[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

抗リーシュマニア活性を有するセスキテルペンShagene AおよびBの全合成研究

[スポンサーリンク]

第362回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院農学研究科(入江研究室)・八木田凌太郎さんにお願いしました。

天然から微量にしか得られない生物活性物質を量的供給可能とし、研究を前に進める技術として、全合成はいまなお研究されています。今回はリーシュマニア症と呼ばれる熱帯感染症に効果のあるとされるセスキテルペン・Shagene A/Bの世界初の全合成が達成されました。Angew. Chem. Int. Ed.誌 原著論文・プレスリリースに公開されています。

“Asymmetric Total Synthesis of Shagenes A and B”
Tsukano, C.; Yagita, R.; Heike, T.; Mohammed, T. A.; Nishibayashi, K.; Irie, K.; Takemoto, Y. Angew. Chem. Int. Ed. 2021, 60, 23106. doi:10.1002/anie.202109786

現場で研究を指揮された塚野千尋 准教授から、以下のコメントを頂いています。それでは今回もインタビューをお楽しみください!

八木田君、および、本プロジェクトを展開して下さった学生さん(平家さん、西林さん、モハメド・タグワさん)にこの場を借りて感謝申し上げます。本天然物の初の全合成に成功して嬉しいです!!!

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

軟サンゴ由来セスキテルペンであるshagene AおよびBは、2014年に南フロリダ大学のBakerらにより、スコシア海と呼ばれる南米と南極間の海に生息するサンゴから単離され、各種スペクトルを用いて相対立体配置が決定されました。構造上の特徴として、3, 6, 5員環が縮環した新奇3環性骨格と、シクロプロパンの主鎖置換基が同一面に位置している歪んだ「全シス置換シクロプロパン構造」が挙げられます。生物活性としては、Shagene Aから抗リーシュマニア活性が報告されています (IC50 = 5µM)。本化合物は、非常にアクセスしづらい僻地に生息する生き物から単離されていますので、サンプル供給は合成化学以外に難しいです。
我々は、ジアゾケトニトリルのジアステレオ選択的なシクロプロパン化と、Crabtree型イリジウム触媒による二重結合の異性化を鍵反応として、Shagene AおよびBの全合成を達成しました。さらに、これまで不明であった絶対立体配置の決定にも成功し、我々が合成した化合物が天然物のエナンチオマーであることも明らかにしました。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

京都大学薬学研究科の前任者の結果を基盤に、私は、shagene Bの不斉全合成、およびエノン6からshagene Aへの合成経路の確立を行いました。京大薬学研究科で確立された、shagene Bのラセミ合成や不斉合成の足がかりは最先端の有機合成化学で感銘を受けました。全合成では、工程数を短くすることを心がけ、どんな可能性があるか気にかけていました。例えば、ニトリルとGrignard試薬の反応でイミンが単離でき、これを合成に上手く組み込めたのは良かったです。また、絶対立体配置の決定に関しては印象深く、旋光度を測定し、天然物のエナンチオマーであることが分かった時は正直残念でしたが、天然からのサンプルがなく絶対立体配置が永遠に謎のままになるということは回避できました。そして、生物活性を調べるスタートラインに立つことができました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

不安定な中間体を経由する点は難しかったです。特に、エノン6をアリルアルコール7へと還元する反応にかなり苦労しました。微量スケールで様々な条件を検討し、ようやく7が得られた時は、かなり喜んだのを覚えています。検討の過程で分かったことですが、生成物のアリルアルコール7は酸に不安定で、重クロロホルム溶媒を用いてNMRを測定しても分解しました(折角苦労して作った微量の化合物が壊れてしまった時はさすがに落ち込みました、、、)。ジアステレオ選択性の向上が叶わなかったことは心残りですが、何度も原料合成できない状況で、確実な実験操作を心がけつつ、得られた微量の生成物を何とか解析し、次につなげることの重要性を学びました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

修士1年時に有機合成研究に携わり、その中で思い通りに目的物を得る難しさ、条件検討の面白さを体感し、博士課程への進学を決めました。将来の進路については未定ですが、様々な研究者と積極的に交流し、有機合成のみならず幅広い知識を身につけた研究者になりたいと考えています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

最後まで読んでいただき本当にありがとうございます。今回、こういった形で憧れのスポットライトリサーチに取り上げていただいたことは、今後の研究の大きな励みとなります!
最後にこの場をお借りして、竹本先生をはじめとする薬学研究科の関係者の皆様、入江先生、塚野先生、そして入江研のメンバーに感謝申し上げます。

研究者の略歴

名前:八木田 凌太郎
所属:京都大学大学院農学研究科食品生物科学専攻生命有機化学分野
研究テーマ:Shagene類の不斉全合成、朝鮮五味子由来トリテルペンの不斉全合成

経歴:
2019年3月 京都大学農学部食品生物科学科 卒業
2021年3月 京都大学大学院農学研究科食品生物科学専攻
博士前期課程 修了 (入江一浩教授)
2021年4月- 京都大学大学院農学研究科食品生物科学専攻
博士後期課程 在学 (入江一浩教授)
2021年4月- 京都大学科学技術イノベーション創出フェローシップ事業 対象学生

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. AI分子生成による有機分子ハイスループット仮想スクリーニングの最…
  2. ビッグデータが一変させる化学研究の未来像
  3. ケムステイブニングミキサー2019ー報告
  4. 相撲と化学の意外な関係(?)
  5. タンパク質の定量法―紫外吸光法 Protein Quantifi…
  6. 金属を使わない触媒的水素化
  7. 研究者1名からでも始められるMIの検討-スモールスタートに取り組…
  8. クロスカップリング用Pd触媒 小ネタあれこれ

注目情報

ピックアップ記事

  1. フラッシュ精製装置「バイオタージSelect」を試してみた
  2. CRISPRの謎
  3. 第138回―「不斉反応の速度論研究からホモキラリティの起源に挑む」Donna Blackmond教授
  4. 二酸化セレン Selenium Dioxide
  5. 除虫菊に含まれる生理活性成分の生合成酵素を単離
  6. 8億4400万円で和解 青色LED発明対価訴訟
  7. CeO2担持Auナノ粒子触媒で未踏の脱水素芳香環形成を達成 ―m-二置換化合物の選択的one-step合成-
  8. エヴァンスアルドール反応 Evans Aldol Reaction
  9. 東芝:新型リチウムイオン電池を開発 60倍の速さで充電
  10. 「同時多発研究」再び!ラジカル反応を用いたタンパク質の翻訳後修飾

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2022年1月
月 火 水 木 金 土 日
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

最新記事

【味の素ファインテクノ】新卒採用情報(2028卒)

当社は入社時研修を経て、先輩指導のもと、実践(※)の場でご活躍いただきます。…

MEDCHEM NEWS 35-3 号「2024年度 MCS 優秀賞」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、オープンアクセ…

【速報】2026年のノーベル化学賞は「不斉有機合成における非線形効果および自己触媒作用の発見」へ

2026年のノーベル化学賞は、アンリ・カガン (Henri B. Kagan、フランス・パリ=サクレ…

柳沢 正史 Masashi Yanagisawa

柳沢 正史(やなぎさわ まさし、Masashi Yanagisawa、1960年5月…

ケムステ人気新着記事 トップ 5【2026年8月版】

2026年8月にケムステでは22本の新しい記事を公開しました。この記事では、その新着記事の中から、ペ…

シュライナー チオウレア触媒/Schreiner’s Thiourea Catalyst

⏱ 30秒サマリー 何をする反応か — 2本の N–H による二座水…

タリンにいってきました BOS2026 後編

前編では、BOS2026とタリンについて、また今回訪問した理由、そして実際に講演するところまでお話し…

「そっちが切れちゃうの!?」 〜弱い結合を残し、強い結合を切断する HAT 反応の開発〜

第721回のスポットライトリサーチは、金沢大学 大学院医薬保健学総合研究科(平野研究室)博士前期課程…

SNS予想で盛り上がれ!2026年ノーベル化学賞は誰の手に?

【速報】(2026/10/7 19:10)2026年のノーベル化学賞 (速報…

予想外から!cis-クレロダン型ジテルペノイド類の発散的不斉全合成

TEMPO⁺BF₄⁻を用いたラクトン化および付加環化反応による骨格構築と酸素官能基の導入により、ci…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP