[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

単分子レベルでの金属―分子接合界面構造の解明

[スポンサーリンク]

第40回のスポットライトリサーチは、東京工業大学大学院理工学研究科・博士課程2年の小本 祐貴さんにお願いしました。

小本さんが所属する木口・西野研究室では、金属の間に挟み込まれた単一分子の性質を調べるという基礎研究が行われています。それ自体も挑戦的な課題ですが、将来的にコンピュータ用高密度素子やエネルギー変換装置などの応用を支える知見になると期待されています。

小本さんの実施された研究はまさにその一環であり、このたびプレスリリースと論文で公開されました。

“Resolving metal-molecule interfaces at single-molecule junctions”
Komoto, Y.; Fujii, S.; Nakamura, H.; Tada, T.;  Nishino, T.; Kiguchi, M. Sci. Rep. 2016, 6, 26606. doi:10.1038/srep26606

本研究を指導された木口学教授は小本さんをこう評しておられます。

小本君は、私がこれまで一緒に研究してきた学生の中で最も優秀な学生です。非常にスマートな学生で、何が一番効率的かを考え、やみくもに行うことはせず、環境を整え無駄を極限まで排斥した状態になって初めて研究を行います。ほとんど机の前にいて心配になることもありますが、聞くと実験中ですといい、確かに全自動の計測が行われていることがよくあります。ヨーロッパの研究スタイルかと思います。今回の研究は、テーマに関しては議論して決めましたが、その後の展開、解析などは全て自分で考えて展開してくれました。自分の頭だけで勝負して、スタッフが考えもしなかった方向に展開し、すばらしい成果を得てくれました。

小本君は非常に社交的でリーダーシップに優れる学生です。研究室で、下級生に対し積極的に声をかけ明るい雰囲気にしてくれる一方、しめるべき時にはスタッフが言いづらい事も学生に言ってくれ、非常に研究室の雰囲気をよくしてくれています。今後、色々な場所で研究テーマも変えていくと思いますが、どこに行っても活躍し、日本を代表する科学者になることは間違いないと思っています。私自身、非常に頼りにしており、彼がいなくなる1,2年後どうしたらいいだろうと、頭を悩ませているところです。

それでは、いつものように現場のお話を伺っていきましょう。

Q1. 今回のプレス対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

本研究では、単分子接合の電流-電圧特性(I-V)計測を行うことにより、単分子接合の接合界面構造を決定しました。単分子接合とは単一分子が2つの金属電極間に架橋した系であり、単一分子をデバイスへと利用するために研究が行われています(図1)。単分子接合の物性は、分子-電極の界面構造に大きく依存します。しかし、単分子接合の界面構造は、注視されずに未解明であることが多いのが現状です。本研究では単分子接合のI-V計測を行うことにより、単分子接合の電子状態を決定し、理論計算と比較することにより、接合界面の構造を決定しました(図2)。

図1 単分子接合の概念図

図1 単分子接合の概念図

図2 Au-BDT単分子接合のI-Vヒストグラムと接合構造

図2 Au-BDT単分子接合のI-Vヒストグラムと接合構造

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

単分子接合は安定性が低いために寿命が短いという性質があります。どのようにして単分子接合形成時にI-V計測を行うかという点が本研究で工夫したところです。研究開始当初は電流をモニターすることにより、単分子接合の形成を確認し、バイアス電圧の掃引を開始しようと考えていました。しかし、用いていた実験装置の性能を考えたとき、この方法では接合の不安定さから単分子接合形成時に測定が行えないということがわかりました。どのようにして、計測を行えばいいのだろうかとしばらく考えていたのですが、バイアス電圧の掃引はランダムに行って、接合ができたときのみデータとして採用すればいいと発想が浮かび、計測システムを構築することができました。

 Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

Q2と重複しますが、難しかった点はI-V測定の計測システムの構築でした。Q2で答えた通りの指針をたてることに加え、適切な条件で実験を行うまでにテクニカルな問題が多くありました。初めのうちは、分子接合のI-V特性を計測する頻度が、1日の測定でたった5本成功する程度でした。テクニカルな問題を解決していき、適切な測定条件を探ることにより、効率的なI-V計測システムを構築できました。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

「面白い」と言われる研究を自らの手で行っていきたいです。学会発表などで、研究を面白いと評価されることはこの上ない喜びです。今後、研究する場所がどこであれ、面白いと評価される研究を行い、発信していくことができればよいと思っています。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

いつもは読者であるChem-Stationに私の研究が紹介されるとは思っていませんでした。非常に光栄に思います。本稿をお読みいただきありがとうございます。私はまだまだ未熟者ですので、今後よい研究者となれるよう精進したいと思います。

最後に、本研究は共著の先生方の協力なくして存在しえませんでした。この場を借りて感謝申し上げます。

関連リンク

研究者の略歴

sr_Y_Komoto_1小本 祐貴 (こもと ゆうき)

東京工業大学大学院・理工学研究科・化学専攻・木口、西野研究室・博士課程2年

2013年3月、東京工業大学理学部化学科卒業

2015年3月、東京工業大学理工学研究科化学専攻修士課程修了

2015年4月より東京工業大学大学院・理工学研究科・化学専攻・博士課程

日本学術振興会特別研究員DC1

受賞歴 2015年10月分子アーキテクトニクス研究会若手奨励賞受賞

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. マテリアルズ・インフォマティクスの手法:条件最適化に用いられるベ…
  2. 【マイクロ波化学(株) 石油化学/プラスチック業界向けウェビナー…
  3. 砂糖水からモルヒネ?
  4. ケムステイブニングミキサー2017ー報告
  5. ケムステのライターになって良かったこと
  6. Excelでできる材料開発のためのデータ解析[超入門]-統計の基…
  7. スクショの友 Snagit
  8. これからの研究開発状況下を生き抜くための3つの資質

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 有機合成化学協会誌2018年1月号:光学活性イミダゾリジン含有ピンサー金属錯体・直截カルコゲン化・インジウム触媒・曲面π構造・タンパク質チオエステル合成
  2. 1,2-/1,3-ジオールの保護 Protection of 1,2-/1,3-diol
  3. “関節技”でグリコシル化を極める!
  4. マテリアルズ・インフォマティクスに欠かせないデータ整理の進め方とは?
  5. 可視光光触媒でツルツルのベンゼン環をアミノ化する
  6. 四酸化オスミウム Osmium Tetroxide (OsO4)
  7. 化学工場で膀胱がん、20人に…労災認定議論へ
  8. ブヘラ・ベルクス反応 Bucherer-Bergs reaction
  9. 第九回ケムステVシンポジウム「サイコミ夏祭り」を開催します!
  10. メカノケミストリーを用いた固体クロスカップリング反応

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年6月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

マリンス有機化学(上)-学び手の視点から-

概要親しみやすい会話形式を用いた現代的な教育スタイルで有機化学の重要概念を学べる標準教科書.…

【大正製薬】キャリア採用情報(正社員)

<求める人物像>・自ら考えて行動できる・高い専門性を身につけている・…

国内初のナノボディ®製剤オゾラリズマブ

ナノゾラ®皮下注30mgシリンジ(一般名:オゾラリズマブ(遺伝子組換え))は、A…

大正製薬ってどんな会社?

大正製薬は病気の予防から治療まで、皆さまの健康に寄り添う事業を展開しています。こ…

一致団結ケトンでアレン合成!1,3-エンインのヒドロアルキル化

ケトンと1,3-エンインのヒドロアルキル化反応が開発された。独自の配位子とパラジウム/ホウ素/アミン…

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

光と水で還元的環化反応をリノベーション

第609回のスポットライトリサーチは、北海道大学 大学院薬学研究院(精密合成化学研究室)の中村顕斗 …

ブーゲ-ランベルト-ベールの法則(Bouguer-Lambert-Beer’s law)

概要分子が溶けた溶液に光を通したとき,そこから出てくる光の強さは,入る前の強さと比べて小さくなる…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP