[スポンサーリンク]

ケムステニュース

リサイクルが容易な新しいプラスチックを研究者が開発

[スポンサーリンク]

プラスチックは、リサイクルすると不純物が残ったりポリマー(重合体)の特性が劣化したりします。こうした問題を改善するため、研究者が新たにリサイクルが容易な「次世代プラスチック」を開発しました。 (引用:Gigazine4月27日)

マイクロプラスチックの問題が叫ばれ、プラスチック製品を削減する動きが加速している中、容易に”リサイクル”できる材料が開発されました。

この研究は、ローレンス・バークレー国立研究所、マテリアルサイエンス部門のBrett A. Helms博士らのチームによる成果です。この研究チームでは、機能性ポリマーやマイクロ、メソ構造体の開発を通してエネルギー、サステナビリティ、水、食料の問題の改善に取り組んでいるようです。

現状、プラスチックを解重合してリサイクルする方法は、不純物の混入や、リサイクル後にポリマーの性質が変わってしまうなどの品質的な問題や解重合するのに大がかりな装置が必要であるコストの問題があります。そのためアルミや鉄と比べてプラスチックのリサイクルは、クローズドループリサイクル(材料の持つ本来の性質を保ったまま同じ材料製品の原料として無限にリサイクル)の割合が低いのが課題となっています。そこでこの研究では、硫酸によって解重合できるモノマーの開発を行いました。

着目したのは、ß-triketonesとAminesの脱水反応によるDiketoenamine結合の形成です。下の図のように芳香族、脂肪族どちらのアミンでも可逆的に反応し、アミン同士の交換も可能である反応を応用しました。同様の研究は他の様々なC=O結合をもつ基質でも多数検討されていますが、リサイクルによって重合前と同じ構造のモノマーを回収できる分子の発見が本研究のカギとなっています。

ポリマーの重合、解重合で使用している反応機構(引用:研究室サイト

具体的に論文中では、TriketonesであるTK-6とTRENを使ってPoly(diketoenamine)、PDK-6(TREN)を合成したことを報告しています。さらにこのPDK-6(TREN)に硫酸を加えて加水分解後、固相は水と炭酸カリウムを加えて溶解され、水と塩酸によって純度の高いTriketonesを析出させることに成功しています。一方の液相は、イオン交換したのちに精製され、TRENを回収しています。このプロセスは、他のプラスチックが混じっていても、着色剤が混ざっていても、繊維の中に織り込まれていてもモノマーの回収に成功していて、ポリマーを選別しなくてもリサイクルできることを実証しています。さらに、リサイクルではないモノマーとリサイクルしたモノマーを比較して同等の熱物性を示すことも証明されています。アミンに関しては、TRENだけでなく他のアミンも加えることでポリマーの機械的、熱的物性を向上でき、高い応用範囲が示されています。

TriketoneとTRENの反応

冒頭での説明の通りプラスチックをモノマーに戻して再度プラスチックを作る現状の技術には改善の余地があり、大変興味深い研究だと思います。特に、熱をかけずに酸で解重合を行い、液相と固相でそれぞれのモノマーを回収できることは、スケールアップの可能性が容易に可能であると思います。気になる点は、複数のアミンを使ってポリマーを合成した場合に、モノマー回収率とその純度に影響があるのかどうかで、モノマーの処方に関係なくリサイクルできるのであれば応用範囲も広がり商業的にも使いやすくなるのではと思います。

着色した繊維の中からポリマーを取り出す過程と結果(引用:arstechnica)

ところで日本のプラスチックのリサイクル率は、84%と高い数値を出していて「こんな研究は不必要だ」と思うかもしれません。しかしながら、このリサイクルという言葉には、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、サーマルリサイクルという三つのリサイクル方法が含まれていて、燃やして発電したりすることもリサイクルとしてカウントしています。また安定供給という観点からマテリアルリサイクルに使われるプラスチックの多くが、産業で排出された廃プラスチックです。さらに、そのマテリアルリサイクルの中でも、同じ製品になるクローズドループリサイクルはペットボトルくらいで、他はカスケードリサイクルと呼ばれる別の性質の劣化・変化を伴うリサイクルとなっています。つまり、各家庭が頑張って分別したプラスチックの多くは、プラスチックに生まれ変わるのではなく、燃やされて電気になっているのが現状のようです。そのため、日本でも使い捨てプラスチックへの対策は必要で、サーマルリサイクルから脱却する必要があると考えられます。しかしながらストローの問題のようにプラスチックからの脱却が不便を伴う場合には、プラスチックのごみを同じ製品に戻すクローズドループリサイクルのほうが合理的であり、本研究のようなクローズドループリサイクルに関する研究は、二酸化炭素の排出を抑える上で重要であると言えます。

リサイクルの種類(引用:プラスチック循環利用協会

2016年廃プラスチックの処理方法(出典:プラスチック循環利用協会)

関連書籍

[amazonjs asin=”4880531898″ locale=”JP” title=”海洋プラごみ問題解決への道~日本型モデルの提案”] [amazonjs asin=”4781304982″ locale=”JP” title=”プラスチック再資源化の基礎と応用 (CMCテクニカルライブラリー―地球環境シリーズ)”]

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. バイエルワークショップ Bayer Synthetic Orga…
  2. 114番元素と116番元素が正式認可される
  3. 2012年の被引用特許件数トップ3は富士フイルム、三菱化学、積水…
  4. ケムステSlackが開設5周年を迎えました!
  5. 採用が広がるユーグレナのバイオディーゼル燃料、ユーグレナバイオジ…
  6. アルツハイマー病早期発見 磁気画像診断に新技術
  7. 第15回光学活性シンポジウム
  8. 112番元素にコペルニクスに因んだ名前を提案

注目情報

ピックアップ記事

  1. クリックケミストリー / Click chemistry
  2. ウィリアムソンエーテル合成 Williamson ether synthesis
  3. 印民間で初の17億ドル突破、リライアンスの前3月期純益
  4. 第一手はこれだ!:古典的反応から最新反応まで2 |第7回「有機合成実験テクニック」(リケラボコラボレーション)
  5. 論文投稿・出版に役立つ! 10の記事
  6. オキソニウムカチオンを飼いならす
  7. 1日1本の「ニンジン」でガン予防!?――ニンジンの効能が見直される
  8. Lectureship Award MBLA 10周年記念特別講演会
  9. 君はホンモノの潤滑油を知っているか?:自己PRで潤滑油であることをアピールする前に中身や仕組みを知っておこう
  10. 自励振動ポリマーブラシ表面の創製

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年4月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP