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スポットライトリサーチ

光触媒の力で多置換トリフルオロメチルアルケンを合成

第8回目となるスポットライトリサーチは、東京工業大学総合理工学研究科 資源化学研究所 (穐田・吉沢研究室)、博士課程3年の富田廉さんにお願いしました。

富田さんの研究テーマは、医農薬品や機能性材料の性能をアップさせうるトリフルオロメチル基(CF3基)を、可視光触媒を利用して簡便に導入する合成法の開発です。

先日、クロスカップリングと組み合わせた多置換アルケン合成法の成果でプレスリリースを発表されていたため、紹介に至りました。

研究室を主宰されている穐田宗隆教授は、富田さんをこう評しておられます。

富田君は博士課程から私の研究室に入ってきた学生で、テーマのタイミングもよかったせいもあって今回の対象となった反応の他いくつかの新反応の開拓に成功しています。しかし、もちろんタイミングだけではなく、反応条件やトリフルオロメチル化試薬の選択などクリティカルな問題をクリアできないときれいな反応の開拓にはつながらないわけで、助教さんともうまくコミュニケーションして壁を乗り越えてきました。今は博士論文の準備で手一杯ですが、それが終わったら、後に何を残してくれるか楽しみにしています。伸びしろのある優秀な学生さんなので、より一層の成長を期待しています。

では、今回のスポットライトリサーチの対象となった研究について、富田さんご自身に話を伺ってみましょう。

Q1. 今回のプレス対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

「フォトレドックス触媒を用いたアルキンからの立体選択的な四置換トリフルオロメチル(CF3-)アルケンの合成反応」です[1]

フォトレドックス触媒は、可視光照射により一電子酸化還元反応を触媒します。我々のグループでは、フォトレドックス触媒と求電子的トリフルオロメチル化剤を用いたアルケン類のトリフルオロメチル化反応を精力的に研究していますが[2]、これを内部アルキン類に適用するとCF3基を有するアルケニルトリフラートが立体選択的に合成できることを見出しました。生成物のアルケニルトリフラートはそのままワンポットでパラジウム触媒を用いたカップリング反応が可能で、この手法を用いればアルキンから二段階で多様な四置換CF3-アルケン類を合成することができます(図1)。CF3基を有する多置換アルケンは医農薬品の部分構造にしばしば見られ潜在的需要があるため、本手法が有用な機能性分子の探索に広く貢献できればと考えています。

図1 アルキンからの立体選択的な四置換CF3-アルケンのワンポット合成

図1 アルキンからの立体選択的な四置換CF3-アルケンのワンポット合成

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

「トリフルオロメチル化反応」は近年爆発的に報告例の増えた研究であり、ライバルも多いです。アルケン類を基質とした反応開発がひと段落ついた後、「じゃあ次はアルキンだ」というのは誰でも考えることで、実際にアルキンに対するトリフルオロメチル化反応がここ1、2年で数多く報告されています。そういう状況もあり、私は他のグループとは違うアプローチをしたいと思いました。

本反応のポイントは、他の官能基に容易に変換可能なトリフラート基をCF3基と同時に導入できる点です。Pd触媒のカップリング反応により多様な構造にアクセス可能にすることで、例えば創薬において迅速なスクリーニングなどに役立てられると考えました。またこれまでの知見から、強力な電子求引基であるCF3基は立体選択性に少なからず影響を及ぼすことがわかっていました。そこでCF3基の効果でアルケンの立体選択性を制御できないかと考え反応をデザインしました。その結果、期待以上の効果が得られ、CF3基と求核剤のトリフラート基がtrans型に付加する今回の反応につながりました。従来の一般的な四置換CF3アルケンの合成法と比較すると、単純なアルキンという入手容易な基質から短段階での合成法を開発できました(図2)。

図2 四置換トリフルオロメチルアルケンの従来の合成法との比較

図2 四置換トリフルオロメチルアルケンの従来の合成法との比較

 

Q3. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

博士課程では生物活性が期待できる、含トリフルオロメチル化合物の様々な合成法を開発し、新しい有機フッ素化合物を合成することができました。今後は、新しく合成した化合物の機能開発にも興味を持っています。新しい環境は大好きなので、合成から機能開発まで幅広く「化学」に携わっていきたいです。

 

Q4. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

私は修士課程では九州大・徳永信先生の下でPd錯体触媒を用いた反応開発に取り組みました。博士課程に進学する際、可視光というクリーンなエネルギーを利用し、従来では考えられなかった化学変換を可能にする化学に魅せられ、東工大の穐田教授・小池助教の研究テーマを希望しました。また、穐田・吉沢研究室は外部学生を多く受け入れる附置研究所の所属であり、様々な大学から来る学生に刺激を受けつつ、化学を軸に生物や物理・ナノ領域をまたぐ研究者とともに切磋琢磨することで、広い視野やバックグラウンドが得られたと思います。進学を考えている人は思い切って新しい研究へ飛び込んでみるのも良いのではないでしょうか。特に資源化学研究所は最高の研究環境でおすすめです。

 

参考文献

  1. R. Tomita, T. Koike, M. Akita, Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 12923. DOI: 10.1002/anie.201505550
  2. (a) Y. Yasu, T. Koike, M. Akita, Angew. Chem. Int. Ed. 2012, 51, 9567. DOI: 10.1002/anie.201205071 (b) R. Tomita, Y. Yasu, T. Koike, M. Akita, Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 7144. DOI: 10.1002/anie.201403590

外部リンク

 

研究者の略歴

R_Tomita_3富田 廉

所属:東京工業大学 資源化学研究所 穐田・吉沢研究室 博士後期課程3年(日本学術振興会特別研究員DC2)

研究テーマ:フォトレドックス触媒による炭素-炭素不飽和結合のトリフルオロメチル化反応の開発

略歴:1988年鳥取県生まれ。2011年九州大学理学部化学科卒業後、修士課程に進学(2013年修士)。2013年から東京工業大学総合理工学研究科に進学し、現在博士課程3年。

 

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cosine

博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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