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ケミカルバイオロジー

河村奈緒子 Naoko Komura

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河村 奈緒子(こうむら なおこ, 19xx年xx月xx日-)は、日本の有機化学者である。専門は糖鎖合成化学、ケミカルバイオロジー。岐阜大学糖鎖生命コア研究所(iGCORE)助教。第49回ケムステVシンポ講師

経歴

2008 岐阜大学応用生物科学部 卒業
2010 岐阜大学大学院応用生物科学研究科修士課程 修了
2010- 岐阜大学応用生物科学部 特定研究支援者
2017- 岐阜大学生命の鎖統合研究センター(G-CHAIN) 研究支援員および研究員
2018 岐阜大学 博士(農学)取得(安藤弘宗教授)
2019- 岐阜大学生命の鎖統合研究センター(G-CHAIN) 特任助教
2021- 岐阜大学糖鎖生命コア研究所(iGCORE) 助教

 

受賞歴

2018 29th International Carbohydrate Chemistry Symposium ポスター賞
2019 2nd Australasian Glycoscience Symposium Early/Mid-Career Research Award
2020 2020年度農芸化学若手女性研究者賞
2021 International Carbohydrate Organization 2020 Young Researcher Award
2023 有機合成化学協会東海支部奨励賞

 

研究業績

化学合成による分子創製を基軸とし、核酸・タンパク質に並ぶ第三の生命鎖である「糖鎖」の細胞膜上での機能解明研究に取り組んできた。特に細胞内外のシグナル伝達を担うシアル酸含有糖鎖を標的とし、独自の合成化学で創製した糖鎖分子をツールとした細胞膜のケミカルバイオロジー研究を開拓してきた。

1. シアル酸の完全な立体選択的グリコシド化法の開発

天然に存在するシアル酸の殆どはα結合により糖鎖に結合するが、化学合成においてはこれまで、α結合とβ結合の完全な作り分けが困難であった。そこで、アノマー炭素を橋頭位とする二環性シアル酸を求電子種として用いれば、SN1反応のグリコシド化において一方の結合様式のみの合成が可能と発想した。すなわち、α結合のシアル酸の1位カルボキシル基と5位アミノ基をβ側で架橋すれば、グリコシド化の際にβ側が架橋部により遮蔽されるため、結果として生成物はαグリコシド結合に限定されると考えた。そこで、橋頭位アノマー炭素のカチオン生成はBredt則により不利であると考えられたため、anti-Bredtなカチオン生成を許容する架橋部の鎖長を検討した結果、16員環を与える架橋部を有するシアル酸供与体がα結合のみを極めて高収率にて与えることを明らかにした。さらに、架橋部末端に塩素を導入することで、二環性シアル酸供与体の反応性向上に成功した。以上より、シアル酸のα結合のみを合成する手法を確立し、シアル酸含有糖鎖の化学合成のための実用的で応用範囲の広い基礎技術を確立した [1,2,3]。

2. ガングリオシドの蛍光プローブの開発

細胞膜上のシアル酸含有糖脂質(ガングリオシド)は、タンパク質やコレステロールの集積した細胞膜ドメイン(脂質ラフト)を介して細胞内外のシグナル伝達に関与すると考えられている。しかしながら、脂質ラフトの存在状態が不明であるばかりか、その存在自体に長らく疑問が持たれてきた。そこで、脂質ラフトの観察を目的に蛍光ラベル化したガングリオシドの化学合成と、生細胞上での1分子イメージングに取り組んだ。タンパク質との相互作用に重要な糖鎖の官能基(カルボキシ基やアミド基)を保持するため、標的のヒドロキシ基のみをアミノ基で置換した後、蛍光色素をアミド化により結合させる方法を考案した。これにより、天然と同様に振舞う優れた蛍光ガングリオシドプローブの開発に成功した。続いて、楠見明弘教授(OIST)、鈴木健一教授(岐阜大)らとの共同研究により生細胞上での1分子イメージングを行った結果、ガングリオシドとタンパク質会合体が頻繁に会合して脂質ラフトを形成する様子を捉えることに成功した [1,5]。

3. 脂質ラフトの構造解析のための分子捕捉用プローブの開発

動的で不安定な性状である脂質ラフトの構造解析のため、光照射により近接分子の捕捉が可能な分子捕捉用ガングリオシドプローブを開発した。糖鎖に結合するタンパク質の同定のため、糖鎖の末端に光架橋基(ジアジリン基)と検出基(蛍光色素、親和性タグ)の両方を結合させたプローブを開発した。糖鎖末端のヒドロキシ基をトリフルオロアセトアミド基で置換したガングリオシドを合成した後、光架橋基と検出基を順に結合させることで、糖鎖末端修飾型の分子捕捉用プローブの化学合成を達成した。さらに、脂質に結合するタンパク質の同定を目的に、脂質末端に光架橋基を導入したプローブも開発した [4]。合成したプローブを用いたケミカルバイオロジー研究に取り組んでいる。

名言集

 

コメント&その他

 

関連動画

 

関連文献

1. Takahashi, M.; Komura, N.; Yoshida, Y.; Yamaguchi, E.; Hasegawa, A.; Tanaka, H.-N.; Imamura, A.; Ishida, H.; Suzuki, K. G. N.; Ando, H. RSC Chem. Biol. 2022, 3, 868–885. DOI:10.1039/D2CB00083K
2. Takahashi, M.; Shirasaki, J.; Komura, N.; Sasaki, K.; Tanaka, H.-N.; Imamura, A.; Ishida, H.; Hanashima, S.; Murata, M.; Ando H. Org. Biomol. Chem. 2020, 18, 2902–2913. DOI:10.1039/D0OB00437E
3. Komura, N.; Kato, K.; Udagawa, T.; Asano, S.; Tanaka, H.-N.; Imamura, A.; Ishida, H.; Kiso, M.; Ando, H. Science 2019, 364, 677–680. DOI:10.1126/science.aaw4866
4. Komura, N.; Yamazaki, A.; Imamura, A.; Ishida, H.; Kiso, M.; Ando, H. Trends Carbohydr. Res. 2017, 9, 1–26.
5. Komura, N.; Suzuki, K. G. N.; Ando, H.; Konishi, M.; Koikeda, M.; Imamura, A.; Chadda, R.; Fujiwara, T. K.; Tsuboi, H.; Sheng, R.; Cho, W.; Furukawa, K.; Furukawa, K.; Yamauchi, Y.; Ishida, H.; Kusumi, A.; Kiso, M. Nat. Chem. Biol. 2016, 12, 402–410. DOI:10.1038/nchembio.2059

 

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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