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スポットライトリサーチ

クリック反応を用いて、機能性分子を持つイナミド類を自在合成!

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第491 回のスポットライトリサーチは、岐阜薬科大学 合成薬品製造学研究室 (伊藤研究室) に所属されている 川上 諒平 (かわかみ・りょうへい) さんにお願いしました。


伊藤研究室では、環境負荷低減型有機合成反応の開発を行っており、光や分子状酸素、典型元素を利用する新規反応、天然物および生物活性化合物の合成、創薬プロセスの自動化などを研究のターゲットにしています。今回、川上さんらの研究グループは、ジインをリガンドに持つジイニル超原子価ヨウ素化合物を合成し、これを用いる銅触媒的ジイニル化反応によるジイナミドの合成と、ジイナミドへの位置選択的クリック反応を経由する、新しいイナミド合成法の開発に成功しました。
本研究成果は「Chemical Communications」誌および岐阜薬科大学からのプレスリリースに公開されています。

Late-stage diversification strategy for synthesizing ynamides through copper-catalyzed diynylation and azide–alkyne cycloaddition

Chem. Commun, 202359, 450-453, DOI: https://doi.org/10.1039/D2CC05575A

Abstract

A late-stage diversification strategy for synthesizing ynamides has been developed. This strategy was enabled by the copper-catalyzed direct electrophilic diynylation of sulfonamides with a novel triisopropylsilyl diynyl benziodoxolone, deprotection, and the late-stage chemoselective copper-catalyzed azide–alkyne cycloaddition sequence, which yields various complex molecule-derived ynamides with pyrene, amino acid, nucleoside, and N-acetylglucosamine as substituents.

研究を現場で指導された、合成薬品製造学研究室 教授の 伊藤 彰近 先生と講師の 多田 教浩 先生より、川上さんについて以下のコメントを頂いています!

伊藤 彰近 先生

川上君は、いわゆる優等生タイプの学生で、朝から夕方までしっかり研究を行い、夜は勉強に時間を割いていたようです。研究室配属前はそれほど有機化学が得意ではなかったようですが、コツコツと勉強と研究を進めることで、学部学生でありがなら卒業発表までに研究をまとめ上げ、成果を出してくれました。もちろん薬剤師国家試験も問題なく突破してくれたようです (自己採点からの予想ですが・・・)。春から第一志望の製薬会社で仕事を始めますが、卒業研究での経験を糧に、実社会での課題を一つ一つ解決し、大きな成果を出してくれることを期待しています。

 

多田 教浩 先生

本研究テーマでは、新しい超原子価ヨウ素化合物 (diyne-BX) の合成法の確立、銅触媒的ジイニル化反応の開発、ジイナミドへの位置選択的クリック反応の開発など、いくつかの解決すべき課題がありました。超原子価ヨウ素化合物の合成法の確立では、不安定な超原子価ヨウ素化合物の収率の改善や精製方法を検討し、再現性が得られない理由がなかなか明らかにならない中で、低収率や低純度に苦しめられながら検討を重ねてくれました。銅触媒的ジイニル化反応では、いくら検討しても収率が全く上がらない中であきらめずに検討を続け、論文が完成したくらいの時期に良い反応条件を見出してくれ、基質検討をやり直してくれました。川上さんでなければこれらの課題を乗り越えることはできなかったと思います。

それでは、今回もインタビューをお楽しみください!

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

本研究では、ジイナミドの末端アルキン選択的なクリック反応を経る、合成後期官能基化戦略に基づく新たなイナミド合成法を開発しました。

イナミドは求核炭素と求電子炭素を合わせ持つことで複雑な構造を一挙に構築可能であることから、天然物や医薬品合成におけるビルディングブロックとして有用です。このため、これまでに様々なイナミドの合成法が開発されてきましたが、多くの方法では強塩基や高温などの厳しい反応条件が用いられており、適用できる基質は比較的安定なものに限られていました

今回、ジイナミドの末端アルキン選択的にクリック反応を行うことで、基質適用範囲の広い、新たなイナミド合成法を開発すべく検討を行いました。まず、末端ジイナミドの合成のために、求電子的ジイニル化剤であるジイニルベンズヨードキソロン (図1; 1: TIPS-diyne-BX) を開発し、銅触媒による求電子的ジイニル化反応の条件検討を行うことで、温和な条件で様々なTIPS-ジイナミド を合成できるようになりました。の脱保護反応により、末端ジイナミド を 2 工程で合成できます。

合成した末端ジイナミドを用いて銅触媒的アジドーアルキン環化付加反応 (CuAAC) の条件検討を行い、無水条件での CuAAC が本反応に適していることを見出しました。最適な条件で基質適用範囲の調査を行ったところ、蛍光物質であるピレン、アミノ酸、アミノ糖、ヌクレオシドなどを有するイナミド (5) を良好な収率で得ることに成功しました (図2)。合成した機能性分子を持つイナミド類を既存のイナミドの化学に適用することで、機能性分子を持つ分子群の合成が可能となり、医薬品や農薬などの機能性分子の開発に寄与できると考えています。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

思い入れがあるところは、従来法では合成困難な生体関連分子を置換基に持つイナミドを合成することができたという点です。私は薬学生ですので、研究テーマの終着点を、ただ新規合成法を開発するというだけでなく、薬学的に意義のあるものにしたいと考えていました。そこで、様々な反応に適用可能なイナミドに、生体関連分子を持たせることで、生体関連分子を有する医薬品の開発に寄与できるのではないかと考え、研究を進めました。結果として、数多くの医薬品の構造中に含まれる核酸・糖・アミノ酸などの生体関連分子だけでなく、蛍光物質であるピレンなどを持ったイナミドを合成できるようになったことで、私の当初の目的を一部達成できたと思います。現在、私の開発した反応剤や合成手法を応用した研究を後輩が行っており、生物活性を持つ化合物の開発につながれば、私の研究が持つ薬学的な意義もより大きなものになると考えています。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

ジイナミドの合成を行うために開発した超原子価ヨウ素化合物、TIPS-diyne-BX の合成に苦労しました。当初、類似のアルキニル超原子価ヨウ素化合物であるTIPS-EBX を合成する際に用いられている反応条件で合成可能であることは分かっていましたが、TIPS-diyne-BX は TIPS-EBX に比べて不安定であることから、収率や純度の再現性が取れず、一から条件検討をすることになりました。種々検討し、中間体の段階で精製操作を挟むことで、安定した収率と純度で目的物を得られるようになりました。途中、何度か心が折れそうになりましたが、反応剤を安定して合成することができるようになったことで、様々なジイナミドを合成できるようになり、基質適用範囲を広げることができました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

もともと化学はあまり得意ではありませんでしたが、研究室で化学についてしっかり取り組むことで物事を原理から考える力や、創造的な視点で物事をとらえる能力を身につけることができました。私はこの春から製薬企業の研究技術職に勤めますが、これらの能力と基本的な化学の知識や技術を掛け合わせることで、既存の実験の質や効率の向上を目的としたアイデア立案などが出来ると感じます。今後もこれまでの経験や知識を生かしつつ、有機化学以外の分野にもチャレンジをし、日々新たな知見や技術を習得することで、患者さんに安心な医薬品を届けることに貢献したいと考えています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします!

よく、「受験は団体戦」という言葉を耳にしますが、私は「研究も団体戦」であると感じました。今回の論文の作成にあたり、先生方をはじめ、研究室の多くのメンバーにも助けていただきました。研究の中で自分一人では解決できない問題に出会った時、周囲の方にいただいたアドバイスを実行すると必ず良い方向に物事が進んでいきました。先生方からは化学の魅力をご教授いただき、「自分の手でこの世にない化合物を創出できること」の面白さに気付くこともできました。もちろん誰かに相談する前に自分でじっくり考えることも重要ですが、周囲を頼ることはそれ以上に重要です。是非、研究室を通して一生の仲間を作るとともに、化学の面白さを感じてほしいです。

 最後になりましたが、本研究を遂行するにあたり熱心にご指導賜りました伊藤彰近教授、多田教浩講師、山口英士講師をはじめとし、常日頃より私を支えていただきました合成薬品製造学研究室の皆様に厚く御礼申し上げます。また、今回研究紹介の機会を提供してくださったケムステスタッフの方々に、この場を借りて心より感謝申し上げます。

【研究者の略歴】

名前: 川上 諒平 (かわかみ りょうへい)
所属: 岐阜薬科大学 薬学部薬学科 合成薬品製造学研究室 B6 (2022年度)
研究テーマ: 求電子的ジイニル化とクリック反応を利用したイナミド合成法の開発研究

 

川上さん、伊藤先生、多田先生、インタビューにご協力いただき誠にありがとうございました!
それでは、次回のスポットライトリサーチもお楽しみに!

関連記事: 伊藤研究室のスポットライトリサーチ

超原子価ヨウ素反応剤を用いたジアミド類の4-イミダゾリジノン誘導化

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創薬化学者と薬局薬剤師の二足の草鞋を履きこなす、四年制薬学科の生き残り。
薬を「創る」と「使う」の双方からサイエンスに向き合っています。
しかし趣味は魏志倭人伝の解釈と北方民族の古代史という、あからさまな文系人間。
どこへ向かうかはfurther research is needed.

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