[スポンサーリンク]

ケムステニュース

石油化学プラントの設備内部でドローンを飛行する実証事業を実施

[スポンサーリンク]

経済産業省は、令和2年1月30日に出光興産株式会社千葉事業所において、石油化学プラントの設備内部でドローンを飛行させ、その安全性や法定検査(目視)を代替する可能性の検証を行いました。 (引用:経済産業省プレスリリース1月22日)

ドローンは、自然の空撮映像などを手軽に撮影できる機器ですが、産業分野への応用も検討されています。化学プラントでは、巨大なタンクや反応釜、蒸留塔などを配管でつなぎ合わせて大スケールの製造を行っています。屋外の設備は雨風によって腐食するため定期的なチェックが必要です。設備は高所にあることも多く、一つ一つ目視で確認していくのは大変です。またタンク内部の場合には、製品を抜き取り人が入っても問題ないことを確認してから作業が始まるため、綿密な計画が必要です。また危険物を製造、貯蔵する設備については、一年に一回の定期点検が法令によって義務付けられています。さらに、タンクの場合には7年から15年に一回、内部を検査する保安検査も必要になってきます。筆者はプラントに併設された研究所で働いていますが、設備チームの方は土日の出勤も多く、大変な仕事であると感じています。そんな安全を確保するために必要な点検をドローンを使って代替できないか検討したのが今回のニュースです。

検証に行われたのは出光興産株式会社千葉事業所で、タンクの内部でドローンを飛行させ内部の状態を撮影しました。検査はドローンを使ったサービスを行っているブルーイノベーション株式会社Flyability社製ドローン「ELIOS2」を使って行い、人間による目視の代替となるかの検証と、設備内部での飛行の安全性を考えたガイドラインを改定するための課題整理を行いました。ELIOS2にはフルHDカメラと高輝度LEDが装備されているため撮影能力には問題ないと考えられますが、飛行しながらの撮影によって取りこぼしなく撮影できるのかが気になるところです。また、カーボンファイバーの囲いを有しているため、壁に接触して墜落することはありませんがバッテリー切れや電波の届かない遠いところまでの飛行によって行方不明になった場合の対処も考慮する必要があると思います。

経済産業省による検証は、2019年2月ににJXTGエネルギー株式会社根岸製油所にて原油タンクの上部をドローンにて撮影することも行われています。さらに、企業が独自にドローンを活用している場合では、JSR株式会社がガスを燃焼して無害化するフレアスタックのバーナー部の点検に、三菱ケミカル株式会社でもフレアスタックに関する点検にドローンを使用したそうです。試行の結果、高所の点検を運転中にも実施できる一方、危険物への対応や高所でのコントロールについて課題があることが分かったそうです。海外の企業では、積極的に導入研究を行っていて、ドローンを使った設備の点検のほか、種々のセンサーを搭載しガス漏洩検知も行われています。

経済産業省では、ドローンが活用できる場面を三つに分類してガイドラインを作成しています。法令点検をドローンで代替するための検証及びガイドラインの制定ということで、日本的な技術開発の手法だと思いますが、人の場合と比べることで、コストや安全性、効率の違いを比べることができるわけで、ドローンの使い方についても検査手法の開発が進むのではないかと思います。例えばドローンで撮影した画像をAIによって解析し自動的に不具合な個所を検出してくれるシステムの研究が進んでいるため、プラントでの応用も進むと考えられます。人が点検するにしても目視する場所や見方はガイドラインに明記されていて、人によって結果にばらつきがないようにしています。人がドローンに代わってもドローンの機種やその操縦者によって、結果が変わらないようにするためにはガイドラインの制定が必要だと思います。

プラントを保有する各会社は、ドローンを使った既存技術の置き換えだけでなく、新たな活用方法の研究も積極的に推進してほしいと思います。

関連書籍

関連リンク

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 磁性液体:常温で液体になる磁性体を初発見 東大大学院
  2. アミノ酸「ヒスチジン」が脳梗塞に有効――愛媛大が解明
  3. のむ発毛薬の輸入承認 国内初、年内にも発売へ
  4. 支局長からの手紙:科学と感受性 /京都
  5. タンニンでさび防ぐ効果 八王子の会社
  6. 大日本製薬と住友製薬が来年10月合併・国内6位に
  7. ヤンセン 新たな抗HIV薬の製造販売承認を取得
  8. 人の鼻の細菌が抗菌作用がある化合物をつくっていたーMRSAに効果…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 親子で楽しめる化学映像集 その1
  2. 可視光酸化還元触媒 Visible Light Photoredox Catalyst
  3. 有機アジド(1):歴史と基本的な性質
  4. 海外で働いている僕の体験談
  5. セルロース由来バイオ燃料にイオン液体が救世主!?
  6. 難攻不落の不斉ラジカルカチオン反応への挑戦
  7. 実験器具・設備の価格を知っておきましょう
  8. ヒュッケル法(後編)~Excelでフラーレンの電子構造を予測してみた!~
  9. 論文執筆で気をつけたいこと20(2)
  10. ポロノフスキー開裂 Polonovski Fragmentation

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年2月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
242526272829  

注目情報

最新記事

Let’s Make Wave , Make World. −マイクロ波で!プロセス革新ワークショップ −

<内容>マイクロ波のプロと次世代プロセスへの転換に向けた勘所を押さえ、未来に向けたイノベーシ…

ゲルマベンゼニルアニオンを用いた単原子ゲルマニウム導入反応の開発

第566回のスポットライトリサーチは、京都大学化学研究所 物質創成化学研究系 有機元素化学領域 (山…

韮山反射炉に行ってみた

韮山反射炉は1857年に完成した静岡県伊豆の国市にある国指定の史跡(史跡名勝記念物)で、2015年に…

超高圧合成、添加剤が選択的物質合成の決め手に -電池材料等への応用に期待-

第565回のスポットライトリサーチは、東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 東・…

「ハーバー・ボッシュ法を超えるアンモニア合成法への挑戦」を聴講してみた

bergです。この度は2023年9月8日(金)に慶応義塾大学 矢上キャンパスにて開催された西林教授の…

(+)-Pleiocarpamineの全合成と新規酸化的カップリング反応を基盤とした(+)-voacalgine Aおよび(+)-bipleiophyllineの全合成

第564回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院薬学研究科分子薬科学専攻・医薬製造化学分野(徳山…

ResearchGateに対するACSとElsevierによる訴訟で和解が成立

2023年9月15日、米国化学会(ACS)とElsevier社がResearchGateに対して起こ…

マテリアルズ・インフォマティクスの基礎知識とよくある誤解

開催日:2023/10/04 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

理研、放射性同位体アスタチンの大量製造法を開発

理化学研究所 仁科加速器科学研究センター 核化学研究開発室、金属技研株式会社 技術開発本部 エン…

マイクロ波プロセスを知る・話す・考える ー新たな展望と可能性を探るパネルディスカッションー

<内容>参加いただくみなさまとご一緒にマイクロ波プロセスの新たな展望と可能性について探る、パ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP