shivaprakash, B.V., “Pharmacology and clinical use of dimethyl sulfoxide (DMSO): a review”, International Journal of Molecular Veterinary Research,  2013, 3, 23-33. DOI: 10.5376/ijmvr.2013.03.0006.

関連書籍

[amazonjs asin=”4621088157″ locale=”JP” title=”プロセス化学 第2版: 医薬品合成から製造まで”] [amazonjs asin=”4759814205″ locale=”JP” title=”抗酸化の科学:酸化ストレスのしくみ・評価法・予防医学への展開 (DOJIN ACADEMIC SERIES)”] [amazonjs asin=”4621305212″ locale=”JP” title=”化学便覧 基礎編 改訂6版”]

関連記事

スワーン酸化 Swern Oxidation
アルブライト・ゴールドマン酸化 Albright-Goldman Oxidation
「細胞専用の非水溶媒」という概念を構築

Avatar photo

DAICHAN

投稿者の記事一覧

創薬化学者と薬局薬剤師の二足の草鞋を履きこなす、四年制薬学科の生き残り。
薬を「創る」と「使う」の双方からサイエンスに向き合っています。
しかし趣味は魏志倭人伝の解釈と北方民族の古代史という、あからさまな文系人間。
どこへ向かうかはfurther research is needed.

関連記事

  1. ヒノキチオール (hinokitiol)
  2. ヒストリオニコトキシン histrionicotoxin
  3. フラノクマリン -グレープフルーツジュースと薬の飲み合わせ-
  4. 2,5-ジ-(N-(­­­­–)-プロイル)-パラ-ベンゾキノン…
  5. シコニン
  6. 【解ければ化学者】ビタミン C はどれ?
  7. 酢酸フェニル水銀 (phenylmercuric acetate…
  8. シラン Silane

注目情報

ピックアップ記事

  1. 触媒表面に吸着した分子の動きと分子変換過程を可視化~分子の動きが触媒性能に与える影響を解明~
  2. 【追悼企画】化学と生物で活躍できる化学者ーCarlos Barbas教授
  3. トロスト不斉アリル位アルキル化反応 Trost Asymmetric Allylic Alkylation
  4. 「サイエンスアワードエレクトロケミストリー賞」が気になったので調べてみた
  5. 超原子価ヨウ素反応剤を用いたジアミド類の4-イミダゾリジノン誘導化
  6. シリコンバレーへようこそ! ~JBCシリコンバレーバイオ合宿~
  7. えれめんトランプをやってみた
  8. 【書籍】「メタノールエコノミー」~CO2をエネルギーに変える逆転の発想~
  9. 【11月開催】第3回 マツモトファインケミカル技術セミナー 有機金属化合物「オルガチックス」の触媒としての利用-シリコン、シリコーン硬化触媒としての利用-
  10. 第113回―「量子コンピューティング・人工知能・実験自動化で材料開発を革新する」Alán Aspuru-Guzik教授

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年7月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP