[スポンサーリンク]

一般的な話題

宇宙で結晶化!? 創薬研究を支援する結晶生成サービス「Kirara」

[スポンサーリンク]

 

分子の3次元構造を確認できる(単結晶)X線結晶構造解析は、現代にとっても強力な構造決定法の1つです。最近では、タンパク質ならばクライオEM、低分子ならばmicroEDなど電顕を使ったものも知られていますが、まだまだ主役を奪うまでには至っていません。

さて、X線結晶構造解析を行うためには、良質なタンパク質や化合物の結晶が必要となります。装置の高性能化により、本当に小さなサイズの結晶でも測定はできるようになりましたが、良質な結晶が必要なことは変わりません。結晶を得るためには結晶化(もしくは再結晶)

その結晶化をなんと宇宙でやろうぜ!というのが今回紹介する、

結晶生成サービス「Kirara」

です。

なぜ、宇宙で結晶化?

いきなりぶっとんだ話のように思えるのですが、宇宙で結晶化すると実はいろいろな利点があるのです。宇宙は「微小重力」という特殊な環境下にあります。つまりほとんど重力がないということですね。この微小重力は、結晶化に対して、大きくなる、積み重なる、混ざる、均一化などの好条件を与えてくれます。

つまりは、軌道上結晶化で期待されることとしては、

  1. 結晶クラスター化の抑制
  2. 分解能の向上
  3. 異なる空間群の結晶生成
  4. 電子密度マップの改良

といった、結晶化に適した状況になる可能性があるというわけです。

でも宇宙には流石にもっていけない

 「ではみな宇宙で結晶化すればいいのでは?」

はい、そのとおりなのですが、そのためにロケットを飛ばすのは流石にナンセンス。国家予算規模の研究費が必要です、

一方で、ロケットを飛ばすついでにシレッとサンプルを乗せればもう少し安価で済みますね。いやいやどうやって?と思う方、そんな一連の手続きを含めた結晶生成サービスが今回紹介する「Kirara」というわけです。

サービスのながれ

サービスの流れは以下の通り。結晶化条件検討などは化学者ならば自分でできますね。その間打ち上げとサンプル搭載に関する手続きはすべておこなってくれます。サンプルチューブにいれて打ち上げ。結晶化は結晶化は主にカウンターディフュージョン法を使用して、キャピラリー中にいれた試料(タンパク質に限らず)と結晶化試薬に拡散させてゆっくり結晶化します。軌道上の結晶化はだいたい1〜1.5ヶ月。帰還後、ユーザーに返却されるという流れです。

実際にはこんな結晶化装置にいれて、宇宙に飛ぶらしいですよ!

どこがこのサービスを提供してくれるの?

有人宇宙システム株式会社(略称:JAMSS)という民間企業がこのサービスを提供しています。一見して怪しい名前ですが(筆者は知りませんでした)、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟の運用も行っているかなりしっかりとした企業です。

今まで例あるの?本当に飛ぶの?

宇宙で結晶化させた!って、うまくいけばとても話題になりそうな話ですが、そもそも例はあるのか?本当に飛ぶのか?といった疑問があると思います。私もそう思いました。お話を聞いたところいくつか例をおしえていただきました。少しだけ紹介します。

  1. 中性子解析用の結晶

宇宙で結晶化させたところ、最高分解能がかなり向上したようです。

2. セルロース酵素

東京大学大学院農学生命科学研究科の先生の依頼で、宇宙でセルロース酵素合成を試みたようです。沈殿が殆ど見られる、均一に合成されたセルロースを得ることに成功したとのこと。

3. COVID-19の創薬研究に寄与

ハンガリーの会社(InnoStudio Inc.)が新型コロナウイルスの創薬研究コンソーシアムを設立、新たな医薬品の開発・研究に取り組むようです。その一環として2021年の打ち上げでは、COVID-19向け治療薬として知られるレムデシビルの実験試料が搭載されたとか。欧州宇宙機関ESAから紹介されたそうです。

というわけですでに実験的な意味も含めて飛ばしているんですね。もう3回打ち上げているそうです。で、

 次回は2023年1月に打ち上げを予定!

をされているそうで、広範囲な研究分野からサンプルを収集したいということで、お話を伺いました。とてもエキサイティングだったので、紹介させて頂いたという経緯になります。

ケムステスタッフのサンプルも?

コレで面白いタンパク質を結晶化できたら、創薬支援ですよね。ただ、創薬に関係なくとも、つまりタンパク質でなくても普通の良質な結晶を得ることが困難な超分子や低分子化合物でも良いと思います。

実はケムステスタッフでも、この話を聞いて結晶化したいサンプルがあるという声が。いまお話を聞いていて、もしかしたら次回打上げ時にケムステスタッフのサンプルが宇宙に飛ぶかもしれません。もし飛ばすことができたらその成果とともにまたお知らせしたいと思います。

というわけで、今回は、突拍子もないですが、宇宙で結晶生成させるサービス「Kirara」を紹介しました。概要しか記載していないので、いろいろと質問ある方はお気軽にお問合せ先まで問い合わせください。

Kiraraのサービスご利用に関するお問合せ・お申込み先

有人宇宙システム株式会社営業部営業第一課 (担当:野上・本多)

住所:〒100-0004  東京都千代田区大手町1-6-1大手町ビル8階

URL: https://www.jamss.co.jp/kirara/

E-mail: jamss-kirara@jamss.co.jp

TEL: 03-3211-2060 (代)FAX: 03-3211-2004

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 「次世代医療を目指した細胞間コミュニケーションのエンジニアリング…
  2. アニリン類のC–N結合に不斉炭素を挿入する
  3. 化学者のためのエレクトロニクス講座~フォトレジスト編
  4. 祝ふぐ!新たなtetrodotoxinの全合成
  5. 人前ではとても呼べない名前の化合物
  6. 炭素をBNに置き換えると…
  7. 有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内…
  8. 有機フォトレドックス触媒による酸化還元電位を巧みに制御した[2+…

注目情報

ピックアップ記事

  1. バーゼル Basel:製薬・農薬・化学が集まる街
  2. 遷移金属の不斉触媒作用を強化するキラルカウンターイオン法
  3. 化学産業における規格の意義
  4. 光学活性有機ホウ素化合物のカップリング反応
  5. 並行人工膜透過性試験 parallel artificial membrane permeability assay
  6. 金属ヒドリド水素原子移動(MHAT)を用いた四級炭素構築法
  7. 化学オリンピック:日本は金2銀2
  8. ケンダール・ハウク Kendall N. Houk
  9. 資生堂企業資料館
  10. 高い発光性を示すヘリセンの迅速的合成

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2022年9月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  

注目情報

最新記事

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

モータータンパク質に匹敵する性能の人工分子モーターをつくる

第640回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所・総合研究大学院大学(飯野グループ)原島崇徳さん…

マーフィー試薬 Marfey reagent

概要Marfey試薬(1-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル-5-L-アラニンアミド、略称:FD…

UC Berkeley と Baker Hughes が提携して脱炭素材料研究所を設立

ポイント 今回新たに設立される研究所 Baker Hughes Institute for…

メトキシ基で転位をコントロール!Niduterpenoid Bの全合成

ナザロフ環化に続く二度の環拡大というカスケード反応により、多環式複雑天然物niduterpenoid…

金属酸化物ナノ粒子触媒の「水の酸化反応に対する駆動力」の実験的観測

第639回のスポットライトリサーチは、東京科学大学理学院化学系(前田研究室)の岡崎 めぐみ 助教にお…

【無料ウェビナー】粒子分散の最前線~評価法から処理技術まで徹底解説~(三洋貿易株式会社)

1.ウェビナー概要2025年2月26日から28日までの3日間にわたり開催される三…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP