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ナノチューブ団子のときほぐしかた [テキサスMRD社の成果]

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Tshozoです。

先日、SAudi Basic Industry Corporation(以下SABIC:サウジ基礎産業公社 HPリンク)がテキサスに本社を持つMolecular Rebar Design 社(以下MRD社・HPリンク)と、カーボンナノチューブの開発・販売を行うJVの創設に合意しました。その名もBlack Diamond Structures LLC。名前からして結構アレな感じ満載です。

SABIC社はサウジ石油産業の下流部門で、長年コモディティ類(エチレン・プロピレン・ブタジエンなどの基礎原料類)を中心に供給してきましたが2000年以降は情勢の変化によるものか、豊富な資金源にモノを言わせて機能性材料の会社を買収したりして品ぞろえを強化している途上です。

CNT-2_01
SABIC 社とMRD社ロゴ 各社HPより引用

Black Diamond Structures社のものはまだなさそうです

カーボンナノチューブ(以下CNT)はその構造が1991年に飯島澄男氏、遠藤守信両氏の貢献で特定されてからはや20年以上が経ちました。しかしその用途開発はん安全性の懸念もあってか、当初喧伝されていたほどにはペースが上がっていません。生産量はボチボチ上がっているのですけどね。そうした中、今回のSABICのMRD社とのJVはどういう意義を持つのか。以下、3つのパートに分けてご紹介しますのでお付き合いください。

カーボンナノチューブ(CNT)と構造、その合成方法

まず一般的な話から。CNTは下のような構造を持つ、グラフェン構造が丸まった正に「チューブ」の形をしています。長さは合成方法に依存しますが短いもので0.1nm以下、長いもので数mmという非常に広い幅を持ち、外径も数nmから最大150nm程度までとこちらも大きな幅を持っています。

CNT-2_03

毎度おなじみの多層CNTのCGイラスト(色が違うのは便宜上)とTEM写真
写真類はいずれもBayer Material Science殿によるプレゼン資料より引用(2010年・リンクはこちら

CNT-2_02

色々なカーボン構造の種類 以前にも使った画像ですが
今回は「1D」の案件です

CNTの研究開発初期は「放電法」という、炭素電極間でバチバチ放電させる荒っぽい手法が使われていましたが今は高純度・高効率な方法に切り替わっています。その方法には一般に流動床によるものと固定床によるものがあるのですが、大量生産(年産1000トンとかのレベル)の場合は1番目の「流動床合成法」という方法で作ります。どういうものかというと、

①超綺麗な活性化した遷移金属の微粒子を(場合に応じて適当な担持体にくっつけて)不活性ガスなどで巻き上げておく
②C1~C3くらいの炭化水素ガスをあたためる(500℃~1000℃が一般的)
③②を①に流し込んで微粒子をガス中で舞わせる
④出来たものを回収する

という流れです。製法のイメージは下図。触媒(場合によって担持体につけてある)と炭化水素ガスをヒータで温めつつ気流内で舞わせ、成長させるしくみで、成長メカニズムとしては金属粒子に炭化水素(HC)中の炭素分子がもぐりこんでグラフェン構造をつくり、金属外にまけ出てくる、というステップになっています。

CNT-2_08

プラントのイメージ “Bayer Material Science”社による説明図 (参考資料リンク)

CNT-2_07

送り込んだ触媒上で起きている(と考えられる)現象の簡易図 高温だとこういうことが起きる

メカニズムを見るとわかるとおり金属粒子がCNTの鋳型の役割をしていますから、この方法では特殊な合成法を使うか、金属粒子をよっぽど厳密に制御しない限り、多層CNTが多く出来上がります(厳密に制御すれば層数・径・長さをある程度変えることは可能)。供給メーカは国内外数多くありますが、主にBayer Material Science, Arkema, Nanocyl, 宇部興産, 保土ヶ谷化学, 昭和電工がメインプレーヤです。

その応用先としては近々ではクラレリビングによる超軽量ヒータ”CNTEC”(リンク) と、昭和電工が供給するリチウムイオン電池への投入が継続されている「VGCF」(リンク)、あとはゴムへ混ぜ込んでその強度を向上させ、原油掘削リグのシール材に採用された「超耐熱性ゴム」(リンク)でしょうか。海外ではアルミ(リンク リンク)やナイフ(!!)などの金属(リンク)に混ぜ込んだり、衣服に使おうとするケースも見られるなど、応用への試みはペースは確かに遅いのですが、徐々に広がっていると言えます。

しかし、この流動床合成法で出てくるCNTは実は「絡まった団子」の状態。下の写真のように折角作ったものがこんがらがって、使おうとすると一旦この毛糸団子にシェア(せん断力)をかけないとあきません。その結果ブチブチに切れて長さはバラバラ、壁はボロボロ、普通のカーボンブラックと変わらんやんけというケースが多々あります。

CNT-2_09

同じく写真類はいずれもBayer Material Science殿による
プレゼン資料より筆者が編集して引用(2010年・リンクはこちら

ということで、この団子をなんとかしてきれいにバラバラにほぐせれば、CNTの持つ長いアスペクト比を活かせる道が拓ける可能性があるわけです。MRD社が開発したのは、その「ほぐし方」の技術であり、機能性材料に力を入れていこうと考えているSABIC社はそれが重要になり得ると考え投資を決定した、ということなのでしょう。

 

MRD社の技術の特長と意義

残念ながら、実は詳細がわかりません。ホームページを見ても「Proprietry Technique」という表記があるのみで、どうにも把握できなかったのです。かなり情報を厳しく管理しているようでWebのどこにも、またCNT関係の学会誌を見ても「性能試験」の結果しか転がっていませんでした。・・・それでは済まないので、同社の一連の特許を調査してみました。その結果、

カーボンナノチューブに、グラフェン「プレートレット」を混入させて濃い酸の中で超音波で処理することを特徴とする技術

という請求項が特許に含まれていました(Pub. No. US2014/0127511)。酸性の溶液中でCNTに超音波をかけるのはCNT分散の王道技術ですから、この「グラフェンプレートレット」を混入させている点に特徴があると推測されます。

CNT-2_10

請求項8の赤線部に上記の文章が含まれる

 これを鑑みるに(筆者の妄想ですが) 「グラフェン(破片)を潤滑剤として使い、絡まったCNT団子をほぐしているのではないか」と思われます。グラフェンでホンマにそんなこと出来るのか、と思いますが、考えてみればグラフェンもポリフェニレン系分散剤と言えますから、CNTに親和性はあるはず。親和性があれば溶剤や潤滑剤として使える道理はあるわけです。

CNT-2_12

MRD社による処理で、CNT団子もこの通り・・・?
MRD社のHP(こちら)より引用

今のところ同社がオフィシャルにしている本件に係る情報は本特許以外にどこにも無いため上記の推定が確実とは言い難いですが、特許のみを根拠とすると、MRB社はこのグラフェン破片をうまく使ってナノチューブ団子を緩めてほぐし、かつ孤立・分散しやすいナノチューブへ変換していると思われます。

なお今までCNTの分散には一般に界面活性剤や有機溶剤が用いられてきましたが、概してこれらは大量に必要なため、残留して不純物になったり分散性がイマイチだったり環境負荷が高かったり、でした。もしMRB社が提案するようなグラフェン破片ならCNTを使っていくうちに自然に出てくるようなものですので、コンタミにはならない。環境負荷はきちんと見ないとだめですが、概ねコンパウンド(ポリマー混合物)やマスターバッチ(ゴム産業の基礎品)として使いますから環境への露出レベルは非常に低いと考えられるため、まさにCNTのためにあるような分散剤と言えるわけです。

ということで、今まで団子になってて使いにくかったCNT団子をときほぐし、孤立CNTを作れるとする今回のMRD社の技術。流動床のようにトン単位で合成できる安い(<10円/g)CNTを原料にできますから、CNTのポテンシャルを今まで以上に広げ、応用品への裾野を広げる可能性があると見込み、SABIC社が資金を出したのでしょう。

ライバル技術

上記のMRD社の手法で出来上がるCNTのアスペクト比(=全長÷外径)はだいたい150がMAXということですが、実は10000を超えるアスペクト比のCNT、しかもSW(単層)CNTでもMW(多層)CNTでも結構単純な構成でそこそこの分量作れる方法があります。

それが以前ケムステニュースでも採り上げられた(こちら)、早稲田大学 野田教授(研究室HP)による、いわば「セミ固定床合成法」。流動床と固定床の中間の生産性をもち、出来上がるのは固定床に近いCNTが出来上がるという、優れた合成方法です。具体的にはボールミルやビーズミルに使うセラミック球の上に触媒をまぶし、そこで成長させたCNTをガスパージではね飛ばしてトラップさせ回収、そのあともう一回セラミック球の上にCNTを成長させるという半連続合成法です。

CNT-2_11

野田教授による「セミ固定床合成法」イメージ
(引用:D. Y. Kim, H. Sugime, K. Hasegawa, T. Osawa, S. Noda, Carbon 2011, 49(6), 1972–1979)
動画はこちら

これだとCNT成長に使われる金属触媒はおおむね担持体の中に残りますから純度は上がりますし、作り分けも簡単、長さ・径制御もでき、アスペクト比も150どころか15000も超えるレベルの相当状態の良いCNTが出来る、と非常にいいことづくめです。個人的には高性能機器用途のCNTにはこの系統の製法が結構ハバを利かしていくんではないかと思っていますし、MRB社の技術に対しても十分競争力のある技術と考えられます。実際日立化成殿によりプレスリリースが出されています(こちら)ので、きっとこの技術が生かされた製品が近々に出てくることでしょう。関係される方々の活躍を期待いたします。

それでは今回はこんなところで。

 

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メーカ開発経験者(電気)。56歳。コンピュータを電算機と呼ぶ程度の老人。クラウジウスの論文から化学の世界に入る。ショーペンハウアーが嫌い。

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