[スポンサーリンク]

ケムステニュース

マンダムと京都大学、ヘアスタイルを自然な仕上がりのままキープする整髪技術を開発

[スポンサーリンク]

マンダムは20日、毛髪の内側から作用し、湿気があっても髪形が崩れにくい整髪技術を京都大学と共同で開発したと発表した。従来の整髪料は毛髪の外側を固めるが、新技術は成分が毛髪の内部に染み込んで内側の構造を強くする仕組みだ。湿度が高くても髪が崩れにくく、今後、ヘアワックスなどの商品開発に応用する。 (引用:日本経済新聞6月20日)

ワックスやジェルなどの整髪料は、髪の毛につけて髪型を思いのままにセットするものです。自分も高校生の頃はいろいろなワックスを試し、時には手のひらで”ブレンド”してみたりと”研究”を行っていました。湿気が少ない時は、うまく髪がまとまりますが、雨が降っていて湿気が多い時は、あまりうまくセットできなかった思い出があります。本研究では、その湿気でヘアスタイルが崩れないような新しい整髪剤の開発を行いました。

様々なタイプの整髪料が販売されている。

そもそも髪はケラチンと呼ばれるたんぱく質が主成分で、共有結合、イオン結合、水素結合によって構造を保っています。パーマは、共有結合のうちジスルフィド結合を化学的に切断、再結合することで希望の髪型を作る技術です。一方、タンパク質同士の水素結合は弱く湿気によって切れてしまうので、人によっては雨の日は、髪がカールしやすくなっています。従来の整髪料は髪の外側から固定するので、湿気によって髪内部の水素結合が切断されると内部の変化に耐えきれず思い通りの髪型を作ることができませんでした。もちろん、使う整髪料を増やせばセット力は上がりますがツヤが強くなり、自然な仕上がりが求められる現代には敬遠されてしまいます。そこで、根本的に湿気に強い整髪料を開発するため、髪の内部に浸透してアミノ基同士を水素結合で繋ぐことをコンセプトに、適切な化合物の探索を行いました。その結果、二塩基酸類であるα-ケトグルタル酸に着目し各種、分析を行いました。

新しい整髪料のコンセプト(引用:プレスリリース

α-ケトグルタル酸

具体的に、赤外吸収スペクトルによって毛髪の内部にα-ケトグルタル酸が浸透していることを確認し、SAXS(X 線小角散乱法)でα-ケトグルタル酸が作用することでタンパク質の配列が規則正しくなっていることを確認しました。そして実用的な効果を調べるためにカールさせた髪にα-ケトグルタル酸を作用させ、室温 25℃湿度 80%の高湿度環境下で放置し、2 時間後の毛束のカールがどの程度維持するかを測定しました。通常、湿気によって内部の水素結合が切れてカールが伸びますが、α-ケトグルタル酸を作用させるとカールの伸び抑制率が高く、キープ力が向上していることがわかりました。また、髪の毛の束に塗布をして、自然なツヤになっていることも確認しました。

毛髪内でのイメージ(引用:プレスリリース

本研究は、男性向け製品を多く販売しているマンダムと京都大学 化学研究所 中村研究室の高谷光准教授、磯﨑勝弘助教らの共同研究の成果で、2019 年 9 月 30 日~10 月 2 日イタリア・ミラノで開催される「第 30 回国際化粧品技術者会(IFSCC Conference)」において発表されるそうです。

身近な化学品に関する研究が大学との共同研究で開発されることは稀で、大変興味深いプレスリリースだと思いました。実験もシンプルでこのような研究で化学をより身近に感じてほしいと思います。今後マンダムは他の化学品と配合して商品化を行うと考えられますが、ぜひこの効果を活かせるような配合で商品を開発してほしいと思います。パーマをすることが髪型を自由に変える近道ですが、髪へのダメージも大きく、また高校によってはパーマを禁止しているので若い世代に需要があるのではと思います。またスポーツ中に汗をかいても髪型をキープできるかもしれません。さらにマンダムはインドネシアで全体の20%以上の売り上げがあります。そのため高温多湿な東南アジアをターゲットにした製品にも十分応用できる技術ではないかと思います。

関連書籍

[amazonjs asin=”4521733646″ locale=”JP” title=”あたらしい皮膚科学”] [amazonjs asin=”4907002459″ locale=”JP” title=”粉粒体/多孔質材料の計測とデータの解釈/使い方”]

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 酸化グラフェンに放射性物質を除去する機能が報告される
  2. 房総半島沖350キロに希少金属 広範囲に
  3. ナノチューブブラシ!?
  4. 身近な食品添加物の組み合わせが砂漠の水不足を解決するかもしれない…
  5. 2021年化学企業トップの年頭所感を読み解く
  6. 武田薬品工業、米バイオベンチャー買収へ 280億円で
  7. 小児薬、大人用を転用――アステラス、抗真菌剤
  8. 白い粉の正体は…入れ歯洗浄剤

注目情報

ピックアップ記事

  1. 令和4年度(2022年度)リンダウ・ノーベル賞受賞者会議派遣事業募集開始のお知らせ
  2. iPhone/iPod Touchで使える化学アプリ-ケーション【Part 3】
  3. #おうち時間を充実させるオンライン講義紹介 ーナノテクー
  4. キレトロピー反応 Cheletropic Reaction
  5. 黒板に描くと着色する「魔法の」チョークを自作してみました
  6. 第5回慶應有機化学若手シンポジウム
  7. 第70回―「ペプチドの自己組織化現象を追究する」Aline Miller教授
  8. MI×データ科学|オンライン|コース
  9. リチャード・ヘック Richard F. Heck
  10. ノーベル化学賞、米仏の3氏に・「メタセシス反応」研究を評価

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年7月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

Host-Guest相互作用を利用した世界初の自己修復材料”WIZARDシリーズ”

昨今、脱炭素社会への実現に向け、石油原料を主に使用している樹脂に対し、メンテナンス性の軽減や材料の長…

有機合成化学協会誌2025年4月号:リングサイズ発散・プベルル酸・イナミド・第5族遷移金属アルキリデン錯体・強発光性白金錯体

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年4月号がオンラインで公開されています!…

第57回若手ペプチド夏の勉強会

日時2025年8月3日(日)~8月5日(火) 合宿型勉強会会場三…

人工光合成の方法で有機合成反応を実現

第653回のスポットライトリサーチは、名古屋大学 学際統合物質科学研究機構 野依特別研究室 (斎藤研…

乙卯研究所 2025年度下期 研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

次世代の二次元物質 遷移金属ダイカルコゲナイド

ムーアの法則の限界と二次元半導体現代の半導体デバイス産業では、作製時の低コスト化や動作速度向上、…

日本化学連合シンポジウム 「海」- 化学はどこに向かうのか –

日本化学連合では、継続性のあるシリーズ型のシンポジウムの開催を企画していくことに…

【スポットライトリサーチ】汎用金属粉を使ってアンモニアが合成できたはなし

Tshozoです。 今回はおなじみ、東京大学大学院 西林研究室からの研究成果紹介(第652回スポ…

第11回 野依フォーラム若手育成塾

野依フォーラム若手育成塾について野依フォーラム若手育成塾では、国際企業に通用するリーダー…

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP