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スポットライトリサーチ

有機色素の自己集合を利用したナノ粒子の配列

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第186回のスポットライトリサーチは、関西学院大学 増尾研究室の山内光陽 助教にお願いしました。山内先生は以前にもスポットライトリサーチにご登場頂いており、今回は2回目の掲載になります(参照:光刺激で超分子ポリマーのらせんを反転させる)。当時は千葉大(矢貝研)の博士課程に在籍されていましたが、現在は増尾研究室の助教を務められています。増尾研究室は、分子レベル・ナノレベルでの「励起子エンジニアリング」をキーワードにナノ材料光科学の研究を行っており、今回取り上げるのは、色素分子ペリレンビスイミドの自己組織化を利用し、量子ドットを配列させるという研究です。この研究成果が、最近プレスリリースおよびChem. Eur. J.誌の原著論文として発表されたため、再びインタビューさせて頂きました。

”Colloidal Quantum Dot Arrangement Assisted by Perylene Bisimide Self-Assembly”
Chem. Eur. J. 2019, 25, 167–172. (Hot paper). DOI: 10.1002/chem.201805119

研究室を主催されている増尾貞弘 教授からは以下のコメントを頂いています。

山内さんには、学位取得直後の2017年4月に私が主宰する研究室に着任していただきました。何人かの先生から推薦いただいたので迷わず採用しましたが、大変素晴らしい方で嬉しく思っています。今回ご紹介した研究内容も、議論した後あっという間に成し遂げ、論文掲載まで辿り着きました。大変な努力家で、3時間の睡眠と栄養ドリンクがあれば(本気を出せば)働き続けることができるようです。この世代の研究者の中でもかなり優秀な人材であり、将来立派な研究者に成長することを楽しみにして見守っています。本人にも度々言っていますが、唯一の欠点は笑いが取れないことです。関西では致命的です。。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

有機色素の自然に集まる性質(自己集合)を利用して、量子ドットを並べることに成功しました(図1)。

図1. ペリレンビスイミド色素と量子ドットの混合による配列現象

コロイド状半導体ナノ結晶は量子ドットと呼ばれており、粒径に依存して様々な発光色を示します。この興味深い特徴が見出されて以来、世界中の研究者によって量子ドット単独での物性が盛んに研究されてきましたが、複数の量子ドットが並んだ配列構造は未知でした。本研究では、量子ドットとの吸着部位を有するペリレンビスイミドを設計・合成し、量子ドットと共存下で自己集合させることで量子ドット配列構造を構築しました。1) 有機色素の自己集合に基づく本手法により、多種多様なナノ粒子の配列構造が構築され、その構造由来の新しい機能発現に繋がることが期待できます。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

本研究では、全く異種のもの(量子ドット vs 有機色素)を相互作用させる必要があるので、混合条件の最適化には時間を要しました。偶然(必然?)、この系は時間経過により量子ドットが配列していくことがわかったので、スペクトル変化をじっくり追跡してメカニズムを明らかにしようと意気込みました。その結果、「ペリレンビスイミドが量子ドットに吸着したら、どう相互作用するのか?」という疑問が少し解消され、思い入れのある内容になったと思います。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

学生時代(@矢貝研究室)に確信した「有機分子の自己集合の素晴らしさ」を利用した何かを成し遂げたいと思い馳せている最中、ふと本研究が生まれました。テーマを考案したときは、簡単に並ぶだろうに思っていましたが、実験を進めてみると配列する最適条件を決めるのに苦戦しました。その時、少し息抜きで配列しない条件で実験をしてみることにしました。すると、ペリレンビスイミドはどのように量子ドットへ吸着するかというメカニズムが明らかになりました。このメカニズムを踏まえて、混合条件を再検討したところ、量子ドットがなんとか配列してくれました。やはり、どうしても上手くいかない時は気分転換に視点を変えることは大いに意味があることを再認識しました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

これから数年は、現在のテーマ「有機色素と量子ドットの複合化」のみに執着せず多様な研究テーマに挑戦したいと考えています。(最近では、有機結晶中の分子の挙動が気になっています。)その後は、自分がすべき研究をバシッと決め、突き進めたいと現在考えています。その中で、学生さんをはじめとした研究に関わる全ての人に研究の面白さ・素晴らしさを伝えていきたいです。自信もって面白いことを話せるように、私自身楽しんで研究に熱中していきたい次第です。楽しみ方の一つとして、これまでは分子の気持ちになって考えるようにしていましたが(以前のインタビュー)、最近では量子ドットの気持ちも少し理解してきたような気がします。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

新しい研究に取り組んでいると、良い意味で予想を裏切ってくれるなと日々感じます。(もちろん、期待通りになってくれるときもあります)仮説を立てて、いざ実験してみると、これはどういうことだろう?となった時に、私は新しい現象が起こっているのか?とワクワクします。それをどう解釈するかで、研究の方向性は変わっていきます。私は瞬時に物事を判断する瞬発力はあまり得意ではないですが、研究はじっくり謎解きをしていくのでとても好きです。研究は、じっくり考えることができる良い機会だと思いますので、ぜひ「考える人」になることをお勧めします。

最後になりましたが、本研究を進めるにあたり、日々貴重なディスカッション時間を割いてくださった研究室主宰の増尾貞弘先生、そして増尾研究室の愉快なメンバーにはこの場をお借りして深く御礼申し上げます。

研究者の略歴

山内 光陽(Yamauchi Mitsuaki)

所属:関西学院大学理工学部 環境・応用化学科 助教
研究テーマ:有機色素と無機ナノ粒子の複合化、発光性ナノ結晶の構築

2012年3月 千葉大学工学部共生応用化学科 卒業
2014年3月 千葉大学大学院工学研究科共生応用化学専攻 博士前期課程 修了
2014年4月 〜 2017年3月 日本学術振興会特別研究員(DC1)
2017年3月 千葉大学大学院工学研究科共生応用化学専攻 博士後期課程 修了(矢貝研究室
2017年4月 〜 現在 関西学院大学理工学部 環境・応用化学科 助教(増尾研究室

参考文献

  1. Yamauchi, S. Masuo, Chem.-Eur. J. 2019, 25, 167–172. DOI: 10.1002/chem.201805119
  2. M. Yamauchi, Y. Miyamoto, M. Suzuki, H. Yamada, S. Masuo, Phys. Chem. Chem. Phys. 2019 in press. DOI: 10.1039/c8cp06594b
  3. Yamauchi, B. Adhikari, D. D. Prabhu, X. Lin, T. Karatsu, T. Ohba, N. Shimizu, H. Takagi, R. Haruki, S. I. Adachi, T. Kajitani, T. Fukushima, S. Yagai, Chem.-Eur. J. 2017, 23, 5270–5280. DOI: 10.1002/chem.201605873

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kanako

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アメリカの製薬企業の研究員。抗体をベースにした薬の開発を行なっている。
就職前は、アメリカの大学院にて化学のPhDを取得。専門はタンパク工学・ケミカルバイオロジー・高分子化学。

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