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【書籍】セルプロセッシング工学 (増補) –抗体医薬から再生医療まで–

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セルプロセッシング工学 (増補) - 抗体医薬から再生医療まで -

セルプロセッシング工学 (増補) - 抗体医薬から再生医療まで -

高木 睦, 岩井 良輔
¥3,410(as of 07/26 13:20)
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今回ご紹介する書籍「セルプロセッシング工学 (増補) –抗体医薬から再生医療まで–」は、2007 年にコロナ社から刊行された同書籍の改訂増補版で、この約 15 年の間に発展した細胞工学のトピックを追加した決定版となっています。

ケミカルバイオロジー分野の発展により、ケミストにも有機合成だけでなく培養動物細胞を用いた活性試験の技術を求められるようになってきました。執筆者も元々はそうだったのですが、ラボで代々受け継がれている細胞培養の方法をマニュアル通りにこなすことはできるけど、各工程の意味やポイントなどをしっかり理解できていない方もいらっしゃるのではないでしょうか。

本書では動物細胞培養におけるメカニスティックな原理を第1・2章でじっくりと解説し、さらに3章からは大量培養技術や再生医療における移植用細胞の培養技術など、細胞工学と医療・創薬を結びつける先端技術について詳細に説明しています。コンパクトに纏まった一冊ながら、動物細胞培養のノウハウを網羅した良書に仕上がっています。少しでも細胞を扱う研究者には、ぜひ読んでいただきたいと思います。

本書のあらまし

本書は2007年10月刊行の『セルプロセッシング工学―抗体医薬から再生医療まで―』に,最近14年間の最新の研究結果を追加して案内した増補版である。移植用細胞の効率的培養技術や自動培養技術,非侵襲的細胞品質評価技術を含めたセルプロセッシング工学の基礎から最先端までを解説。増補版では再生医療にも貢献し得る自己組織化をはじめとした新しい基礎技術の解説を加えた。

【読者対象】
・動物細胞培養工学や再生医学を勉強しようとする学生
・医薬品開発や再生医療・細胞医療開発に携わる技術者

コロナ社HPより

目次

1.動物細胞培養の基礎
1.1 動物細胞培養の産業応用
1.2 動物細胞培養の歴史
1.3 動物細胞の構造
1.4 動物細胞の種類と接着依存性
1.5 動物細胞培養と微生物培養との差異
1.6 細胞の入手,保存,輸送
1.7 培養解析のための顕微鏡観察方法
1.8 培養解析のための細胞定量分析方法
1.9 細胞増殖の速度論
1.10 継代培養
1.11 培地供給から見た培養形式と物質収支式
2.培養材料設計
2.1 培地設計
2.2 担体設計
3.大量培養技術
3.1 大量培養器の形式
3.2 せん断力と攪拌培養槽
3.3 培地交換と浮遊攪拌培養
3.4 溶存酸素制御
3.5 温度,pHの影響
3.6 浸透圧の制御
3.7 静圧の影響
3.8 アポトーシスの制御
3.9 エクソソーム利用の可能性
3.10 工業化の例(tPA生産)
3.11 大量培養槽の総量不足と生産能力のさらなる改善
4.自己組織化
4.1 自己組織化とは
4.2 自己凝集化と自己組織化
4.3 自己凝集化の誘導法
4.4 自己組織化を用いた組織工学/再生医療や創薬試験への応用展開
5.移植用細胞の効率的培養技術
5.1 セルプロセッシング工学とは
5.2 細胞分離法
5.3 共培養
5.4 3次元培養
5.5 スキャフォールドフリー培養による骨軟骨様組織作成と保存
5.6 3次元共培養による造血前駆細胞の体外増幅
5.7 細胞シート形成
6.移植用同種細胞の大量培養技術
6.1 はじめに
6.2 移植用間葉系幹細胞のマイクロキャリア培養
6.3 不織布担体を用いた間葉系幹細胞培養と播種方法
7.移植用細胞培養の産業化技術
7.1 移植用細胞培養の産業化技術とは
7.2 再生医療の国内規制と移植用細胞培養施設の条件
7.3 培養工程の自動化
7.4 細胞および組織の非侵襲的品質評価技術
7.5 最先端の細胞加工技術

引用・参考文献
索引

各章の解説

第1章 動物細胞培養の基礎

本章では、動物細胞のなりたちから、細胞の入手方法、顕微鏡による観察、フローサイトメトリーによる分析、増殖と継代など、基本的な事項をコンパクトかつ、痒い所に手が届くように纏めてあります。これから細胞培養を始める学生は予習のために、既に慣れ親しんでいる研究者は復讐のために、一通り読んでおくことをオススメします。実際に培養作業を行なっている時にも、本書に記されていることを思い出しながら、「なぜこのような操作をしているのか」をイメージすると、いざ何か起こった際にも対応しやすくなると思います。

第2章 培養材料設計

前章に引き続き、基礎的な動物細胞培養についての章で、培養の材料となる培地や担体 に関する工学的な解説が載っています。どちらかというと化学が専門なケミカルバイオロジストの皆様は、培地の組成や pH、浸透圧などについてしっかりと考えたことがありますでしょうか。私も長いこと片手間に細胞をいじっていますが、DMEM (ダルベッコ改変イーグル培地) の細かいアミノ酸・塩組成までは知りませんでした。正直、汎用されている癌細胞株の 2D 培養には多少の浸透圧変化などは影響が少ないという印象ですが、初代培養や iPS 細胞などの場合は非常にセンシティブになるので、工学的な知識も兼ね備えておくべきでしょう。また、汎用細胞を扱っていてもいざ再現性が取れないなどの事態が起こった場合は、培地の影響を疑い適切な条件を設定し直すことが必要かと思います。
動物細胞の培養においてもう一つ重要な材料が担体です。かいつまんで言えばディッシュやプレートなどの培養容器と細胞を接着させる物質です。血球など一部の細胞を除き、動物細胞は接着することで初めてその機能を発揮できるのですが、接着には細胞側だけでなく担体側の条件も大きく関わってきます。培養容器はただのプラスチックやガラスの板ではなく、その表面に細胞接着のためのコーティングがなされていることが多いです。コーティング剤としては一般にコラーゲンなどの ECM (細胞外マトリックス) やポリスチレンなどの人工高分子が用いられます。本章では、各種担体の特徴や効率的培養を行うための処理に関して、データなどを用いながら細かく解説しています。

第3章  大量培養技術

本章では、主に工業的スケールでの大量培養法について解説しています。動物細胞の大量培養は、細胞そのものを得るために行うだけではなく、抗体やその他のタンパク質などの生産のためにも行われます。その安定的な培養の方法について、撹拌効率や溶存酸素、浸透圧などの面からの注意すべき点について述べられています。
本増補板では、近年注目を集めているエクソソームの大量培養における応用可能性について追記されています。

第 4 章  自己組織化

自己組織化とは、ランダムな状態にある構成要素が、その構成要素間に働く相互作用により自発的に (勝手に)  秩序だった構造を形成する現象である。例えば、最もスケールの大きな自己組織化として、宇宙の天体がある。(中略) 細胞はわれわれの体を構成する最小単位である。受精卵の段階で1個であった細胞が、分裂を繰り返しながら、内部細胞塊を経てしだいに複雑な組織、臓器構造を形作る。これこそが細胞の自己組織化である。そして、このときに働く因子の解明も生命科学における重要課題である。

第4章は本増補版で丸ごと追加された最新のトピックスです。移植用の軟骨細胞の培養や、近年盛んに研究が行われているスフェロイドやオルガノイドの形成にもこの自己組織化が重要となっています。培養細胞系を用いた薬理活性評価においても、2D 培養ではなく自己組織化したスフェロイド・オルガノイド方がより in vivo に近い評価をできる場合が多いため、創薬化学やケミカルバイオロジー分野においても応用が進んできています。また、iPS 細胞による器官元基 (歯・毛髪から肺や脳といった臓器まで) の作製も自己組織化誘導の産物です。本章もライフサイエンスを志向するケミスト達にはしっかりと目を通していただきたい内容となっています。

第5章 移植用細胞の効率的培養技術

いよいよ、タイトルにもなっている「セルプロセッシング工学」の各論に入っていきます。移植用細胞の効率的培養には、第1〜3章で学んだ培養技術の基礎に加えて、細胞集団からの目的細胞の分離や、三次元培養といった複雑な技術が必要となってきます。本章では、増補版で新たに追加された「スキャフォールドフリー培養による骨軟骨様組織作成と保存」 の項にて、約 12 ページを割いて移植用細胞培養技術の好例を解説しています。

第6章 移植用同種細胞の大量培養技術

多分化能を有する間葉系幹細胞 (MSC) の大量培養技術に関する解説の章です。MSC を用いた軟骨細胞の同種移植は工業的事業として成立する可能性が高く有望と考えれらていますが、その大量培養は容易ではありません。本項では、マイクロキャリア培養という方法や、増補版で追加された不織布を担体として用いる方法などが MSC の大量培養に適した方法として紹介されています。

第7章 移植用細胞培養の産業化技術

最終章となる本章では、「セルプロセッシング工学」の集大成として、再生医療に纏わる移植用細胞培養の産業化を取り上げています。研究段階で必要な技術は第5章までで賄えますが、産業化のためには「安全性」と「経済性」を担保せねばならず、さらに法令の遵守も厳格に行わなければなりません。そういったハード面の解説から始まり、本章ではページの多くを「品質管理」に割いています。低分子医薬品などと同様、移植用細胞の品質管理は産業化において重要な評価項目です。非侵襲的な品質管理においてセルプロセッシング工学の成せる技術を豊富なデータに基づいて解説しています。

感想

筆者は細胞工学に関して全くもってのド素人ですが、前半の章のみならず、まさに工学的な内容となる第 5 章以降も非常に興味深く読むことができました。文章だけでなく豊富な図表とデータの掲載が理解力を押し上げてくれます。ケムステ読者の皆さんで細胞培養をされている方は、実験室レベルで薬理活性や毒性を図るなどの比較的簡単な実験がメインかと推察しますが、そんな方々にとって本書の前半は培養スケールを問わず必携の書として、後半は読み物として楽しめる内容に仕上がっています。もちろん、細胞工学がご専門の方にとっては全編通して研究の助けになるでしょう。本書を通して読むと、例えば大量培養におけるアポトーシスの抑制に還元剤やキレート剤を加えたり、担体のコーティングにさまざまな人工高分子を用いたりと、創薬化学や材料化学の面でセルプロセッシング工学にケミストが貢献できそうな部分があることも分かります。化合物合成の先に何かへの応用を考えているケミスト達は、新たな知見を得るために本書を手に取ってみてはいかがでしょうか。

書誌情報

発行年月日
2022 年 1 月 5 日
判型
A5
ページ数
230ページ
ISBN
978-4-339-06763-7

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DAICHAN

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創薬化学者と薬局薬剤師の二足の草鞋を履きこなす、四年制薬学科の生き残り。
薬を「創る」と「使う」の双方からサイエンスに向き合っています。
しかし趣味は魏志倭人伝の解釈と北方民族の古代史という、あからさまな文系人間。
どこへ向かうかはfurther research is needed.

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