[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

マンガン触媒による飽和炭化水素の直接アジド化

[スポンサーリンク]

 

アジド基は、アミンやイミン、アミド、含窒素複素環といった様々な官能基や骨格に変換可能です(図1)。[1]例えば、銅触媒存在下、アジド化合物とアルキンを用いて1,2,3-トリアゾール骨格を構築できるヒュスゲン環化付加反応。2つの分子(アジド化合物とアルキン)を中性条件や水中でも繋げることができるため、その簡便さから、アフィニティプローブや蛍光プローブといった分子プローブの合成に大活躍しています[2]このようにアジド化合物は、機能性分子の合成における有用な中間体となることから、アジド基をより簡便に導入する手法の開発が世界中で盛んに行われています。

 

2015-05-02_17-52-42

図1 アジド化合物の有用性

 

さてそのような背景のもと、今回は最近米国プリンストン大のGrovesらによって報告された、マンガン触媒を用いたsp3炭素ー水素(C–H)結合の直接アジド化について紹介したいと思います。

 

“Manganese-Catalyzed Late-Stage Aliphatic C–H Azidation”

X. Huang, T. M. Bergsten, J. T. Groves, J. Am. Chem. Soc.2015, 137, 5300. DOI: 10.1021/jacs.5b01983

 

アジド化古今東西

通常、アジド基は、ハロゲンやヒドロキシ基を脱離基として用い求核置換反応によって導入します。しかし、対応するハロゲン化物並びにアルコールを事前に調製する必要があるため、アジド化合物の合成は多段階を要します。従って、直接的にC–H結合をアジド化する手法が盛んに研究されています。

近年、パラジウムやロジウム、銅触媒を用いることでsp2C–H結合を直接アジド化する反応が報告されています[3]。一方で、sp3C–H結合(飽和炭化水素)を高い基質一般性で直接アジド化する反応はほとんど報告例がありませんでした。ところが、ごく最近、Hartwigらは鉄触媒を用いたsp3C–H結合の直接アジド化反応を発見しました[4]。Hartwigらの反応では、ベンジル位及び3級炭素のC–H結合選択的に直接アジド化するという化学選択性を有しています。

今回の紹介する論文も同様に、飽和炭化水素の直接アジド化です (図2)。

 

2015-05-02_21-17-18

図2 様々なアジド化反応

 

マンガンを用いたsp3C–Hハロゲン化からsp3C–Hアジド化への展開

本論文の著者であるGrovesらは、2010年にマンガンポルフィリン錯体を触媒に用い、次亜塩素酸を用いることで、sp3C–H結合のクロロ化を達成しています[5]。また、2012年に同じ錯体を触媒に用いて、sp3C–H結合をフッ素化することに成功しました。

図3に示すように、この反応においてはマンガンポルフィリン錯体にフッ化物イオンが配位した状態でアルキルラジカルと反応しフッ素化が進行しています[6]。彼らは、マンガンポルフィリン錯体のフッ化物イオンをアジドに置き換えることで、同じようにsp3炭素のアジド化が進行すると考えました(図3)。

 

2015-05-02_21-17-59

図3 マンガン触媒によるC–H結合の官能基化と今回の反応のコンセプト

 

位置選択的なsp3C–Hアジド化

最適化した反応条件を以下に示します(図4)。触媒量のマンガン錯体及び酸化剤としてヨードシルベンゼン(PhIO)存在下、アジ化ナトリウム(NaN3)水溶液を添加することで、室温で目的のアジド化体を得ることに成功しました。アミドやエステル、ケトンやヘテロ環を含む基質を用いても問題なくアジド化が進行します。安価で入手容易なアジ化ナトリウムをアジド化剤として利用できる点も本反応の特筆すべき点であるでしょう。

 

2015-05-02_21-18-34

図4. マンガン触媒を用いた飽和炭化水素の直接アジド化反応

 

さらに彼らは、生物活性物質にもアジド化を行いました (図5)。複雑な構造をもつartemisininベンゾイル保護体やpapaverineなどを用いても反応は進行し、目的のアジド化体を得ています。本反応を用いることで、合成の最終段階でアジド化体へと誘導することができるため、分子プローブ合成に役に立つことでしょう。またキラルなマンガンサレン錯体を用いると、celestolideのアジド化物がエナンチオ過剰率70%で得られています。

 

2015-05-02_21-19-12

図5 生物活性分子のアジド化と不斉アジド化(マンガン錯体が関与しているか検証)

 

推定反応機構

想定反応機構は図6のとおり。最初に3価のマンガンアジド錯体がヨードシルベンゼンによって5価に酸化され(i)、次にマンガンオキソ錯体による一電子酸化によってアルキルラジカルが生じる(ii)。配位子交換(iii)ののち、アルキルラジカルがアジドを攻撃することでアジド化が進行し(iv)、還元された3価のアジド錯体が再生する(v)。著者らは、酸化剤が触媒サイクルに関与していることやラジカルが発生していること、アジドがマンガンに配位した状態で反応が進行していることを、実験的に明らかにしています。また、量子化学計算より、マンガンに配位した窒素原子ではなく末端の窒素原子が炭素と結合すると示唆されます。

 

2015-05-02_21-20-00

図6 推定反応機構

 

終わりに

今回Grovesらは、マンガン触媒を用いたsp3C–H結合のアジド化反応を報告しました。ちょっと気になるのが、ヨードシルベンゼンでヒドロキシ化された化合物から進行していること。また、マンガンサレン錯体、酸化剤というかなり一般的な条件で直接アジド化が進行していることです。前者はヒドロキシ化された化合物からの反応機構の記載がないので、なにか根拠があることでしょう。後者は、ちょっとわかりませんが、一見して単純だが、この組み合せはなかったという部類の発見ということに落ち着くのだと思います。

さて、2級、3級アジド化合物の簡便な合成法は、有機合成、創薬化学、ケミカルバイオロジー研究の発展に貢献することが期待されます。また、今回キラルなサレン錯体を用いることで不斉アジド化できることが示されており(反応機構の証明という意味ではあるが)、サレン錯体を今後さらに改良することによって、エナンチオ選択的なアジド化法が確立されることを期待しましょう。

 

参考文献

  1. Brase, S.; Gil, C.; Knepper, K.; Zimmermann, V. Angew. Chem., Int. Ed. 2005, 44, 5188. DOI: 10.1002/anie.200400657
  2. (a) Thirumurugan, P.; Matosiuk, D.; Jozwiak, K. Chem. Rev. 2013, 113, 4905. (b) Grammel, M.; Hang, H. C. Nat. Chem. Biol. 2014, 10, 239. DOI:10.1038/nchembio0314-239a
  3. (a) Tang, C.; Jiao, N. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 18924. DOI: 10.1021/ja3089907 (b) Xie, F.; Qi, Z.; Li, X. Angew. Chem., Int. Ed. 2013, 52, 11862. DOI: 10.1002/anie.201305902 (c) Zheng, Q.-Z.; Feng, P.; Liang, Y.-F.; Jiao, N. Org. Lett. 2013, 15, 4262. DOI: 10.1021/ol402060q (d) Fan, Y.; Wan, W.; Ma, G.; Gao, W.; Jiang, H.; Zhu, S.; Hao, J. Chem. Commun. 2014, 50, 5733. DOI: 10.1039/C4CC01481B (e) Yao, B.; Liu, Y.; Zhao, L.; Wang, D.-X.; Wang, M.-X. J. Org. Chem. 2014, 79, 11139. DOI: 10.1021/jo502115a
  4. Sharma, A.; Hartwig, J. F. Nature 2015, 517, 600. DOI:10.1038/nature14127
  5. Liu, W.; Groves, J. T. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 12847. DOI: 10.1021/ja105548x
  6. Liu, W.; Huang, X.; Cheng, M.-J.; Nielsen, R.J.; Goddard, W.A., III; Groves, J.T. Science 2012, 337, 1322. DOI:10.1126/science.1222327

 

外部リンク

  • The Groves Lab — The people, the science, and the findings of the Groves Lab, Department of Chemistry, Princeton University

関連書籍

[amazonjs asin=”9048136970″ locale=”JP” title=”Alkane C-H Activation by Single-Site Metal Catalysis (Catalysis by Metal Complexes)”][amazonjs asin=”3527331549″ locale=”JP” title=”Metal Catalyzed Cross-Coupling Reactions and More, 3 Volume Set”]
Avatar photo

bona

投稿者の記事一覧

愛知で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. コンパクトで革新的な超純水製造システム「アリウム」
  2. 未来の製薬を支える技術 – Biotage®金属スカベンジャーツ…
  3. 磁石でくっつく新しい分子模型が出資募集中
  4. ケムステの記事が3650記事に到達!
  5. 有機合成化学協会誌2024年8月号:連続フロー合成・AI創薬・環…
  6. 中学生の研究が米国の一流論文誌に掲載された
  7. ホウ素ーホウ素三重結合を評価する
  8. 蒲郡市生命の海科学館で化学しようよ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 有機溶媒吸収し数百倍に 新素材のゲル、九大が開発
  2. 第一手はこれだ!:古典的反応から最新反応まで2 |第7回「有機合成実験テクニック」(リケラボコラボレーション)
  3. 研究倫理を問う入試問題?
  4. ブラン環化 Blanc Cyclization
  5. 塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話
  6. 酵素触媒反応の生成速度を考える―ミカエリス・メンテン機構―
  7. 第136回―「有機化学における反応性中間体の研究」Maitland Jones教授
  8. 近況報告Part III
  9. 特定の刺激でタンパク質放出速度を制御できるスマート超分子ヒドロゲルの開発
  10. 信越化学、塩化ビニル樹脂を値上げ

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年5月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

光の強さで分子集合を巧みに制御!様々な形を持つ非平衡超分子集合体の作り分けを実現

第691回のスポットライトリサーチは、千葉大学大学院 融合理工学府 分子集合体化学研究室(矢貝研究室…

化学系研究職の転職は難しいのか?求人動向と転職を成功させる考え方

化学系研究職の転職の難点は「専門性のニッチさ」と考えられることが多いですが、企業が求めるのは研究プロ…

\課題に対してマイクロ波を試してみたい方へ/オンライン個別相談会

プロセスの脱炭素化及び効率化のキーテクノロジーである”マイクロ波”について、今回は、適用を検討してみ…

四国化成ってどんな会社?

私たち四国化成ホールディングス株式会社は、企業理念「独創力」を掲げ、「有機合成技術」…

世界の技術進歩を支える四国化成の「独創力」

「独創力」を体現する四国化成の研究開発四国化成の開発部隊は、長年蓄積してきた有機…

第77回「無機材料の何刀流!?」町田 慎悟

第77回目の研究者インタビューは、第59回ケムステVシンポ「無機ポーラス材料が織りなす未来型機能デザ…

伊與木 健太 Kenta IYOKI

伊與木健太(いよき けんた,)は、日本の化学者。東京大学大学院新領域創成科学研究科准教授。第59回ケ…

井野川 人姿 Hitoshi INOKAWA

井野川 人姿(いのかわひとし)は、日本の化学者。崇城大学工学部ナノサイエンス学科准教授。第59回ケム…

開発者に聞く!試薬の使い方セミナー2026 主催: 同仁化学研究所

この度、同仁化学研究所主催のオンラインセミナー(参加無料)を開催いたします。注目されるライフ…

町田 慎悟 Shingo MACHIDA

町田 慎悟(まちだ しんご, 1990年 06月 )は、日本の化学者。2026年1月現在、ファインセ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP