[スポンサーリンク]

天然物

ブラシノステロイド (brassinosteroid)

 

ブラシノステロイドは、植物ホルモンのひとつ。ブラシノライドやカスタステロンなど、ステロイド骨格を持ち、同様の生理活性を持つ化合物の総称です。

ブラシノライド(brassinolide)は、植物の成長を促進する物質として、アブラナ(Brassica napus )の花粉より発見され、1979年に構造決定されました[1]。カスタステロン(castasterone)は、クリ(Castanea crenata )の虫こぶより発見され、1982年に構造決定されました[2]。ブラシノライドとカスタステロンは、いずれも受容体タンパク質と直接に相互作用し、少量でよく効く高い生理活性を持ちます。生合成経路では、カスタステロンはひとつ上流、ブラシノライドはひとつ下流です。

GREEN2013br022.png

ブラシノステロイドは植物体内でほとんど輸送されることがないと考えられています。部位特異的発現プロモータを使った遺伝子組換シロイヌナズナを使った実験によると、主に表皮生合成され、表皮作用して、植物の形態を制御しています[9]。ブラシノステロイドの機能が欠損したシロイヌナズナは、おしなべて個体サイズが小さく、葉柄が不完全で特有の形態をしています。トウモロコシでは、ブラシノステロイドの機能を抑制すると、雄花が雌花になる現象が観察されます[14]。

ブラシノステロイドの受容体

ブラシノステロイドの受容体は、BRI1タンパク質とそのホモログです。このタンパク質は植物細胞の細胞膜にあります。動物のステロイドホルモンの受容体が細胞内にある点とは対照的です。カスタステロン誘導体を使った光親和標識によれば、BRI1タンパク質のブラシノステロイド認識領域は、細胞外にあります[8]。2011年には結晶構造解析によって、BRI1タンパク質がブラシノライドを認識する構造基盤が解き明かされました[12],[13]。

ブラシノステロイド受容体であるBRI1タンパク質は、ブラシノステロイドを認識すると、エンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれます。この過程は、カスタステロン誘導体を使った蛍光標識のライブイメージングで観察されています[15]。ブラシノステロイド本来の生理活性には、ブラシノステロイド受容体であるBRI1タンパク質が細胞のあるべきところに分布している必要であり、BRI1タンパク質への糖鎖修飾が役割に不可欠です[10]。

ブラシノステロイドの化学合成

ブラシノステロイドを投与すると、農作物が劣悪な環境下でも育つようになるとされます。しかし、植物成長調節剤として用いるには高価なこと、日本のように整った環境で育てられた農作物には有効でないことから、ブラシノステロイドの農薬開発はあまり行われていません。

GREEN2013br03.png

化学合成されたブラシノステロイドを購入することは可能です。例えば、有限会社ブラシノ[3]では、実用合成として1987年に報告された方法[4]でブラシノステロイド類縁体を作っています。このブラシノステロイド標品は、一部の高等学校で理科教育に活用されています[3]。

ブラシノステロイドの作用を撹乱する化学物質

ブラシノステロイドの生合成阻害剤として、最初期に開発が進められ、よく知られるようになった試薬に、ブラシナゾールがあります[6]。ブラシナゾールは、ブラシノステロイド前駆体にヒドロキシ基を入れるシトクロムP450のひとつであるDWARF4タンパク質と直接に相互作用して酵素活性を阻害します[7]。

GREEN2013br04.png

ブラシナゾール以外にブラシノステロイドの作用を抑える化合物

この他、ブラシノステロイドの作用を抑制する化合物には、受容体拮抗剤としてブラシノライドアセトニドがあります[16]。また、標的は不明であるもののカビ(Drechslera avenae)から単離された天然有機化合物であるKM-01も知られています[5]。

GREEN2013br05.png

ブラシノステロイドの作用を起こす化合物

ブラシノステロイドの作用を促進する化合物にはビキニンがあり、これはブラシノステロイド受容体の下流にあるBIN2キナーゼを標的にしています[11]。本来BIN2キナーゼは、さらに下流にある転写因子をリン酸化して機能を抑制することで、ブラシノステロイドのシグナル伝達を遮断しています。ブラシノステロイド存在下では、BIN2キナーゼはリン酸化の酵素活性を失い、負の制御が解除された転写因子はブラシノステロイド応答に関与する遺伝子の発現を誘導します。ビキニンはBIN2キナーゼの酵素活性を阻害するため、ブラシノステロイドの有無に関係なく、ブラシノステロイドのシグナル伝達がオンになります。実際、ブラシノステロイド生合成酵素に変異があるシロイヌナズナだけでなく、ブラシノステロイド受容体に変異があるシロイヌナズナでも、ビキニンを投与するとブラシノステロイドと同じ作用が観察されます[11]。

ブラシノライドの分子モデル

GREEN2013brassinosteroidmovie.gif

参考文献

  1. “Brassinolide, a plant growth-promoting steroid isolated from Brassica napus pollen.” Grove MD et al. Nature 1979 DOI: 10.1038/281216a0
  2. “Castasterone, a new phytosterol with plant-hormone potency, from chestnut insect gall.” Takao Yokota et al. Tetrahedron Lett. 1982 DOI: 10.1016/S0040-4039(00)87081-1
  3. 有限会社ブラシノ(http://www.brassino.co.jp/)
  4. “Facile syntheses of brassinosteroids: Brassinolide, castasterone, teasterone and typhasterol.” Masakazu Abutani et al. Agric. Biol. Chem. 1987 DOI: 10.1271/bbb1961.51.190
  5. A brassinolide-inhibitor KM-01, its isolation and structure elucidation from a fungus Drechslera avenae. Kim SK et al. Tetrahedron Lett. 1994 DOI: 10.1016/0040-4039(94)88331-9
  6. “New lead compounds for brassinosteroid biosynthesis inhibitors.” Min YK et al. Bioorg. Med. Chem. 1999 DOI: 10.1016/S0960-894X(99)00008-6
  7. “Selective interaction of triazole derivatives with DWF4, a cytochrome P450 monooxygenase of the brassinosteroid biosynthetic pathway, correlates with brassinosteroid deficiency in planta.” Tadao Asami et al. J. Biol. Chem. 2001 DOI: 10.1074/jbc.M103524200
  8. “Binding of brassinosteroids to the extracellular domain of plant receptor kinase BRI1.” Toshinori Kinoshita et al. Nature 2005 DOI: 10.1038/nature03227
  9. “The epidermis both drives and restricts plant shoot growth.” Sigal Savaldi-Goldstein et al. Nature 2007 DOI: 10.1038/nature05618
  10. “Allele-specic suppression of a defective brassinosteroid receptor reveals a physiological role of UGGT in ER quality control.” Jin H et al. Mol. Cell 2007 DOI: 10.1016/j.molcel.2007.05.015
  11. “Chemical inhibition of a subset of Arabidopsis thaliana GSK3-like kinases activates brassinosteroid signaling.” Rybel BD et al. Chem. Biol. 2009 DOI: 10.1016/j.chembiol.2009.04.008
  12. “Structural basis of steroid hormone perception by the receptor kinase BRI1.” Hothorn M et al. Nature 2011 DOI: 10.1038/nature10153
  13. “Structural insight into brassinosteroid perception by BRI1.” She J et al. Nature 2011 DOI: 10.1038/nature10178
  14. “Brassinosteroid control of sex determination in maize.” Hartwig T et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2011 DOI: 10.1073/pnas.1108359108
  15. “Fluorescent castasterone reveals BRI1 signaling from the plasma membrane.” Irani NG et al. Nature Chem. Biol. 2012 DOI: 10.1038/nchembio.958
  16. “Brassinolide-2,3-acetonide: A brassinolide-induced rice lamina joint inclination antagonist.” Takuya Muto et al. Bioorg. Med. Chem. 2013 DOI: 10.1016/j.bmc.2013.04.048
The following two tabs change content below.
Green

Green

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。
Green

最新記事 by Green (全て見る)

関連記事

  1. 酢酸フェニル水銀 (phenylmercuric acetate…
  2. アザジラクチン あざじらくちん azadirachtin
  3. カルタミン
  4. グルコース (glucose)
  5. モルヒネ morphine
  6. サラシノール/Salacinol
  7. カルボラン carborane
  8. シスプラチン しすぷらちん cisplatin

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 「重曹でお掃除」の化学(その2)
  2. “マイクロプラスチック”が海をただよう その1
  3. フラクタルな物質、見つかる
  4. 米デュポンの7-9月期、ハリケーン被害などで最終赤字
  5. 「人工知能時代」と人間の仕事
  6. クライゼン縮合 Claisen Condensation
  7. Reaxys PhD Prize 2016ファイナリスト発表!
  8. 光分解性シアニン色素をADCのリンカーに組み込む
  9. アイルランドに行ってきた①
  10. 【書籍】研究者の仕事術~プロフェッショナル根性論~

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

二重芳香族性を示す化合物の合成に成功!

第170回目のスポットライトリサーチは、埼玉大学大学院理工学研究科・古川 俊輔 助教にお願いしました…

専門家要らず?AIによる圧倒的高速なスペクトル解釈

第169回目のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科博士課程・清原慎さんにお願いしまし…

日本プロセス化学会2018ウインターシンポジウム

ご案内日本プロセス化学会(JSPC)が年2回主催するシンポジウムは、最新のプロセス化学の知識を習…

フラーレンの“籠”でH2O2を運ぶ

過酸化水素分子内包フラーレン誘導体を、大気圧・室温条件下で合成する方法が開発された。分子内包フラ…

北エステル化反応 Kita Esterification

概要ルテニウム触媒存在下、エチニルエチルエーテル試薬を脱水剤として用い、カルボン酸とアルコールか…

一人二役のフタルイミドが位置までも制御する

N-ヒドロキシフタルイミドを用いる逆マルコフニコフ型のヒドロアミノ化が報告された。遷移金属触媒および…

PAGE TOP