[スポンサーリンク]

chemglossary

定量PCR(qPCR ; quantitative PCR)、リアルタイムPCR

[スポンサーリンク]

ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて、サンプルの中にある特定配列のDNA量を調べる方法。この方法を用いれば、目的遺伝子の発現量やサンプル中のウイルス遺伝子の含有量などを調べることができる。一般的なqPCR法ではリアルタイムで測定が行われるため、「qPCR」と「リアルタイムPCR」は同義として扱われていることが多い。よく用いられるのは、サイバー・グリーン法(SYBR Green)とタックマン・プローブ法(TaqMan Probe)の2種類である。

通常のPCRでは、増幅反応後のDNAサンプルを遺伝子組替えに利用したり、定量に用いたりするため、反応後の生成物のみが興味の対象となるのに対し、リアルタイムPCRではDNAの増幅過程が重要となるため、「リアルタイムPCR」と呼ばれる。qPCRには、増幅後のDNAサンプルを電気泳動で分離して定量する、というリアルタイム測定ではない方法もある。

(ちなみに、バイオ分野でよく目にする ”RT-PCR” という手法は、多くの場合、リアルタイムPCR(real time PCR)でなく、逆転写PCR(reverse transcription PCR)のことを指すので注意。)

1, qPCRの仕組み:SYBR Green法(インターカレーション法)

インターカレーション法では、二本鎖DNAの間に挿入(インターカレーション)する蛍光分子を用いてDNA増幅量を調べる。SYBR Greenという蛍光分子がよく用いられる。

SYBR Green Iの化学構造。

以下に、SYBR Green法の流れを示す。

  1. PCRの反応溶液に、二本鎖DNAに挿入して発光する蛍光分子を混ぜておく。
  2. PCRによってDNAの増幅が起こると、合成されたDNAの間に蛍光分子が挿入し、発光が起こる。
  3. 溶液の発光をモニタリングすることで、DNAの増幅量を調べることができる。

この手法では、目的以外のDNAが非特異的に増幅された場合でも、蛍光分子が発光してしまうという欠点がある。以下に紹介するTaqManプローブ法では、目的のDNAに特異的に発光が起こるという利点がある。

2. qPCRの仕組み:TaqMan Probe法(加水分解プローブ法)

TaqMan Probe法では、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を利用してDNA増幅の測定を行う。重要なのは、TaqManプローブとTaq DNAポリメラーゼの2つの要素である。

  • TaqManプローブ:FRETを起こす蛍光分子ペアを結合した短い一本鎖DNA。定量したい遺伝子に結合するように、一本鎖DNAの配列は、目的遺伝子との相補的配列としてデザインする。TaqManプローブが加水分解されると、蛍光分子ペアが離れてバラバラになるため、FRETが起こらなくなる。つまり、クエンチされていた蛍光分子が発光できるようになる。
  • Taq DNAポリメラーゼ:DNAを合成するためのポリメラーゼ活性に加え、DNAを5’→3’の方向へと加水分解する機能(5’→3’エキソヌクレアーゼ活性)を持つ。この機能により、DNA増幅の際にTaqManプローブを分解することができる。

以下に、TanManプローブ法の流れを示す。

  1. PCRの反応溶液に、TaqManプローブを加えて増幅を行う。DNAポリメラーゼは、通常のものではなくTaq DNAポリメラーゼを用いる。
  2. TaqManプローブが、鋳型DNAに結合する。
  3. Taq DNAポリメラーゼがDNAを伸長する際に、TaqManプローブを分解する。
  4. FRET蛍光分子ペアが互いに解離し、クエンチされていた蛍光分子が発光するようになる。

TaqManプローブ法は、前述のSYBR Green法と異なり、目的遺伝子と特異的に結合するプローブを用いるため、より信頼性が高いデータが得られる。

3. qPCRのデータ分析

qPCRのデータは、以下のようなDNAの増幅曲線(= 蛍光強度)として得られる。段階希釈した既知量のDNAを標準サンプルとして用いることで、未知サンプルの定量ができる。

まず、増幅曲線において、一定の増幅量(閾値)に達するまでにかかったサイクル数(Ct値;threshold cycle)を調べる。このCt値を横軸に、標準サンプルの元の濃度を縦軸に、検量線プロットを作成する。得られた検量線と未知サンプルのCt値を照らし合わせることで、未知サンプルの濃度を調べることができる。

関連リンク

Avatar photo

kanako

投稿者の記事一覧

アメリカの製薬企業の研究員。抗体をベースにした薬の開発を行なっている。
就職前は、アメリカの大学院にて化学のPhDを取得。専門はタンパク工学・ケミカルバイオロジー・高分子化学。

関連記事

  1. スナップタグ SNAP-tag
  2. 輸出貿易管理令
  3. コンビナトリアル化学 Combinatorial Chemis…
  4. Z-スキームモデル Z-Scheme Model
  5. MOF-74: ベンゼンが金属鎖を繋いで作るハニカム構造
  6. O-脱メチル化・脱アルキル化剤 基礎編
  7. レドックスフロー電池 Redox-Flow Battery, R…
  8. 国連番号(UN番号)

注目情報

ピックアップ記事

  1. コーンブルム酸化 Kornblum Oxidation
  2. ケムステ10年回顧録― 副代表版
  3. 食中毒と衛生管理の重要性ーChemical Times特集より
  4. Discorhabdin B, H, K, およびaleutianamineの不斉全合成
  5. 芳香環メタ位を触媒のチカラで狙い撃ち
  6. 熱活性化遅延蛍光 Thermally Activated Delayed Fluorescence (TADF)
  7. サリンを検出可能な有機化合物
  8. SNS予想で盛り上がれ!2022年ノーベル化学賞は誰の手に?
  9. 集積型金属錯体
  10. 化学研究特化型アプリまとめ

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年5月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

細谷 昌弘 Masahiro HOSOYA

細谷 昌弘(ほそや まさひろ, 19xx年xx月xx日-)は、日本の創薬科学者である。塩野義製薬株式…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP