[スポンサーリンク]

化学書籍レビュー

バイオ医薬 基礎から開発まで

[スポンサーリンク]

[amazonjs asin=”4807909819″ locale=”JP” title=”バイオ医薬: 基礎から開発まで”]

概要

2018年のノーベル生理学・医学賞が抗PD-1抗体を用いた免疫療法に授与されたように,近年,抗体医薬を代表とするバイオ医薬が注目されている.本書は学部学生や大学院生でも興味をもって通読できるように編集された「バイオ医薬」に関する本邦初の本格的教科書である.執筆陣には,アカデミアの研究者だけでなく,バイオ医薬品開発に携わった企業研究者も多数加わっている.そのため創薬現場での研究経験に基づいた内容で構成され,学生が学習すべきバイオ医薬品開発にかかわる基本的事項を網羅している.(内容説明 より)

対象

  • 生物製剤について基礎から学びたい人
  • 生物製剤の創薬研究を志す大学院生と研究者
  • 低分子医薬と生物製剤の違いについて系統的に学びたい人

内容

生物製剤(バイオ医薬品)の基礎的内容を系統的・網羅的に学べる、学生向けに書かれた本邦初の教科書です。

これまでの我が国では、化学合成によって供給される低分子医薬品が幅を利かせていました。しかし業界再編や創薬トレンドの変化に伴い、抗体医薬や生物製剤、その化学修飾品の開発を手がける製薬企業が欧米で先行する形で増え、国内でも手がける企業が段々と増えています。このような中にあって、生物製剤(バイオ医薬)とはなんなのか、低分子医薬との違いは何なのか、製造法や規制・承認に関しても基礎知識を一通り持っておくことは、現代~次世代を担う薬学生・創薬研究者にとっていよいよ重要になっています。

しかしながら、網羅的・体系的に学べる日本語書籍が存在していないことがこれまでの問題でした。筆者(副代表)のように、低分子合成からADCに突入した経験を持つ身からすると、バイオ医薬は完全に異世界であり、基礎知識を学ぶだけでも大変苦労しました。そもそもどの資料を当たれば良いのかまずわかりません。用語や概念も知らない、実験手法や物質の取扱いも全然違う、そもそもどこまで分析すればこの構造と言って良いのかなど、文化の違いに戸惑うことも数限りなくありました。おかげで学生時分にやっていた泥臭い勉強をイチからするはめになったのですが、今なお穴だらけの知識でなんとかやっており、日本語の教科書があれば楽なのになあ・・・、と思ったことは数知れません。

本書は、学部生・大学院生向けの教科書として書かれています。微に入り細を穿ちすぎることなく、一通りの基盤知識がバランス良くまとまっており、入門には最適です。現代事情を日本語で系統だてて学べる基盤がようやく整ったと嬉しく思う一方、この本が5年前にあったら個人的にもいろいろ楽できただろうなぁと思えて止みません・・・(苦笑)

日本発の教科書と言うことで、第12章に日本の製薬会社が関わったバイオ医薬品の開発経緯が掲載されていることも特徴です。今後の国内製薬企業がどう発達していくのかを考える素材にもなりますし、学生の興味を引きつける配慮でもあります。

【章構成】

  1. バイオ医薬品の概要
  2. バイオ医薬品創出のための探索研究
  3. 代表的バイオ医薬品としての抗体医薬
  4. バイオ医薬品の製造
  5. バイオ医薬品の品質評価・管理
  6. バイオ医薬品の非臨床試験
  7. バイオ医薬品の臨床試験
  8. 承認申請
  9. バイオ医薬品とその関連技術の知的財産権
  10. バイオ後続品(バイオシミラー)
  11. バイオ医薬品の一般的名称
  12. 日本で創出された代表的バイオ医薬品とその開発経緯

とはいえ教科書になるほどの蓄積ある領域じゃないと、という事情もあるのでしょう、ペプチド・タンパク質・抗体およびその化学修飾品が話題の主となっています。核酸医薬・遺伝子治療・細胞医療などにはほぼ記述がありません。この点には注意が必要であり、こういった創薬モダリティを学びたいなら、別の書籍をあたる必要があるでしょう。

関連書籍

[amazonjs asin=”4759815090″ locale=”JP” title=”バイオ医薬品: 開発の基礎から次世代医薬品まで (DOJIN BIOSCIENCE)”][amazonjs asin=”4774145912″ locale=”JP” title=”ここまで進んだ次世代医薬品 ―ちょっと未来の薬の科学 (知りたい!サイエンス)”][amazonjs asin=”4781307191″ locale=”JP” title=”抗体医薬の最前線 (バイオテクノロジーシリーズ)”][amazonjs asin=”4781313736″ locale=”JP” title=”ペプチド医薬の最前線《普及版》 (ファインケミカルシリーズ)”]
Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 理系のための就活ガイド
  2. 化学者たちの感動の瞬間―興奮に満ちた51の発見物語
  3. 研究留学術―研究者のためのアメリカ留学ガイド
  4. 生涯最高の失敗
  5. 元素に恋して: マンガで出会う不思議なelementsの世界
  6. 天然物化学
  7. 生体分子反応を制御する: 化学的手法による機構と反応場の解明
  8. 桝太一が聞く 科学の伝え方

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第二回触媒科学国際シンポジウム
  2. ロジウム(II)アセタート (ダイマー):Rhodium(II) Acetate Dimer
  3. クリストファー・ウエダ Christopher Uyeda
  4. アダム・コーエン Adam E. Cohen
  5. エリック・カレイラ Erick M. Carreira
  6. 信じられない!驚愕の天然物たちー顛末編ー
  7. α-トコフェロールの立体選択的合成
  8. 2005年7月分の気になる化学関連ニュース投票結果
  9. 山西芳裕 Yoshihiro Yamanishi
  10. もし新元素に命名することになったら

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年11月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年3月号がオンラインで公開されています!…

CIPイノベーション共創プログラム「未来の医療を支えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第105春季年会(2025)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「未来の医療…

OIST Science Challenge 2025 に参加しました

2025年3月15日から22日にかけて沖縄科学技術大学院大学 (OIST) にて開催された Scie…

ペーパークラフトで MOFをつくる

第650回のスポットライトリサーチには、化学コミュニケーション賞2024を受賞された、岡山理科大学 …

月岡温泉で硫黄泉の pH の影響について考えてみた 【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい! というわけで、硫黄系温泉を巡る旅の後編です。前回の記事では群馬県草津温泉をご紹…

二酸化マンガンの極小ナノサイズ化で次世代電池や触媒の性能を底上げ!

第649回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院環境科学研究科(本間研究室)博士課程後期2年の飯…

日本薬学会第145年会 に参加しよう!

3月27日~29日、福岡国際会議場にて 「日本薬学会第145年会」 が開催されま…

TLC分析がもっと楽に、正確に! ~TLC分析がアナログからデジタルに

薄層クロマトグラフィーは分離手法の一つとして、お金をかけず、安価な方法として現在…

先端の質量分析:GC-MSおよびLC-MSデータ処理における機械学習の応用

キャラクタライゼーションの機械学習応用は、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)およびラボオートメ…

原子半径・電気陰性度・中間体の安定性に起因する課題を打破〜担持Niナノ粒子触媒の協奏的触媒作用〜

第648回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科(山口研究室)博士課程後期2年の松山…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP