[スポンサーリンク]

ケムステニュース

製薬各社 2010年度 第1四半期決算を発表

[スポンサーリンク]

  7月末から8月にかけて、製薬各社の2010年度第1四半期決算が出揃いました。2010年問題を抱える国内製薬大手4社、武田薬品第一三共アステラスエーザイの決算をざっくりまとめてみました。

四半期決算とは1年の4分の1、つまり3ヶ月分の決算を指します。今回は第1四半期、つまり4月から6月末の3ヶ月間の決算を指します。株式上場企業は四半期ごとに四半期決算短信を証券取引所に提出・開示します。さらに、ほとんどの会社は投資家向けに四半期決算説明会を開きます。その会社のHPの株主向けIR情報を探れば必ず載っています。最近ではその説明会を動画で見ることもでき、会社の現状をリアルに知ることができます。

 

武田薬品 減収減益

売上高は前年比6.4%減の3547億円。本業の儲けを示す営業利益は14.6%減の1073億円。純利益は43.1%減の641億円。武田の痛手はなんといっても09年に特許満了を迎えた抗潰瘍剤タケプロンの売上げ減です。タケプロンの売上げはアメリカで44.6%減の387億円とほぼ半減。日本でも5.7%減の172億円。皆さん!これは3ヶ月間の売上げであることをお忘れなく。1年間にすると掛ける4だから・・・ざっくり1000億円の売上げがジェネリックに奪われることになります。これも計算通りなのか?通期(1年間)の予想は修正していません。09年に約3800億円を売り上げた糖尿病治療薬アクトスの特許満了も迫ってきました!数年間は売上げ減が続くことでしょう。新卒採用も厳しくなることが予想されます。

 

第一三共 増収増益 

売上高は前年比12.9%増の2564億円。営業利益は128.1%増の611億円。前年赤字だった純利益も331億円を確保した。前年赤字だったと書きましたが、売上げがどっと落ちたとかではなく、買収したインドジェネリック大手ランバクシー社関連の損失によるものです。今年度からは落ち着きを取り戻したランバクシーが売上げ・利益とも大きく貢献して、大幅増収・増益となりました。第一三共は他社に比べるとやや安泰と言えるかもしれません。が、大きな成長も・・・?。これからの第一三共の大黒柱になるはずの、抗血小板薬エフィエントの売上げはまだ8億円止まりです。エフィエントは今年度から本格的に販売が始まった新薬です。適用疾患拡大などで年間売り上げ1000億円以上を目指したいものです。通期業績予想は据え置きました。ランバクシー社の第2四半期決算の結果によっては修正することもある、だそうです。

 

アステラス 減収減益

売上高は前年比5.8%減の2375億円。営業利益は18.6%減の563億円。純利益は10.3%減の395億円。アメリカで08年、09年にそれぞれ特許満了を迎えたプログラフとハルナールのジェネリックによる市場侵食をもろに受けて大幅減収・減益となりました。ただ、この程度は予想の範囲内と説明がありました。免疫抑制剤プログラフのアメリカにおけるジェネリック処方箋占有率は47.2%で、ほぼ飽和状態になりつつあるようです。排尿障害改善剤ハルナールはアメリカで売上げ70%減。日本でも16%減で、売上げはこれからも下がることが予想されます。また、通期予想は下方修正されました。ただ、ジェネリックによる売上げ減が予想を上回っているというわけではありません。アステラスは欧州での売上げ比率の高いことから最近のユーロ安による為替損失が主たる要因です。また、アステラスは今年6月にOSI Pharmaceuticalsを3135億円で買収しました。

 

エーザイ 増収増益 

売上高は前年比5%増の2045億円。営業利益は35.7%増の328億円。純利益は14.9%増の188億円。大黒柱であるアルツハイマー病治療薬アリセプトが好調で10.9%増の829億円を売り上げた。売上げ全体の40%です。このアリセプトが今年11月にアメリカでの特許満了を迎えます。市場をほぼ独占している上に化学構造がシンプルということでジェネリックがあっという間に広まることが予想されます。こんな中、エーザイは最後の一手を投じることに成功しています。今年8月から新剤形アリセプト23mg徐放製剤の販売にこぎつけました。新たに開発した23mg製剤が臨床試験の結果、既存の製剤(10mg錠)に勝る効果を示したことから、FDAが新剤形として販売を認めました。新剤形は3年間のデータ保護期間が与えられるため、その間は物質特許が切れていてもこの剤形のジェネリックを販売することはできません。特許が切れる前に既存製剤から新23mg製剤への転換を進め、かつジェネリック(既存の製剤)より高い効果を市場が認めれば、大きな売上げ減少を抑えられる可能性があります。エーザイの年度末の決算には注目です。

 

以上、ざっくりではありますがまとめてみました。

評判がよければ次回の決算でも記事を書きたいと思います。

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4492071083″ locale=”JP” title=”1秒でわかる!医薬品業界ハンドブック”]
Avatar photo

matsumoto

投稿者の記事一覧

修士(工学)。学生時代は有機合成・天然物合成に従事し、現在は某製 薬メーカー合成研究員。

関連記事

  1. よくわかる最新元素の基本と仕組み
  2. 磁性液体:常温で液体になる磁性体を初発見 東大大学院
  3. 元素も分析する電子顕微鏡
  4. JSR、東大理物と包括的連携に合意 共同研究や人材育成を促進
  5. 千葉大など「シナモンマスク」を商品化 インフル予防効果に期待
  6. 有望ヘリウム田を発見!? ヘリウム不足解消への希望
  7. 『分子科学者がいどむ12の謎』
  8. 海洋生物の接着メカニズムにヒントを得て超強力な水中接着剤を開発

注目情報

ピックアップ記事

  1. 総合化学大手5社の前期、4社が経常減益
  2. マテリアルズ・インフォマティクスで用いられる統計[超入門]-研究者が0から始めるデータの見方・考え方-
  3. 【クラリベイトウェブセミナー】 新リリース! 今までの研究開発にイノベーションをもたらす新しいソリューション Clarivate Chemistry Researchのご紹介 ー AI技術を搭載したシンプルかつインテリジェントな特許・学術文献情報の活用ツール
  4. ガラス器具の洗浄にも働き方改革を!
  5. 分子形状初期化法「T・レックス」の実現~いつでもどこでも誰でも狙った場所だけ狙ったタイミングで~
  6. Grignard反応剤が一人二役!? 〜有機硫黄化合物を用いるgem-ジフルオロアルケン類の新規合成法〜
  7. 令和4年度(2022年度)リンダウ・ノーベル賞受賞者会議派遣事業募集開始のお知らせ
  8. 三核ホウ素触媒の創製からクリーンなアミド合成を実現
  9. 化学者のためのエレクトロニクス講座~化合物半導体編
  10. 研究者1名からでも始められるMIの検討-スモールスタートに取り組む前の3つのステップ-

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2010年8月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP