[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

ハロゲン移動させーテル!N-ヘテロアレーンのC–Hエーテル化

[スポンサーリンク]

ハロチオフェンからのハロゲン移動反応を用いるNヘテロアレーンのC–Hエーテル化が開発された。穏和な反応条件で、広範なアジンやアゾールを位置選択的にC–Hエーテル化できる。

N-ヘテロアレーンのC–Hエーテル化

ヘテロアリールエーテルは医農薬品において重要な骨格である。遷移金属触媒によるハロゲン化ヘテロアリールのエーテル化は信頼性の高い合成法として頻用される。
近年では、最も理想的な合成法とされる芳香環C–H結合のエーテル化も報告されたが[1]、アジンやアゾールなどのN-ヘテロアレーンへ適用した例は少ない。
例えばShiらは、銅触媒を用いて配向基をもつN-ヘテロアレーンのC–Hエーテル化を達成した(図1A)[2]。しかし、より単純なN-ヘテロアレーンのC–Hエーテル化は挑戦的な課題であり、現状、N-ヘテロアレーンの事前官能基化を要する手法が大半である[3]。最近の例としては、McNallyらが開発したアジンのホスホニウム化を経由するN-ヘテロアリールエーテル合成法が挙げられる(図1B)[4]。このように、単純なN-ヘテロアレーンを直接C–Hエーテル化できる手法はなく、新たなN-ヘテロアレーンの活性化戦略が求められる。
一方、1951年Nordらは強塩基存在下、2-ブロモチオフェン間でハロゲン移動が起こり、テトラブロモ置換体が生成することを見いだした(図1C)[5]。コロラド州立大学のBandar助教授らは、このハロゲン移動反応がN-ヘテロアレーンとハロチオフェン間で起これば、系中でN-ヘテロアレーンをハロゲン化でき、続くアルコールとのSNArが一挙に進行すると考えた(図1D)。検討の結果、著者らはハロチオフェンのハロゲン移動反応を用いるN-ヘテロアレーンの新規C–Hエーテル化の開発に成功した。

図1 (A) 配向基を要するC–Hエーテル化 (B) 2工程でのC–Hエーテル化 (C) 塩基によるハロチオフェンの不均化 (D) 本反応

 

“Nucleophilic C–H Etherification of Heteroarenes Enabled by Base-Catalyzed Halogen Transfer”
Puleo, T. R.; Klaus, D. R.; Bandar, J. S. J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 12480–12486.
DOI: 10.1021/jacs.1c06481

論文著者の紹介


研究者:Jeffrey S. Bandar
研究者の経歴:
2009 BSc., Saint. John’s University, USA (Associate Prof. Thomas N. Jones)
2014 Ph.D., Columbia University, USA (Prof. Tristan H. Lambert)
2014–2017 Postdoc, Massachusetts Institute of Technology, USA (Prof. Stephen L. Buchwald)
2017 Assistant Professor, Colorado State University, USA
研究内容:強塩基を用いた新規触媒反応の開発

論文の概要

著者らはカリウムtert-ブトキシド存在下、N-ヘテロアレーン1にアルコール2とハロゲン移動試薬としてハロチオフェン3を反応させると、N-ヘテロアリールエーテル4が収率よく得られることを見いだした(図2A)。

チアゾールやイミダゾールなどの1,3-アゾールでは、2,5-ジブロモチオフェン(3a)を用いると、2位選択的なC–Hエーテル化が進行した(4a, 4b)。

また、1,3-アゾール類よりも酸性度が低いアジンに対しては、3aよりハロゲン移動が起こりやすい2-ヨードチオフェン(3b)を用いることで、4位選択的なエーテル化が進行した(4c, 4d)。フェニルスルホニル基を有するアジンおよびイミダゾ[1,2-b]ピリダジンでは2,3-ジヨードベンゾチオフェン(3c)を用いると、良好な収率で4位エーテル化体が得られた(4e, 4f)。
続いて、著者らはポリアジンの位置選択的なC–Hエーテル化を試みた(図2B)。ビピリジン53cを用いて反応させたところ、トリフルオロメチル基を有するピリジン環を4位選択的にエーテル化できた(6)。

クロロ-2,3’-ビピリジンでも同様に、クロロピリジンの4位でエーテル化が進行した(7)。他にも、キノリニル基をもつイミダゾ[1,2-b]ピリダジンでは8位が(8)、ピリダジンと2つのピリジンをもつ分子では、ピリダジン環の4位がエーテル化された(9)。

さらに、3b存在下ブロモピリジン10をL-プロリノール(11)と反応させると、4位選択的なC–Hエーテル化に続く分子内SNAr反応が進行し、モルホリン縮環ピリジン12が良好な収率で得られた。

図2. (A) 基質適用範囲 (B) ハロチオフェンを用いた他のC–Hエーテル化

 

以上、カリウムtert-ブトキシド存在下、ハロチオフェンをハロゲン移動試薬に用いたN-ヘテロアレーンの位置選択的なC–Hエーテル化反応が開発された。今後、ハロゲン移動試薬を利用したエーテル化以外の官能基化の開発が期待できる。

参考文献

  1. (a) Liu, B.; Shi, B.-F.Transition-Metal-Catalyzed Etherification of Unactivated C–H Bonds. Tetrahedron Lett. 2015, 56, 15–22. DOI: 1016/j.tetlet.2014.11.039 (b) Zheng, Q.; Chen, J.; Rao, G.-W. Recent Advances in C–O Bond Construction via C–H Activation. Russ. J. Org. Chem. 2019, 55, 569–586. DOI: 10.1134/S1070428019040249
  2. Yin, X.-S.; Li, Y.-C.; Yuan, J.; Gu, W.-J.; Shi, B.-F. Copper (II)-Catalyzed Methoxylation of Unactivated (Hetero)Aryl C–H Bonds using a Removable Bidentate Auxiliary. Org. Chem. Front. 2015, 2, 119–123. DOI: 1039/c4qo00276h
  3. (a) Kutasevich, A. V.; Perevalov, V. P.; Mityanov, V. S. Recent Progress in Non-Catalytic C−H Functionalization of Heterocyclic N-Oxides. Eur. J. Org.Chem. 2021, 3, 357– DOI: 10.1002/ejoc.202001115 (b) Baykov, S. V.; Boyarskiy, V. P. Metal-Free Functionalization of Azine N-Oxides with Electrophilic Reagents. Chem. Heterocycl. Compd. 2020, 56, 814−823. DOI: 10.1007/s10593-020-02737-x (c) Lian, Y.; Coffey, S. B.; Li, Q.; Londregan, A. T. Preparation of Heteroaryl Ethers from Azine N-Oxides and Alcohols. Org. Lett. 2016, 18, 1362−1365. DOI: 10.1021/acs.orglett.6b00295
  4. Hilton, M. C.; Dolewski, R. D.; McNally, A. Selective Functionalization of Pyridines via Heterocyclic Phosphonium Salts. J. Am. Chem. Soc.  2016, 138, 13806–13809. DOI: 10.1021/jacs.6b08662
  5. Vaitiekunas, A.; Nord, F. F. Tetrabromothiophene from 2-Bromothiophene by means of Sodium Acetylide in Liquid Ammonia. Nature 1951, 168, 875–876. DOI: 1038/168875a0

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 最後に残ったストリゴラクトン
  2. その化合物、信じて大丈夫ですか? 〜創薬におけるワルいヤツら〜
  3. 大学の講義を無料聴講! Academic Earth & You…
  4. 高分子鎖デザインがもたらすポリマーサイエンスの再創造
  5. 第10回ケムステVシンポ「天然物フィロソフィ」を開催します
  6. 湘南ヘルスイノベーションパークがケムステVプレミアレクチャーに協…
  7. 研究室でDIY!割れないマニホールドをつくろう・改
  8. スケールアップで失敗しないために 反応前の注意点

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. フルオロシランを用いたカップリング反応~ケイ素材料のリサイクルに向けて~
  2. 蓄電池 Rechargeable Battery
  3. Dead Endを回避せよ!「全合成・極限からの一手」⑧(解答編)
  4. 古川 俊輔 Shunsuke Furukawa
  5. ストーク エナミン Stork Enamine
  6. 「肥満症」薬を国内投入、エーザイや武田
  7. 真理を追求する –2017年度ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞–
  8. エンテロシン Enterocin
  9. ノルゾアンタミンの全合成
  10. 物凄く狭い場所での化学

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年11月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

塩基が肝!シクロヘキセンのcis-1,3-カルボホウ素化反応

ニッケル触媒を用いたシクロヘキセンの位置および立体選択的なカルボホウ素化反応が開発された。用いる塩基…

中国へ行ってきました 西安・上海・北京編①

2015年(もう8年前ですね)、中国に講演旅行に行った際に記事を書きました(実は途中で断念し最後まで…

アゾ重合開始剤の特徴と選び方

ラジカル重合はビニルモノマーなどの重合に用いられる方法で、開始反応、成長反応、停止反応を素反応とする…

先端事例から深掘りする、マテリアルズ・インフォマティクスと計算科学の融合

開催日:2023/12/20 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

最新の電子顕微鏡法によりポリエチレン分子鎖の向きを可視化することに成功

第583回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院 工学研究科 応用化学専攻 陣内研究室の狩野見 …

\脱炭素・サーキュラーエコノミーの実現/  マイクロ波を用いたケミカルリサイクル・金属製錬プロセスのご紹介

※本セミナーは、技術者および事業担当者向けです。脱炭素化と省エネに貢献するモノづくり技術の一つと…

【書籍】女性が科学の扉を開くとき:偏見と差別に対峙した六〇年 NSF(米国国立科学財団)長官を務めた科学者が語る

概要米国の女性科学者たちは科学界のジェンダーギャップにどのように向き合い,変えてきたのか ……

【太陽ホールディングス】新卒採用情報(2025卒)

■■求める人物像■■「大きな志と好奇心を持ちまだ見ぬ価値造像のために前進できる人…

細胞代謝学術セミナー全3回 主催:同仁化学研究所

細胞代謝研究をテーマに第一線でご活躍されている先生方をお招きし、同仁化学研究所主催の学術セミナーを全…

マテリアルズ・インフォマティクスにおける回帰手法の基礎

開催日:2023/12/06 申込みはこちら■開催概要マテリアルズ・インフォマティクスを…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP