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化学者のつぶやき

マンガン触媒による飽和炭化水素の直接アジド化

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アジド基は、アミンやイミン、アミド、含窒素複素環といった様々な官能基や骨格に変換可能です(図1)。[1]例えば、銅触媒存在下、アジド化合物とアルキンを用いて1,2,3-トリアゾール骨格を構築できるヒュスゲン環化付加反応。2つの分子(アジド化合物とアルキン)を中性条件や水中でも繋げることができるため、その簡便さから、アフィニティプローブや蛍光プローブといった分子プローブの合成に大活躍しています[2]このようにアジド化合物は、機能性分子の合成における有用な中間体となることから、アジド基をより簡便に導入する手法の開発が世界中で盛んに行われています。

 

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図1 アジド化合物の有用性

 

さてそのような背景のもと、今回は最近米国プリンストン大のGrovesらによって報告された、マンガン触媒を用いたsp3炭素ー水素(C–H)結合の直接アジド化について紹介したいと思います。

 

“Manganese-Catalyzed Late-Stage Aliphatic C–H Azidation”

X. Huang, T. M. Bergsten, J. T. Groves, J. Am. Chem. Soc.2015, 137, 5300. DOI: 10.1021/jacs.5b01983

 

アジド化古今東西

通常、アジド基は、ハロゲンやヒドロキシ基を脱離基として用い求核置換反応によって導入します。しかし、対応するハロゲン化物並びにアルコールを事前に調製する必要があるため、アジド化合物の合成は多段階を要します。従って、直接的にC–H結合をアジド化する手法が盛んに研究されています。

近年、パラジウムやロジウム、銅触媒を用いることでsp2C–H結合を直接アジド化する反応が報告されています[3]。一方で、sp3C–H結合(飽和炭化水素)を高い基質一般性で直接アジド化する反応はほとんど報告例がありませんでした。ところが、ごく最近、Hartwigらは鉄触媒を用いたsp3C–H結合の直接アジド化反応を発見しました[4]。Hartwigらの反応では、ベンジル位及び3級炭素のC–H結合選択的に直接アジド化するという化学選択性を有しています。

今回の紹介する論文も同様に、飽和炭化水素の直接アジド化です (図2)。

 

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図2 様々なアジド化反応

 

マンガンを用いたsp3C–Hハロゲン化からsp3C–Hアジド化への展開

本論文の著者であるGrovesらは、2010年にマンガンポルフィリン錯体を触媒に用い、次亜塩素酸を用いることで、sp3C–H結合のクロロ化を達成しています[5]。また、2012年に同じ錯体を触媒に用いて、sp3C–H結合をフッ素化することに成功しました。

図3に示すように、この反応においてはマンガンポルフィリン錯体にフッ化物イオンが配位した状態でアルキルラジカルと反応しフッ素化が進行しています[6]。彼らは、マンガンポルフィリン錯体のフッ化物イオンをアジドに置き換えることで、同じようにsp3炭素のアジド化が進行すると考えました(図3)。

 

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図3 マンガン触媒によるC–H結合の官能基化と今回の反応のコンセプト

 

位置選択的なsp3C–Hアジド化

最適化した反応条件を以下に示します(図4)。触媒量のマンガン錯体及び酸化剤としてヨードシルベンゼン(PhIO)存在下、アジ化ナトリウム(NaN3)水溶液を添加することで、室温で目的のアジド化体を得ることに成功しました。アミドやエステル、ケトンやヘテロ環を含む基質を用いても問題なくアジド化が進行します。安価で入手容易なアジ化ナトリウムをアジド化剤として利用できる点も本反応の特筆すべき点であるでしょう。

 

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図4. マンガン触媒を用いた飽和炭化水素の直接アジド化反応

 

さらに彼らは、生物活性物質にもアジド化を行いました (図5)。複雑な構造をもつartemisininベンゾイル保護体やpapaverineなどを用いても反応は進行し、目的のアジド化体を得ています。本反応を用いることで、合成の最終段階でアジド化体へと誘導することができるため、分子プローブ合成に役に立つことでしょう。またキラルなマンガンサレン錯体を用いると、celestolideのアジド化物がエナンチオ過剰率70%で得られています。

 

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図5 生物活性分子のアジド化と不斉アジド化(マンガン錯体が関与しているか検証)

 

推定反応機構

想定反応機構は図6のとおり。最初に3価のマンガンアジド錯体がヨードシルベンゼンによって5価に酸化され(i)、次にマンガンオキソ錯体による一電子酸化によってアルキルラジカルが生じる(ii)。配位子交換(iii)ののち、アルキルラジカルがアジドを攻撃することでアジド化が進行し(iv)、還元された3価のアジド錯体が再生する(v)。著者らは、酸化剤が触媒サイクルに関与していることやラジカルが発生していること、アジドがマンガンに配位した状態で反応が進行していることを、実験的に明らかにしています。また、量子化学計算より、マンガンに配位した窒素原子ではなく末端の窒素原子が炭素と結合すると示唆されます。

 

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図6 推定反応機構

 

終わりに

今回Grovesらは、マンガン触媒を用いたsp3C–H結合のアジド化反応を報告しました。ちょっと気になるのが、ヨードシルベンゼンでヒドロキシ化された化合物から進行していること。また、マンガンサレン錯体、酸化剤というかなり一般的な条件で直接アジド化が進行していることです。前者はヒドロキシ化された化合物からの反応機構の記載がないので、なにか根拠があることでしょう。後者は、ちょっとわかりませんが、一見して単純だが、この組み合せはなかったという部類の発見ということに落ち着くのだと思います。

さて、2級、3級アジド化合物の簡便な合成法は、有機合成、創薬化学、ケミカルバイオロジー研究の発展に貢献することが期待されます。また、今回キラルなサレン錯体を用いることで不斉アジド化できることが示されており(反応機構の証明という意味ではあるが)、サレン錯体を今後さらに改良することによって、エナンチオ選択的なアジド化法が確立されることを期待しましょう。

 

参考文献

  1. Brase, S.; Gil, C.; Knepper, K.; Zimmermann, V. Angew. Chem., Int. Ed. 2005, 44, 5188. DOI: 10.1002/anie.200400657
  2. (a) Thirumurugan, P.; Matosiuk, D.; Jozwiak, K. Chem. Rev. 2013, 113, 4905. (b) Grammel, M.; Hang, H. C. Nat. Chem. Biol. 2014, 10, 239. DOI:10.1038/nchembio0314-239a
  3. (a) Tang, C.; Jiao, N. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 18924. DOI: 10.1021/ja3089907 (b) Xie, F.; Qi, Z.; Li, X. Angew. Chem., Int. Ed. 2013, 52, 11862. DOI: 10.1002/anie.201305902 (c) Zheng, Q.-Z.; Feng, P.; Liang, Y.-F.; Jiao, N. Org. Lett. 2013, 15, 4262. DOI: 10.1021/ol402060q (d) Fan, Y.; Wan, W.; Ma, G.; Gao, W.; Jiang, H.; Zhu, S.; Hao, J. Chem. Commun. 2014, 50, 5733. DOI: 10.1039/C4CC01481B (e) Yao, B.; Liu, Y.; Zhao, L.; Wang, D.-X.; Wang, M.-X. J. Org. Chem. 2014, 79, 11139. DOI: 10.1021/jo502115a
  4. Sharma, A.; Hartwig, J. F. Nature 2015, 517, 600. DOI:10.1038/nature14127
  5. Liu, W.; Groves, J. T. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 12847. DOI: 10.1021/ja105548x
  6. Liu, W.; Huang, X.; Cheng, M.-J.; Nielsen, R.J.; Goddard, W.A., III; Groves, J.T. Science 2012, 337, 1322. DOI:10.1126/science.1222327

 

外部リンク

  • The Groves Lab — The people, the science, and the findings of the Groves Lab, Department of Chemistry, Princeton University

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