[スポンサーリンク]

ケムステニュース

ヘリウム不足再び?

[スポンサーリンク]

 

皆さんも覚えておられるかもしれませんが、2012年末、世界的なヘリウム不足が話題となりました。(過去記事: ヘリウム不足いつまで続く?) 今回も中東の不安定な政情から、またそんなことが起こりそうな匂いがしてきました。。。

Qatar blockade hits helium supply
Researchers braced for shortages as Gulf state forced to close its refineries.

Declan Butler

Scientists fear they may be forced to halt experiments or shut down laboratory instruments because the ongoing blockade of Qatar is threatening their helium supplies. The Gulf state supplies hospitals and laboratories around the world, but had to close its two helium plants after Saudi Arabia and several neighbouring countries blocked most of its exports and imports in June, in a political dispute over Qatar’s alleged support for terrorism.

Nature News and Viewsより

皆さんもご存知の通り、現在カタールはテロリストを支援しているとして、サウジアラビアをはじめとするアラブ諸国から国交の断絶による経済制裁を受けています。アラブ諸国はカタールに国交正常化の条件として13の要求を突きつけていますが、未だカタールはその条件を受け入れることには同意していません。さらに詳しい情報に関してはこちらを参照ください。

世界最大の液化天然ガス(LNG)の輸出国であるカタールは、日本にもその一部を輸出しており、日本のLNGの全輸入量の約15%を占めています。これまで中東の政情が不安定化した時にも、原油タンカーの大動脈であるホルムズ海峡は閉鎖されなかったため、今後もカタールからの液化天然ガスを含む石油関連の輸出が滞るという可能性は低いとみられています。また、LNGの供給源の分散化により、現在の主要な供給先であるインドネシアやオーストラリアからの輸入を継続できるので、今日、明日どうなるといった問題ではないので、どうぞご安心ください。

カタール (出典 : BBCより改変)

ずいぶん政治的な話になってしまいましたが、ここからが本題、化学のお話です。

実はカタール、ヘリウムの供給源としても最近頭角を表しており、現在世界のヘリウムの25%の需要を賄う、世界最大の輸出国でもあります。輸出先は近隣諸国や、中国、インド、台湾、シンガポールなどを中心とするアジア諸国。日本も2013年までは9割超のヘリウム需要量を米国産で賄ってきましたが、2012年末のヘリウム逼迫を受け、2014年以降カタール産ヘリウムの輸入量が大幅に増えています。

ヘリウムの供給源 (出典: Nature News and Views)

我々、化学者にとってはヘリウムといえばNMR。NMRは無くてな仕事にならない分析機器の一つ。ヘリウムがなくなってしまっては仕事ができません。その他にも、病院におけるMRI、光ファイバーの製造、建設中のリニア中央新幹線、半導体の製造などにヘリウムは利用されており、我々の生活や産業には無くてなならない資源であるといえます。

ヘリウム補充が不要なNMR (出典: JEOL)

2012年の危機の後、日本がヘリウムの供給源の分散化を図ったように、アメリカではアメリカ物理学会APSや化学会ACSが主導し安定供給プログラムのような協力体制の確立する試みが現在行われています。今後も、ヘリウム供給先の分散化の継続、コンプレッサーを使った循環再利用を含め(ヘリウム循環型NMR)、どのように資源を確保し、利用してくべきなのか考えていくべきではないかと思います。

正直、私はカタールの封鎖について対岸の火事のようにしか見ていませんでした。友達のお父さんがカタール航空で日本からこちらまで来るという話で、ちょっと大丈夫かな?と心配になったくらいでした。今回のニュースで意外なところで世界はつながっているものだと思った今日この頃です。中東の平安とヘリウムの安定供給を願って今回は締めたいと思います。

追記

日本のヘリウムの供給を50%を担う岩谷産業殿によると、岩谷産業の関わるヘリウムに関しては全量アメリカからの輸入である模様(中東各国とカタール断交1カ月 岩谷産業、ヘリウム供給に不安)。

関連リンク

Gakushi

投稿者の記事一覧

東京の大学で修士を修了後、インターンを挟み、スイスで博士課程の学生として働いていました。現在オーストリアでポスドクをしています。博士号は取れたものの、ハンドルネームは変えられないようなので、今後もGakushiで通します。

関連記事

  1. 三和化学と住友製薬、糖尿病食後過血糖改善剤「ミグリトール」の共同…
  2. 薬の副作用2477症例、HP公開始まる
  3. 化学企業のグローバル・トップ50が発表【2022年版】
  4. カネボウ化粧品、バラの香りの秘密解明 高級香水が身近に?
  5. 「イスラム国(ISIS)」と同名の製薬会社→社名変更へ
  6. 創造化学研究所、環境負荷の少ない実証ベンチプラント稼動へ
  7. 韮崎大村美術館が27日オープン 女性作家中心に90点展示
  8. 第一三共/イナビルをインフルエンザ予防申請

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. SPhos
  2. ヒュスゲン環化付加 Huisgen Cycloaddition
  3. 【本日14時締切】マテリアルズ・インフォマティクスで活用される計算化学-その手法と概要について広く解説-
  4. 生きたカタツムリで発電
  5. 大学の学科がクラウドファンディング!?『化学の力を伝えたい』
  6. 活性酸素・フリーラジカルの科学: 計測技術の新展開と広がる応用
  7. ジピバロイルメタン:Dipivaloylmethane
  8. 『ほるもん-植物ホルモン擬人化まとめ-』管理人にインタビュー!
  9. 根岸クロスカップリング Negishi Cross Coupling
  10. 決算短信~日本触媒と三洋化成の合併に関連して~

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年7月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

最新記事

書類選考は3分で決まる!面接に進める人、進めない人

人事担当者は面接に進む人、進まない人をどう判断しているのか?転職活動中の方から、…

期待度⭘!サンドイッチ化合物の新顔「シクロセン」

π共役系配位子と金属が交互に配位しながら環を形成したサンドイッチ化合物の合成が達成された。嵩高い置換…

塩基が肝!シクロヘキセンのcis-1,3-カルボホウ素化反応

ニッケル触媒を用いたシクロヘキセンの位置および立体選択的なカルボホウ素化反応が開発された。用いる塩基…

中国へ行ってきました 西安・上海・北京編①

2015年(もう8年前ですね)、中国に講演旅行に行った際に記事を書きました(実は途中で断念し最後まで…

アゾ重合開始剤の特徴と選び方

ラジカル重合はビニルモノマーなどの重合に用いられる方法で、開始反応、成長反応、停止反応を素反応とする…

先端事例から深掘りする、マテリアルズ・インフォマティクスと計算科学の融合

開催日:2023/12/20 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

最新の電子顕微鏡法によりポリエチレン分子鎖の向きを可視化することに成功

第583回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院 工学研究科 応用化学専攻 陣内研究室の狩野見 …

\脱炭素・サーキュラーエコノミーの実現/  マイクロ波を用いたケミカルリサイクル・金属製錬プロセスのご紹介

※本セミナーは、技術者および事業担当者向けです。脱炭素化と省エネに貢献するモノづくり技術の一つと…

【書籍】女性が科学の扉を開くとき:偏見と差別に対峙した六〇年 NSF(米国国立科学財団)長官を務めた科学者が語る

概要米国の女性科学者たちは科学界のジェンダーギャップにどのように向き合い,変えてきたのか ……

【太陽ホールディングス】新卒採用情報(2025卒)

■■求める人物像■■「大きな志と好奇心を持ちまだ見ぬ価値造像のために前進できる人…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP