[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

2つの異なるホウ素置換基が導入された非共役ジエンの触媒的合成と細胞死制御分子の形式合成に成功

[スポンサーリンク]

第366回のスポットライトリサーチは、東京農工大学大学院 工学府応用化学専攻(平野研究室)博士前期課程1年の岡﨑汐音さんにお願いしました。

炭素骨格の離れた位置に2つの二重結合がある非共役ジエン構造は、医薬品や農薬といった生理活性をもつ物質に多く見られます。今回ご紹介する成果は、非共役ジエン構造の選択的な合成に成功したというものです。さらに、研究で合成された1,5-ジエンを用いて細胞死の制御に関わる生理活性を示すボンクレキン酸の形式合成にも成功されており、本成果はOrganometallics誌 原著論文・プレスリリースに公開されています。

“Ru(0)-Catalyzed Regioselective Synthesis of Borylated-1,4- and -1,5-Diene Building Blocks”
Okazaki, S.; Shimada, K.; Komine, N.; Hirano, M. Organometallics, 2022, Just Accepted. doi:10.1021/acs.organomet.1c00615

研究を指導された平野雅文 教授から、岡﨑さんについて以下のコメントを頂いています。それでは今回もインタビューをお楽しみください!

岡崎汐音さんは学部のときには学長から学生表彰されるほど優秀な学生で私の研究室に配属されるとそのまま大学院進学してくれました。彼女は普段400 MHz のNMRに張り付くように研究していますが、休日には440 Hzで弦を張ったバイオリンを肩にお教室に通い、その腕前はしずかちゃんより上手とのことです。この研究では鎖状交差二量化反応によるジボリル化1,5-ジエンの合成がメインテーマですが、応用展開として1,5-ジエン構造をもつボンクレキン酸をターゲットとして九大先導研の新藤 充先生らの先駆的な全合成法を参考にさせていただき形式合成を行いました。B(pin)とB(dan)が両末端に置換された1,5-ジエンではB(dan)の直接変換反応ができればさらにカッコよかったのですが、さらりと高収率で反応できるときもあれば、ほとんど反応しないときもあり再現性に苦労していました。一緒にKOtBuの昇華精製をしたり、KOtBuを合成したりしましたが結局信頼性の高いボロン酸への脱マスク化を選択しました。また今回形式合成したボンクレキン酸はインドネシアの発酵食品テンペからとれるのですが、取り寄せたテンペで料理をしてくれました。何事にも真面目で努力家なので今後の一層の活躍を期待しています。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

2010 年にノーベル化学賞の対象研究となったクロスカップリング反応は、有機化合物の母体骨格である炭素-炭素結合の形成に大変有効な触媒反応です。特にホウ素化合物を求核剤とした反応は、鈴木・宮浦カップリングと呼ばれ、低毒性原料を用いた信頼性と再現性の高い反応であるため医薬品合成に多用されています。一方で、癌細胞毒性を示すプラキン酸Aや抗HIV薬(liseaverticillol A)といった生理活性物質に数多く見られる非共役ジエン骨格は、従来合成に多段階を要し、立体制御が困難であることから合成が難しい骨格でした(Figure 1)。これらの両末端に異なる反応性を示すホウ素置換基が結合した非共役ジエンが合成できれば、望みの有機基を位置選択的に導入できると期待されます。しかし、ボリル化非共役ジエンの触媒的な合成は報告例が少なく、両端がボリル化された非共役ジエンを1段階で合成する方法はこれまで存在しませんでした。

Figure 1. Non-conjugated Dienes in Natural Products

本研究では、Ru(0)錯体触媒である[Ru(naphthalene)(1,5-cyclooctadiene)] (10 mol%)を触媒とすることで、両端に反応性の異なるホウ素置換基を有する非共役ジエンの位置選択的合成を開発しました(Scheme 1)。また、これらを合成ビルディングブロックとする非共役ジエン分子の構築を行い、癌細胞に対する分子標的薬として期待される生理活性物質である、ボンクレキン酸(Bongkrekic Acid)の形式合成を達成しました(Scheme 2)。

Scheme 1. Synthesis of 1,5-Dienes via Cross-Dimerization and Cross-Coupling

Scheme 2. Format Total Synthesis of rac-Bongkrekic Acid

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

特に思い入れがあるのは、本研究の応用として検討したボンクレキン酸の形式合成です。論文における応用という位置づけだけではなく、本研究の実用的可能性を示したいという想いからターゲット選定を行いました。形式全合成ではありますが、カップリングパートナーの原料合成から苦戦し、期待半分、不安半分で1歩1歩合成を進め、最終的に全てのデータの相関関係が目的の中間体構造と一致した際の達成感は忘れられません。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

反応不活性なB(dan)基に対する置換基導入の条件検討に非常に時間を要しました。初期段階ではB(dan)に対する直接的な導入を期待し、モデル基質を用いて各種パラメーターを検討しましたが、なかなか再現性が取れませんでした。卒論発表まで残り1か月というところでデータが揃わず焦る日々でしたが、文献調査や先生、周りの方々のアドバイスもあり、一度、酸により脱保護するというアプローチに方向転換しました。工程数が1段階増えたというところで少し悔しい気持ちもありましたが、B(dan)置換のトリエンでは酸処理により骨格自体が壊れてしまうという事例があります。本研究に関しては、非共役ジエン骨格を維持したまま様々な構造を容易に導入することができ、生理活性物質合成にも応用できたので、今は嬉しい気持ちでいっぱいです。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

化学の力を通じて人々の豊かな暮らしに貢献し続けていきたいと考えています。自分の足りないところに謙虚に向き合い、好奇心をもって絶えずチャレンジする姿勢をこれからも大切にしていきたいです。そして、自らの専門性を磨きながら、他の分野の知見も積極的に学び、特定の分野に囚われない研究者を目指したいです。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

研究はトライ&エラーの連続ですが、努力の方向性を見失わない為には、周りに遠慮せずに頼るということが大切だと日々感じています。積極的に意見を交わすことで、新しい観点から考察を深め、一人では気づくことのできなかった新しい発見や突破口を見いだすことが多々あり、周りの支えのお陰で論文投稿にたどり着くことが出来ました。春から博士前期課程2年になりますが、経験知識共にまだまだ足りないところばかりなので、先生はもちろん同期や後輩たちからも多くのことを吸収するという姿勢で、日々の研究により一層励みたいと思います。

最後になりましたが、本研究を遂行するにあたりご指導していただきました平野先生、小峰先生、清田さん、先行研究として多くのデータを残して下さった島田先輩、そして、研究室生活を支えてくださった研究室の皆様、そしてこのような機会を与えてくださったChem-Stationスタッフの方々に深く感謝申し上げます。

研究者の略歴

名前:岡﨑 汐音(おかざき しおね)
所属:東京農工大学大学院工学府応用化学専攻分子触媒化学研究室
略歴:
2017年 東京都立八王子東高等学校 卒業
2021年 東京農工大学工学部応用分子化学科 卒業
2021年-現在 東京農工大学大学院工学府応用化学専攻 博士前期課程 在学

関連リンク

  1. https://doi.org/10.1246/bcsj.20210163
  2. https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2019/cc/c9cc05930j
  3. シンクロトロン放射光を用いたカップリング反応機構の解明(スポットライトリサーチ)

hoda

投稿者の記事一覧

大学院生です。ケモインフォマティクス→触媒

関連記事

  1. インフルエンザ対策最前線
  2. ピリジンの立体装飾でアルカロイドをつくる
  3. ペプチド縮合を加速する生体模倣型有機触媒
  4. ルテニウム触媒によるC-C結合活性化を介した水素移動付加環化型カ…
  5. 有機合成化学協会誌2019年4月号:農薬・導電性電荷移動錯体・高…
  6. 原子量に捧げる詩
  7. ニセ試薬のサプライチェーン
  8. 少量の塩基だけでアルコールとアルキンをつなぐ

注目情報

ピックアップ記事

  1. チャン・ラム・エヴァンス カップリング Chan-Lam-Evans Coupling
  2. 飯野 裕明 Hiroaki Iino
  3. ベン・シェンBen Shen
  4. バイオ医薬 基礎から開発まで
  5. 【 Web seminar by Microwave Chemical 】 マイクロ波化学(株)/ 7月26日(水)欧州向けウェビナー開催
  6. 分取薄層クロマトグラフィー PTLC (Preparative Thin-Layer Chromatography)
  7. 【追悼企画】化学と生物で活躍できる化学者ーCarlos Barbas教授
  8. ポリエチレンとポリプロピレン、7カ月ぶり値上げ浸透
  9. ジンクピリチオン (zinc pyrithione)
  10. 実験のお供に!【富士フイルム和光純薬】の遷移金属触媒カタログ

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2022年3月
月 火 水 木 金 土 日
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

光前駆体法の活用によって、ヘプタセンで初の一重項分裂を観測!

第725回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 理学研究科化学専攻 有機元素化学研究室(山田研…

【スタッフ・寄稿募集】Chem-Stationで、化学を「伝える側」になりませんか?

Chem-Station(ケムステ)は2000年に開設された国内最大の化学ポータルサイトです。大学・…

第17回大津会議―とある参加者の記録―

2026年9月28日~29日に開催された第17回大津会議についての、とある参加者の記録です。この記事…

第17回大津会議 -Otsu Conference- 2026 開催報告 ~新体制で紡ぐ「有機合成の夢」~

第17回大津会議が2026年9月28日(月)〜9月29日(火)びわ湖大津プリンスホテルにて開催されま…

有機合成化学協会誌2026年10月号:医薬品プロセス開発・σ芳香族性・含窒素複素環・メロテルペノイド二量体・高歪み化合物

有機合成化学協会が発行する「有機合成化学協会誌」2026年10月号がオンラインで公開されています。…

時代は水だ! セメントのように水と混ぜるだけで成形・硬化できる「水硬性」高分子

第724回のスポットライトリサーチは、東京科学大学物質理工学院(大塚研究室)博士前期課程2年の徳満玲…

複雑さを設計して、結晶の動きをプログラムする

第723回のスポットライトリサーチは、高知工科大学大学院工学研究科(林研究室) 博士後期課程3年の樋…

ハロゲンの力で強力な結合を切断!天然物クマリンから医薬品・機能性材料原料のクマラノン類へ

第 722 回のスポットライトリサーチは、立命館大学大学院薬学研究科薬学専攻 精密合…

観察を写真で残す!カメラ内蔵リアクタ EasyMax 102i を使ってみた

反応の温度も、攪拌(かくはん)も、滴下も、サンプリングもいまや自動で記録される時代になりました。とこ…

ケムステ人気新着記事 トップ 5【2026年9月版】

2026年9月にケムステでは21本の新しい記事を公開しました。この記事では、その新着記事の中から、ペ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP