[スポンサーリンク]

ケムステニュース

支局長からの手紙:科学と感受性 /京都

[スポンサーリンク]

「おもしろい発見をした人がいるんだよ」--知人から京都大学大学院教授の田村類さん(51)を紹介してもらいました。
01年ノーベル化学賞受賞者の野依良治さんの功績は「不斉(ふせい)合成の開発」でした。田村さんの発見はそれとは一味違う、というのです。
分子構造が解明される以前の19世紀、フランスの化学者、パスツール(1822~95)は、顕微鏡とピンセットを使って右型と左型の結晶を初めて分離しました。その時、分子にも右型と左型があるに違いないと考えました。その後、ごく最近まで、人工的に合成してできる左右両型分子が同量で、均一に混ざった物質(ラセミ体)からは、「(弱い物理の力では)対称性は破れない」(パスツール)、つまり右型と左型の分子を簡単には分離できない、と考えられていました。
そこで、野依さんは、有用な右型分子だけを人工的に作るための触媒を発見しました。
一方、田村さんは、ラセミ体の結晶をアルコールに溶かして一度溶液にしてから、フラスコとフィルターだけを使って、右型と左型の分子を簡単に分離する方法を発見したのです。パスツールの発見以来150年間信じられてきた「常識」を覆したわけで、天国のパスツールもびっくりしていることでしょう。
きっかけは偶然だったそうです。愛媛大助教授時代の93年、ある製薬会社と共同で、ラセミ体のアトピー用の薬剤の研究をしていて、溶液中で左右いずれか一方の型の分子だけが異常に溶け出し、しかも規則性があることを見つけたのです。(引用: 毎日新聞)

優先富化(Preferential Enrichment)というやつですね。なんか当て字のように思いますがこんな漢字書きます。田村教授らは抗アレルギー剤であるトシル酸スプラタスト(ST、下図)のラセミ体を合成して、その際再結晶を繰り返していてこの現象に気づいたそうです。ラセミの結晶を溶かして再結晶すると非常に高い光学収率の溶液が得られるってすごい面白いですよね。

2016-02-17_16-31-46

自然化学の一般誌に論文を投稿したとき、はじめはメカニズムを解明した段階で再投稿せよと相手にしてもらえなかったそうです。こういう研究ってわかりやすいが、メカニズム、どうしてこういうことが起こるの?っていうのを科学的に解明するのはなかなか難しいものです。今、似たようなことをやっているのでよくわかります。すべてが手探りで手法もわからず、本当なのか、本当に面白いのか、実験が単純・・・などなど。でも科学的に重要なことが隠されているかもしれません。

関連書籍

[amazonjs asin=”4591075133″ locale=”JP” title=”ノーベル賞100年のあゆみ〈3〉ノーベル化学賞”]
Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. ヘリウムガスのリサイクルに向けた検討がスタート
  2. キレーション療法ってなに?
  3. 米FDA立て続けに抗肥満薬承認:Qsymia承認取得
  4. 小6、危険物取扱者乙種全類に合格 「中学で理科実験楽しみ」
  5. 相次ぐ海外化学企業の合併
  6. CTCLS、製薬業界向けに医薬品の探索研究に特化した電子実験ノー…
  7. 静岡大准教授が麻薬所持容疑で逮捕
  8. 夢・化学-21 化学への招待

注目情報

ピックアップ記事

  1. 世界医薬大手の05年売上高、欧州勢伸び米苦戦・武田14位
  2. 「芳香族共役ポリマーに学ぶ」ーブリストル大学Faul研より
  3. リチャード・ヘック Richard F. Heck
  4. 「一家に1枚」ポスターの企画募集
  5. 第16回 結晶から結晶への化学変換 – Miguel Garcia-Garibay
  6. ライオン、男性の体臭の原因物質「アンドロステノン」の解明とその抑制成分の開発に成功
  7. ゲルマベンゼニルアニオンを用いた単原子ゲルマニウム導入反応の開発
  8. いまさら聞けない、けど勉強したい 試薬の使い方  セミナー(全5回) ~DOJIN 5 は語りだす~
  9. 過塩素酸カリウム (potassium perchlorate)
  10. 視覚を制御する物質からヒントを得た異性化反応

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2004年12月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP