[スポンサーリンク]

K

クレーンケ ピリジン合成 Kröhnke Pyridine Synthesis

[スポンサーリンク]

α-ハロケトンにピリジンを作用させて得られるピリジニウム塩α,β-不飽和カルボニル化合物、およびアンモニアの三成分縮合によりピリジンが得られる。

基本文献

Review

反応機構

原料の α-(1-ピリジル)ケトンは、α-ハロケトンとピリジンの SN2 反応により調製する。

このピリジニウム塩のメチレン部位はエノール化しやすく、活性メチレンとみなせる1。すなわち、求核剤として作用し、α,β-不飽和カルボニル化合物に対し共役付加する。続くプロトン移動により 1,5-ジケトンが形成されるが、これは単離されずにアンモニアと二度の縮合反応を起こす。その際、途中でピリジニウム塩が脱離するため芳香族系が完成し、ピリジンを与える。

特徴

  1. ピリジン環を完成させるための酸化が不要

ピロールフラン、およびチオフェンのような 5 員環の芳香族ヘテロ環化合物は、1,4-ジケトンにヘテロ原子源を作用させるだけで得られる (Paal-Knorr 型ヘテロ環合成)。しかし 6 員環化合物であるピリジンの場合、単純に 1,5-ジケトンに窒素原子源を縮合させるだけでは芳香族系が完成しない問題が存在する。そのため、たとえば Hantzsch の方法では、ピリジンを得るためにジヒドロピリジンを酸化する必要がある。

Kröhnke ピリジン合成では、1-ピリジル基が追加の二重結合を形成するための脱離基となる (上述の反応機構を参照)。そのため、ピリジン環を完成させるための酸化工程が不要となる。

  1. 種々の置換基を持つ 2,4,6-三置換ピリジンを合成可能

下の反応スキームで示されるように、この反応は 2,4,6-三置換ピリジンを与える。特に、トリアリールピリジンやオリゴピリジンの合成に有用である。導入できるアリール基はベンゼン環、ピリジル基、2-チエニル基、2-フリル基など幅広い。さらに、変法を利用すれば NH2 基や SH 基の導入も可能である (後述する)。

  1. アセチル基を 2–3 工程で 2-ピリジル基へ変換

ピリジニウム塩の前駆体である α-ハロケトンは、アセチル基のハロゲン化により調製できる。したがって見方を変えると、アセチル基を (1) ハロゲン化、(2) ピリジニウム化 、そして (3) ピリジン化の計 3 工程で 2-ピリジル基に変換したことになる。なお、アセチル基にヨウ素とピリジンを作用させることによって、直接ピリジニウム塩を得ることもできる (Ortoleva-King 反応)2。これを利用すれば、アセチル基を 2 工程で 2-ピリジル基へ変換できる。

  1.  非対称ピリジンに対して 2 通りの合成経路を提案可能

例えば下のスキームに示すような非対称ピリジンを合成したい場合には、メチル基を持つピリジニウム塩を利用するか (このとき、フェニル基を持つ α,β-不飽和ケトンを使う)、フェニル基を持つピリジニウム塩を利用するか (このとき、メチル基を持つ α,β-不飽和ケトンを使う) のどちらかを選ぶことができる。実際には、一方の経路では収率が低くなることはある。

いくつかの変法

二置換ピリジンの合成

2,6-二置換ピリジンを合成したい場合、Michael 受容体として無置換の α,β-不飽和ケトンを利用するか、Mannich 塩基を利用してそれを系中で発生させる。また、2,4-二置換ピリジンを得るには、6 位にカルボン酸を持つピリジンを合成してから脱炭酸するとよい。

 

四置換ピリジンの合成

四置換ピリジンの合成も不可能ではないが、収率は低くなる。その場合は、下のスキームのように α,β-不飽和カルボニル化合物の α 位にあらかじめ置換基を導入しておく。

逆に言えば、ピリジウム塩の α 位に置換基を仕込んでおくことはできない。もしそのようなピリジニウム塩を利用した場合、共役付加は上手くいくが、つぎにアシル基が切断されるため、ピリジン形成は起こらない。

ピリジニウム塩の前駆体に、メチルケトン以外を利用する

ピリジニウム塩の前駆体を工夫すれば、アリール基以外の置換基も導入できる。具体的には、α-ハロニトリルあるいは α-ハロジオチオエステルを用いることで、それぞれ 2-アミノピリジンあるいは 2-スルファニルピリジンが得られる。これらの反応では、環外に伸びた C=X 二重結合の互変異性により環内に二重結合が導入される。

ピリドンの合成も可能である。それを行うには α-ハロエステルから得たピリジニウム塩を利用する。反応機構の要点は次の通りで、最後の環化の段階において脱水縮合ではなく付加脱離反応が進行する。上述したジチオエステルを利用した例では互変異性によりピリジンへ変換されたこととは対照的に、この場合はピリドンが単離できる。

反応例 –オリゴピリジンの合成–

Kröhnke ピリジン合成を利用してオリゴピリジンを合成するためには、単純に考えると次の 2 つの戦略が考えられる。

アセチルピリジン由来のピリジニウム塩を利用する

ピリジン環をもつ α,β-不飽和カルボニル化合物を利用する

この戦略により下のスキームのように、ビピリジン、テルピリジン、分岐状クアテルピリジンを構築できる。

ここではそれ以外の方法によりオリゴピリジンを合成する方法を紹介する。

ビピリジンの合成

ブタン-2,3-ジオンとアルデヒドとのアルドール反応により双頭の α,β-不飽和カルボニル化合物を調製する。これに 2 当量のピリジニウム塩を作用させると、Kröhnke ピリジン合成が 2 回進行し、ビピリジンが得られる。

テルピリジンの合成

上述した Ortoleva-King 反応により、2,6-ジアセチルピリジンからビスピリジニウム塩を調製する。これに 2 当量の α,β-不飽和カルボニル化合物を作用させると、テルピリジンが得られる。

クアテルピリジンの合成

双頭の α,β-不飽和カルボニル化合物に、2 当量のアセチルピリジン由来のピリジニウム塩を縮合させると、クアテルピリジンが形成される。

キンクエピリジンの合成

Mannich 反応により、2,6-ジアセチルピリジンから Mannich 塩基を調製する。これに 2 当量のアセチルピリジン由来のピリジニウム塩を作用させると、キンクエピリジンが得られる。

シクロセキシピリジンの合成4

カップリング反応により直線状セキシピリジンの両端を閉環する手法はうまくいかなかった。種々検討した結果、キンクエピリジンから Kröhnke ピリジン合成を用いて 6 つ目のピリジン環を構築しつつ閉環する手法により、シクロ 2,2’:4,’4’’:2’’,2’’’:4’’’,4’’’’:2’’’’,2’’’’’:4’’’’’,4-セキシピリジンが合成された。

この反応では、反応性が高い α,β-不飽和アルデヒドをアセタール保護しておき、系中で脱保護して、それを利用するという変法を利用している。系中でゆっくりと α,β-不飽和アルデヒドが発生したため分子間反応が抑制され、分子内反応による閉環が効率的に進行したものと考えられている。

参考文献

  1. Kröhnke, F. Angew. Chem., Int. Ed. 1963, 2, 225–238. DOI: 10.1002/anie.196302251
  2. King, L. K. J. Am. Chem. Soc. 1944, 66, 894–895. DOI: 10.1021/ja01234a015
  3. Kröhnke Pyridine Synthesis. In Comprehensive Organic Name Reaction and Reagents [online]; Wang, Z. Ed.; 2010, Chapter 379, pp 1965–1968. DOI: 10.1002/9780470638859.conrr379
  4. Kelly, T. R.; Lee, Y.-J.; Mears, J. R. J. Org. Chem. 1997, 62, 2774–2781. DOI: 10.1021/jo962236k
  5. 本記事の反応例は、特に明記していない限りこのレビューから引用した: Kröhnke F. Synthesis 1976, 1–24. DOI: 10.1055/s-1976-23941

関連反応

関連書籍

[amazonjs asin=”1405133007″ locale=”JP” title=”Heterocyclic Chemistry”] [amazonjs asin=”4061543288″ locale=”JP” title=”新編ヘテロ環化合物 基礎編 (KS化学専門書)”]
Avatar photo

やぶ

投稿者の記事一覧

PhD候補生として固体材料を研究しています。学部レベルの基礎知識の解説から、最先端の論文の解説まで幅広く頑張ります。高専出身。

関連記事

  1. ケック ラジカルアリル化反応 Keck Radicallic A…
  2. アルキンの水和反応 Hydration of Alkyne
  3. パール・クノール チオフェン合成 Paal-Knorr Thio…
  4. ベシャンプ還元 Bechamp Reduction
  5. カルバメート系保護基 Carbamate Protection
  6. デ-マヨ反応 de Mayo Reaction
  7. 右田・小杉・スティル クロスカップリング Migita-Kosu…
  8. パリック・デーリング酸化 Parikh-Doering Oxid…

注目情報

ピックアップ記事

  1. ヘリウム Helium -空気より軽い! 超伝導磁石の冷却材
  2. 2011年ノーベル化学賞予測―トムソン・ロイター版
  3. AI翻訳エンジンを化学系文章で比較してみた
  4. 【第二回】シード/リード化合物の合成
  5. <アスクル>無許可で危険物保管 消防法で義務づけ
  6. Google日本語入力の専門用語サジェストが凄すぎる件:化学編
  7. 11/16(土)Zoom開催 【10:30~博士課程×女性のキャリア】 【14:00~富士フイルム・レゾナック 女子学生のためのセミナー】
  8. 界面活性剤のWEB検索サービスがスタート
  9. 産総研の研究室見学に行ってきました!~採用情報や研究の現場について~
  10. ホフマン転位 Hofmann Rearrangement

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年2月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728  

注目情報

最新記事

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

2024年の化学企業グローバル・トップ50

グローバル・トップ50をケムステニュースで取り上げるのは定番になっておりましたが、今年は忙しくて発表…

早稲田大学各務記念材料技術研究所「材研オープンセミナー」

早稲田大学各務記念材料技術研究所(以下材研)では、12月13日(金)に材研オープンセミナーを実施しま…

カーボンナノベルトを結晶溶媒で一直線に整列! – 超分子2層カーボンナノチューブの新しいボトムアップ合成へ –

第633回のスポットライトリサーチは、名古屋大学理学研究科有機化学グループで行われた成果で、井本 大…

第67回「1分子レベルの酵素活性を網羅的に解析し,疾患と関わる異常を見つける」小松徹 准教授

第67回目の研究者インタビューです! 今回は第49回ケムステVシンポ「触媒との掛け算で拡張・多様化す…

四置換アルケンのエナンチオ選択的ヒドロホウ素化反応

四置換アルケンの位置選択的かつ立体選択的な触媒的ヒドロホウ素化が報告された。電子豊富なロジウム錯体と…

【12月開催】 【第二期 マツモトファインケミカル技術セミナー開催】 題目:有機金属化合物 オルガチックスのエステル化、エステル交換触媒としての利用

■セミナー概要当社ではチタン、ジルコニウム、アルミニウム、ケイ素等の有機金属化合物を“オルガチッ…

河村奈緒子 Naoko Komura

河村 奈緒子(こうむら なおこ, 19xx年xx月xx日-)は、日本の有機化学者である。専門は糖鎖合…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP