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スポットライトリサーチ

超高速X線分光が拓く原子レベルの分子動画観測

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第227回のスポットライトリサーチは、高輝度光科学研究機構 XFEL 利用研究推進室の片山哲夫(かたやま てつお)さんにお願いしました。

通称Spring-8で知られている高輝度光科学研究機構では、近年X線自由電子レーザー(XFEL)の設備が整備され、様々な先端的計測が展開されています。

今回紹介いただける成果からは、超高速X線分光が迎えている新局面を感じ取ることができるでしょう。XFELを利用した超高速X線分光を利用して、銅錯体の光励起後に生じるオングストローム(100億分の1メートル)の構造変化を10 fs(100兆分の1秒)の時間分解能をもって解き明かしたという成果で、Nature Communications誌に掲載されています。プレスリリースも是非ご覧になってみてください!

“Tracking multiple components of a nuclear wavepacket in photoexcited Cu(I)-phenanthroline complex using ultrafast X-ray spectroscopy”
Tetsuo Katayama, Thomas Northey, Wojciech Gawelda, Christopher J. Milne, György Vankó, Frederico A. Lima, Rok Bohinc, Zoltán Németh, Shunsuke Nozawa, Tokushi Sato, Dmitry Khakhulin, Jakub Szlachetko, Tadashi Togashi, Shigeki Owada, Shin-ichi Adachi, Christian Bressler, Makina Yabashi & Thomas J. Penfold
Nature Communications, 2019, 10, 3606. DOI: 10.1038/s41467-019-11499-w

矢橋先生から、片山さんと本研究成果について、以下のようなコメントをいただきました。

片山さんがSACLAに飛び込んできたのは、 2012年のまさに利用がはじまったタイミングでした。彼は、殆ど更地の状態から、超高速X線分光の実験プラットフォームの開発を成功させ、数年前には既に世界でも名の知られる若手となっていました。 今回の成果は、 これらの最先端の技術を駆使しながら、 未知のフェムトケミストリーに切り込んだものです。 共著者リストにあるように、 海外勢が多数を占める約20名の研究者との国際コラボレーションを率いながら、 大きな成果につなげました。 新しい時代を開拓する旗手の一人として、 さらなる活躍を期待しています。

それでは、片山さんからのメッセージをご覧ください!

Q1. 今回のプレスリリース対象となったのはどのような研究ですか?

光増感剤として期待される銅(I)錯体分子が光吸収した際に起こるコヒーレントな核波束振動をX線分光で捉えた研究です。

光反応において、多次元のポテンシャルエネルギー曲面上を分子がどのように移動しながら構造変化や化学結合の解離/生成[1]を起こすのか?はフェムト秒(fs)化学における重要な問いです。特に光の吸収に伴って発生する核波束は、その後に続いて起こる反応の方向性を決定付ける重要な役割を果たしています。このような超高速で起こる分子の構造変化を直接的に観測するため、我々はX線の波長領域でフェムト秒のパルス幅を持つX線自由電子レーザー(XFEL)を利用しました。X線分光は元素選択的に電子状態と局所構造を決定できるため、通常の紫外~赤外の波長領域のレーザー光を使ったポンプ・プローブ分光法と比べて、より直接的に分子の構造に関する情報を得ることができます。今回の研究では、銅(I)フェナントロリン錯体が正四面体型から平面型へと構造変化する前段階の振動を捉え、振動のタイプによって寿命が違うことや、振幅をサブオングストローム(Å)の精度で評価することに成功しました(図1)。この結果は、原子レベルの時間・空間分解能を持つ分子動画を実現したものであり、様々な光反応の機構解明に繋がると期待しています。

Katayama_Fig1

図1. 銅(I)フェナントロリン錯体の構造変化とX線分光で捉えた核波束振動

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

私は2012年から日本で唯一のXFEL施設SACLAで「原子や電子が動く様子を高い空間(Å)・時間(fs)分解能で捉えたい」というモチベーションを持って、技術開発を進めてきました。具体的には、独立した光源であるXFELと可視レーザー光の間に発生するランダムなタイミングの揺らぎ(ジッター)を補正し、時間分解能を光のパルス幅程度まで高める技術(タイミングモニター)[2]です。開発に3~4年ほどかかりましたが、なんとかジッターの影響を10 fs未満まで抑えることができました。苦労して開発したこの技術を使って新たなサイエンスを開拓したい、というのが今回の研究の発端です。実際、自分で開発した技術が本当に役に立つのか不安でしたが、タイミングモニターの有無でデータのクオリティが劇的に変わることがわかった時、取り組んできたことに対する価値を実感しました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

XFEL施設SACLAの利用実験は、ビームタイムが定められています。ビームタイムの申請が通った場合、半年に2.5~3日程度のビームタイムが1回割り当てられますが、やり直しができません。この点でXFELの利用実験は、通常の研究室における研究とスタイルが大きく違います。一発勝負のビームタイムを成功に導くため、様々なバックグラウンドを持つ研究者達を集めて国際的なチームを構成し、研究目的の共有や実験に必要な準備を進めていかなければなりませんでした。特に、当初の目的通りに実験が進まずに苦戦する場合、迅速かつ的確な進路の舵取りが求められます。限られたビームタイムの中、実験を成功に導くため、予め複数の目標を設定してそれらを状況に応じて臨機応変に取捨選択する工夫をしました。今回の結果も複数設定した目標の内の一つです。(実際のところ失敗したテーマもありますが内容は割愛します。)

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

XFELはこれまでのフェムト秒化学に新たな進化をもたらす強力なツールだと思っています。紫外~赤外の波長領域の超高速分光をX線の波長領域まで拡張することで開ける新たな分野はまだ始まったばかりであり、これを推進できるような研究を展開していきたいと考えています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

XFELは、化学だけでなく生物、物理、物質科学といった広範な学術分野で利用されており、これらを融合させた新分野の創出が期待されています。そのためには、自分の研究領域以外についても視野を広く保ち、様々な研究者と交流することを通して、研究テーマについて知見を積み重ねることが重要だと思います。この記事が皆様にとって「自分だったらXFELをこういう研究に使ってみたい」、「XFELはこういう使い方はできないのだろうか」と考える端緒になれば望外の幸せです。

最後になりますが、本研究を遂行するにあたり素晴らしい研究環境とご協力を頂いている矢橋牧名先生、足立伸一先生にこの場を借りて感謝申し上げます。

参考文献

  1. K. H. Kim et al., Nature 518, 385-389 (2015).
  2. T. Katayama et al., Struct. Dyn. 3, 034301 (2016).

関連リンク

研究者の略歴

片山 哲夫(かたやま てつお)

所属:公益財団法人 高輝度光科学研究センター

専門:超高速X線分光、X線光学

略歴:2010/06 東京大学院新領域創成科学科 博士課程修了
2010/07¬–2012/03 Stanford University postdoctoral researcher
2012/04–2014/12 公益財団法人 高輝度光科学研究センター 客員研究員
2015/01–現在 公益財団法人 高輝度光科学研究センター 研究員

spectol21

投稿者の記事一覧

ニューヨークでポスドクやってました。今は旧帝大JKJ。専門は超高速レーザー分光で、分子集合体の電子ダイナミクスや、有機固体と無機固体の境界、化学反応の実時間観測に特に興味を持っています。

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