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化学素人の化学読本

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あるところに間抜けな本読みが居りました その者は一字一句、一式一記号全て理解しないと全く先に進めなかったのであります・・・

Tshozoです。

これまでの記事でうすうすご存知と思いますが、私は正式に化学を学んだ人間ではないため、やや偏った知識に基づいて記事を書くきらいがあります。しかし、盗人にも三分の理分野を限定せず横断的に色々な本を読む中で、化学素人であっても化学を「楽しい」「素晴らしい」と感じるようになった根本となる書物がありますため、今回紹介してみます。

いかな理系の方々といえど、化学の敷居は高いと感じたり、つまづくところがあったりするかもしれません。そうした敷居を低くしたり、つまづきを解決したりすることの一助になれば幸いです。

まず今回は物理化学を重点に、大きく分けて科学史、専門誌、一般誌を紹介したいと思います。

 

【①科学史】

熱学思想の史的展開〈3〉熱とエントロピー (ちくま学芸文庫)

 私が学生時代どうしても理解できなかったこと、それが「エントロピー」です。

全くとらえどころの無い(と感じた)特性。社会にどう役立つのか。なんで情報科学とかいうよくわからんものにも現れる値なのか。第一、どうしてこんな分かり辛い概念のものを見つけられたのか。化学を捉えていく上でどうしても根本から理解しなければならないと感じたとき、本書を手に取りました。全巻読みこなし理解するのに3年ほどかかりましたが・・・

本書のテーマは、ギリシャの時代から、「熱という捉え所のないものがどう学問体系として成立していったか」、です。ワットによる産業の勃興とともにその学問としての必要性が増大し、そこに現れた天才カルノーがどのようなコンセプトを以て体系化の嚆矢を放ったか、さらにこれをトムソン(後のケルヴィン卿)とJ. ジュールが実験に基づき精密に体系化する中で、クラウジウスが何故エントロピーという量を見出すことが出来たのか、の歴史的経緯のくだりは圧巻です。

もっとも、エントロピーという概念を統計力学という強力な武器を使って既に把握できている方々には本書は退屈かつもどかしいものと感じるでしょう。しかし、「とらえどころのないものから先達がどのように法則を見出してきたか」という経緯を知ることは、新しい道を開いていこうとする時に必須となる、と信じている者の一人として本書を紹介致します。

 本書は全てを膨大な原文献にあたりつつ、社会背景と共に精密に記載しており、少なくともこのレベルまで正しく熱学の歴史を理解しようとしている本は私は見たことがありません。多くの学生さん達、社会人達に読まれるべきであると強く思います。

 なお著者はその筋では高名な物理学の講師。御本人が多くを語らないためご経歴は控えますが、個人的に科学史家としてはこの方に勝るレベルの学者は世界的にもそう存在しないのではないかと感じています。本書はそのくらい高密度かつ高質です。

 【②(やや)専門誌】

熱力学要論―分子論的アプローチ

上記の「熱学思想・・・」よりも幾分初歩的なつくりの書物です。これの面白いところは、熱力学の本なのにいきなり確率論が第1章に出てくるところ。しかし、化学が扱う対象が一体どういう類のものなのかを上手に認識させてくれるユニークさが気に入っています。特に直観的に非常に理解しにくい平衡定数を具体例を使って説明している部分は何度も読み返してしまうほどでした。難易度的には高校生の教科書に毛が生えた程度ですが、熱力学全体の中身をざっくりと理解するには良い書物だと思います。

また、「熱学思想・・・」では扱っていない、統計力学の入り口であるボルツマン分布のところも豊富な実例を用いて感覚的に理解しやすく、素人には非常にありがたい書物で、現在も迷ったときはこの本に戻る形で愛用しています。統計力学の入り口としてはもってこいの本ではないでしょうか。

ただ1点文句を言うとすれば、付録などで重要な数式の導出方法が書いてないこと。ボルツマン分布の詳細な導出式くらいは書いてもらいたかったな、と。歳とってくると色々思い出せなくなるんですっていやホンマ。

 

●  工学のための物理化学

 本書、その名の通りで、エンジニアリング的に必要としている人を対象とした物理化学の本です。範囲が極めて広く、固体物性から統計力学、電気化学、高分子化学まで扱っており横断的に色々な分野のエッセンスを知るにはよい書物だと感じています。上記の「熱力学要論」の知識のスキマを埋めるのによく使っています。

こう書くと表層的な内容に留まってるのか、という印象がありますが、実は内容は数式が乱舞していて相当に高密度&ハードであり、購入して4年経ちますが恥ずかしながら未だ全部読み切れていません。というかビリアルってなんぞ。フローリーハギンスの式ぅぅぅ。

ともかく、近年研究者・技術者は非常に多くの要素を要求されており、一つの分野だけの専門知識ではなかなか対応しきれない、また一つの視野だけでは解決策が見いだせない場合が多々あります。そうした異分野の見方が必要になった時に理論的背景を素早く把握することが出来ますので、その点で非常に重宝しています。

 

【③一般誌】

「オイラー入門」 W. Dunham (日本語版) シュプリンガー数学リーディング

・・・既に化学ではないですね。はい。承知しております。

ただ、物理化学や電気化学を色々探っていくと、どうしても数学に立ち戻らねばならない時があると思います。微分積分の中に出てくる自然対数の由来について色々とモヤモヤとしていた時この本に出会い、非常に面白かったため読み切ってしまいました。

もちろん本書が参考になるのは熱力学や物理化学を進める上での数学上のテクニックがほとんどで、本論はもちろん化学とはほとんど関係がありません。しかし、異分野であっても数学の基礎を作った、特にバーゼル問題(こちら)の芸術的な解決と、オイラーの式を見出したくだりは、1度でも数学に触れた方なら感動を覚えずにいられないと思います。

参考までに。オイラーが生涯に書いた論文は900本近く。それだけでも信じられんのですが、途中からは全盲の状態で、なんと口述筆記で論文を書いていたそうです(10年以上!)。真の怪物とはこういう人のことを言うのだと心から畏れ入った次第です。その怪物ぶりの一端に触れたいと思う方は是非ご一読ください。

 

以上、生来の化学屋さんではないスタッフが物理化学を勉強するうえで参考になった書物を並べてみましたがいかがでしょうか。この次には高分子化学に関する書物を紹介する機会を作りたいと思います。

それでは今回はこれにて。

Tshozo

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メーカ開発経験者(電気)。56歳。コンピュータを電算機と呼ぶ程度の老人。クラウジウスの論文から化学の世界に入る。ショーペンハウアーが嫌い。

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