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スポットライトリサーチ

近くにラジカルがいるだけでベンゼンの芳香族性が崩れた!

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第208回のスポットライトリサーチは、福井大学大学院工学研究科 博士課程・大坂一主さんにお願いしました。

大坂さんの所属する吉見研究室では、有機光触媒を用いる独創的な脱炭酸型反応を10年以上にわたり研究されています(参照:光誘起電子移動に基づく直接的脱カルボキシル化反応)。今回紹介する研究は、その流れで発見された予想外の脱芳香族化反応についてです。先日開催されました第43回有機電子移動科学討論会において優秀発表賞を受賞されたため、今回の依頼に至りました。また本成果はJ. Org. Chem.誌原著論文としても公開されています。

“Sequential Intermolecular Radical Addition and Reductive Radical Cyclization of Tyrosine and Phenylalanine Derivatives with Alkenes via Photoinduced Decarboxylation: Access to Ring-Constrained γ-Amino Acids
Osaka, K.; Usami, A.; Iwasaki, T.; Yamawaki, M.; Morita, T.; Yoshimi, Y.* J. Org. Chem. 2019, doi:10.1021/acs.joc.9b00970

研究を指揮されている吉見泰治 准教授から、大坂さんについてコメントを頂いています。

まずは地方大学の学生にまでスポットを当てていただいてありがとうございます。大坂君は、低収率でしたが予想外の生成物を見つけてくれて、生成物の構造決定や反応の最適化を粘り強く研究してくれました。これらのことに時間がかかりましたが、情熱をもって一つ一つ丁寧に解決してくれました。一度、会社に就職してから博士後期課程に戻ってきていますので、その経験を生かしたこれからの研究を期待しています。

下記をご覧いただければ分かりますが、いただいたインタビューは非常に熱の籠もった文面です。全力で研究を行う方は日本各地にまだまだいるのだと再確認させてもらえます。今回のインタビューも是非お楽しみ下さい!

Q1. 今回受賞対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

チロシンやフェニルアラニンの誘導体から発生させたラジカルが、アルケンへのラジカル付加に続き、側鎖のベンゼン環へラジカル環化することを報告しました。当研究室では、有機フォトレドックス触媒を用いて室温、中性、金属フリーの穏和な条件で、光誘起電子移動を経由したカルボン酸からのアルキルラジカル生成を報告しています。この連続的ラジカル付加・ラジカル環化―ラジカルカスケード―は、あるポリエンで実行するとステロイド骨格を一段階で形成できるなど優れた合成戦略として広く応用されています。ラジカルカスケードをベンゼン環へ適用しようとする場合、ほとんどはハロゲンやジアゾニウム塩といった脱離能の大きな置換基を必要としていますが、本研究ではフェニルアラニンのようなアルキル鎖が置換しているだけのベンゼン環への環化も達成できる点が特徴です。

ラジカルカスケードにより内部環状テトラペプチドの構築まで成功

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

環化体が得られたときは、ただただ驚くばかりでした。周知のとおり、ベンゼンはエネルギー的に安定な化合物です。よって、置換反応や付加反応が起こったとしても、速やかに再芳香族化が起こることが予想されます。近くにラジカルが存在するだけで、ベンゼンの高い安定性を破壊して、還元型の環化体が得られるとは全くの予想外でした。この研究成果は、学部、修士の時に行っていた、光誘起電子移動を経由したアミノ酸誘導体同士のカップリング反応の研究の中で全く想定外の化合物として環化体が得られていたことに端を発しました。修士課程の2年生になった頃、ベンゼン環を持つアミノ酸をアミノ酸誘導体へのラジカル付加反応に用いたところ、なぜか目的とするラジカル付加体の収率が減少する結果が得られました。再度実験し、一つ一つカラム精製で単離してプロトンNMRを見てみると、なんと、ベンゼン環のピークが消え、アルケンのピークのある化合物を単離しました。これを見つけ、吉見先生に報告したときは、激アツになったのと共に、「これが研究か!」と研究の面白さ、やりがいについて実感しました。そしてそれまでの私は、「博士課程には絶対に進まない」と考えていましたが、その考えが少し変わり研究者の道も面白そうだなと思うようになりました。この感情がきっかけとなり、今の私がいるので、私の人生においても大きな経験でした。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

環化体を見つけてからは、通常通り条件検討、基質一般性検討を進めていきました。当時は単一化合物として単離されていたのですが、私の精製技術が悪く、実際にはジアステレオマーとして得られており、引継ぎをしてくれた後輩の宇佐見さんが単離に成功し、二種類の環化体が出来ていることを見出してくれました。その後、私が修士の時に行った基質一般性検討すべてをやり直し、ジアステレオマーのあるものを新しい結果として出してくれました。この場を借りて宇佐見さんに感謝申し上げます(ここでの話は、私が修士を卒業し社会人だった時のことで、環化体の構造はすでに6員環と決定しています。後述の話と時系列が前後しています)。私がドクターに戻り、実験的なことに関して行ったことは正直ほとんどなく、ジペプチドとアクリルアミドとの環化、ジペプチド同士の環化反応による内部環状テトラペプチドの構築、やり直し実験ぐらいでしたね。

大きい経験だったのは、本研究について論文を一から書いたことです。過去にも修士の時に私が筆頭著者だった論文は、サポーティングインフォメーションの執筆は全て私が行いましたが、本文は吉見先生が書きました。なので、一からの論文執筆は頭を悩ませました。英語には自信がありましたが、ストーリー性のある文構造の組み立て、言い回しが必要であり、どのように書くべきか悩みました。単語の選択や言い回し、論理展開は、NatureScienceJACSなどの論文を漁って、見よう見まねで書いてみました。何とか書き上げて吉見先生に見せましたが、全然だめだと言われ、結局ほとんどの文章は先生が書き直したため、自分の文体はほとんど残っていませんでした。その中で、吉見先生から書き方に関するアドバイスをたくさん頂き、次に論文を書く時はこのアドバイスを参考に、全て自分の文章で論文を出せるように書いていきたいです。

あと私自身実験で苦労したことは、環化体の構造決定ですね。当初は、速度論的に速い生成物である6員環のスピロ環が形成されたのではないかと考えていました。ただ、アクリルアミドのNH2とアルケンのピークが重なり、ブロードになって積分比が正確でないため、プロトンNMRからの判断では不確実でした。そこで、X線結晶構造解析のための単結晶作製を行いました。当時、研究室ではX線を測定することは皆無でしたので、単結晶作製やX線測定・解析のノウハウがありませんでした。自分で単結晶作製の方法をリサーチし、研究室に転がっている溶媒を集めて、環化体を溶かして単結晶作製を試みましたが、ほとんどは粉末状になってしまい、うまく行きませんでした。片っ端から溶媒を試していきましたが、そのような結果でした。そのまま修士論文投稿・発表を迎え、その際はスピロ環の構造として発表し、構造については検討中としました。引き続き溶媒検討をしていく中で、酢酸エチルを溶媒に使用したとき、プレート上の透明な結晶が得られていることを見つけました。しかし、このプレートが非常に薄く、とても小さかったため、これではX線測定ができないと思いましたし、技官の方からも測定は不可能と言われました。私は当時、他学科の徳永雄次先生や川﨑常臣先生(現東京理科大)の研究室のメンバーとは、研究室の飲み会に参加したり、週末遊びに出かけたりなど交流がありました。修士卒業間際、このことをその飲み会の場で話していると、川崎先生の研究室にいらっしゃった高松直矢博士が、単結晶をバンバン作製していてX線測定を星の数ほど行っていたので、一度俺のところに持ってこいと助言を頂いたので、後日作った結晶を持っていきました。すると「これぐらいだったら頑張れば測定できる」と言い、実際に測定・解析までして頂き、環化体の構造決定、X線データの論文投稿まで行うことが出来ました。X線測定の際にお世話になった高松博士にはとても感謝しております。

この中で私は、人とのつながりが研究において非常に重要になってくることをしっかり学びました。特に研究室外部とのつながりが、自分の研究の助けとなること、研究をさらに上質なものにしてくれる場合があることを実感しました。現在でも年に数回、高松博士を含めた当時の徳永研、川崎研のメンバー数人と遊びに出掛けたりと、交流が続いています。自分で言うのもなんですが、素晴らしい友人に囲まれていてとても幸せです。

あとドクターに戻ってやっていることなのですが、研究モチベアップのために、任天堂元社長で天才プログラマーと呼ばれた岩田聡氏の言葉「プログラマーはノーと言ってはいけない」を思い出し、技術者・専門家としてあるべき姿を忘れないように、また励ましの言葉と取って研究を進めていきました。

岩田聡:その人柄と指導力で多くのクリエイターやゲームファンに愛された

またメタルギアの生みの親であるゲームクリエイター小島秀夫氏がYouTube動画「Making of Metal Gear Solid 4 – Hideo Kojima’s Gene」の中で「これがこのまま出たらまずい、もっとクオリティを上げたい」と頻繁に口にしています。動画の中では、サウンドデザイナー、イラストレーター、ゲームプログラマーらが互いの立場から意見をぶつけ、アイデアを出し合いながら商品が完成していく過程を見ることができます。私は頻繁にこの動画を見て、自分もいい研究成果を出そうと奮い立たせていますね。

小島秀夫:メタルギアの生みの親

私は子供の頃からゲームが好きで、ゲームを作っている人を尊敬し、クリエイターとして目標としています。私は研究者もゲームクリエイターも同じものだと捉えていて、勝手に自分はゲームクリエイターと同じ仕事をしていると考えています。ゼロからのアイデア、あるいは今のトレンドから着想を得たアイデアを練って、商品にしていく過程は研究者も同じだと思います。特に岩田氏はその温厚な人柄と指導力のいずれも素晴らしい方で、多くの人から愛されていました。私も上に立つ地位になったら岩田さんのような指導者になりたいと思い、岩田さんを研究しています。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

もし、学部4年、修士1年の頃の私が、今の自分を見たら驚くことは間違いありません。吉見先生から過去にドクターに進学した先輩方の話を伺っていく中で、いかにドクター進学がリスクの大きいことかをとても実感していたからです。「ドクター進学なんて、卒業時、周りより歳を取るし、就職不利だし、大学教員の道も狭き門だし、危険が大きすぎるから絶対にありえない。就職した方が生きていくのには安全だ。」当時の私は、そう考えていました。

修士2年の時、この新しいラジカル環化反応を見つけたことが、その考え方を変えるきっかけになりました。「こうやって新しい反応を見つけていくのが研究なのか。それを自分の手で育んでいく。研究は自分にとってすごくやりがいのある仕事だ。」この時、研究者、特に大学教員は、自分が主導していける仕事であること、ゲームクリエイターに憧れを持っていた私は研究のアイデアを出すという点では、ある種ゲームクリエイター的な側面があることを実感するのと共に、毎年入れ替わり立ち代る学生たちとの新しい交流や自分の好きな有機化学を日々教えていける機会に恵まれていることから、もし自分がなれたらどんなに楽しい日々を過ごせるだろうかと想像が膨らんでいきました。しかし、ドクター進学のリスクを散々聞いてきた私は、卒業後にどうなるか怖かったので進学はせず、民間企業に就職しました。民間企業での2年間、グラムスケールからトンスケールへのスケールアップの技術や、製造プラントの知識を習得したのと共に、製造プラントでの現場監督も経験させていただき、有機合成の知見を広めるいい経験をさせて頂きました。しかし民間企業に働く人間は利益を出すのが最大の任務で、個人という存在は、使用者によって使われる「労働者」に過ぎない。そう思ったときから徐々に「使われている感」を感じざるを得なくなりました。そして就職したときから民間企業の歯車として残り40年程を過ごすことに対する憤りも大きくなっていきました。人間いつか死ぬのなら、リスクはあるけれども自分が本当にやりたいけどなかなか手が出ない方の道を選択し、悔いのない生き方をしようと思い、博士後期課程の学生に戻りました。

将来は大学教員となり、教鞭をとる傍ら、研究を続けていこうと考えています。さらに、YouTubeやニコニコ動画上に有機化学の面白さを伝える動画コンテンツの制作をしていくことを考えています。

現在YouTubeで「geek WAVE」というハンドルネームで、ブラックボックス化されがちな、研究室での生活や実験テクニックなどの紹介や、研究に関する動画を制作し、化学に興味がある中高生や、有機化学を学ぶ大学生を主なターゲットに動画コンテンツを公開しています(その他、ゲームの考察や実況動画、コメディ系動画も手掛けています)。主なターゲットは化学に興味を持つ中高生、有機化学を学ぶ大学生、研究に携わる院生やポスドク、大学教員です。ITを活用してインターネット上で動画により有機化学や研究の面白さを伝えていくコンテンツを提供し、多くの日本人が楽しんで頂ければ嬉しいです。サンプルとして、博士課程学生の日常やお財布事情をラジオ形式で語る動画を以下に載せますので、楽しんで頂ければ幸いです。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

本稿は、論文上には載ることのない、人-研究のリアリズムを主眼としているので、普通に論文を読めば載っているような、理論や考え方を書くのでは読んでも面白くないと考え、この研究によって私がどう影響されたかということをたくさん書いてきました。最後に私がこの研究を通して感じた人生観について皆さんとシェアし、一人でも多くの読者が何かを始めるきっかけになればと願い、筆を進めます。

私は、まだまだトレーニングが必要でこの先どうなるかわかりませんが、私の経験上、少なくとも自分が夢中になれる道を選択するのが自分の幸せに直結すると考えています。現に今の私は、会社にいた頃よりもずっと自分の裁量で研究ができ、とても充実した日々を送っています。この記事を読んでいる方は、有機化学の研究に携わっている方がほとんどかとは思いますが、自分が夢中になれるものが有機以外にあるのならそっちに進んでみるのもありだと思います。また、そっちの道に行くリスクをよくよく調べておくのは、いざ自分がそっちに行ったときのモチベーションに繋がるので重要です。もし、「あ、これ、私がしたいことと、ちょっと違うな」とか「今やっていることが、どうしても辛い」とか「この研究室、職場はいやだな」と思っていて、本当はこういうことをやったら自分が本当に楽しめるのにというものがある方がいらっしゃったら、思い切ってその道へと足を踏み出してみるとよいと思います。人間いつか死にます。そしていつでも自分の意志で進路変更ができます。そうして決めた先には何が待ちかまえているのか?私自身、自分がこの先どうなるかは全くわかりません(現段階では大学教員を目指していますが、経験上、人生は何かに固定されておらず流動性のあるものだと考えています)。

一つ私が大切にしていることはシンプルですが、自分のやりたいことのために全力を尽くすことです。どうすればなれるのか?現状、自分は何ができて、何ができないor足りないのか?競争相手はどういう人物で、どう手を打つか?ただひたすら、なりたいものに向けて精進、辛抱するのみです。その点、人生はサバイバルなのかもしれません。たとえ両親の反対、教員や友人との意見の不一致などがあろうとも、自分が幸せになれそうでそれが正しいものと信じるなら、こうした反対意見を排除してでも自分の意志に従うのが大切だと思います(日本人は「和」を重んじる傾向が強いため、それが裏目に出て、他人に依存する傾向もやや強いと思います)。繰り返しになりますが、人間、いつかは死にます。幸せな人生を送り、死ぬときに後悔のないよう、私はこれからも自分の意志に従って人生という長い旅を楽しんでいきたいと思います。

博士課程の学生が偉そうにいろいろお話してしまいましたが、この記事を読んで、一人でも多くの方が、自分が本当にやりたいけどなかなか始められないことに対して、一歩を踏み出す後押しになってもらえればと思い筆を走らせた次第です。

最後に、本研究の寄稿を依頼して頂いたChem-Stationスタッフの皆様に深く御礼申し上げます。

研究者の略歴

名前:大坂 一主 (Kazuyuki Osaka)
所属:福井大学大学院 工学研究科 総合創成工学専攻 生物有機化学研究室 博士後期課程2年
研究テーマ:有機フォトレドックス触媒を用いたラジカル反応の開発
略歴:2016年3月 福井大学大学院 工学研究科 生物応用化学専攻 博士前期課程修了
2018年4月 同 総合創成工学専攻 博士後期課程入学

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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