⏱ 30秒サマリー
- 何か — 膨大な数のランダム配列の核酸から、狙った分子に強く結合するもの(アプタマー)を試験管の中だけで選び出す方法。
- 中核 — 「結合したものを拾う → PCRで増やす → また拾う」を何度も繰り返し、ごく少数の当たり配列を濃縮する。1990年に米国の2グループが独立に報告した。
- 使う — 得られたアプタマーは化学合成できるため、医薬・診断薬・センサーの認識部位に使われる。
- いま — 日本でも2025年に2剤目のアプタマー医薬が承認された。センサーや大規模タンパク質測定への展開が加速している。
1. SELEX法とは
SELEX(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment)とは、ランダムな配列をもつ核酸の集団(ライブラリ)から、標的分子に結合する配列を選別と増幅の繰り返しによって濃縮し、同定する方法である。こうして得られる核酸をアプタマー(aptamer)と呼ぶ。
抗体づくりと違って動物も細胞も使わず、すべてを試験管内で完結できる点が出発点にある。標的はタンパク質だけでなく、低分子、金属イオン、細胞表面まで及ぶ。
類語の整理
| 用語 | 意味の重心 | 備考 |
|---|---|---|
| SELEX | 選別と増幅を繰り返す実験手順そのもの | Tuerk と Gold の命名 |
| in vitro selection(試験管内選択法) | 同じ考え方を指す一般名 | Ellington と Szostak の呼称。リボザイム探索も含む |
| アプタマー | SELEXで得られた結合分子 | 核酸が主。ペプチドアプタマーもある |
| 指向性進化法 | 変異と選択で分子を「進化」させる手法の総称 | SELEXはその核酸版と位置づけられる |
| Spiegelmer | 鏡像体(L体)の核酸で作るアプタマー | 生体内の分解酵素を受けにくい |
2. 経緯
1980年代にRNAが触媒にも情報担体にもなると分かり、「配列の集団から機能をもつ分子を選び出せないか」という発想が生まれた。PCRによる増幅が日常化したことが、それを実験として成立させた。
1990 Tuerk と Gold が T4 DNAポリメラーゼに結合するRNAを選び、SELEXと命名[1]
1990 Ellington と Szostak が色素に結合するRNAを独立に選び出す[2]
2004 初のアプタマー医薬ペガプタニブ(マクジェン)が米国で承認[6]
2008 マクジェンが日本で発売。国内初のアプタマー医薬[10]
2010 アプタマーで800種超のタンパク質を一度に測る技術が報告される[4]
2013 人工塩基を含むライブラリによるSELEXが理化学研究所から報告[5]
2016 抗凝固アプタマーREG1の大規模試験が早期中止[8]
2023 2剤目のアバシンカプタド ペゴルが米国で承認
2025 同剤が日本で条件付き承認
3. SELEXのサイクル
1回の選別で当たり配列だけを拾い切ることはできない。少しずつ比率を上げていくのがこの方法の本質で、名前の「指数関数的濃縮」はそれを指す。
| 工程 | やること | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
| ① ライブラリ準備 | 両端に固定配列(PCR用)、中央にランダム領域をもつ核酸を合成 | ランダム領域が長いほど配列空間は広いが、投入できる分子数には限りがある |
| ② 結合 | 標的と混ぜ、結合させる | 緩衝液・温度で結果が変わる。使う条件で選ぶ |
| ③ 分離 | 結合した分子だけを回収する | 担体やフィルターに付く配列も拾う。標的なしの対照で除く(負の選択) |
| ④ 増幅 | PCRで増やす。RNAなら逆転写と転写を挟む | 増えやすい配列が有利になる(増幅バイアス) |
| ⑤ 次ラウンドへ | 濃縮された集団で②に戻る | 回を追って条件を厳しくし、結合の強いものを残す |
最後に配列を読み、候補を合成して結合定数を測り直す。配列決定に次世代シーケンサーを使えば、各ラウンドで何がどれだけ増えたかを追える。
4. 改良型SELEXと化学修飾
ランダム領域を n 塩基とすると、配列の種類は4のn乗通りになる。n=40でおよそ10の24乗に達し、実際に合成して投入できる分子数を桁違いに上回る。Ellington らは、ランダムなRNAのおよそ100億分子に1つが特定の分子を抱え込む構造をとると見積もった[2]。したがって最初の集団の質と、選別の効率が成否を分ける。この2点を改良する方向で手法が枝分かれしてきた[7]。
| 手法・修飾 | 何を変えたか | 得られるもの |
|---|---|---|
| Cell-SELEX | 精製タンパク質の代わりに生きた細胞を標的にする | 標的が未知でも細胞を見分けるアプタマー |
| CE-SELEX | 分離をキャピラリー電気泳動で行う | 少ないラウンドで選別できる |
| マイクロ流体・アレイ | 選別を微小流路やチップ上で行う | 自動化と試薬量の削減 |
| 修飾ヌクレオチド | 2′-フルオロ、2′-メトキシ、L体などを使う[6] | 分解酵素への耐性 |
| 人工塩基 | 天然の4塩基に疎水性の人工塩基Dsを加える[5] | 天然型より100倍以上強い結合 |
| 低解離速度型(SOMAmer) | 疎水性側鎖をもつ修飾塩基で選ぶ[4] | 測定に使える遅い解離 |
修飾は「選んだ後に付ける」か「最初から入れて選ぶ」かで扱いが大きく違う。後付けでは立体構造が崩れて結合を失うことがあり、ポリメラーゼが読める修飾体なら選別段階から入れるほうが確実である。
5. 具体例
ペガプタニブ(古典例) — 血管内皮増殖因子(VEGF)に結合するRNAアプタマーで、加齢黄斑変性の治療薬として承認された。分解を防ぐ修飾と、腎排泄を遅らせる約20 kDaのポリエチレングリコール(PEG)鎖2本を備え、「SELEXで得た配列を薬にする」ための化学的な処方箋の原型になった[6]。
人工塩基Dsアプタマー(国内) — 理化学研究所の平尾一郎らとタグシクス・バイオは、天然4塩基に人工塩基Dsを加えた5文字のライブラリからVEGFとインターフェロンγに結合するDNAアプタマーを選び、天然型だけのものより100倍以上強い結合を得た[5]。遺伝暗号の拡張がそのまま分子認識の強化につながることを示した例である。
アバシンカプタド ペゴル(現代例) — 補体C5を阻害するアプタマーで、2023年8月に米国で萎縮型加齢黄斑変性の地図状萎縮に承認された。日本でも2025年9月、アステラス製薬が「アイザベイ」として条件付き承認を取得し、この適応で国内初の治療薬となった。
6. 最新動向(2026年10月時点)
国内創薬 — アプタマー創薬企業リボミックは、線維芽細胞増殖因子2(FGF2)を標的とする umedaptanib pegol について、軟骨無形成症を対象とした第2a相試験を終え、次段階の臨床試験の資金調達を2025年7月に開示した。
プロテオミクス — アプタマーで血中タンパク質を網羅的に測る SomaLogic は、2026年1月に米Illuminaによる買収が完了した。次世代シーケンサーで読み出す形への統合が進み、SELEX由来の分子が大規模な臨床研究の測定基盤に組み込まれつつある。
ウェアラブルセンサー — 標的に結合すると形を変えるアプタマーを電極に固定した貼付型センサーが、健常者6名で抗菌薬バンコマイシンの皮膚間質液中濃度を24時間、5分間隔で追跡した。初期臨床試験として2026年2月に報告されている[9]。
7. もっと学ぶ
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外部リンク
関連書籍
参考文献
- C. Tuerk, L. Gold, Science 1990, 249, 505. DOI: 10.1126/science.2200121
- A. D. Ellington, J. W. Szostak, Nature 1990, 346, 818. DOI: 10.1038/346818a0
- R. Stoltenburg, C. Reinemann, B. Strehlitz, Biomol. Eng. 2007, 24, 381. DOI: 10.1016/j.bioeng.2007.06.001
- L. Gold et al., PLoS ONE 2010, 5, e15004. DOI: 10.1371/journal.pone.0015004
- M. Kimoto, R. Yamashige, K. Matsunaga, S. Yokoyama, I. Hirao, Nat. Biotechnol. 2013, 31, 453. DOI: 10.1038/nbt.2556
- M. Bege, R. Ghanem Kattoub, A. Borbás, Pharmaceutics 2025, 17, 394. DOI: 10.3390/pharmaceutics17030394
- L. Feng et al., Biomolecules 2025, 15, 818. DOI: 10.3390/biom15060818
- A. M. Lincoff et al., Lancet 2016, 387, 349. DOI: 10.1016/S0140-6736(15)00515-2
- M. A. Booth, M. K. Erdal et al., Nat. Biotechnol. 2026. DOI: 10.1038/s41587-026-03010-w
- 薬事日報「日本初のアプタマー医薬品、加齢黄斑変性症治療剤『マクジェン』を発売」2008年10月27日. https://www.yakuji.co.jp/entry8363.html
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