[スポンサーリンク]

chemglossary

液体キセノン検出器

[スポンサーリンク]

宇宙に存在して質量は持つが光学的に直接観測できない物質がダークマター(暗黒物質)であり、それを検出する装置の一部が液体キセノン検出器である。ここでは、検出器の構造とその原理、キセノンを使う理由について解説する。

 

装置の構造

検出器の構造は下の図のようになっていて、中心に液体キセノン(約マイナス100℃)が入れらていて、その外側に光電子増倍管が配置されている。その検出器の外側は水で満たされている。

アメリカの検出器の構造

 

ダークマターがキセノン原子核と弾性散乱する際にエネルギーの一部を落とすか、キセノンの電子と衝突することで発光現象が起き、その光を光電子増倍管によって検出するのが測定原理である。外側を水で満たすのは、ガンマ線を遮蔽してノイズを低減するためである。ノイズの原因は様々で、水以外にもプラスチック板など様々な遮蔽物でノイズの低減が極限まで施されている。

発光の原理とキセノンを使う理由

上記のように、ダークマターが液体キセノンの容器に入射し衝突すると光が発生する(S1)、それと同時に電子がたたき出され検出器には電極がかけられているので、電子は陽極に引き寄せられて上部ガス状のキセノンと衝突し遅延光が発せられる(S2)。

発光の原理

液体キセノンを使う理由は下記のこと挙げられる

  1. シンチレーション光を発生し、その発光量が大きいこと
  2. キセノンの質量数が大きいこと
  3. アルゴン、クリプトンと違い、キセノンには有感領域での固有のバックグラウンドとなる長寿命のアイソトープがないこと

2に関して質量するが大きいとノイズを遮蔽する能力が高いことにつながる。これによりはダークマターを測定するのに有効な液体キセノンのエリア外でノイズを遮蔽するのに役立つ。3に関して、放射性同位体である39Arは数百年、81Krは、数十万年の半減期があるため、ノイズの原因となる。一方でキセノンの天然の同位体がなく、人工合成された同位体でも数十日と短いため、放射性同位体からのノイズが少ない。

キセノンは、希ガスであり0.087 ppmしか空気中に存在しない。酸素や窒素、アルゴンガスを空気分離によって精製する際の低沸点副生成物をさらに蒸留して高純度のキセノンガスは得られている。そのため非常に高価なガスで一キロ数十万円以上する。ダークマター観測では、キセノンの純度にも実験が左右されるため、精製装置によってキセノンの純度をさらに上げている。

世界の研究活動

いくつかのグループが、この方法でダークマターの検出に取り組んでいる。日本では、岐阜県飛騨市神岡鉱山内にXMASS実験施設があり、800Kgのキセノンが入った検出で測定を行っている。ただし、5から10トンのキセノンを使用する施設改修の計画があったが、予算のめどがたたかなかったことや他国ではすでにより高感度の施設の計画があることから来年末で観測プロジェクトを終了することが決まった

イタリアには3トンのキセノンを使った施設で観測が試みられていて、アメリカでは、7トンから20トンのキセノンを使った観測施設が2020年に完成する。キセノンが多い検出器ほど検出感度が高いが、世界中で年間40トンしかキセノンは生産されておらず、半導体製造や人工衛星のイオンエンジンなどほかの用途でも需要が高まっているため、大量のキセノンを調達することは容易ではない。

一方で、キセノンを使わない検出法も研究されていて超流動ヘリウムを使った研究結果が最近報告された。これにより軽いダークマターを観測できると研究者らは主張している。

関連書籍

[amazonjs asin=”4315519626″ locale=”JP” title=”ダークマターとダークエネルギー―宇宙の96%を占める未確認の質量とエネルギー (ニュートンムック Newton別冊)”] [amazonjs asin=”B01HCOSBPW” locale=”JP” title=”やさしくわかる 周期表と元素”]

関連リンク

  • XMASS:XMASS公式サイト、ダークマターの解説のほか、施設内部をVRで見ることができ、スーパーカミオカンデと坑道でつながっていることがわかる。検出器は、円柱ではなく十二面体構造をしている。
  • The LZ Dark Matter Experiment:アメリカの研究チームLZの公式サイト
  • The XENON experiment:イタリアの研究チームXENON1Tの公式サイト
Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 一重項分裂 singlet fission
  2. 抗体触媒 / Catalytic Antibody
  3. コンビナトリアル化学 Combinatorial Chemis…
  4. 活性ベースタンパク質プロファイリング Activity-Base…
  5. 血液―脳関門透過抗体 BBB-penetrating Antib…
  6. 多成分連結反応 Multicomponent Reaction…
  7. 陽電子放射断層撮影 Positron Emmision Tomo…
  8. 全合成 total synthesis

注目情報

ピックアップ記事

  1. スルホキシド/セレノキシドのsyn-β脱離 Syn-β-elimination of Sulfoxide/Selenoxide
  2. 遷移金属触媒がいらないC–Nクロスカップリング反応
  3. コーリー・フックス アルキン合成 Corey-Fuchs Alkyne Synthesis
  4. エノールエーテルからα-三級ジアルキルエーテルをつくる
  5. 有機合成化学協会誌2024年7月号:イミン類縁体・縮環アズレン・C–O結合ホモリシス・ハロカルビン・触媒的バイオマス分解
  6. 虫歯とフッ素のお話① ~どうして歯磨きにフッ素が使われるの??~
  7. もっと化学に光を! 今さらですが今年は光のアニバーサリーイヤー
  8. 「触媒的オリゴマー化」によるポリピロロインドリン類の全合成
  9. なぜ青色LEDがノーベル賞なのか?ー雑記編
  10. フォン・リヒター反応 von Richter Reaction

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年12月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

細谷 昌弘 Masahiro HOSOYA

細谷 昌弘(ほそや まさひろ, 19xx年xx月xx日-)は、日本の創薬科学者である。塩野義製薬株式…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP