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化学者のつぶやき

Gilbert Stork最後の?論文

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最近、アメリカ化学会の有機化学速報誌Organic Lettersにびっくりする著者の論文が掲載されました。

Synthetic Study toward Total Synthesis of (±)-Germine: Synthesis of (±)-4-Methylenegermine

Stork, G.; Yamashita, A.; Hanson, R. M.; Phan, L.; Phillips, E.; Dubé, D.; Bos, P. H.; Clark, A. J.; Gough, M.; Greenlee, M. L.; Jiang, Y.; Jones, K.; Kitamura, M.; Leonard, J.; Liu, T.; Parsons, P. J.; Venkatesan, A. M. Org. Lett. 2017, 19, 5150, DOI: 10.1021/acs.orglett.7b02434

そう、大学学部の有機化学でならう、ストークのエナミン合成の開発者ギルバート・ストーク先生(コロンビア大学名誉教授)の論文が掲載されたのです。失礼ながら、現在の学生は、生存している研究者であることもほとんど知らないでしょう。それもそのはず、1921年生まれの御年95歳!

そんなレジェンド化学者の論文が掲載されたのですから、驚愕しました。よく見てみると共著者の名前にも知った名前が。本年9月7日に掲載されたため、Twitterではタイムラインに流しました。

しかし、折角の機会ですし、本稿では本論文の内容を紹介しつつ、かのストーク研で研鑽された中村栄一先生(東大)と本論文の共著者である北村雅人先生(名大)にコメントも頂いたため、併せて紹介したいと思います。

これまでのストーク最後の論文はいつ?そして今回の内容は?

引用文献データベースScoupsで調べてみると、出版した論文は232報。これまでのストーク先生の最後の研究論文は、2009年にアメリカ化学会誌J.Am. Chem. Socに報告された、モルヒネアルカロイド類の合成でした[1]。この時もまだ研究続けてたんだ!と思った記憶があります。論文でいえば、最後は2011年に自伝的な内容をTetrahedron誌に報告しています[2]。

それから8年後、今回の正真正銘最後の?論文が掲載されました。内容は、天然物ゲルミンの合成です。

結論から先に述べると、天然物であるゲルミンの合成には至っておらず、残念ながらメチレン炭素が1つ多い、4-メチレンゲルミンの合成でした。

ゲルミンと4メチルゲルミン

 

そして論文著者から察するに、この化合物の合成数十年以上前からかなり最近まで行っていたことがわかります。未完の合成で無念さが伝わる1文が、なんと論文の最後に(リファレンス欄)。

At this point, we realized that we did not have enough material (a few milligrams) to go through the several steps for this conversion. One would have to restart the whole synthesis. But I (G.S.) am now 95 years old…

もうほとんど最後の数段階に必要な化合物は残っていないです。全部の合成をリスタートしなければいけませんが、私(ギルバード・ストーク)は今95歳なので。

いやはや、なかなかこのコメントは書けないですね苦笑。では、その惜しかった合成について簡単に説明してみましょう。

4-メチレンゲルミンの合成

高度に官能基化された多環性アルカロイド、ゲルミンの合成のスタートは三環性のケトン3から(番号は文献どおり)。なぜなら3は1963年の合成で使ってたくさん作れるから。すでに年月が感じられます。

化合物3から官能基変換(FGI: Functional Group interconversion)で17へ。常法で17の6員環を5員環へ環縮小し、得られたジエン22と、ジエノフィル23とのDiels-Alder反応・続くFGIにより、4環性化合物29を与えます。

29から、ピリジンのアルキル化/還元、FGIによりすべての官能基を導入して4-メチレンゲルミンのできあがり。

4-メチレンゲルミン合成の概略

 

ポイントのみ省略して書きましたが、よく練られた現在ではスタンダードといえる合成です。

最後のステップいくつか考らえれますが、やはりどうしても検討も必要としますし、40工程近くかかっていますのでここで終幕、となったようです。文献には、ゲルミン(1)の合成へむけて4-メチレンゲルミンの保護体33からの合成プランが最後に記載されています。

A plan for conversion of 33a to 1 was (with various deprotections/protections) C4-CH2OH to C4-CO2H, followed by Barton’s conditions to change C4-CO2H to C4-OH.

アルコールをカルボン酸に酸化して、バートン条件でヒドロキシル化ですね。

といわけで、全合成には至りませんでしたが、95歳の論文大変恐れ入りました!

ちなみにこの化合物まだ全合成されていませんので、屈強な合成化学者はぜひチェレンジしてみませんか?ストーク先生からお礼のメールが来るかもしれません。

追記 2017年10月21日永眠されたという訃報が入りました。心よりご冥福をお祈りいたします。

追記2 中村栄一先生、Jeffery D. Winkler, Varinder K Aggarwalの連名でAngewante, Int. Ed.誌に追悼記事が掲載されています。DOI:10.1002/anie.201711474

ストーク研アルムナイよりよりコメント

上述したように日本から過去にストーク研に留学されていた先生お二人にコメントをいただきましたので、最後に紹介させていただきたいと思います。コメントと貴重な写真までご供与いただきまして、この場を借りまして御礼申し上げます。

 下に掲げた写真は今年(2017年)の4月,コロンビア大学にGilbert Stork先生を訪ねた時の写真だが,黒板に描いてあるのが論文のタイトルにある(±)-4-methylenegermineである。16個のキラル中心を持つ7環性のアルカロイドgermineに存在するすべての不斉中心を持つ(±)-4-methylenegermineを組み上げ,あとは,一つ余計なメチレン基を取り除くだけの所まで到達したところだった。

「時間切れが迫っているように感じるので,この段階で投稿するつもりだ」とお話を聞いて,奥様のAyako Yamashita博士に撮っていただいた写真。

なぜ時間切れなのか?論文の共著者を見ると、Parson, Leonardの二人は私がStork研にいた1979年ころの同僚,Kitamuraは現名大教授の北村雅人先生である。1960年代の取り組みから半世紀,germineは今も登頂への道筋が完全には見通せない未踏峰なのである.しかし,先生はまだまだお元気の様子なので,これからもContinuing Educationに励まれることであろう.

中村 栄一

Stork先生と黒板に記載がある化合物は本ターゲットであるgermine

 

 

全合成万歳!! Stork先生万歳!!

名古屋大学農学部生物有機化学研究室の後藤俊夫先生と磯部稔先生のご配慮で、野依良治先生の研究室への赴任の前に半年間程(1983年4月〜11月)、あこがれのStork先生のところでポスドクをする機会を得ました。

時間が限られていることもあって、Dan (Dan Kahne:現在、Department of Chemistry & Chemical Biology, Harvard University教授)と研究室近くのアパートをシェアして、Bob (Robert M. Hanson:現、St. Olaf College教授)とともに思いっきり働きました。

ABC環部の鍵中間体を供給するとともに、4位ヒドロキシメチルからヒドロキシ基への変換を酸化・Baeyer-Villiger反応で実現。帰国直前にDiels-Alder反応によるD環構築に成功しましたが、時間切れ。あと少なくとも半年、Stork研にいたかったです。

34年後の論文発表は感無量です。光陰矢の如し。全合成研究の若手の皆さん、愚直でよいです。粘り強く頑張ってください!!

北村雅人

ストーク研所属時代にストーク先生と

追伸:この数日後に、今度はコーリー教授(ハーバード大)からの論文が掲載されていました[3]。89歳ですよ。まだまだご現役のようです。我々も頑張りましょう!

参考文献

  1. Stork, G.; Yamashita, A.; Adams, J.; Schulte, G. R.; Chesworth, R.; Miyazaki, Y.; Farmer, J. J. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 11402–11406. DOI: 10.1021/ja9038505
  2. Stork, G. Tetrahedron 2011, 67, 9754–9764. DOI: 10.1016/j.tet.2011.10.007
  3. Han, Y.; Mahender Reddy, K.; Corey, E. J. Org. Lett. 2017, 19, 5224–5227. DOI 10.1021/acs.orglett.7b02498
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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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