[スポンサーリンク]

天然物

フラノクマリン -グレープフルーツジュースと薬の飲み合わせ-

[スポンサーリンク]

 

2023年2月に実施された第108回薬剤師国家試験において、スウィーティーという単語が問題文に登場し、界隈でちょっとした話題になりました。問題文は長いため割愛しますが、スウィーティーと医薬品 (免疫抑制剤) のエベロリムスの相互作用を問う問題でした。

スウィーティー

1990年代を過ごした方はスウィーティーの大ブームを知っていると思います。筆者は御多分に洩れず、スウィーティー味のガムが大好きでした。しかし今の国家試験受験者の大多数を占める20代前半の方にはスウィーティー自体がいまいちピンと来ず、それもあってか問題の正答率はあまり芳しくなかったようです。

閑話休題。

さて、調剤薬局に処方箋を持っていくと、初めての来局時には「初回質問表」と呼ばれる資料を書いて提出することになります。この初回質問表には大抵、日常的に摂取する嗜好品についての質問項目があり、そこにはアルコール・タバコ・コーヒーなどと並んでグレープフルーツジュースと書かれていることが多いです。グレープフルーツ、しかもジュースというピンポイントな質問はなぜされるのでしょうか? それは、グレープフルーツジュースに含まれる独特の成分が数多くの医薬品の効き目を増強してしまうからなのです。

グレープフルーツジュースとフラノクマリン

グレープフルーツやスウィーティーには、フラノクマリン類に属するベルガモチンや6′,7′-ジヒドロキシベルガモチンなどが多く含まれます。このようなフラノクマリン類は、薬の代謝に関与するシトクロムP450 (CYP) という酵素のうち、CYP3A4という種類のアイソザイムを強く阻害します。この阻害は不可逆的 (Mechanism-Based Inhibition) であり、1回のグレープフルーツジュースなどの接種で3~4日間 (新しい CYP3A4 が合成されてくるまで) 継続します。この間、CYP3A4 で代謝される薬はその効果が強く現れることになり、予期せぬ副作用の発現に繋がることが予測されます。

グレープフルーツジュースに含まれるフラノクマリン類の構造式

そしてフラノクマリン類は果実よりも皮などの繊維部分に多く含まれるため、繊維ごとすりつぶして製造されるグレープフルーツジュースは、果実部分だけ喫食する場合よりも特に注意が必要というわけです。コップ1杯ほどのジュースでも相互作用が現れる可能性があります。

参考文献[1]によると、ベルガモチンの CYP3A4に対する IC50は22 μMであり、グレープフルーツジュース にはロット差もありますが 7.2~22.6 μM ほどのベルガモチンが含まれているとのことです。消化管吸収などの問題もあり含有濃度だけで相互作用の発現を語ることはできませんが、注意が必要なことが見てとれます。

なお、薬剤師はグレープフルーツジュースの頭文字を取って GFJ と略すことが多いです。ここでも以下 GFJ と略します。

CYP3A4で代謝される医薬品

CYP3A4は非常に多くの医薬品に代謝に関与しており、ここで全てを挙げることはできませんが、以下に代表例を列挙します。いずれも医療用医薬品 (薬局で調剤されるもの) になります。

降圧薬 アムロジピン、ニフェジピン、ジルチアゼム
抗菌薬 クラリスロマイシン、エリスロマイシン
抗糖尿病薬 ピオグリタゾン、シタグリプチン
免疫抑制薬 シクロスポリン、タクロリムス、エベロリムス
抗真菌薬 イトラコナゾール、テルビナフィン
抗うつ薬 セルトラリン、アミトリプチリン
睡眠導入剤 ゾルピデム、トリアゾラム、ブロチゾラム

GFJ による CYP3A4 阻害によってこれらの薬の作用がどれほど増強されるかは、個体差などの影響もあり定量的に判断することは難しいのですが、何かしらのお薬を服用中または服用開始される方は GFJ との相互作用について薬剤師に相談しておくべきでしょう。GFJ を普段から飲んでいなくても、たまたま機会があって飲んでしまうこともあるかもしれません。 また、相互作用の強さを考えると、グレープフルーツ果実自体の喫食も避けることが望ましいと考えられます。降圧薬を服用中の方がたまたま GFJ や果肉を摂取し、過度の血圧低下によってふらつきや転倒などの事故に繋がる可能性も否定できません。自信や家族が服用中のお薬と GFJ の相互作用については、しっかりと知っておくことが求められます。

柑橘類の種類によるフラノクマリン含有の有無

GFJ やスウィーティーにフラノクマリンが多く含まれることを説明しましたが、では、他の柑橘類についてはどうなのでしょうか?

高の原中央病院 DIニュース 2018 年 3 月号を参考にしますと、GFJ やスウィーティーは特に果皮中のフラノクマリン含有量が高いですが、その他にもサワーポメロ、レッドポメロ、ブンタンなどが高濃度のフラノクマリンを含んでいます。やはりこれらも果皮での含有量が多いようです。一方で、温州ミカンや伊予柑、デコポン、ポンカンなどは果実・果皮ともにフラノクマリンが検出されないかほとんど含まれていないことが分かります。同記事では、薬との同時摂取の可否について以下のようにまとめられています。

・摂取を控えるべき柑橘類
グレープフルーツ、スウィーティー、メロゴールド、バンペイユ、レッドポメロ、ダイダイ ブンタン、ハッサク、サワーポメロ、メキシカンライム、夏ミカン、パール柑、サンポウカン

・少量であれば摂取してもよいとされる柑橘類
レモン(果汁のみ)、日向夏(果汁のみ)、スウィートオレンジ(果汁のみ)、ネーブルオレンジ ポンカン、イヨカン、ユズ、カボス、スダチ、キンカン

・フラノクマリン類が含まれないとされる柑橘類
温州ミカン、デコポン

つまり、日本家庭における冬のお供であるミカンはお薬と一緒に食べてもほぼ問題ないということになります。果皮にも含まれていないため、ジュースにしても問題ないと考えられます。

ミカンは基本的にCYP3A4との相互作用の心配なし!

ただし、柑橘系に含まれるフラボノイドの影響で効果が下がってしまう薬 (フェキソフェナジンなど) も存在するため、基本的にお薬は水で飲むようにしましょう。

柑橘系以外の食品では、イチジクやザクロにもフラノクマリン類が含まれており注意が必要とされています (出典)。

おわりに

カロリー・糖質が低めでダイエットにも適していると謳われることのある GFJ ですが、薬を服用中の方はその相互作用に充分注意しないといけません。アルコールと薬を一緒に飲んではいけないというのは誰しもが何となく分かると思いますが、GFJ やスウィーティーとの相互作用は知らないと防ぎようがないとも思われます。このお薬はどうなの?と思ったら、まずは近所の薬剤師さんに相談してみてください。

参考文献

[1] Yuki Yamaguchi, YAKUGAKU ZASSHI, 137(10) 1209―1214 (2017), DOI: 10.1248/yakushi.17-00135.

関連書籍

薬物代謝学: 医療薬学・医薬品開発の基礎として

薬物代謝学: 医療薬学・医薬品開発の基礎として

加藤隆一, 山添康, 横井毅
¥4,180(as of 09/15 04:35)
Amazon product information
Avatar photo

DAICHAN

投稿者の記事一覧

創薬化学者と薬局薬剤師の二足の草鞋を履きこなす、四年制薬学科の生き残り。
薬を「創る」と「使う」の双方からサイエンスに向き合っています。
しかし趣味は魏志倭人伝の解釈と北方民族の古代史という、あからさまな文系人間。
どこへ向かうかはfurther research is needed.

関連記事

  1. メバスタチン /Mevastatin
  2. アルゴン (argon; Ar)
  3. デルフチバクチン (delftibactin)
  4. リピトール /Lipitor (Atorvastatin)
  5. 化学者のためのエレクトロニクス講座~無線の歴史編~
  6. ペルフルオロデカリン (perfluorodecalin)
  7. コルチスタチン /Cortistatin
  8. カイニン酸 kainic acid

注目情報

ピックアップ記事

  1. DNAのもとは隕石とともに
  2. クロロ(1,5-シクロオクタジエン)イリジウム(I) (ダイマー):Chloro(1,5-cyclooctadiene)iridium(I) Dimer
  3. ビシュラー・メーラウ インドール合成 Bischler-Mohlau Indole Synthesis
  4. 有機合成化学協会誌2020年10月号:ハロゲンダンス・Cpルテニウム–Brønsted酸協働触媒・重水素化鎖状テルペン・エラスティック結晶・複核ホウ素ヘテロ環
  5. 超難溶性ポリマーを水溶化するナノカプセル
  6. 学術オンラインコンテンツ紹介(Sigma-Aldrichバージョン)
  7. リチャード・ヘック Richard F. Heck
  8. 【Q&Aシリーズ❶ 技術者・事業担当者向け】 マイクロ波によるガス反応プロセス
  9. イグノーベル化学賞2018「汚れ洗浄剤としてヒトの唾液はどれほど有効か?」
  10. マリア フリッツァニ-ステファノポウロス Maria Flytzani-Stephanopoulos

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2023年5月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

タリンにいってきました BOS2026 前編

みなさんこんにちは。ケムステ代表です。久々にまともに記事を書きます。さて、表題の通り、6月後…

第6回鈴木章賞授賞式&第10回ICReDD国際シンポジウム開催のお知らせ

計算科学、情報科学、実験科学の3分野融合による新たな化学反応開発に興味のある方はぜひご参加ください!…

条件の「前後」も実験条件である【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

そのpH、“本当にその場所”の値ですか?ニードル式pHセンサーを使ってみた!

突然ですが、「培養の再現性がなんか悪い」「同じ条件のはずなのに結果がズレる」といった経験はあ…

「骨格編集」×「ナノカーボン合成」〜ナノカーボン合成の新戦略を実証〜

第719回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院工学研究科(忍久保研究室)博士後期課程2年の平…

【書評】立体化学 はじめの一歩

立体化学は,分子の三次元構造を理解するための重要な分野であり,有機化学や…

水のシミュレーション入門 — 水分子を計算機の中でどう”描く”か —

身近なのに、計算機にとって手強い"水"。本記事では、点電荷モデルから機械学習まで、その"描き方"の進…

◆◇◆◇ 第36回フォーラム・イン・ドージン開催のご案内 ◆◇◆◇

同仁化学研究所が熊本から世界へ情報発信するフォーラム・イン・ドージンの開催ご案内です。今年は『な…

『力』による円偏光発光のon/off制御を単一分子レベルで実現

第718回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 物質理工学院(相良研究室)博士後期課程2年の野中…

数日かかっていた反応機構解析を、わずか数分に!

機械学習ポテンシャルが変える計算化学の現在近年、DFT計算による反応機構解析は広く行われるよ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP