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はやぶさ2が持ち帰った有機化合物

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小惑星リュウグウから始原的な「塩(Salt)」と有機硫黄分子群を発見(9月18日JAMSTECプレスリリース)

小惑星リュウグウに核酸塩基とビタミンが存在!~生命誕生前の分子進化と生命の起源解明に期待~(3月22日JAMSTECプレスリリース)

炭素質小惑星(162173)リュウグウの試料中の可溶性有機分子(2月24日JAMSTECプレスリリース)

最近、はやぶさ2が地球に持ち帰った試料の分析結果について論文が発表されましたので、2023年に報告された他の研究成果を含めて内容を紹介します。

まずはやぶさ2について振り返ると、小惑星リュウグウ (162173)の試料を持ち帰ることを目的に、小惑星探査機はやぶさ2は開発されました。リュウグウには、太陽系が生まれた頃の水や有機物が今でも残されていると考えられており、試料を回収し地球に持ち帰って分析することで地球の水はどこから来たのか、生命を構成する有機物はどこでできたのか太陽系の誕生と生命誕生の秘密に迫ることができるとしています。

実際にはやぶさ2は、2014年12月3日にH-IIAロケットで打ち上げられ、2019年にはリュウグウに接近し、タッチダウン、試料回収を行いました。その後、地球への帰還を始め、2020年12月5日には試料が入ったカプセルが地球に投下され翌日には、オーストラリアで回収されました。その後はやぶさ2は、拡張ミッションのため別の天体1998 KY26に向けて今も航行を続けています。

リュウグウから持ち帰ったサンプルは約5.4 gにもなり、2021年6月より種々の分析が開始されました。分析は日本を中心に 14 カ国、109 の大学と研究機関、269 名が参加し、分野によって6チームに分かれて分析が行われています。

1. 化学分析チーム:北海道大学 圦本 尚義 教授

2. 石の物質分析チーム:東北大学 中村 智樹 教授

3. 砂の物質分析チーム:京都大学/九州大学 野口 高明 教授

4.揮発性成分分析チーム:九州大学 岡崎 隆司 准教授

5.固体有機物分析チーム:広島大学 薮田 ひかる 教授

6. 可溶性有機物分析チーム:九州大学 奈良岡 浩 教授

(2021年5月当時のチームリーダー、出典:京都大学プレスリリース)

ここで紹介する研究成果は、可溶性有機物分析チームを中心に行われましたが、著者として複数のチームリーダーの先生方が名を連ねており、他のチームも協力して成し遂げられたようです。

ではプレスリリースの内容に移ります。まず2023年2月にはScience誌に可溶性有機分子についての研究成果が発表されました。

この研究では、まずリュウグウの試料の元素分析と同位体比測定を行い、揮発性軽元素CHNOSの合計が約21.3%であることを確認しました。この元素量は、今まで報告された炭素質隕石中の量と比較して最も多い部類に属し、リュウグウが揮発性元素に富んだ天体であることが明らかになりました。

次にリュウグウの試料をメタノールで抽出し、電子スプレーイオン化法(ESI)および大気圧光イオン化法(APPI)でイオン化しFT-ICR/MSで分析したところ、CHN、 CHS、 CHNO、 CHOS、 CHNOSからなる分子量700くらいまでの有機分子イオンが約2万種発見されました。これによりメチル化や水酸化などの有機分子の連続した反応が起きていることが示されました。一方、熱水抽出物については、液体クロマトグラフィーで分析が行われ、ラセミ体の非タンパク質性アミノ酸が合わせて15種類を検出されました。

アルキルピリジン同族体(CnH2n-4N+)について、よく研究されているマーチソン隕石の分布と異なり、8から16で極大が11であったの対して、リュウグウでは主に炭素数11から22に分布し、極大炭素数は17であることが確認されました。これについて有機分子の合成が水の作用や宇宙線などの要因によって左右されるとしています。

まとめると、リュウグウ試料からは、今まで炭素質隕石に見られた有機分子の多様性に匹敵するほどの多様な可溶性有機分子が検出されました。当初はリュウグウ表面は高温の環境下にあり、有機物は分解した可能性が示唆されましたが、実際に存在する強い熱変質に特徴的な有機分子は示されず、水質変質作用を強く受けた炭素質隕石の有機物分布と似ていることが分かりました。リュウグウのような小惑星表面は高真空下、太陽光加熱や紫外線照射、高エネルギー宇宙線などの過酷な条件に置かれていますが、今回の研究はその最表面に有機分子が鉱物に守られて存在していることが示されました。

 

次に発表された2023年3月のNature Communicationでは、熱水抽出物をより詳しく分析しました。具体的には熱水抽出物を酸加水分解し、高速液体クロマトグラフィー/電子スプレーイオン化/超高分解能質量分析法で含まれる分子の構造解析を行いました。

結果、リュウグウの試料からウラシルとニコチン酸が検出されました。

MSによって検出されたウラシルとその構造異性体、A0106が最表層サンプル、C0107が地表下サンプル(出典:原著論文

MSによって検出されたニコチン酸とその構造異性体(出典:原著論文

そしてその濃度は、最表層サンプルよりも地表下サンプルの方が高く、リュウグウの最表層での宇宙線や真空紫外光による分解の影響が強く示唆されました。

小惑星リュウグウの表層及び地下環境の物理化学因子モデルの概要(出典:JAMSTECプレスリリース)

また、メタノール抽出物からは、ウラシルやニコチン酸だけでなく、ピリミジンやオキサゾールなど種々の窒素複素環化合物が検出されました。

本研究で小惑星リュウグウに存在を確定させた主な窒素複素環化合物の構造(出典:JAMSTECプレスリリース)

これらの窒素複素環化合物の分布は、極低温の星間分子雲を模擬した環境での光化学反応生成物とよく一致しており、少なくとも一部は太陽系形成前の光化学反応で生成したと推測されます。一方で低温光化学反応のみでは再現できない分子も含まれており、太陽系形成時に生成したと考えられる初生的成分が混在しているとしています。

 

そして最新の研究では、塩と硫黄化合物について調査が行われました。

分析方法としては、熱水抽出物をさらに、ジクロロメタン+メタノール、ギ酸、塩酸と順番に抽出し、それらをイオンクロマトグラフィー、イオンクロマトグラフィー質量分析、ICP-MSで分析しました。

まず含まれるMg, Ca, Naの比について、リュウグウではNaに富むことが判明しました。ナトリウムイオンは、鉱物や有機物の表面電荷を安定化させる電解質として働き、また一部は、揮発性の低分子有機物などとイオン結合を介したナトリウム塩を形成していると考えられます。

抽出液に含まれるマグネシウム、カルシウム、ナトリウムとカリウムのモル濃度の総和に対する各陽イオンのモル比を示す。リュウグウA0106とC0107は赤色、地球に落下したオルゲイユ隕石は黄色、その他の代表的な炭素質隕石は水色、対照実験で用いた地球の蛇紋岩をオリーブ色で示す。(出典:JAMSTECプレスリリース)

次に硫黄の分子種について、様々な価数をもつイオン種や無機塩と共存していることが判明しました。

イオンクロマトグラフィーやMSを用いた硫黄化合物の検出(出典:原著論文)

鉄やニッケルの硫化物が水質変成を受けることで、親水性や両親媒性をもつ様々な硫黄を含む有機分子に変化したと考えられます。また難溶性の硫黄同素体へ変化する準安定な親水性硫黄分子群も新たに発見され、多様な化学反応の痕跡が記録されていました。

天然に存在する硫黄の化学種と、本研究のイオンクロマトグラフィーと超高分解能質量分析法によって検出されたリュウグウの硫黄化学種(オレンジの枠)。紺の矢印は予想される化学反応経路(矢印)、赤線は無機イオンからこれらの含硫黄有機物へのエステル化などの反応経路、紫色の線は硫黄同素体(S8)に安定化する反応経路を示す。(出典:JAMSTECプレスリリース)

小惑星リュウグウサンプルの熱水抽出画分から新たに発見した有機硫黄分子群の構造(出典:JAMSTECプレスリリース)

今年の始めの発表から段々と分析方法が複雑になり、それに伴いより詳しい化学構造まで解明されるようになってきているのが発表を追うことで分かりました。リュウグウのサンプルは5.4 gありますが、他の研究にも使われまた一部はJAXAとNASAとの契約によってサンプルを交換したため、この目的に使える量は限られていたと想像できます。論文の著者を見ると分析機器メーカーの方も含まれており、産学の連携があったからこそ、サンプル量が限られた状況でも分析に成功し素晴らしい研究成果を出すことができたと考えられます。

NASAでも小惑星からサンプルを回収し地球に持ち帰るプロジェクトが進められており、2016年9月に打ち上げられた探査機オシリス・レックスは小惑星ベンヌに接近し、9月25日には推定約250グラムの試料が入ったカプセルの回収が地球に到達しています。

上記の通りJAXAとNASAの契約によりJAXAはベンヌの試料0.5%を受け取るため、こちらの化学的な分析とそれのリュウグウとの比較に期待します。はやぶさ2とオシリス・レックスのサンプル回収量を比べるとオシリス・レックスの方が圧倒的に多いですが、はやぶさ2では2回のタッチダウンを行い、2種類のサンプルを回収しています。特に2023年3月の発表では、そのサンプルの違いについて考察されており、はやぶさ2ならではの成果もあると言えるのではないでしょうか。

話をこの研究成果に戻すと、リュウグウにおいて熱水や宇宙線によって化学反応が促進され様々な有機化合物が生成したと考察されています。それは地球外でも有機分子が生成することを意味し、まだ発見されていない惑星には生命がいるかもしれません。

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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