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スポットライトリサーチ

コバルト触媒でアリル位C(sp3)–H結合を切断し二酸化炭素を組み込む

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第96回目のスポットライトリサーチは、道上健一さんにお願いしました。

道上さんは北海道大学大学院薬学研究院(佐藤美洋研究室)在籍時に、コバルトを用いる新規C-H活性化触媒系を見いだすことに成功しました。同グループが継続的に取り組むCO2固定化反応の一環です。同グループからのスポットライトリサーチでも以前紹介しましたが、今回の触媒系を見いだしたことにより、さらに高難度な基質へも適用可能になりました。

道上さんはこの成果を第6回ジュニア国際有機化学シンポジウム(JICCEOCA-6) にて口頭発表し、見事Best Oral Presentation Awardを受賞しています。また本成果は、アメリカ化学会誌上でも原著論文として先日公開されました。博士号を取得された現在は、京都大学大学院薬学研究科・竹本研究室で博士研究員として勤務されています。

“Cobalt-Catalyzed Allylic C(sp3)-H Carboxylation with CO2
Michigami, K.; Mita, T.; Sato, Y. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 6094–6097. DOI: 10.1021/jacs.7b02775

直接指導された美多剛助教からは、道上さんについて以下のようなコメントをいただいています。

道上健一君とは、彼が大学3年生の10月にうちの研究室に配属されてから一緒に研究をやっており、早いもので6年半が過ぎました。飲み込みの早い大変優秀な学生であったため、配属後直ぐに彼とC(sp3)–H結合活性化のレビュー (Baudoin, O. et al. Chem. Eur. J. 2010, 16, 2654.) を読み進め、C(sp3)–H結合の切断に用いられる遷移金属の特性を一緒に勉強しました。あの頃は全くの素人が、遷移金属を操る立派な研究者に成長したことは大変喜ばしいことです。ただ、研究が常に順調であったわけではなく、修士2年時からの2年間はプロミシングな結果が全く出ませんでした。タイムリミット(博士号取得)が刻一刻と近づくなか(おそらく当人が一番焦っていたとは思いますが)、目標レベルを下げることなく、C(sp3)–H結合の二酸化炭素によるカルボキシル化を見事完成させたことは脱帽せざるを得ません。このような実体験は今後の研究人生においても必ずやプラスに働くと思います。京大院薬竹本研での更なる活躍に期待しています。

それでは研究成果をご覧ください!

Q1. 今回の受賞対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

二酸化炭素を用いたアリル位C(sp3)–H結合の触媒的カルボキシル化反応の開発」です。

反応性の低いC–H結合を切断し触媒的に化学変換を行う「C–H官能基化」では、一般に反応性の高い化合物がカップリングパートナーに利用されます。一方、反応性の低い二酸化炭素(CO2)を求電子剤とし触媒的にC–C結合を形成させる「C–Hカルボキシル化」はC–H官能基化のなかで最も実現が難しい反応形式のひとつです。なかでも、遷移金属錯体による切断が比較的困難なC(sp3)–H結合の触媒的カルボキシル化に関しては、メタンのカルボキシル化の他に、村上正浩先生らが最近報告された、ラジカル反応によるC(sp3)–H結合切断を巧みに利用したカルボキシル化が知られているのみでした。[1] 本研究ではCo触媒、Xantphos、AlMe3を用いることで、アリル位C(sp3)–H結合の切断を契機とするカルボキシル化が温和な条件下(60 ºC、CO2 1気圧)円滑に進行することを見出しました。本反応の位置選択性は極めて高く、直鎖型のβ,γ-不飽和カルボン酸のみが得られるのが特徴です。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

本研究の基質適用範囲を検討する際に工夫を盛り込みました。例えば、フェノール性水酸基を持つ基質は、0.5等量のAlMe3を作用させて酸性プロトンを除いてからカルボキシル化に付すことで収率良く反応が進行しました。また、エステルやケトンのカルボニル炭素は一般にCO2よりも求電子性が高いため先に反応してしまうだろうと考えられましたが、試してみると意外にもCO2への付加が選択的に進行することが分かりました。さらに、配位性窒素原子を含む複素芳香環化合物やジメチルケタール部位を含む1,4-ジエン化合物も適用可能であることは特筆すべき点だと思います。

実は、本研究テーマは研究室配属とともに開始したものでした。しかし一寸先すら見えなかったため一旦視点を変え、ケイ素化合物を中間体とする「C(sp3)–H結合のワンポット触媒的シリル化-カルボキシル化」の研究にシフトしました。[2] そちらはスムーズに遂行できましたが、ひと段落して当初のテーマに改めて取り組み始てからは難航を極めました。研究を始めてから最初にpromising dataが得られた頃には、既に2年の時が経っていました。NMR測定で所望のカルボン酸が初めて観測されたとき、収率はわずか3%でしたが、震えが止まりませんでした。興奮冷めやらぬまま、その日はあまり眠れなかったことを記憶しています。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

研究開始当時は全く報告例がなかったため、反応・触媒サイクルのデザインが最も大変でした。遷移金属錯体によるC(sp3)–H結合の切断方法が限定的であること、CO2に対して十分な求核性を持つ中間体を発生させる必要があること、触媒サイクルが成立することなど、いくつもの大きな壁が立ちはだかりました。また、基質、遷移金属の種類、配位子など、組合せは星の数ほどあるため、限られた時間の中でどれを選択するかが重要です。まずは基質をいくつかに絞りあれこれ試しましたが、どの反応も「原料回収のみ」ばかり。想定触媒サイクルのどの段階が進行しないのかが分からず、デザイン毎にどのパラメータをどの程度検討すべきか悩みながら研究を進めていました。転機となったのは、ある時「報告例がないのだから、実現できれば何でも良い」と開き直り、少し反応性の高い基質に変更したことでした。これが功を奏し、短期間で一つの触媒系を手にすることができました。ただ、本反応は「Co触媒、Xantphos誘導体、Al-Me試薬」の組合せでなければ進行しません。この組合せを早期に発見できたことばかりは、運が味方してくれたのかな、と考えています。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

私はどちらかというと「やりたいことがあるから」研究室にこもってしまう、だからこそ自ずと本気になる、そんな性分なので、社会のニーズや未来を意識しつつも、基本は純粋な化学への興味に身を任せて研究を楽しみたいと考えています。そして、実感してこそ科学ですから、年を重ねても可能な限り興味や疑問を自分の手でフラスコにぶつけていきたいと考えています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

研究の可能性を広げるのは、先生でも他の学生でもなく自分自身です。例えば先生が提示した研究テーマに制限(この金属、この試薬、この現象、この天然物、など)があっても、それに縛られず殻を破って外へ踏み出してみると、きっと目くるめく世界が待っていると思います。ただ、研究室にずっといると根詰めてしまいがちなので、研究室の外、登下校中、散策中、食事中、自宅、いつでもどこでもいいので気持ちがほぐれている時にじっくり考えてみると、ふとした閃きがあるかもしれません。

最後になりましたが、振り返ると自分の心のままに実験・研究を行い過ぎたように思います。そんな私を温かく見守り、終始ご指導・ご鞭撻をいただいた佐藤美洋教授ならびに美多剛助教にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

参考文献

  1. (a) Masuda, Y.; Ishida, N.; Murakami, M. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 14063. DOI: 10.1021/jacs.5b10032 (b) Ishida, N.; Masuda, Y.; Uemoto, S.; Murakami, M. Chem. Eur. J. 2016, 22, 6524. DOI: 10.1002/chem.201600682
  2. (a) Mita, T.; Michigami, K.; Sato, Y. Org. Lett. 2012, 14, 3462. DOI: 10.1021/ol301431d (b) Mita, T.; Michigami, K.; Sato, Y. Chem. Asian J. 2013, 8. 2970. DOI: 10.1002/asia.201300930 (c) Mita, T.; Tanaka, H.; Michigami, K.; Sato, Y. Synlett 2014, 25, 1291. DOI: 10.1055/s-0033-1341230

研究者の略歴

道上 健一(みちがみ けんいち)

[所属] 京都大学大学院薬学研究科 薬品分子化学分野(竹本研究室)特定研究員

[経歴]
1988年 北海道伊達市生まれ
2012年3月 北海道大学薬学部薬科学科(佐藤研究室)を卒業
2014年3月 北海道大学大学院生命科学院修士課程(同研究室)修了
2017年3月 北海道大学大学院生命科学院博士後期課程(同研究室)修了
2017年4月より現職
2014年4月~2017年3月 日本学術振興会特別研究員(DC1)
2014年10月~2015年1月 マックス・プランク研究所(Prof. Alois Fürstner)へ短期留学

[受賞歴]
2012年3月 財団法人北海道大学クラーク記念財団 クラーク賞受賞(薬科学科主席卒業)
2016年10月 The 6th Junior International Conference on Cutting-Edge Organic Chemistry in Asia (JICCEOCA-6) Best Oral Presentation Award受賞

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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