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化学者のつぶやき

水が決め手!構造が変わる超分子ケージ

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レゾルシンアレーンと水分子により構成される超分子ケージC11R6の新たな構造が報告された。構造変化により酸性度が増大し、触媒能が約10倍向上した。

C11R6の性質と新たな構造の発見

超分子ケージは、複数の分子が分子間相互作用によってケージ状に自己組織化した化合物である[1]。なかでも、C11R6は6個のレゾルシンアレーンと8個の水分子が水素結合を介してケージを織りなす(図1A)[2]。アルキメデスの半正多面体に適合するその美しい構造や1400 Å3に及ぶ巨大な内部空間に着目した研究がなされてきた。その過程で、内部のBrønsted酸性、内包した分子への触媒作用が明らかになった[3]。最近、Thompsonらは、C11R6近傍の水分子がケージを構成する水分子と水素結合を形成すると報告した[4]。しかし、この水分子がケージ構造に与える影響は未解明であった。
今回、本論文著者のReekらは、Thompsonらの報告をもとに、外部の水分子によってC11R6の構造が変化する可能性を見いだし、1H NMR測定と分子動力学法によるシミュレーション解析を試みた。その結果、単一構造とみなされていたC11R6(-A)は、外部の水分子を取り込み別の構造(C11R6-B)に変化することを明らかにした(図1B)。また、種々の測定によりC11R6-Bの酸性度を評価し、触媒能を調査した。

図1. (A) C11R6の構造[2] (B) C11R6の新たな構造の発見

“Just Add Water: Modulating the Structure-Derived Acidity of Catalytic Hexameric Resorcinarene Capsules”
Poole, D. A. III; Mathew, S.; Reek, J. N. H. J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 16419–16427.
DOI: 10.1021/jacs.1c04924

論文著者の紹介

研究者:Joost N. H. Reek
1996                               Ph.D., University of Nijmegen, Netherlands (Prof. R. J. M. Nolte)
1996–1998                  Postdoc, University of Sydney, Australia (Prof. M. J. Crossley)
1998–2003                  Assistant professor, University of Amsterdam, Netherlands
2003–2006                  Associate professor, University of Amsterdam, Netherlands
2006–                             Professor, University of Amsterdam, Netherlands
研究内容:均一系触媒、超分子触媒、バイオインスパイアード触媒

論文の概要

まず、筆者らはC11R6の新たな構造を調査するため、系中の水分濃度変化による1H NMRシグナルの推移を観察した(図2A-i)。水分子の増加に伴い、C11R6のヒドロキシ基由来のピーク(◆)強度が減少し、新たに低磁場シフトしたピーク(▼)が出現した。これはC11R6-Aの新たな構造(C11R6-B)への変化を示唆している。同時にC11R6を構成する水分子のピーク(●)強度は増加しており、C11R6の構造変化が外部の水分子に起因していると推測された。詳細な解析の結果、C11R6-Aが新たに7個の水分子を取り込んだ際にC11R6-Bに変化することがわかった。
加えて、分子動力学法を用いたシミュレーションによるC11R6-Bの構造解明を試みた(図2A-ii)。その結果、新たに6個の水分子を取り込み、C11R6を構成する水分子が14個になった時に最安定であることが示され、1H NMRの測定結果と良い一致を示した。なお、取り込まれた水分子(●)はC11R6-Aを構成する8つの水分子(●)を頂点とする立方体の任意の一辺に集合していた。
続いて、C11R6-Bの酸性度を評価するため、ホスフィンオキシド(Bu3PO)存在下、水分濃度に依存するC11R6-Bの存在比変化にともなう31P NMRシグナルの推移を観測した(図2B-i)。内包されているBu3POはC11R6を構成する水分子との水素結合によって相対的に低磁場シフトすることが考えられるため、観測されたピークのうち、低磁場のピーク(■)をC11R6に内包されているBu3PO、高磁場のピーク(●)を内包されていないBu3POに割り当てた。C11R6-Bの存在比と二つのピークの化学シフト差からそれぞれの酸性度を算出した結果、C11R6-A(AN = 51)はC11R6-B(AN = 68)となる際に、酸性度が増大することが判明した。
さらに、C11R6-AC11R6-Bの触媒能を比較するために、ジエン1とマレイミド(2)のDiels–Alder反応に、C11R6を触媒として適用した(図2B-ii)。水分濃度によりC11R6-A/Bの存在比を変化させた際の2の減少速度vから、C11R6-AおよびC11R6-Bによる2の減少速度vA/Bを求めた。その結果、C11R6-BC11R6-Aの約10倍の速度で反応を進行させると分かった。

図2. (A-i) 1H NMR解析 (A-ii) 分子動力学法によるシミュレーション (B-i) 31P NMR 解析 (B-ii) Diels–Alder反応への適用 (図2は論文より転載)

以上、著者らは、C11R6が新たに水分子を取り込んだC11R6-Bの構造を明らかにし、酸性度の増大および触媒能の向上を示した。本研究により、活性が自在に変化するような超分子触媒の開発に拍車がかかる。

参考文献

  1. Hof, F.; Craig, S. L.; Nuckolls, C.; Rebek, J. Jr. Molecular Encapsulation. Angew. Chem., Int. Ed. 2002, 41, 1488–1508. DOI: 10.1002/1521-3773(20020503)41:9%3C1488::AID-ANIE1488%3E3.0.CO;2-G
  2. MacGillivray, L. R.; Atwood, J. L. A Chiral Spherical Molecular Assembly Held Together by 60 Hydrogen Bonds. Nature 1997, 389, 469–472. DOI:1038/38985
  3. Gaeta, C.; Talotta, C.; De Rosa, M.; La Manna, P.; Soriente, A.; Neri, P. The Hexameric Resorcinarene Capsule at Work: Supramolecular Catalysis in Confined Spaces. Chem. Eur. J. 2019, 25, 4899–4913. DOI: 10.1002/chem.201805206
  4. Katiyar, A.; Freire Sovierzoski, J. C.; Calio, P. B.; Vartia, A. A.; Thompson, W. H. Water Plays a Dynamical Role in a Hydrogen-Bonded, Hexameric Supramolecular Assembly. Chem. Chem. Phys. 2020, 22, 6167–6175. DOI: 10.1039/C9CP06874K
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