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何をする反応か — 2本の N–H による二座水素結合で、カルボニル基・ニトロ基などをもつ基質を活性化する、金属フリー・アキラルの水素結合供与体触媒。
何ができるか — Diels–Alder反応、酸フリーのアセタール化・THP保護、エポキシド開環、グリコシル化、環状エステルの開環重合などが、中性・室温付近の温和な条件で進行する。
いつ使うか — 酸に弱い官能基があり、強酸やLewis酸を使いたくないとき。ただしアキラルなので、不斉が必要な場面ではTakemoto/Jacobsen等のキラル誘導体に切り替える。
概要
シュライナー チオウレア触媒(Schreiner’s thiourea catalyst)の化合物名は N,N’-ビス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]チオウレア (CAS 1060-92-0)である。 2002年に Peter R. Schreiner(Justus-Liebig-Universität Gießen)と Alexander Wittkopp が、Diels–Alder反応を加速する「金属を含まない中性の 水素結合供与体」として報告した[1][2]。 なお、C=S を C=O に置き換えた尿素アナログ(CAS 3824-74-6)も “Schreiner’s Catalyst” の名で別に市販されており、混同しやすいので注意を要する。
発想自体には前史がある。二座水素結合供与体によるDiels–Alder加速は1990年に[3]、 可溶性ジアリール尿素による双極性Claisen転位の加速は1995年に報告されていた[4]。 Schreinerらの貢献は、尿素ではなくチオウレアを選び、3,5-ビス(トリフルオロメチル) フェニル基を両側に置くという一点に構造を収斂させ、「水素結合による金属フリー有機触媒」という概念として提示した点にある[1][5]。
実用面では、金属フリー・酸フリー・bench-stable・市販品という扱いやすさが際立つ。 THP保護では触媒量を 0.001 mol% まで、アセタール化では 0.01 mol% まで下げても 進行し、THP保護では TON 最大 100,000/TOF 最大 5700 h−1 という 当時としては破格の効率が報告された[7][25][27]。
一方で本触媒はアキラルであり、単独では不斉誘起ができない。文献で 「チオウレア触媒による不斉○○反応」と呼ばれるものの大半は、本触媒と同じ 3,5-ビス(CF3)フェニル基を組み込んだキラル誘導体 (Takemoto触媒[39]、Jacobsenチオウレア[38]、スクアラミド[40])である。
反応機構
二座水素結合による求電子活性化
決定的な設計要素はアリール環の3位と5位に置かれた4つのトリフルオロメチル基(CF3)である。 CF3基は (i) N–H の水素結合供与能を大幅に高め(DMSO中 pKa = 8.4–8.5 で、系統的に測定された(チオ)尿素触媒のなかで最も酸性側)[8][12]、 (ii) 触媒と生成物の会合が弱いため生成物阻害を起こさず[2]、 (iii) 非極性溶媒への溶解性を高め、(iv) オルト位 C–H とチオカルボニル硫黄との 引力的相互作用を通じて2本のN–Hが同じ側を向いた二座供与配座を固定すると 考えられている[1][7][13]。 実際、ケトンとの会合定数はCF3基を持たない 類縁体の約20倍に達する[21]。
原報では、N-アシルオキサゾリジノン型ジエノフィルと本チオウレアがつくる水素結合 錯体を NMR・IR・ab initio計算で解析し、対応するLewis酸錯体と構造的に酷似する ことを示した。会合定数はLewis酸付加体より小さいにもかかわらず、Diels–Alder反応は 弱いLewis酸と同様に加速され、立体化学も同様に変化する[1] 。
続報では、相対速度の加速は基質や溶媒よりもチオウレアの置換基に強く依存すること、 触媒効果は非配位性・非極性溶媒で最も強いが水中でも失われないこと、 生成物阻害を伴わずにendo選択性を高めることが示された[2] 。Schreinerら自身は、3,5-ビス(CF3)フェニル基の「特権性」は電子求引効果 だけでなく、芳香環C–Hが第二の水素結合供与体として働くことを含む多因子的なものだと論じている[13]。
触媒活性は酸性度だけでは決まらない
DMSO中の pKaは触媒選択の指標として広く使われるが、活性の部分的な予測子にすぎない。ホスフィンオキシドをプローブに用いた31P NMR の 低磁場シフト量と、擬一次Diels–Alder反応の ln(krel) は R2 = 0.723 で相関するのに対し、pKa 単独での相関は R2 = 0.307 にとどまる[16]。 さらに、極性非プロトン性溶媒で測った 置換基効果が、実際に触媒反応を行う非極性溶媒中でも同じとは限らない[20]。
活性化様式は一つではない
発見当初の「中性基質のカルボニルを直接掴む」という描像は、その後の研究で大きく 拡張された。現在は少なくとも次の3つの様式が区別される[6][9]。
- 直接的な二座水素結合(古典的様式)。中性のカルボニル・ニトロ基などに結合して LUMOを下げる。原報のDiels–Alder反応がこれにあたる[1][2]。
- アニオン結合/アニオン引き抜き。基質そのものではなく、脱離してくるハロゲン化物 イオンなどに結合してイオン対を安定化する。α-クロロエーテルの活性化では 触媒2分子が協同することが速度論的に示されている[18]。
- Lewis酸そのものの増強。SiCl4 のような金属/半金属Lewis酸から アニオンを引き抜き、より強力なカチオン性Lewis酸を発生させる[41]。
「隠れたBrønsted酸触媒」論争
本触媒をめぐる最大の論点は、「本当に二座水素結合で活性化しているのか、それとも 実は弱いBrønsted酸としてプロトンを渡しているだけではないか」である。 pKa(DMSO) ≈ 8.5 という無視できない酸性度がこの問いの根拠になる[12]。
- 2016年(Brønsted酸説の提起):チオウレア触媒THP化について、DFT計算から チオウレアがBrønsted酸として基質をプロトン化し、オキソカルベニウム中間体を 経由する経路の方が有利と主張された。[17]
- 2018年(慎重論):超低触媒量のグリコシル化で、本触媒の pKa(8.4)を 挟む2種の水素結合を作れないBrønsted酸(Et3N·HCl と Meldrum酸)を 対照実験に用いたところ、いずれも劣る結果しか与えなかった。 「Brønsted酸性だけを根拠にする説明では不十分ではないか」という慎重論である[33]。
- 2019年(Brønsted酸説の拡張):立体選択的グリコシル化で、チオウラシル・ チオウレア・モノチオフタルイミドが一般酸-塩基触媒として作用すると結論づけられた。 決め手は、二座水素結合が構造上不可能なモノチオフタルイミドでも同様に触媒が 成立したことである[34]。
- 2020年(折衷案):回転異性体依存の二経路併存が提案された。一方のロータマーは 分岐型二重水素結合による協奏的活性化、他方は段階的プロトン化を経る オキソカルベニウム経路(後者の活性化エネルギーは 23.9 kcal mol-1で より低い)。13C-KIE と可変温度NMRが根拠である[22]。
現時点では、どちらか一方が正しいという二者択一ではなく、反応・基質・触媒量・溶媒に 応じて支配的な経路が変わるという理解に収斂しつつある。また、「2本のN–Hが収束した配座だけが活性種である」という暗黙の前提にも異議が 唱えられており、従来「不活性」とみなされてきた配座も触媒作用に関与しうることが指摘されている[19]。
特徴・適用範囲・類似反応との比較
強み
- 金属フリー・酸フリーで温和。 TBDMSエーテル、アセタール、アルドール生成物、 シアノヒドリンなど酸に弱い官能基を持つ基質の保護・脱保護に使える[25][27]。
- 触媒回転数が非常に高い反応がある。 THP保護では 0.001 mol% で TON 最大 100,000[27]。
- 生成物阻害を受けにくい。 触媒と生成物の会合が弱いため[2]。
- 溶媒許容性が広い。 非極性溶媒で最も活性が高いが、水中でも機能する (むしろ疎水性増幅により加速される場合がある)[2][26]。
- 安価・市販・bench-stable。 不活性雰囲気もグローブボックスも不要[8]。
弱み・注意点
- アキラルであり、不斉誘起はできない。
- 活性化能そのものは強くない。 静電的に増強したカチオン性チオウレアと比べると、 Friedel–Craftsアルキル化の半減期で 26時間 vs 6.4分(約250倍差)という報告がある[20]。 基質によっては非常に遅く、無溶媒Diels–Alderで室温28日という例もある[31]。
- 強い水素結合アクセプター溶媒で失活する。 DMSO・DMF・THF・MeCN では触媒のN–Hが 溶媒に奪われる。実測では THF-d8中で反応が全く進行せず、MeCN中では 基質との会合が検出されない[20][21]。
- 触媒同士の自己会合が起こりうる。基質を活性化する水素結合供与部位が、そのまま 分子間会合部位でもあるという構造的ジレンマがある[10]。
- 高い触媒量・長い反応時間、不斉誘起に希釈条件が必要といった初期チオウレア系に 共通する制約が、総説で明示されている[9]。
- 金属触媒との併用は原則注意が必要。 チオウレアのC=S硫黄は軟らかい配位子であり、Pd・Rh・Pt・Ru などを被毒する可能性がある。 なお SiCl4のようなハードなLewis酸とはむしろ協働する[41]。
| 触媒 | pKa(DMSO) | キラリティ | 主な長所 | 主な短所・注意点 |
|---|---|---|---|---|
| Schreinerチオウレア[1][2][12] | 8.4–8.5 | アキラル | 市販・安価・ベンチ安定、酸フリー、TON 105 級の反応がある、水中でも作動 | 不斉誘起不可、活性化能は中程度、極性溶媒で失活 |
| 対応する尿素アナログ[12] | チオウレアより高い(=弱い酸) | アキラル | 森田–Baylis–Hillman反応では尿素体の方が優れた例がある[24] | 一般に水素結合供与能・溶解性が劣る |
| スクアラミド[15][40] | チオウレアより 0.13–1.97 低い | 主にキラル体 | 2本のN–Hが同一平面でN–H間距離が約0.6 Å長く、より強く方向性の高い水素結合。低触媒量で高活性 | 溶解性が低い場合がある |
| Takemoto触媒[39] | — | キラル | 三級アミンとの二官能性。不斉Michael付加の代表 | 塩基性アミンを含むため適用系が限られる |
| Jacobsenチオウレア[18][38] | — | キラル | 不斉Strecker(最大98% ee)、アニオン結合触媒の中核 | 合成が煩雑 |
| Kass型静電増強チオウレア[14][20] | — | アキラル | 本触媒より活性・位置選択性ともに優れる(約250倍速) | 対アニオン交換が必要、非極性溶媒への溶解性確保が課題 |
| ハロゲン結合(XB)触媒[37] | — | 両方あり | 2-デオキシグリコシル化では供与体の許容性がチオウレアより広い | エーテル保護のD-ガラクタール供与体ではチオウレアの方が良い=相補関係 |
使い分けの指針: 不斉が要らず、酸に弱い基質を温和に扱いたい(保護基操作、アセタール化、THP化)なら Schreinerチオウレアが第一選択。不斉が必要なら、まず本触媒を「アキラル参照触媒」 として反応が進むかを確認し、次にキラル体へ切り替えるのが実際的である(このスクリーニング 手順は複数の論文で実際に行われている[31][33][34])。キラルチオウレア/スクアラミドを 鍵段階に用いた天然物全合成は近年の総説にまとめられている[11] 。活性が足りなければ、弱Brønsted酸との協働[28]、静電増強型[14]、スクアラミド[40]、 ハロゲン結合触媒[37]を検討する。極性溶媒が必須の系では、水素結合供与型触媒は そもそも不向きである。
反応例
(1) 天然物骨格構築:ベチコリン0 ABC環系のDiels–Alder反応[31]
立体的に混み合ったナフトキノンモノケタールと OTBS 保護ジエン (大過剰)に Schreinerチオウレア 触媒を加え、 無溶媒・室温で28日間撹拌すると、三環性の exo 付加体が 単一異性体として得られる。無触媒での熱反応(170 °C)ではジアステレオマー比が 3:1〜4:1、 位置異性体も16%生成する。触媒を使うことで、室温で位置選択性・立体選択性がともに完全になる。
(2) 酸フリーのアセタール化[25]
アルデヒド・ケトンをオルトエステル HC(OR)3(2当量)と反応させると、アセタールおよび1,3-ジオキソランが 61–99% で得られる(TOF 最大 632 h-1)。酸を使わないため、酸に弱い TBDMS基が共存できる。
(3) テトラヒドロピラニル(THP)保護[27]
ヒドロキシ基に対しDHP(2当量)を 無溶媒・室温〜50 °C で作用させる。 触媒量 0.001–1.0 mol%、10–105時間で 83–98%。TON 100,000、 TOF 最大 5700 h-1に達し、報告当時「最も効率的な有機触媒反応」と 評された[7] 。アルドール生成物・シアノヒドリンなど酸に弱い基質にも適用でき、 ポリスチレン担持体でも機能する(回収・再利用可能)。
(4) 協働Brønsted酸型:スチレンオキシドのアルコリシス[28]
Schreinerチオウレア と マンデル酸 組合せが良好な結果を与える。重要なのは、どちらか一方だけでは 反応が全く進行しないという点である。
(5) エポキシド開環の疎水性増幅(水中)[26]
各種エポキシドと求核剤の反応では、水を溶媒に用いると CH2Cl2中の 約200倍まで速度が増大する。水素結合触媒が水中で失活しない(むしろ加速する)という 直感に反する結果である。
(6) Lewis塩基触媒としての利用:NBSによるアルコールの酸化[29]
二級アルコールを NBS で対応するケトンへ酸化する反応を、本チオウレアが 触媒する。ここではチオウレアは水素結合供与体ではなく Lewis塩基(硫黄がNBSの 臭素を活性化)として働いている。
(7) 光化学的アセタール化(本触媒を光触媒として使用)[35]
触媒 20 mol% とアルコール(溶媒兼試薬)にアルデヒドを加えて密栓し、 家庭用電球(80 W × 2灯)を照射しながら室温で 3–18時間撹拌すると、アセタールが 36–96%(24例)で得られる。無触媒では9%にとどまる。50 °Cに加熱するとむしろ 13%まで低下し、アルゴン下と大気下でほぼ同等の収率が得られる。オルトエステルを 使わずアルコールだけでアセタール化できる点がグリーンケミストリー的な利点とされる。
(8) ラクトン・カーボネートの高速開環重合(ROP)[32]
本チオウレアを開始剤に対し 1–10当量、アルコキシドと 組み合わせると、L-ラクチド、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン等の開環重合が 進行する。 転化率88–96%、Đ = 1.05–1.22 と分子量分布が狭い。
(9) グリコシル化[30][33][34]
2-デオキシガラクトシドのα選択的合成(2012年)を皮切りに[30]、 2-デオキシ二糖・ グリコ結合体・トレハロース型二糖の合成へと展開された分野である。ただし この分野で最も高性能とされる触媒は、必ずしもSchreinerチオウレアではない。 低触媒量での高活性が報告された研究では主役はチオウラシルであり(0.1 mol%)、 本触媒は比較対照として評価された[34]。 ひずみ解放型グリコシル化の触媒 スクリーニングでは、本触媒は 86%、α:β = 97:3(フルオロベンゼン、50–70 °C、 16時間)を与えており、α選択比では主触媒(Kass型電荷増強チオウレア)を上回っている[33]。
(10) その他
Friedel–Craftsアルキル化[23]、森田–Baylis–Hillman反応のDABCO促進系の加速(この系では尿素体の 方が優れる)[24]などへも応用されている。
実験手順
標準的な実施例:テトラヒドロピラニル(THP)保護[27]
ヒドロキシ化合物(アルコール、フェノール等)に対し、DHP を2当量、 触媒を 0.001–1.0 mol% 加え、無溶媒で 室温〜50 °C、10–105時間撹拌する。 収率 83–98%。触媒量は基質の反応性に応じて調節する。酸を用いないため、共存する TBDMS基・アセタール・シアノヒドリンなどはそのまま保持される。ポリスチレン担持型触媒を 用いれば、濾別により回収・再利用できる。
触媒の調製
3,5-ビス(トリフルオロメチル)アニリン(CAS 328-74-5)を、チオホスゲンにより 3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル イソチオシアネート(CAS 23165-29-9)へ変換し、 これに同じアニリンを縮合させるのが標準ルートである。Kotke と Schreiner は 100 mmolスケールで84%(36.1 g)、かつ「再現性のある高い分析純度」で本触媒を 得る手順を報告している[25][42]。 精製は CHCl3から再結晶したのち hexane/Et2O または hexane/EtOAc で再結晶する[8]。チオホスゲンを避けたい場合、イソチオシアネートは市販されているので購入して等モル縮合するか、単体硫黄 (S8) を用いる多成分反応を用いる[36]。
変法:協働触媒によるスチレンオキシドのアルコリシス[28]
スチレンオキシド類に対し、Schreinerチオウレア 1 mol% と マンデル酸 1 mol% を加え、 アルコール中で室温〜50 °C で撹拌する。収率 83–98%、位置選択性 >99%。 チオウレア単独・マンデル酸単独では反応しないため、両者を必ず共存させること。
変法:光化学的アセタール化[35]
スクリューキャップ付きガラスバイアルに 触媒 50 mg(0.10 mmol、20 mol%)と アルコール 2 mL(溶媒兼試薬)を入れ、アルデヒド 0.50 mmol を加える。密栓し、 家庭用電球(80 W)2灯をバイアルから約3 cm の距離に置いて照射しながら、 室温で3–18時間撹拌する。収率 36–96%。不活性ガスは不要、加熱は逆効果。
実験のコツ・テクニック
- 溶媒選択がすべて 本触媒は2本のN–Hで基質を掴むため、強い水素結合 アクセプター溶媒は触媒のN–Hを奪い、基質との会合を競争的に阻害する。トエンとCH2Cl2の両方を試すことが推奨される。
- MeCN, THF では反応が全く進行しないという報告があり、DMSO・DMFは論外[20][21]。 無溶媒(neat)も有力な選択肢であり、水も意外に良い[26]。
- 水・酸・塩基・空気: 水には意外なほど強く、厳密無水は必須ではない[2][26] 。弱いBrønsted酸(マンデル酸など)はむしろ味方で、反応が進まないときは1 mol%程度 加えてみるとよい[28]。 一方、強塩基・強求核性アミンの存在下では脱プロトン化や付加による失活が想定される。 不活性雰囲気は不要[35]。 微量のハロゲン化物塩による阻害には注意したい。
- 触媒量の目安:まず 10 mol% で反応進行可否を確認し、 その後、1 → 0.1 → 0.01 mol% と下げていくのが定石。
- NMR滴定で触媒–基質相互作用を確認する: 反応が進まないとき、「そもそも触媒が基質に 結合しているか」を直接NMRで検証できる[21] 。
- 反応が進まないときのチェックリスト: ①溶媒を疑う(THF/DMF/DMSO/MeCNを避ける) →②触媒が溶けているか目視確認→③触媒量を上げる→④弱Brønsted酸を1 mol%添加→ ⑤基質に強い水素結合アクセプターや塩基性窒素がないか確認→⑥触媒ロットの品質確認 (融点・HPLC・NMR)→⑦NMR滴定で会合を確認→⑧待つ(無溶媒Diels–Alderで 室温28日という報告もある[31]。数時間で見切りをつけない)→⑨濃度を変えて速度が 非線形なら自己会合を疑う[10]。
- 安全性: 触媒本体のGHS分類は皮膚刺激性区分2・眼刺激性区分2にとどまり比較的穏やかで、硫黄臭も問題にならない。ただしドイツ水質汚染区分 WGK 3(最高値)に 分類されるため、水系への廃棄は厳禁。むしろ危険なのは合成時の前駆体で、 チオホスゲンは高毒性・催涙性・揮発性、イソチオシアネートも刺激性・催涙性がある。
参考文献
【原著】
- Schreiner, P. R.; Wittkopp, A. H-Bonding Additives Act Like Lewis Acid Catalysts. Org. Lett. 2002, 4, 217–220. DOI: https://doi.org/10.1021/ol017117s(本触媒の初報)
- Wittkopp, A.; Schreiner, P. R. Metal-Free, Noncovalent Catalysis of Diels–Alder Reactions by Neutral Hydrogen Bond Donors in Organic Solvents and in Water. Chem. – Eur. J. 2003, 9, 407–414. DOI: https://doi.org/10.1002/chem.200390042(置換基効果・溶媒効果の系統的評価)
【前史】
- Kelly, T. R.; Meghani, P.; Ekkundi, V. S. Diels-Alder Reactions: Rate Acceleration Promoted by a Biphenylenediol. Tetrahedron Lett. 1990, 31, 3381–3384. DOI: https://doi.org/10.1016/S0040-4039(00)97402-1(二座水素結合供与体によるDiels–Alder加速の先駆例)
- Curran, D. P.; Kuo, L. H. Acceleration of a Dipolar Claisen Rearrangement by Hydrogen Bonding to a Soluble Diaryl Urea. Tetrahedron Lett. 1995, 36, 6647–6650. DOI: https://doi.org/10.1016/0040-4039(95)01394-W(ジアリール尿素による反応加速)
【総説】
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【物性・機構研究】
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- Lippert, K. M.; Hof, K.; Gerbig, D.; Ley, D.; Hausmann, H.; Guenther, S.; Schreiner, P. R. Hydrogen-Bonding Thiourea Organocatalysts: The Privileged 3,5-Bis(trifluoromethyl)phenyl Group. Eur. J. Org. Chem. 2012, 2012, 5919–5927. DOI: https://doi.org/10.1002/ejoc.201200739(「なぜCF3基か」の解析)
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- Supady, A.; Hecht, S.; Baldauf, C. About Underappreciated Yet Active Conformations of Thiourea Organocatalysts. Org. Lett. 2017, 19, 4199–4202. DOI: https://doi.org/10.1021/acs.orglett.7b01782(活性配座への異議)
- Fan, Y.; Payne, C.; Kass, S. R. Quantification of Catalytic Activity for Electrostatically Enhanced Thioureas via Reaction Kinetics and UV–vis Spectroscopic Measurement. J. Org. Chem. 2018, 83, 10855–10863. DOI: https://doi.org/10.1021/acs.joc.8b01552(溶媒効果の実測)
- Ehrhard, A. A.; Jäger, S.; Malm, C.; Basaran, S.; Hunger, J. CF<sub>3</sub>-Groups Critically Enhance the Binding of Thiourea Catalysts to Ketones – A NMR and FT-IR Study. J. Mol. Liq. 2019, 296, 111829. DOI: https://doi.org/10.1016/j.molliq.2019.111829(会合定数とNMR滴定条件)
- Smajlagic, I.; Guest, M.; Durán, R.; Herrera, B.; Dudding, T. Mechanistic Insight toward Understanding the Role of Charge in Thiourea Organocatalysis. J. Org. Chem. 2020, 85, 585–593. DOI: https://doi.org/10.1021/acs.joc.9b02682(ロタマー依存の二経路併存という折衷案)
【応用例】
- Dessole, G.; Herrera, R. P.; Ricci, A. H-Bonding Organocatalysed Friedel–Crafts Alkylation of Aromatic and Heteroaromatic Systems with Nitroolefins. Synlett 2004, 2004, 2374–2378. DOI: https://doi.org/10.1055/s-2004-832844
- Maher, D. J.; Connon, S. J. Acceleration of the DABCO-Promoted Baylis–Hillman Reaction Using a Recoverable H-Bonding Organocatalyst. Tetrahedron Lett. 2004, 45, 1301–1305. DOI: https://doi.org/10.1016/j.tetlet.2003.11.062(この系では尿素体の方が優れる)
- Kotke, M.; Schreiner, P. R. Acid-Free, Organocatalytic Acetalization. Tetrahedron 2006, 62, 434–439. DOI: https://doi.org/10.1016/j.tet.2005.09.079(触媒のマルチグラム調製法もこの論文にある)
- Kleiner, C. M.; Schreiner, P. R. Hydrophobic Amplification of Noncovalent Organocatalysis. Chem. Commun. 2006, 42, 4315–4317. DOI: https://doi.org/10.1039/b605850g(水中で約200倍の加速)
- Kotke, M.; Schreiner, P. R. Generally Applicable Organocatalytic Tetrahydropyranylation of Hydroxy Functionalities with Very Low Catalyst Loading. Synthesis 2007, 2007, 779–790. DOI: https://doi.org/10.1055/s-2007-965917
- Weil, T.; Kotke, M.; Kleiner, C. M.; Schreiner, P. R. Cooperative Brønsted Acid-Type Organocatalysis: Alcoholysis of Styrene Oxides. Org. Lett. 2008, 10, 1513–1516. DOI: https://doi.org/10.1021/ol800149y(マンデル酸との協働触媒)
- Tripathi, C. B.; Mukherjee, S. Lewis Base Catalysis by Thiourea: N-Bromosuccinimide-Mediated Oxidation of Alcohols. J. Org. Chem. 2012, 77, 1592–1598. DOI: https://doi.org/10.1021/jo202269p(Lewis塩基触媒としての利用)
- Balmond, E. I.; Coe, D. M.; Galan, M. C.; McGarrigle, E. M. α-Selective Organocatalytic Synthesis of 2-Deoxygalactosides. Angew. Chem., Int. Ed. 2012, 51, 9152–9155. DOI: https://doi.org/10.1002/anie.201204505
- Kramer, C. S.; Bräse, S. Thiourea-Catalyzed Diels–Alder Reaction of a Naphthoquinone Monoketal Dienophile. Beilstein J. Org. Chem. 2013, 9, 1414–1418. DOI: https://doi.org/10.3762/bjoc.9.158(実験項が本文にある唯一の天然物骨格構築例)
- Zhang, X.; Jones, G. O.; Hedrick, J. L.; Waymouth, R. M. Fast and Selective Ring-Opening Polymerizations by Alkoxides and Thioureas. Nat. Chem. 2016, 8, 1047–1053. DOI: https://doi.org/10.1038/nchem.2574
- Xu, C.; Loh, C. C. J. An Ultra-Low Thiourea Catalyzed Strain-Release Glycosylation and a Multicatalytic Diversification Strategy. Nat. Commun. 2018, 9, 4057. DOI: https://doi.org/10.1038/s41467-018-06329-4
- Bradshaw, G. A.; Colgan, A. C.; Allen, N. P.; Pongener, I.; Boland, M. B.; Ortin, Y.; McGarrigle, E. M. Stereoselective Organocatalyzed Glycosylations – Thiouracil, Thioureas and Monothiophthalimide Act as Brønsted Acid Catalysts at Low Loadings. Chem. Sci. 2019, 10, 508–514. DOI: https://doi.org/10.1039/c8sc02788a(モノチオフタルイミドの結果が論争の決め手)
- Spiliopoulou, N.; Nikitas, N. F.; Kokotos, C. G. Photochemical Synthesis of Acetals Utilizing Schreiner’s Thiourea as the Catalyst. Green Chem. 2020, 22, 3539–3545. DOI: https://doi.org/10.1039/D0GC01135E
- Nickisch, R.; Gabrielsen, S. M.; Meier, M. A. R. Novel Access to Known and Unknown Thiourea Catalyst via a Multicomponent-Reaction Approach. ChemistrySelect 2020, 5, 11915–11920. DOI: https://doi.org/10.1002/slct.202003336(チオホスゲン不要の合成)
- Xu, C.; Rao, V. U. B.; Weigen, J.; Loh, C. C. J. A Robust and Tunable Halogen Bond Organocatalyzed 2-Deoxyglycosylation Involving Quantum Tunneling. Nat. Commun. 2020, 11, 4911. DOI: https://doi.org/10.1038/s41467-020-18595-2(ハロゲン結合触媒との相補関係)
【派生触媒(キラル体・改良体)】
- Sigman, M. S.; Jacobsen, E. N. Schiff Base Catalysts for the Asymmetric Strecker Reaction Identified and Optimized from Parallel Synthetic Libraries. J. Am. Chem. Soc. 1998, 120, 4901–4902. DOI: https://doi.org/10.1021/ja980139y(Jacobsenチオウレアの原点)
- Okino, T.; Hoashi, Y.; Takemoto, Y. Enantioselective Michael Reaction of Malonates to Nitroolefins Catalyzed by Bifunctional Organocatalysts. J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 12672–12673. DOI: https://doi.org/10.1021/ja036972z(Takemoto触媒の原著)
- Malerich, J. P.; Hagihara, K.; Rawal, V. H. Chiral Squaramide Derivatives Are Excellent Hydrogen Bond Donor Catalysts. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 14416–14417. DOI: https://doi.org/10.1021/ja805693p(スクアラミド触媒の原著)
- Banik, S. M.; Levina, A.; Hyde, A. M.; Jacobsen, E. N. Lewis Acid Enhancement by Hydrogen-Bond Donors for Asymmetric Catalysis. Science 2017, 358, 761–764. DOI: https://doi.org/10.1126/science.aao5894(水素結合供与体によるLewis酸の増強)
【学位論文】
- Kotke, M. Hydrogen-Bonding (Thio)urea Organocatalysts in Organic Synthesis. Ph.D. Dissertation, Justus-Liebig-Universität Gießen, 2009. URL: https://d-nb.info/1009535994/34(触媒調製の詳細)
- Wittkopp, A. Organokatalyse von Diels-Alder-Reaktionen durch neutrale Wasserstoffbrückendonoren in organischen und wässrigen Lösungsmitteln. Ph.D. Dissertation, Georg-August-Universität Göttingen, 2001. URL: https://d-nb.info/962793795/34(原報[1][2]の速度論データ)
関連反応
- ディールス・アルダー反応 Diels-Alder Reaction
- 不斉ディールス・アルダー反応 Asymmetric Diels-Alder Reaction
- マイケル付加 Michael Addition
- 不斉ストレッカー反応 Asymmetric Strecker Reaction
- ピクテ・スペングラー反応 Pictet-Spengler Reaction
- 森田・ベイリス・ヒルマン反応 Morita-Baylis-Hillman Reaction
- フリーデル・クラフツアルキル化 Friedel-Crafts Alkylation
- シュミット グリコシル化反応 Schmidt Glycosylation
- マクミラン触媒 MacMillan’s Catalyst
- 林・ヨルゲンセン触媒 Hayashi-Jørgensen Catalyst
- 相間移動触媒 Phase-Transfer Catalyst (PTC)
- 水素結合型有機触媒/Hydrogen-Bonding Organocatalyst
- 竹本触媒/Takemoto Catalyst
- スクアラミド触媒/Squaramide Catalyst
- 開環重合/Ring-Opening Polymerization
関連書籍
Asymmetric Organocatalysis: New Strategies, Catalysts, and Opportunities, 2 Volumes
外部リンク
- 東京化成工業 B3452(1,3-Bis[3,5-bis(trifluoromethyl)phenyl]thiourea) — 純度・融点規格・保存条件
- TCIメール No.150「酸触媒を用いないアセタール化反応に有用な有機触媒」 — 本触媒を正面から扱った数少ない日本語解説
- Thiourea organocatalysis(英語版Wikipedia)
- Schreiner研究室(Justus-Liebig-Universität Gießen)
- PubChem CID 2803772
- Kramer & Bräse, Beilstein J. Org. Chem. 2013, 9, 1414(全文・実験項)
- Spiliopoulou et al., Green Chem. 2020 の Supporting Information
- Zhang, Bao & Xing, Org. Biomol. Chem. 2014 の著者版PDF
- Ehrhard et al., J. Mol. Liq. 2019(Max Planck リポジトリ版) — 会合定数とNMR滴定条件の実測データ
- Fan, Payne & Kass, J. Org. Chem. 2018(NSF PAR 公開版) — 溶媒効果の実測
- ResearchGate: なぜチオウレアのNHがNMRで見えないことがあるのか — 重溶媒選択についての実務的指摘
- 有機分子触媒ーChemical Times特集より(Chem-Station)
- −(マイナス)と協力して+(プラス)を強くする触媒(Chem-Station)
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