[スポンサーリンク]

身のまわりの分子

ブラッテラキノン /blattellaquinone

[スポンサーリンク]

blattellaquinone.jpg

 

ブラッテラキノン(blattellaquinone)は、チャバネゴキブリ(blattella germanica)が産生する雌性フェロモンです。

 フェロモンという化合物群の本質に違わず、揮発性・低分子量の化合物であり、見てのとおり構造は大変簡単です。

 合成も簡単。2,5ジメトキシベンジルアルコールとイソバレルクロリドを縮合し、CANで酸化するだけです(下図)。こんな簡単に作れるというのは驚異的です。しばらくキノン系の化合物を見るとゴキブリを思い出しそうです(苦笑)。

 

blattellaquinone2.jpg
 

 とはいえ、その構造決定は分子の揮発性・希少さに加えて熱的にも不安定だそうで、大変な困難を極めた模様です。実際にはわずか5μgのサンプルを用い、GC-EAD、EI-MSと600HzNMRを駆使して構造決定したそうです[1]。最近の分析技術の進歩には舌を巻くほかありません。

   「高速道路を一路西に向かって走る。もうこの道を通ることもないだろう。お気に入りのCDからはサザンの曲が流れている。突然、感極まり涙がとめどなく流れてきた。3年にわたる辛くも楽しかったアメリカでの研究生活を終えて、明日ついに帰国する。最後の最後で、長年研究者の挑戦を退けつづけていた研究をやり遂げた達成感、複雑な思いが心の中で絡み合い交錯していた。私はかまわず涙を流し続けた。」[2]  

 『化学』に載っていた、ブラッテラキノンを単離した野島さんの記事です。非常に感極まるものがありましたので引用させていただきました。このとき著者は次の研究ポストがなく、最後の研究であったということです。(現在はこの研究がもとで研究者の道を続けています。)研究の厳しさ、それ以上に達成するまで達成したときの臨場感が伝わってくるすばらしい記事でした。ぜひみなさんも読んでみて下さい。特に研究者を目指す方にはおすすめです。

 

  • 関連文献
[1] Nojima, S. et al. Science 2005, 307, 1104.

[2] 野島聡, 化学 2005, 8, 30

  • 関連書籍
化学同人
森 謙治(著)
発売日:2002-02
発送時期:通常24時間以内に発送
ランキング:270308
おすすめ度:4.5
おすすめ度5 やっとでた。
おすすめ度4 この値段でこの内容
おすすめ度4 この値段でこの内容
  • 関連リンク

ゴキブリフェロモン (有機化学美術館)

フェロモン – Wikipedia

ゴキブリのフェロモン (たけがわゆきこのホームページ)

 

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. アセトアミノフェン Acetaminophen
  2. リピトール /Lipitor (Atorvastatin)
  3. モルヒネ morphine
  4. 化学者のためのエレクトロニクス講座~無線の歴史編~
  5. シラフルオフェン (silafluofen)
  6. 二酸化炭素 (carbon dioxide)
  7. シスプラチン しすぷらちん cisplatin
  8. ITO 酸化インジウム・スズ

注目情報

ピックアップ記事

  1. ちっちゃい異性を好む不思議な生物の愛を仲立ちするフェロモン
  2. 微生物細胞に優しいバイオマス溶媒 –カルボン酸系双性イオン液体の開発–
  3. ヤンセン 新たな抗HIV薬の製造販売承認を取得
  4. 毒劇アップデート
  5. ヤマハ発動機、サプリメントメーカーなど向けにアスタキサンチンの原料を供給するビジネスを開始
  6. 芳香族カルボン酸をHAT触媒に応用する
  7. ニホニウム: 超重元素・超重核の物理 (基本法則から読み解く物理学最前線 24)
  8. アクセラレーションプログラム 「BRAVE 2021 Spring」 参加チームのエントリー受付中!(5/10〆切)
  9. 第29回 ケムステVシンポ「論文を書こう!そして…」を開催します
  10. 学術オンラインコンテンツ紹介(Sigma-Aldrichバージョン)

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2007年10月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

細谷 昌弘 Masahiro HOSOYA

細谷 昌弘(ほそや まさひろ, 19xx年xx月xx日-)は、日本の創薬科学者である。塩野義製薬株式…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP