[スポンサーリンク]

ケムステニュース

シロアリの女王フェロモンの特定に成功

(注:画像のbutyrateのスペルが誤っております。)

 

 

シロアリの女王が「繁殖者」の地位を示すために分泌するフェロモンの正体を、松浦健二・岡山大准教授(社会生物学)らが突き止めた。果物などに含まれる芳香成分で、他のアリが女王になるのをこの香りで制御しているらしい。同じ物質を人工的に合成することで、効果的なシロアリ駆除に応用できるという。6日付の米科学アカデミー紀要(電子版)に発表した。 (引用:毎日新聞)

家に住み着き柱などを食い荒らす害虫、シロアリ。

シロアリの世界には「女王アリが卵を産んで子孫を増やし、働きアリがエサ運びや子育てに徹する」という役割分担があります。女王アリが死んだり居なくなったりすると、働きアリの一部が再び女王アリに変化し、繁殖が続けられます。

しかし女王がいる間は、「働きアリが女王アリに変化する」現象は起こりません。この抑制にどうやら特定の化学物質が関与しているらしい、ということは以前から考えられてきたそうです。

このたび、その変化過程を抑制する「女王フェロモン」の正体が、岡山大学・松浦准教授のグループによって突き止められました。


女王フェロモンの正体は「n-ブチルn-ブチレート」+「2-メチル-1-ブタノール」という極めてシンプルな化合物の混合物です。

これらは女王アリが保持している物質で、卵からも検出されます。一方で働きアリやニンフ(幼虫)からは検出されません。働きアリは、女王と卵が近くにいる限り、発せられるフェロモン混合物に、常にさらされてます。これら二つの化合物が同時に近づけられると、働きアリが女王アリに変化する確率が有意に減るそうです。

「産卵・繁殖が問題なく行われている限り、働きアリが女王アリに変化することはない」という事実は、これらの結果から大変うまく説明されます。

フェロモンは特定の虫にしか効果を発揮しないので、選択的な害虫駆除に使えます。
例えばゴキブリを呼び寄せるフェロモンをゴキブリホイホイの中に塗布しておけば、駆除効率の向上が期待できる、といった塩梅です。

今回の成果も、もちろん「害虫としてのシロアリ駆除」への応用が考えられています。
すなわち、シロアリ駆除の際に抑制フェロモンをうまく散布してやることで、女王アリの発生を防げる=集団の再繁殖を防げる、という理屈です。

このようにフェロモンの単離同定は、天然物化学の重要研究分野の一つです。
しかし言うは易く行なうは難し。フェロモンの単離同定は、一般に大変な困難を極めます。

フェロモンはそもそもごく微量で作用する物質です。そのため、構造決定に十分な量を得る事自体がまず難しい。
加えて空間を隔てて情報伝達を行うための物質ですから、たいていは高揮発性(沸点が低く飛んで行きやすい)化合物になっており、保存も単離精製もかなり難しくなります。
今回の仕事にしても、100匹の女王アリを集めて極微量を単離し、構造決定まで行ったという話だそうで・・・その緻密さには全く頭が下がりますね。

 

関連論文

“Identification of a pheromone regulating caste differentiation in termites”
Matsuura, K.; Himuroa, C.; Yokoi, T.; Yamamoto, T.;  Vargo, E. L.;  Keller, L. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2010, 107, 12963. DOI: 10.1073/pnas.1004675107

The hallmark of social insects is their caste system: reproduction is primarily monopolized by queens, whereas workers specialize in the other tasks required for colony growth and survival. Pheromones produced by reining queens have long been believed to be the prime factor inhibiting the differentiation of new reproductive individuals. However, there has been very little progress in the chemical identification of such inhibitory pheromones. Here we report the identification of a volatile inhibitory pheromone produced by female neotenics (secondary queens) that acts directly on target individuals to suppress the differentiation of new female neotenics and identify n-butyl-n-butyrate and 2-methyl-1-butanol as the active components of the inhibitory pheromone. An artificial pheromone blend consisting of these two compounds had a strong inhibitory effect similar to live neotenics. Surprisingly, the same two volatiles are also emitted by eggs, playing a role both as an attractant to workers and an inhibitor of reproductive differentiation. This dual production of an inhibitory pheromone by female reproductives and eggs probably reflects the recruitment of an attractant pheromone as an inhibitory pheromone and may provide a mechanism ensuring honest signaling of reproductive status with a tight coupling between fertility and inhibitory power. Identification of a volatile pheromone regulating caste differentiation in a termite provides insights into the functioning of social insect colonies and opens important avenues for elucidating the developmental pathways leading to reproductive and nonreproductive castes.

 

関連リンク

The following two tabs change content below.
cosine

cosine

博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 植物改良の薬開発 金大・染井教授 根を伸ばす薬剤や、落果防止のも…
  2. 大型期待の認知症薬「承認申請数年遅れる」 第一製薬
  3. 日本最大の化学物質データーベース無料公開へ
  4. 植物性油の再加熱によって毒物が発生
  5. 岡大教授が米国化学会賞受賞
  6. 東大薬小林教授がアメリカ化学会賞を受賞
  7. つり革に つかまりアセる ワキ汗の夏
  8. 経営統合のJXTGホールディングスが始動

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. トビアス・リッター Tobias Ritter
  2. ダウ・ケミカル、液晶パネル用化学品をアジア生産へ
  3. Guide to Fluorine NMR for Organic Chemists
  4. 富士フイルムのインフルエンザ治療薬、エボラ治療に
  5. 研究活動の御用達!PDF加工のためのクラウドサービス
  6. 武田、ビタミン原料事業から完全撤退
  7. ルイス酸添加で可視光レドックス触媒の機構をスイッチする
  8. オレフィンメタセシス Olefin Metathesis
  9. Classics in Total Synthesis
  10. 酸素と水分をW保証!最高クラスの溶媒:脱酸素脱水溶媒

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

シクロペンタジエニル錯体の合成に一筋の光か?

β-炭素脱離を用いるシクロペンタジエニル(Cp)錯体の新たな調製法が報告された。本法により反応系中で…

ルミノール誘導体を用いるチロシン選択的タンパク質修飾法

2015年、東京工業大学・中村浩之らは、ルミノール誘導体と鉄-ポルフィリン複合体(ヘミン)を用い、チ…

酵素触媒によるアルケンのアンチマルコフニコフ酸化

酵素は、基質と複数点で相互作用することにより、化学反応を厳密にコントロールしています。通常のフラ…

イオンの出入りを制御するキャップ付き分子容器の開発

第124回のスポットライトリサーチは、金沢大学 理工研究域物質化学系錯体化学研究分野(錯体化学・超分…

リチウムイオン電池の課題のはなし-1

Tshozoです。以前リチウムイオン電池に関するトピックを2つほど紹介した(記事:リチウムイ…

アルコールをアルキル化剤に!ヘテロ芳香環のC-Hアルキル化

2015年、プリンストン大学・D. W. C. MacMillanらは、水素移動触媒(HAT)および…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP