[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

光刺激で超分子ポリマーのらせんを反転させる

[スポンサーリンク]

 

第12回目となるスポットライトリサーチは、千葉大学大学院工学研究科(矢貝研究室) 博士後期課程2年・ 山内 光陽さんにお願いしました。

この研究の代表者である矢貝史樹 准教授は、「超分子集積構造を持つ色素材料」をアクティブに研究されている先生であり、以前ケムステインタビューにもお答えいただいてます。今回紹介する研究はその一環である、「超分子らせんポリマー」を扱う過程で見つかってきたものです。論文とともに先日プレスリリースが公開されていました。

“Photoreactive helical nanoaggregates exhibiting morphology transition on thermal reconstruction”
Yamauchi, M.; Ohba, T.; Karatsu, T.; Yagai, S. Nat. Commun. 2015, 6, 8936. DOI: 10.1038/ncomms9936

論文の内容は、わずかな光刺激をもとに巨大な人工らせん構造の巻き方がひっくり返せてしまうという、かつてない現象の発見ということです。この大変ユニークな研究を現場で担当された山内さんにインタビューを今回頂くことができました。それではご覧ください!

 

Q1. 今回のプレス対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

生体超分子においては、ほんのわずかな外部刺激によってその系全体に影響が及ぶことがありますが、これは生体分子の複雑な組織化の結果といえます。例えばDNA二重鎖に紫外線があたると、核酸塩基対間で光二量化(光損傷)が起こりますが、これによって分子認識が正常に行われなくなり、結果として細胞全体に悪影響を及ぼします。今回このDNA光損傷に似た現象を、スチルベン誘導体から構築される螺旋状超分子ポリマーの内部で引き起こし、加熱・冷却によって再構築することで、螺旋の巻方向が逆転した超分子ポリマーが形成されることを見出しました。この螺旋の反転は、無傷の分子とその光生成物がバランスよく共に混ざり合う(共集合する)ことで起こります(図1)。

図1:光損傷および熱再構築(加熱・冷却処理)による螺旋の巻方向の変化

図1:光損傷および熱再構築(加熱・冷却処理)による螺旋の巻方向の変化

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

「光反応と熱による再構築により螺旋の向きが逆転する」という現象論で終わらせず、異なる螺旋集合体が形成されるメカニズムに注目し、その超分子重合プロセスを徹底的に調べました。それにより研究のクオリティーがグッと上がったと思います。興味深いことに、二種類の超螺旋ナノファイバーは、それぞれ異なった核形成過程を経て協同的に形成されることが温度可変CDスペクトル測定やAFM観察により明らかになりました(図2)。また、実際に提案した重合プロセスは複雑であったため、少しでも理解してもらえるように可能な限り分かりやすい模式図を用いて説明するように努力しました。

 

図2:超螺旋ナノファイバーの異なる集合プロセス. a:分子1の集合プロセス, b:分子1と光生成物の共集合プロセス.

図2:超螺旋ナノファイバーの異なる集合プロセス.
a:分子1の集合プロセス, b:分子1と光生成物の共集合プロセス.

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

光と熱を利用して螺旋性の反転したナノファイバーが得られることは分かりましたが、はじめはなぜこのように変化したのかは全く理解できませんでした。最終的にできてくる構造のみを考えても集合メカニズムを予想するのは困難でしたので、その過程を追うために温度可変CDスペクトルやサンプリング温度を変えたAFM測定など、初めての試みを行いました。以前の研究結果[1]を踏まえた上で、得られた大量のデータを指導教員の矢貝先生とひとつひとつ議論していくうちに、すべてのデータが面白いように結びついていき、結果として図2のような集合プロセスを提案できるまでに至りました。論文執筆をベースにメカニズムを考える日々はとても刺激的であったので、最後まで成し遂げられたと思います。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

毎日実験結果に関してじっくり考察が出来るような環境で研究したいと願っています。まずは現在の研究室で学べる知識や技術を残り1年で可能な限り増やせるように努力していきたいです。そのあとは、心機一転し新たな研究フィールドに飛び込んでいきたいと考えています。正直、次にどのような研究に出会えるかは全く予想がつかないですが、今の研究に対する興味や野心をもってすれば、素晴らしい研究にまた出会えると信じています。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

研究を進めていくと必ずと言っていいほど「到底越えられないと思える壁」にぶち当たります。この壁にどこまで粘り強く向き合っていけるかが、研究者になるための一つの資質であると私は考えています。私の場合、問題の解決策として役に立ったことは、「分子の気持ちになってメカニズムを考える」ことでした。分子の形や分子間相互作用を頭の中でイメージして考えることで、これまで見えなかったことが見えてきました。問題に対して真剣に取り組んだ経験は、本当の意味での化学の面白さや素晴らしさを教えてくれました。みなさんも一緒に分子の気持ちを考えましょう!

 

参考文献

  1. (a) S. Yagai, M. Yamauchi, A. Kobayashi, T. Karatsu, A. Kitamura, T. Ohba, and Y. Kikkawa, J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 18205–18208. DOI: 10.1021/ja308519b. (b) M. Yamauchi, Y. Chiba, T. Karatsu, A. Kitamura, and S. Yagai, Chem. Lett. 2013, 42, 799–800. DOI: 10.1246/cl.130303.

関連リンク

研究者の略歴

sr_M_Yamauchi_3山内 光陽

所属:千葉大学大学院工学研究科 博士後期課程2年(日本学術振興会特別研究員DC1)

研究テーマ:光応答性を示す分子集合体の構築

略歴:1990年栃木県生まれ。2012年3月千葉大学工学部共生応用化学科卒業後、2012年4月同大学工学研究科博士前期課程に進学、2014年4月博士後期課程に進学、現在博士後期課程2年。2013年第3回CSJ化学フェスタ優秀ポスター発表賞、2014年NIMS Conference Best Poster Award、IUMRS-ICA Award for Encouragement of Research、第4回CSJ化学フェスタ優秀ポスター発表賞、2015年日本化学会春季年会学生講演賞、第5回CSJ化学フェスタ優秀ポスター発表賞。

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. ペプチド縮合を加速する生体模倣型有機触媒
  2. 就職活動2014スタートー就活を楽しむ方法
  3. Al=Al二重結合化合物
  4. ICMSE International Conference o…
  5. イスラエルの化学ってどうよ?
  6. 乙卯研究所 研究員募集 2023年度【第二弾】
  7. 分析化学科
  8. 【悲報】HGS 分子構造模型 入手不能に

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. コロナウイルス関連記事 まとめ
  2. 国公立大入試、2次試験の前期日程が実施 ~東京大学の化学の試験をレビュー~
  3. 続セルロースナノファイバーの真価【対面講座】
  4. 量子コンピューターによるヒュッケル分子軌道計算
  5. マテリアルズ・インフォマティクスの推進を加速させるためには?
  6. エーテル系保護基 Ether Protective Group
  7. 実験を加速する最新機器たち|第9回「有機合成実験テクニック」(リケラボコラボレーション)
  8. CTCLS、製薬業界向けに医薬品の探索研究に特化した電子実験ノートブックを販売
  9. ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド : Bis(tricyclohexylphosphine)nickel(II) Dichloride
  10. 電子1個の精度で触媒ナノ粒子の電荷量を計測

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年1月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

フローマイクロリアクターを活用した多置換アルケンの効率的な合成

第610回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院理学研究科(依光研究室)に在籍されていた江 迤源…

マリンス有機化学(上)-学び手の視点から-

概要親しみやすい会話形式を用いた現代的な教育スタイルで有機化学の重要概念を学べる標準教科書.…

【大正製薬】キャリア採用情報(正社員)

<求める人物像>・自ら考えて行動できる・高い専門性を身につけている・…

国内初のナノボディ®製剤オゾラリズマブ

ナノゾラ®皮下注30mgシリンジ(一般名:オゾラリズマブ(遺伝子組換え))は、A…

大正製薬ってどんな会社?

大正製薬は病気の予防から治療まで、皆さまの健康に寄り添う事業を展開しています。こ…

一致団結ケトンでアレン合成!1,3-エンインのヒドロアルキル化

ケトンと1,3-エンインのヒドロアルキル化反応が開発された。独自の配位子とパラジウム/ホウ素/アミン…

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

光と水で還元的環化反応をリノベーション

第609回のスポットライトリサーチは、北海道大学 大学院薬学研究院(精密合成化学研究室)の中村顕斗 …

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP