[スポンサーリンク]

一般的な話題

化学者のためのエレクトロニクス講座~電解ニッケルめっき編~

[スポンサーリンク]

この化学者のためのエレクトロニクス講座では半導体やその配線技術、フォトレジストやOLEDなど、エレクトロニクス産業で活躍する化学や材料のトピックスを詳しく掘り下げて紹介します。

今回は電解ニッケルめっきを取り上げます。

ニッケルは卑金属でありながら比較的耐食性に優れており、拡散しにくいという利点もあります。そのため、電子機器における銅の配線層と貴金属の間のバリア層として広く用いられています。そのほか、磁性材料や装飾用途もあります。近年では無電解めっきでの加工も主流となりつつありますが、ここでは従来の電解めっきを見ていきます。

plating

モバイル端末に欠かせないめっき(画像:Flickr

ニッケルめっき浴

代表的なニッケルめっき浴にはO.P.Wattsによって開発されたワット浴と、スルファミン酸ニッケルを主体とするスルファミン酸浴があり、これらと別に、下地層形成に用いられるストライク浴があります。

ワット浴はもっとも古典的なニッケルめっき浴です。その主成分は硫酸ニッケルで、これにニッケルアノードの溶解を促進する塩化ニッケル、カソードでのHERを抑制するホウ酸のほか、必要に応じて光沢剤が添加されています。

一方のスルファミン酸浴は主成分のスルファミン酸ニッケルのほかにホウ酸と必要に応じた光沢剤が添加されています。得られる被膜の残留応力が少なく、均一に析出しやすいことが利点です。

ニッケルストライク浴は、塩酸に少量の塩化ニッケルを溶解した希薄な浴で、HERが優先してニッケルの析出効率を低下させ、粗雑な被膜を作ることを目的としています。

光沢剤の原理

ここで、光沢剤は平滑な表面を与えることでめっき被膜に光沢をもたらす作用のある試薬で、皮膜の金属結晶を微細化する一次光沢剤と、さらに細かい凹部を埋める(レベリングする)二次光沢剤に大別されます。光沢剤を加えない浴を無光沢めっき、一次光沢剤のみの浴を半光沢めっき、一次光沢剤と二次光沢剤を加えた浴を光沢めっきと呼びます。

また、一次光沢剤、二次光沢剤と加えていくごとにめっき被膜は平滑となり、光沢が増しますが、皮膜の硬度が増大することで割れクラックなどの不良も増加します。特にスルファミン酸浴ではもとからやや光沢気味に仕上がることから注意が必要とされます。

一次光沢剤にはベンゼンスルホン酸などの芳香族スルホン酸芳香族スルホン酸アミドサッカリンなどの芳香族スルホン酸イミドが用いられています。サッカリンを例にとってみると、ニッケル表面に吸着して還元され、ニッケル被膜中に硫黄を受け渡して自身はベンズアミドとなります。

C6H4CONHSO2 + 6H+ + 6e →C6H5CONH2 + NiS + 2H2O

一方、二次光沢剤にはホルムアルデヒド(ホルマリン)などのアルデヒド、アリルスルホン酸などのアリル化合物や、2-ブチン-1,4-ジオールなどのアセチレン誘導体が用いられています。代表的な2-ブチン-1,4-ジオールはカソード上で還元されてブタンジオールとなりますが、この反応は極めて速く、拡散律速となるためにめっき皮膜は平滑になります。

HOCH2C≡CCH2OH + 4H+ + 8e →HO(CH2)4OH + 2H2O

なお、一次光沢剤中の硫黄原子はめっき被膜に共析し、その電位を卑に傾けるため腐食しやすくなる欠点もあります。

用途と今後の展望

ニッケルめっきはバリア層としての用途が極めて重要ですが、ワット浴をはじめ従来のめっき液ではピンホールなどの不良が生じやすいという本質的な問題もありました。ピンホールがあるとそこから銅原子は拡散して表面で酸化されてしまうため、腐食などの不良につながります。しかし、近年の微細化要求の高まりと金属価格の高騰はめっき膜厚の低減を求めており、ますますこれらの課題が顕在化することとなります。めっき不良を起こさずに膜厚を低減するための添加剤研究は日夜続けられており、近年では低濃度のニッケル浴を用いた省資源化・省エネルギー化も進展しています。今後の進展に期待が高まりますね。

Ni価格は不安定です(画像:Wikipedia

関連書籍

[amazonjs asin=”B000J740MS” locale=”JP” title=”めっき技術ガイドブック (1983年)”] [amazonjs asin=”4526053732″ locale=”JP” title=”次世代めっき技術―表面技術におけるプロセス・イノベーション”]
gaming voltammetry

berg

投稿者の記事一覧

化学メーカー勤務。学生時代は有機をかじってました⌬
電気化学、表面処理、エレクトロニクスなど、勉強しながら執筆していく予定です

関連記事

  1. クラリベイト・アナリティクスが「引用栄誉賞2017」を発表
  2. 3つのラジカルを自由自在!アルケンのアリール–アルキル化反応
  3. 日本化学会 第100春季年会 市民公開講座 夢をかなえる科学
  4. 位置・立体選択的に糖を重水素化するフロー合成法を確立 ― Ru/…
  5. 「MI×データ科学」コース 〜LLM・自動実験・計算・画像とベイ…
  6. FLPとなる2種類の触媒を用いたアミド・エステルの触媒的α-重水…
  7. 有機フォトレドックス触媒による酸化還元電位を巧みに制御した[2+…
  8. ハリーポッターが参考文献に登場する化学論文

注目情報

ピックアップ記事

  1. ウルマンカップリング Ullmann Coupling
  2. お”カネ”持ちな会社たちー2
  3. 美麗な元素のおもちゃ箱を貴方に―『世界で一番美しい元素図鑑』
  4. リングサイズで性質が変わる蛍光性芳香族ナノベルトの合成に成功
  5. 化学作業着あれこれ
  6. Nazarov環化を利用した全合成研究
  7. 臭いの少ない1,3-プロパンジチオール等価体
  8. ホウ素 Boron -ホウ酸だんごから耐火ガラスまで
  9. ジスルフィド架橋型タンパク質修飾法 Disulfide-Bridging Protein Modification
  10. アルキルラジカルをトリフルオロメチル化する銅錯体

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年11月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

フィーゼルマン チオフェン合成/Fiesselmann Thiophene Synthesis

概要フィーゼルマン チオフェン合成(Fiesselmann Thiophene Synthesi…

“とび跳ねる水滴”に潜む物理 〜接触時間とエネルギー源で読む撥水・防氷のテク〜

熱したフライパンに落ちた水滴が、玉になってコロコロと走り回り、冷えた面では、結露水が合体した瞬間に跳…

AI時代に研究者がすでに持っている力・これから伸ばしたい力

論文要約や文献検索など、研究現場でもAI活用が日常化する一方、「自分の仕事の先行き」に漠然とした不安…

miHub®を活用した探索的データ解析の実践

開催概要研究開発においてデータ活用が進む中、機械学習モデルの構築や予測解析に…

“ある特効薬”のはなし ~本田宗一郎氏の回想から

Tshozoです。最近実家に戻っては色々と廃棄するなどの店じまいを少しずつ進めているのですが、中…

高分子鎖を束ねた新しい共重合体「束状共重合体」が誕生

第715回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院 工学系研究科(植村研究室)に所属されていた亀谷…

2026年「有機溶媒危機」へのアンサー。北大発・メカノクロスが挑む、溶媒に依存しない新たな合成法 = “メカノケミカル有機合成”の社会実装

株式会社メカノクロスは、メカノケミカル有機合成技術の社会実装に挑む北海道大学発の…

“壊れないよう” に作ってきた半導体ポリマーを、あえて “壊れるよう” に作る化学

半導体ポリマーは長いあいだ、「いかに壊れにくく、長持ちさせるか」といったような安定性を競って進歩して…

有機合成化学協会誌2026年7月号:固体高分子電解質・電子ドナー・アクセプター錯体・機械学習法・trichodermamide類・エナンチオ選択的スキップジエン合成法

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2026年7月号がオンラインで公開されています。…

第62回Vシンポ「見えない空気を科学する~センサによる室内環境・臭気の見える化と快適空間デザインの最前線~」を開催します!

こんにちは、Macyです。第62回Vシンポのご案内をさせていただきます。今回は、前回同様…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP