[スポンサーリンク]

化学一般

【書籍】化学系学生にわかりやすい 平衡論・速度論

[スポンサーリンク]

『化学系学生にわかりやすい 平衡論・速度論』(酒井 健一 著、コロナ社)という書籍をご紹介します。

概要

物理化学には化学熱力学、化学平衡論、化学反応速度論、量子化学、電気化学等がある。このうち、本書で取り上げる化学平衡論は、可逆反応において順方向の反応と逆方向の反応速度が釣り合い、反応物と生成物の組成比が巨視的なレベルで変化しないという理論である。また、化学反応速度論は反応速度の測定により反応速度式を求め、それを検討することにより化学反応機構を明確にするという理論である。この化学平衡論と化学反応速論は、無機化学や有機化学を勉強する上で基礎となる学問領域である。(「まえがき」より)

身近な「化学平衡」といえば、私達のカラダは様々な生体化学反応の平衡により成り立っていると言っても過言でありません。例えば高血糖の場合はインシュリンを分泌しグリコーゲンの合成を促進するように、体内の環境を維持する機構が沢山そなわっています。世の中の物質の変化とは「化学反応」であり、その反応のメカニズム(反応機構)を理解することは、とても大切なことです。

本書は、すべての化学反応の基礎となる反応速度論・平衡論を理解するために、基礎的な式の導出から、酵素反応の反応式などの応用例までカバーした参考書となっています。

目次

  1. 化学平衡論:基礎編
    1.1 序論
    1.2 化学熱力学の法則と自由エネルギー
    1.3 化学ポテンシャルと圧平衡定数
    1.4 相平衡と状態図
    1.5 希薄溶液の性質
  2. 化学平衡論:応用編
    2.1 多成分系の相平衡
    2.2 生態系における相平衡 ーHbの多段平衡論を中心にー
    2.3 生態系の多段平衡のpH依存性 ーHbのボーア効果ー
    2.4 解析例まとめ
  3. 化学反応速度論:基礎編
    3.1 反応速度とは
    3.2 反応速度式と反応次数
    3.3 種々の次数の化学反応の反応速度
    3.4 いろいろな反応
    3.5 反応速度の温度依存性
  4. 化学反応速度論:応用編
    4.1 反応機構の応用
    4.2 生体系における化学反応速度論 ーMbおよびHbを中心にー
    4.3 酵素反応速度論
    4.4 高速反応測定法

本書の大部分は、平衡論・速度論を記述する式の導出を説明しています。構成はシンプルで、化学平衡論:基礎→応用、化学反応速度論:基礎→応用という流れになっています。

各章末には章末問題があり、巻末には模範解答がついています。章末問題に取り組む事で、理解度のチェックができるので、わからない部分は本編に戻って読み直し、理解度の向上に役立ちます。また、章末問題が導出した式の具体的な使い方の一例にもなっていて、具体的にどう使うのか?という疑問に答えてくれる部分になっています。

 

感想

まず前提として、全体を通して数式が多く出てくるため、読破と理解にはそれなりの根気が必要です。「化学系の学生」の中でも、ケムステ読者に最も多い有機化学、生物有機化学を専門とする学生は、第4章の化学反応速度論:応用編が最もとっつきやすい内容だと思いました。やはり、物理化学という性質上、式を理解する上での前提知識となる基礎的な事項を前に置くので、実際によく使うアレニウスプロットやラインウィーバー・バーグプロットなどに到達するまでが非常に長く感じます。理論化学・物理化学を専攻する学生は前から順を追って基礎的な式の導出を勉強するのに良い構成であると言えます。一方、有機化学系の学生は、4章→3章と逆読みした方が、挫折せずに読めると思います。

新規反応の反応機構解析や酵素反応の機構解析などに取り組む際、どの様な実験値を取れば良いのか、またそれをどの式に当てはめて解析すればよいのかというガイドラインが最も知りたい所です。本書はこれを理解するための理論の解説書であるため、本書で理論を勉強した上で、論文などで改めて実際の解析例を勉強すると、より深い理解に繋がると思います。

Macy

投稿者の記事一覧

有機合成を専門とする教員。将来取り組む研究分野を探し求める「なんでも屋」。若いうちに色々なケミストリーに触れようと邁進中。

関連記事

  1. Nanomaterials: An Introduction t…
  2. 演習で学ぶ有機反応機構―大学院入試から最先端まで
  3. 毎年恒例のマニアックなスケジュール帳:元素手帳2023
  4. 【書籍】化学探偵Mr.キュリー3
  5. 細胞の分子生物学/Molecular Biology of th…
  6. 【著者インタビュー動画あり!】有機化学1000本ノック スペクト…
  7. これならわかるNMR/二次元NMR
  8. セレンディピティ:思いがけない発見・発明のドラマ

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 硫黄―炭素二重結合の直接ラジカル重合~さまざまなビニルポリマーに分解性などを付与~
  2. アルダー エン反応 Alder Ene Reaction
  3. 日本にあってアメリカにないガラス器具
  4. インターネットを活用した英語の勉強法
  5. ニッケル触媒による縮合三環式化合物の迅速不斉合成
  6. BO triple bond
  7. 第52回「薬として働く人工核酸を有機化学的に創製する」和田 猛教授
  8. イグノーベル賞2022が発表:化学賞は無かったけどユニークな研究が盛りだくさん
  9. パーソナル有機合成装置 EasyMax 402 をデモしてみた
  10. 電池長寿命化へ、充電するたびに自己修復する電極材

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年6月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

5/15(水)Zoom開催 【旭化成 人事担当者が語る!】2026年卒 化学系学生向け就活スタート講座

化学系の就職活動を支援する『化学系学生のための就活』からのご案内です。化学業界・研究職でのキャリ…

フローマイクロリアクターを活用した多置換アルケンの効率的な合成

第610回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院理学研究科(依光研究室)に在籍されていた江 迤源…

マリンス有機化学(上)-学び手の視点から-

概要親しみやすい会話形式を用いた現代的な教育スタイルで有機化学の重要概念を学べる標準教科書.…

【大正製薬】キャリア採用情報(正社員)

<求める人物像>・自ら考えて行動できる・高い専門性を身につけている・…

国内初のナノボディ®製剤オゾラリズマブ

ナノゾラ®皮下注30mgシリンジ(一般名:オゾラリズマブ(遺伝子組換え))は、A…

大正製薬ってどんな会社?

大正製薬は病気の予防から治療まで、皆さまの健康に寄り添う事業を展開しています。こ…

一致団結ケトンでアレン合成!1,3-エンインのヒドロアルキル化

ケトンと1,3-エンインのヒドロアルキル化反応が開発された。独自の配位子とパラジウム/ホウ素/アミン…

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP