[スポンサーリンク]

odos 有機反応データベース

チロシン選択的タンパク質修飾反応 Tyr-Selective Protein Modification

[スポンサーリンク]

チロシン(Tyrosine, Tyr)はリジン(Lys)やシステイン(Cys)ほど側鎖の反応性が高くなく、かつ適度な表面露出数を持つアミノ酸である。翻訳後修飾の標的にもなりやすいため、変換しておくことでタンパク機能のmodulationなども期待できる。

その反面、フェノール側鎖は安定であるため、変換には厳しめの酸化条件や重金属触媒の使用が必須な場合が多い。いずれの条件も一長一短であるため、総じて改善余地のまだ多い方法論である。

基本文献

<Chemist’s Guide>

反応例

PTAD法[1]:試薬の事前活性化を経てbuffer中で混合すれば良く、最も簡便に行える手法の一つである。しかしながら、PTAD試薬は水中で窒素と一酸化炭素を発生しつつ分解してイソシアネートを生じ、これがLys側鎖と交差反応を起こす問題がある。

ルミノール誘導体を用いるTyr修飾法[2]:ヘミン錯体もしくはHorseradish-peroxidase/NADH/O2を活性化剤として用いることで、PTAD法の交差反応性を防ぎつつ、良好な収率でラジカル型Tyr修飾が行える。

他にも、Betti型3成分条件を用いるTyr修飾法[3] 、チロシンのヨード化→水中鈴木-宮浦クロスカップリング[4]、電子豊富芳香環の酸化的カップリング[5]、π-アリルパラジウム触媒条件[6] 、ジアゾニウム付加[7]などの手法で修飾が行えることが知られている。それぞれ条件的制約に違いがあるので、使用前は基質に適しているかどうかの確認が必要。

参考文献

  1. (a) Ban, H.; Gavrilyuk, J.; Barbas, C. F., III J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 1523. DOI: 10.1021/ja909062q (b) Ban, H.; Nagano, M.; Gavrilyuk, J.; Hakamata, W.; Inokuma, T.; Barbas, C. F., III Bioconjugate Chem. 2013, 24, 520. DOI: 10.1021/bc300665t
  2. (a) Sato, S.; Nakamura, K.; Nakamura, H. ACS Chem. Biol. 2015, 10, 2633. DOI: 10.1021/acschembio.5b00440 (b) Sato, S.; Nakamura, K.; Nakamura, H. ChemBioChem 2017, 18, 475. DOI: 10.1002/cbic.201600649
  3. (a) Joshi, N. S.; Whitaker, L. R.; Francis, M. B. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 15942. DOI: 10.1021/ja0439017 (b) Romanini, D. W.; Francis, M. B. Bioconjugate Chem. 2008, 19, 153. DOI: 10.1021/bc700231v
  4. Vilaró, M.; Arsequell, G.; Valencia, G.; Ballesteros, A.; Barluenga, J. Org. Lett. 2008, 10, 3243. DOI: 10.1021/ol801009z
  5. (a) Seim, K. L.; Obermeyer, A. C.; Francis, M. B. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 16970. DOI: 10.1021/ja206324q (b) Sato, S.; Nakamura, H. Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 52, 8681. DOI: 10.1002/anie.201303831
  6. Tilley, S. D.; Francis, M. B. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 1080. DOI: 10.1021/ja057106k
  7. (a) Hooker, J. M.; Kovacs, E. W.; Francis, M. B. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 3718. DOI: 10.1021/ja031790q (b) Schlick, T. L.; Ding, Z.; Kovacs, E. W.; Francis, M. B. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 3718. DOI: 10.1021/ja046239n (c) Li, K.; Chen, Y.; Li, S. Q.; Huong, G. N.; Niu, Z. W.; You, S. J.; Mello, C. M.; Lu, X. B.; Wang, Q. A. Bioconjugate Chem. 2010, 21, 1369. DOI: 10.1021/bc900405q (d) Jones, M. W.; Mantovani, G.; Blindauer, C. A.; Ryan, S. M.; Wang, X.; Brayden, D. J.; Haddleton, D. M. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 7406. DOI: 10.1021/ja211855q

関連書籍

外部リンク

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. コーリー・キム酸化 Corey-Kim Oxidation
  2. ハートウィグ・宮浦C-Hホウ素化反応 Hartwig-Miyau…
  3. バージェス試薬 Burgess Reagent
  4. フリース転位 Fries Rearrangment
  5. 向山・鈴木グリコシル化反応 Mukaiyama-Suzuki G…
  6. ピナコールカップリング Pinacol Coupling
  7. メルドラム酸 Meldrum’s Acid
  8. ボーディペプチド合成 Bode Peptide Synthesi…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 進め、分子たち!第2回国際ナノカーレースが3月に開催
  2. ツヴァイフェル オレフィン化 Zweifel Olefination
  3. MI-6、データ解析とノウハウ蓄積のための実験計画プラットフォーム「miHub」を全面刷新
  4. カルボン酸をホウ素に変換する新手法
  5. 生きたカタツムリで発電
  6. 年収で内定受諾を決定する際のポイントとは
  7. クメン法 Cumene Process
  8. 分子の動きを電子顕微鏡で観察
  9. アミロイド認識で活性を示す光触媒の開発:アルツハイマー病の新しい治療法へ
  10. ヘテロ環ビルディングブロックキャンペーン

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年11月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

5/15(水)Zoom開催 【旭化成 人事担当者が語る!】2026年卒 化学系学生向け就活スタート講座

化学系の就職活動を支援する『化学系学生のための就活』からのご案内です。化学業界・研究職でのキャリ…

フローマイクロリアクターを活用した多置換アルケンの効率的な合成

第610回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院理学研究科(依光研究室)に在籍されていた江 迤源…

マリンス有機化学(上)-学び手の視点から-

概要親しみやすい会話形式を用いた現代的な教育スタイルで有機化学の重要概念を学べる標準教科書.…

【大正製薬】キャリア採用情報(正社員)

<求める人物像>・自ら考えて行動できる・高い専門性を身につけている・…

国内初のナノボディ®製剤オゾラリズマブ

ナノゾラ®皮下注30mgシリンジ(一般名:オゾラリズマブ(遺伝子組換え))は、A…

大正製薬ってどんな会社?

大正製薬は病気の予防から治療まで、皆さまの健康に寄り添う事業を展開しています。こ…

一致団結ケトンでアレン合成!1,3-エンインのヒドロアルキル化

ケトンと1,3-エンインのヒドロアルキル化反応が開発された。独自の配位子とパラジウム/ホウ素/アミン…

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP